本文へ移動
ワインガイド Vinotier
日本のワイナリー

まるき葡萄酒

maruki / 創業 1891年
産地
山梨県甲州市勝沼町
訪問
見学ツアー・試飲・ショップ・レストラン・カフェ
代表銘柄
レゾン・ラフィーユ 樽甲州
どんなワイナリー?

まるき葡萄酒は、山梨県甲州市勝沼町下岩崎にある1891(明治24)年創業のワイナリー。1877年にフランスへ渡った土屋龍憲が興し、同社は「現存する日本最古のワイン醸造所」を掲げています。無料の見学ツアー、10種ほどの無料テイスティング、2024年開業のカフェまで揃い、日本ワインの源流を気軽に体感できる一軒です。

この記事の目次

1877年、19歳の渡仏

まるき葡萄酒の物語は、この蔵ができる14年前から始まります。

1877(明治10)年、勝沼町祝に大日本山梨葡萄酒会社が設立され、ぶどう栽培とワイン醸造を学ばせるため、二人の青年をフランスへ送り出しました。高野正誠(25歳)と、土屋龍憲(19歳)です。同年10月10日、横浜を出航。手配し、同行したのは、のちに殖産興業の中心人物となる前田正名でした。

行き先はシャンパーニュ地方のトロワ。国際的に知られた農学者・苗木商シャルル・バルテのもとで栽培を学び、さらに滞在を半年ほど延ばして、ビールやシャンパンの製法にも触れたと同社は記しています。1879年5月8日、横浜に帰着。持ち帰ろうとしたヨーロッパ系ぶどうの苗木は、フィロキセラに侵されていたため、やむなく捨てるほかありませんでした。

よく「日本人で初めてフランスにワイン留学した人物」と紹介されますが、正確には二人旅であり、年長は高野のほうです。二人の物語は日本ワインの父たちでも扱っています。

1891年、袂を分かつ——メルシャンと同じ根から

1886(明治19)年、大日本山梨葡萄酒会社は解散します。醸造器具を引き取ってワイン造りを続けたのが、土屋龍憲と宮崎光太郎の二人でした。1888年には東京・日本橋に販売所「甲斐産商店」を構え、「甲斐産葡萄酒」の名で売り出します。

そして1891(明治24)年、二人は別々の道を選びました。土屋は甲斐産商店を離れ、故郷の下岩崎で「マルキ葡萄酒」を興す。宮崎は甲斐産商店を単独で率い、その系譜は1934年の大黒葡萄酒を経て、のちのシャトー・メルシャンへとつながっていきます。

つまり、日本ワインの二つの大きな流れは、同じ一本の根から分かれた枝なのです。資本のつながりはありませんが、勝沼の町を歩くとき、この分岐を知っているかどうかで景色の見え方が変わります。勝沼さんぽの楽しみのひとつです。

「現存する日本最古」を、どう受け取るか

同社は公式に「現存する最古のワイン醸造所」を掲げ、多くの紹介記事もそう書いています。ただし、これは慎重に扱いたい表現です。

同じ勝沼町には、1890(明治23)年創業を掲げる丸藤葡萄酒工業(ルバイヤート)があります。まるきより1年早い。さらに、同じ勝沼で1877年の醸造開始を創業年として掲げるシャトー勝沼のような数え方もあります。

ワイナリー掲げる創業年数え方
大日本山梨葡萄酒会社1877年1886年に解散(現存せず)
丸藤葡萄酒工業1890年創業者・大村治作による創業
まるき葡萄酒1891年土屋龍憲による醸造所設立

「何をもって創業とするか」で順番が入れ替わる——それが日本ワイン黎明期の実情です。まるき葡萄酒が1891年から今日まで同じ土地で醸造を続けてきたことは動かない事実ですから、そこを味わえば十分でしょう。

龍憲セラーは、まるきの地下蔵ではない

勝沼を調べていると、必ず「龍憲セラー」という名前に行き当たります。ここは混同されやすいので、はっきりさせておきます。

龍憲セラーは勝沼町下岩崎1856番地にある、独立した建造物です。まるき葡萄酒の所在地(下岩崎2488)とは別の場所にあります。1899年頃の建造とされる煉瓦造・半地下式のワイン貯蔵庫で、文化庁は「ヨーロッパの貯蔵技術を導入してつくった我が国最初期の煉瓦造の半地下式葡萄酒貯蔵庫」と評しています。建築面積57平方メートル、庫内は幅3.6メートル×奥行10.8メートル×高さ3.3メートル。中央線の隧道と同じ煉瓦積みの技術が使われたと伝えられます。

