蔵王の麓、100年の老舗
タケダワイナリーは、1920(大正9)年、前身の武田食品工場が果実酒の製造免許を得たことに始まる山形の老舗です。1934年、3代目の武田重三郎が蔵王連峰の麓、いまの場所に農園を拓き、約5ヘクタールにぶどうを植えました。畑はその後広がり、現在はかみのやま温泉郷の高台に約15ヘクタール。南向きの斜面(東南向きとする資料もあります)に、マスカット・ベーリーA、デラウェア、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルローが育っています。
社訓は「良いワインは良いぶどうから」。栽培は減農薬で、化学肥料を使いません。月の周期に合わせて作業を組むビオディナミの考え方も取り入れていると紹介されています。
土を変えた、4代目の20年
タケダの畑づくりを語るうえで欠かせないのが、4代目の武田重信です。1970年代に工場が火災に見舞われたあと、重信はひとりでヨーロッパへ渡り、ボルドーの畑の土を見て歩いたと伝えられます。
帰国後に取り組んだのが、土壌改良でした。日本の畑の多くは雨が多く、土が酸性に傾きがちです。重信は貝の化石や有機石灰を畑に入れ、約20年かけて、土を中性から弱アルカリ性へと変えていったとされます。ヨーロッパの銘醸地の多くが石灰質の土の上にあることは、第67講「土壌とテロワール完全編」でも触れました。その考え方を、山形の畑で時間をかけて実践した例といえます。
重信は子どもたちをフランスへ学びに出しました。長男の武田伸一は1980年代半ばに、長女の典子は1990年代初めに留学しています。
5代目・岸平典子
岸平典子は1966年、上山の生まれ。大学で農芸化学を学び、化学メーカーの研究所に勤めたあと、1990年から94年までフランスで学びました。マコンの国立醸造学校(上級技術者コース)、国立味覚研究所、ボルドー大学の醸造研究所で、栽培と醸造を身につけています。
帰国後、ワイナリーの跡を継ぐはずだった兄の伸一が、1999年に36歳の若さで急逝します。典子はこの年から栽培と醸造の責任者となり、2005年に5代目の代表取締役社長に就きました。業界でも珍しい、女性の社長兼栽培・醸造責任者として紹介されてきた人物です。
全国を沸かせた「サン・スフル」
タケダの名を全国に広めたのが、「サン・スフル」です。フランス語で「硫黄なし」を意味する名のとおり、無濾過・亜硫酸無添加で造られます。白はデラウェア100%。発酵の途中で瓶に詰め、瓶のなかで発酵を続けさせて泡を生むアンセストラル方式で、にごりを残したやわらかな泡と、デラウェアらしい華やかな香りが持ち味です。アルコールは11%台と軽く、2025年の白は公式通販で税込2,970円。赤のサン・スフルもあります。
亜硫酸を加えないワインは、温度の変化に弱いものが多くなります。買ったら冷蔵庫で立てて保存し、早めに楽しむのが基本です。泡が勢いよく吹き出すこともあるので、よく冷やしてから静かに開けてください。亜硫酸の役割そのものは用語「亜硫酸(酸化防止剤)」で、泡の造り分けは第13講「スパークリング大全」で扱っています。
樹齢約80年のベリーAと、「キュヴェ・ヨシコ」
自社畑の実力を映すのが、「ドメイヌ・タケダ」の名を冠したシリーズです。なかでも「ドメイヌ・タケダ ベリーA古木」は、3代目の重三郎が植えた樹齢約80年のマスカット・ベーリーAから造られます。ステンレスタンクで発酵させ、マロラクティック発酵を経て樽で約12か月熟成、清澄も濾過もせずに瓶詰めします。初リリースは2005年。2022年は公式通販で税込5,500円です。軽やかでチャーミングなイメージのあるベーリーAが、古木と樽熟成でどこまで深みを見せるかを知る一本です。品種の成り立ちは品種「マスカット・ベーリーA」と第69講「交配品種とクローン完全編」でどうぞ。
もうひとつの看板が「キュヴェ・ヨシコ」。自社畑のシャルドネ100%を、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵で仕上げたスパークリングで、ドサージュ(瓶詰め前の糖分の添加)をしません。1989年に瓶内二次発酵に成功したのが始まりで、名は重信の妻、武田良子にちなみます。2008年の北海道洞爺湖サミットで供されたことでも知られます。長い熟成を経て出荷され、2012年ヴィンテージは税込13,200円です。
| 銘柄 | ぶどう | 造り | 価格の目安(税込) |
|---|---|---|---|
| サン・スフル(白) | デラウェア100%(協力農家) | アンセストラル方式・無濾過・亜硫酸無添加 | 2,970円(2025) |
| ドメイヌ・タケダ ベリーA古木 | マスカット・ベーリーA100%(自社畑) | 樽熟成約12か月・無清澄・無濾過 | 5,500円(2022) |
| キュヴェ・ヨシコ | シャルドネ100%(自社畑) | 瓶内二次発酵・ドサージュなし | 13,200円(2012) |
価格は公式通販の表示(2026年9月確認)で、ヴィンテージや時期によって変わります。日常の一本には、赤・白がそろう「蔵王スター」のシリーズもあります。
選び方のヒント
- まずはサン・スフルの白 3,000円前後で、タケダの名を広めた一本。自然派の泡の入口にもなります。よく冷やして、天ぷらや山菜、塩で食べる焼き鳥と。
- 次に、ベリーA古木 日本の赤の代表品種が、古木と熟成でどう変わるかを確かめる一本。芋煮や牛肉のすき焼き、照り焼きのような甘辛い料理と合わせやすい赤です。
- 特別な日に、キュヴェ・ヨシコ 日本の瓶内二次発酵の先駆けのひとつ。贈り物や記念日のために。
老舗を訪ねる
見学は要予約・無料・約30分で、工場とぶどう畑を案内してもらえます。受付は10:00〜11:30と13:00〜16:30、15名以上は別途相談です。直売店では試飲や購入もできます。直売店の営業時間と定休日は季節で変わり、公式サイトによれば4〜6月は日曜、7〜11月は日曜とお盆(8月13〜16日)、12〜3月は土日祝が休みです。
所在地は山形県上山市四ツ谷二丁目6-1。JRかみのやま温泉駅からタクシーで約5分、東北中央自動車道の山形上山インターチェンジから車で約10分で、駐車場もあります。温泉街に泊まって訪ねられるのも、上山ならではの楽しみです。訪問の心得は第51講「ワイナリー訪問とワインツーリズム完全編」をどうぞ。

