「結ぶ」という名のワイナリー
日川中央葡萄酒は、山梨県笛吹市一宮町の市之蔵(いちのくら)にある小さなワイナリーです。正式な社名は日川中央葡萄酒株式会社。公式サイトの会社概要では1973(昭和48)年の設立とされています(同じサイトの別のページには昭和49年の設立とする古い記述もあります)。
ワインのブランド名は「Liaison(リエゾン)」。フランス語で「結ぶ、繋ぐ」という意味です。公式サイトによれば、昔から果樹農家としてぶどうを作ってきた家が、収穫から醸造、販売までを自分たちで一貫して行い、飲む人に直接届けたいという思いを込めて名付けました。山梨県の観光サイトでは、この名を「物と物とを結ぶ」と言い換えています。
公式サイトによれば、働いているのは家族4人。2017年には新しく娘の夫が加わり、2018年に初めて責任者として醸造したその年の新酒を「NOVICE(ノヴィス)」(フランス語で「新人、新しい」)と名付けました。この名前は、その後も新酒のシリーズ名として続いています。公式サイトの平成29年度の数字では、販売量は年27,900リットルで、そのうち88%を消費者への直接販売が占めていました。ブランド名に込めた「直接届ける」を、そのまま形にしている蔵だといえます。
山梨英和大学の地域紹介のページによれば、この地は詩人・堀内幸枝の生家としても知られています。
自社農園と契約農家のぶどう
原料は、自社農園のぶどうと、栽培農家から直接買い入れる契約栽培のぶどうです。公式サイトの「当社のワイン造り」のページでは、自社農園のぶどうが全原料の40%以上とされています。畑の土は場所によって異なり、主にシルト・粘土・細砂だと説明されています。
育てている品種として公式サイトにあがっているのは、甲州、マスカット・ベーリーA、甲斐ノワール、サンセミヨン、シャルドネ、メルロー。甲斐ノワールは山梨県で育成された赤ワイン用の交配品種で、ブラック・クイーンとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配から生まれました。交配品種については第69講 交配品種とクローンでくわしく扱っています。
搾ったあとの皮や茎は、自社の桃畑の肥料として使っているそうです。ぶどうと桃の産地である一宮町らしい循環です。
温暖化に向けた「副梢栽培」
公式サイトのお知らせ(2024年4月)によれば、2020年からは新しい育て方にも取り組んでいます。春に最初に芽吹いた房をあえて切り落とし、脇から伸びる枝(副梢)に実ったぶどうだけを使う方法です。収穫の時期を遅らせることで、暑く湿度の高い夏を避けるねらいがあり、温暖化と高温多湿への対策として紹介されています。2021年に初めて収穫し、このぶどうのマスカット・ベーリーAから「シャトーリエゾン」が生まれました。
代表的なワイン
公式サイトに並ぶ主なワインは次のとおりです(価格は公式サイトの税込表示。2026年10月1日に価格改定があったため、最新の価格は公式サイトで確認してください)。
- Liaison ヴィンテージ──遅摘みの甲州を低温で発酵させ、地下の貯蔵庫で数年熟成させた、やや甘口の白
- Liaison プレステージ──甲斐ノワールとメルローによる赤
- Liaison サンセミヨン──サンセミヨンとシャルドネの辛口の白
- Liaison 甲州/マスカット・ベリーA/ロゼ──定番のシリーズ。360ml・720ml・1.8Lの3サイズがある
- シャトーリエゾン──副梢栽培した自社畑のマスカット・ベーリーAの辛口の赤。ガラス栓で封をしている。2026年5月には2022年産が出たが、鳥の食害でこの年は76本しか造れなかったという
- NOVICE シュール・リー 甲州──自社のぶどう園の甲州だけで造る、澱(おり)とともに寝かせるシュール・リー製法の辛口の白
- NOVICE 甲州/マスカット・ベーリーA/ロゼ──その年の新酒。ロゼは甲州とベーリーAを一緒に搾って造る
一升瓶(1.8L)のワインがそろっているのは、山梨の古くからの飲まれ方を伝える小さな蔵らしいところです。ワインのほかに、山梨県産の赤ぶどうを使った果汁100%のぶどうジュースもあります。
築100年の蔵の試飲室
2026年5月、公式サイトで「蔵型試飲室」が紹介されました。敷地内にある築100年以上の蔵を改修したもので、もとは物置として使われていた建物です。コロナ禍のころ、人の密集を避けて試飲と販売ができる場として検討し、約1年をかけて工事したといいます。梁や柱は当時のものを生かしてあり、蔵なので夏でもひんやりとして、温度と湿度が保たれていると紹介されています。
- 営業時間:8:00〜17:30(公式サイト。ぶどう畑と醸造所の協会のサイトなどでは8:30〜17:30)
- 休み:正月5日、そのほか不定休
- 工場見学:可(事前に電話予約が必要)
- 料金:協会のサイトでは見学・試飲とも「無料・要予約」。公式サイトには料金の記載なし
- 購入:直営の売店のほか、公式サイトの注文フォームやFAXで通信販売も受け付け。笛吹市のふるさと納税の返礼品にもなっている
家族で営む蔵なので、作業の時期には対応できないこともあります。訪ねる前に電話(0553-47-1553)で予約・確認するのが確実です。運転する人と20歳未満は試飲できません。
アクセスと周辺
山梨県の観光サイトによれば、JR中央本線の石和温泉駅から車で約20分(石和温泉観光協会のサイトでは約15分)、中央自動車道の一宮御坂ICから車で約10分です。ワイナリーは市之蔵の交差点の近くにあり、甲府盆地を見下ろす扇状地に建っています。駐車場は普通車5台分ほど(県の観光サイト・石和温泉観光協会)と少ないので、グループで訪ねるときは事前に相談しましょう。
同じ一宮町には、4代続く新巻葡萄酒や、石蔵発酵槽で知られるルミエールワイナリーがあります。石和温泉に泊まるなら、駅から歩けるマルス山梨ワイナリーとあわせて回るのもよいでしょう。果樹農家から始まった家族の蔵を訪ねると、山梨のワインが農業と地続きであることがよくわかります。産地の全体像は産地:山梨と第70講 山梨完全編で、訪問の心得は第51講 ワイナリー訪問完全編でどうぞ。