1996年12月20日に国の登録有形文化財となり、2007年には経済産業省の近代化産業遺産、2020年には文化庁の日本遺産「日本ワイン140年史」の構成文化財にも位置づけられました。ふだんは施錠されており、ぶどう祭りやワインツーリズムなどの機会に内部が公開されます。

なお、龍憲セラーという呼び名は通称で、土屋龍憲が直接建てたことを示す一次史料は見つかっていない、という指摘もあります。あわせて、宮崎光太郎の醸造場だった旧宮崎第二醸造場(現・シャトー・メルシャン ワイン資料館)とも別の建物です。

地下貯蔵庫と、1959年の甲州

では、まるき葡萄酒の見学で降りる地下蔵は何かというと、こちらは同社の敷地内にある貯蔵庫です。扇状地の地下水脈が床下を流れ、夏でもひんやりとした温度が保たれます。

ここに眠るのが、一升瓶に詰められた古酒の群れ。もっとも古いものは1959年ヴィンテージの甲州です。甲州は長らく「熟成に向かない品種」と語られてきましたから、半世紀を越えて生き残っている瓶があるという事実そのものが、ひとつの反証になっています。本数は一升瓶で約3万5千本とする資料が多い一方、山梨県の観光公式サイトは約2万5千本と記しており、数字には幅があります。

1972年、甲州街道バイパスの工事にともなって、同社は現在地へ移転しました。いまの建物が明治期の建造物ではないのは、そのためです。甲府盆地と南アルプスを望む眺望は、この移転によって得られたものでもあります。

2013年の転機——羊と、耕さない畑

古い蔵ですが、農法はむしろ新しい方を向いています。

2008年、自社畑で不耕起草生栽培を開始。畑を耕さず、下草を生やしたまま育てる方法です。そして2013年、経営体制が変わったのと同じ年に、圃場に羊を放つ取り組みが始まりました。羊が雑草を食べれば除草剤がいらず、糞はそのまま肥料になる——土地のなかで循環を回す、という発想です。

同じ2013年、同社は投資会社レゾンディレクションを軸とするGROUP RAISONの傘下に入り、清川浩志氏が代表取締役に就任しました。2015年には北海道富良野市・中富良野町に約34.2ヘクタール、長野県塩尻市に約5.3ヘクタールの圃場を取得しています。

ひとつ補足を。羊の運用は年によって変わるようで、「ぶどうを食べてしまうため現在は畑に入れていない」という訪問記録もあります。放牧の現況は、訪問前に確かめるのが確実です。

畑とワイン——レゾン、ラフィーユ、いろ

公式に挙げられている自社ヴィンヤードは4か所。山梨県内の自社畑は「下岩崎ヴィンヤード」の約50アール(0.5ヘクタール)だけで、面積の中心はむしろ北海道と長野にあります。

圃場面積・立地主な品種
下岩崎(山梨)約50a/標高420m・北傾斜カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド、メルロー、マスカット・ベーリーA
中富良野(北海道)約25.4ha/標高270m・南東ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・ノワール、リースリング、ゲヴュルツトラミネール ほか
富良野(北海道)約8.8ha/標高250m・平地ケルナー、ミュラー・トゥルガウ、ツヴァイゲルト、シャルドネ、メルロー
塩尻(長野)約5.3ha/標高700m・西傾斜メルロー

商品は用途で階層が分かれています。自社圃場100%の「レゾン」と、熟成をテーマにした「ラフィーユ」が上位。日常向けが「いろ」、明治時代のマークを復刻した「まるき」が山梨県産100%のデイリー、ほかに泡の「コリエドゥペルル」、「にごり」、新酒などが並びます。

受賞では、日本ワインコンクール2016で「ラフィーユ樽甲斐ノワール2014」が国内改良等品種部門の金賞・部門最高賞を得たのが代表的な実績です。日本ワイン産地巡りで触れたとおり、甲斐ノワールは山梨で育成された交配品種で、この受賞はその実力を示した一本と評されます。日本ワイナリーアワードでは2024年・2026年ともに4つ星を得ています。

訪ね方——無料ツアーと、2024年開業のカフェ

見学は無料です。公式サイトの案内では10時30分と14時の1日2回、所要30分、定員15名、前日16時までに要予約。仕込み場、醸造場、樽貯蔵庫、地下貯蔵庫、圃場を回ります。ショップでは10種類ほどの無料テイスティング。無料で本格的に見せてくれる蔵は多くないので、無料で見学できるワイナリーのなかでも歩き応えのある一軒です。

2024年4月29日には、同じ建物の2階にカフェ「IWAI TERRACE」がグランドオープンしました。運営はレストラン企業のHUGEで、アメリカンダイナー風のカフェとBBQテラス、そしてクラフトビール醸造所「IWAI BREWERY」を併設しています。ワイナリーの中でビールを醸すという珍しい構成で、看板は「イワイ・ラガー」。席数は106席、定休日は木曜です。

アクセスはJR中央本線 勝沼ぶどう郷駅から車で約10分、中央自動車道 勝沼ICから約3分。駐車場は普通車15台・バス2台。8月上旬から10月中旬にはぶどう狩りも楽しめます。

ひとつだけ注意を。同社の公式サイトはお知らせの更新が止まっている時期があり、営業時間や定休日は案内元によって記載が異なります。訪問前の電話確認をおすすめします。第51講で書いたとおり、ワイナリー訪問は「予約と確認」で九割決まります。

創業から130年余り。勝沼・山梨を巡る一日の、起点にふさわしい一軒です。

よくある質問

まるき葡萄酒はなぜ「日本最古」と呼ばれるの?
同社が1891(明治24)年の創業から現在まで醸造を続けており、公式に「現存する最古のワイン醸造所」を掲げているためです。ただし勝沼には1890年創業を掲げる丸藤葡萄酒工業(ルバイヤート)もあり、1877年の醸造開始を創業とするシャトー勝沼のような数え方もあります。「何をもって創業とするか」で順位が変わるため、まるきの「最古」は同社の主張として受け取るのが正確です。
創業者の土屋龍憲はどんな人?
1859(安政6)年、現在のまるき葡萄酒と同じ下岩崎の生まれ。1877(明治10)年、大日本山梨葡萄酒会社の派遣で、19歳のときにフランスへ渡りました。同行したのは25歳の高野正誠で、二人旅です。「日本人でただ一人の留学生」ではなく「ワイン醸造を学ぶために渡仏した最初の二人のうちの一人」と理解するのが正確です。1940(昭和15)年没。
シャトー・メルシャンとは関係がある?
源流が同じです。1877年の大日本山梨葡萄酒会社が1886年に解散したあと、土屋龍憲と宮崎光太郎は醸造器具を引き継いで「甲斐産商店」を営みました。1891年に二人は袂を分かち、土屋が興したのがまるき葡萄酒、宮崎の系譜がのちの大黒葡萄酒を経てメルシャンにつながります。資本関係はありませんが、日本ワインの二大系譜が同じ根から分かれた形です。
「龍憲セラー」はまるき葡萄酒の地下蔵のこと?
違います。龍憲セラーは勝沼町下岩崎1856番地にある独立した煉瓦造・半地下式の貯蔵庫で、1996年に国の登録有形文化財に登録されました。まるき葡萄酒の所在地(下岩崎2488)とは別の場所です。同社の見学ツアーで見られる地下貯蔵庫は、これとは別の施設です。
見学や試飲はできる?
できます。公式サイトの記載では、無料のワイナリーツアーが10時30分と14時の1日2回、所要30分・定員15名で、前日16時までの予約が必要です。仕込み場、醸造場、樽貯蔵庫、地下貯蔵庫、圃場を回ります。ショップでは10種類ほどの無料テイスティングも。開催条件は案内元によって記載が異なるため、訪問前に公式サイトか電話でご確認ください。
畑で羊を飼っているって本当?
2013年から圃場に羊を放つ取り組みを始めています。羊が雑草を食べることで除草剤を減らし、糞が肥料になるという循環の考え方です。2008年からは畑を耕さない不耕起草生栽培も続けています。ただし羊の運用は時期によって変わるようで、放牧の現況は訪問前にお確かめください。
どんなワインが有名?
自社圃場100%の「レゾン」と、熟成をテーマにした「ラフィーユ」が同社のフラッグシップです。日本ワインコンクール2016では「ラフィーユ樽甲斐ノワール2014」が国内改良等品種部門で金賞・部門最高賞を獲得しました。日本ワイナリーアワードでは2024年・2026年ともに4つ星です。普段使いなら「いろ」シリーズが入口になります。
値段の目安は?
小売の実勢で、「いろ」シリーズが1,800円台、「ラフィーユ」の樽甲州・樽ベーリーAが2,500円前後、「ラフィーユ トレゾワ 塩尻メルロー」が3,800円台といったところです(税込・2026年9月時点の各通販表示)。おおむね2,000円台から4,000円前後で、日本ワインとしては手の届きやすい価格帯です。

同じ産地のワイナリー

最終更新: 2026-09-09 / 編集: Vinotier編集部