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ワインガイド Vinotier

VINOTIER WINE COURSELEÇON LXVII

第67講 実践

土壌とテロワール完全編

「石灰岩の畑だから、ミネラル感がある」——本当でしょうか。 土のミネラルが果汁に移って味になる。この説明は、濃度の桁も、実測も、産地団体自身の言葉も、すべてが否定しています。それでも土は、まちがいなく決定的に効いている。第59講「栽培」と第61講「気候変動」の続きとして、土の話を証拠から組み直す一講です。

テロワールミネラル感石灰岩と粘板岩
土壌とテロワール完全編のイメージ
丸く磨かれた大小の石が一面に敷き詰められた地面から、ねじれた古い幹が立ち上がり、緑の葉のあいだに黒く熟したぶどうの房が垂れ下がっている
シャトーヌフ・デュ・パプのガレ・ルレ — ローヌ川がはるか昔に運び、転がし、丸めた石。層の厚さは3〜15mに達し、40cmを超える石もある。「この石が昼の熱を蓄え、夜にぶどうへ返す」——よく語られるこの説明を、この講では一度、測り直してみる
— I

テロワールという言葉——もとは、悪口だったThe word and its history

第66講スペイン北部と内陸完全編まで、この連載では数えきれないほど「土」の話をしてきました。メセタの石と粘土、トロの砂、ガリシアの花崗岩、ビエルソの粘板岩。今回はいよいよ、その土そのものに正面から向き合います。土は、ワインの味をどこまで変えるのか。

まず、言葉から。terroir はフランス語で、語源は俗ラテン語の terratorium(領域)。文献に現れるのは13世紀までさかのぼります。ただし、そのころの意味はただの「土地」でした。

ワインと結びついた「goust du terroir(土地の味)」という言い回しが辞書に載るのは1549年。ところが——ここが面白いのですが——この表現は、長いあいだ「土臭い、不快な味」を指す悪口でした。18世紀の農業書は「不快な性質」と定義し、近代化学の父とも呼ばれるシャプタルですら「terroir の忌まわしく強い不快な味」と書いています。いま私たちが最高の褒め言葉として使っている語は、200年前には欠点の名前だったのです。

いつ、褒め言葉に反転したのか。 これには学説の幅があります。19世紀初頭のシャプタルに転機を見る立場と、1935年の原産地統制呼称(AOC)制度の創設で意味が反転したと見る立場。どちらにせよ、「テロワール」が価値を帯びた語になったのは、そう古い話ではありません(用語:アペラシオン、第43講「ワインの歴史」)。

公式の定義——人が、含まれている

いまいちばん重みのある定義は、国際ぶどう・ぶどう酒機構(OIV)が2010年にトビリシの総会で採択した決議 VITI 333/2010 です。原文の骨格を訳すと、こうなります。

ぶどう栽培・醸造における「テロワール」とは、識別可能な物理的・生物的環境と、そこで適用される栽培・醸造の実践との相互作用に関する集団的知識が形成される地域を指す概念であり、その地域を原産とする産物に独自の特徴を与えるものである。/「テロワール」には、固有の土壌、地形、気候、景観の特徴、および生物多様性の諸要素が含まれる。

注目してほしいのは「適用される実践」と「集団的知識」という語です。この公式定義では、人の営みがテロワールの中に入っています。「テロワールとは自然条件のことで、人は含まない」という説明を見かけますが、少なくともOIVの定義上はそうではありません。フランスの国立原産地呼称機関などが2005年にまとめた憲章は、さらに踏み込んで「ある人間共同体を基礎として画定された地理的空間」と定義しています。

ただしOIV自身、決議の前文で「これは記述のための定義であり、地理的表示(GI)の法的定義と混同しないように」と釘を刺しています。テロワールは法律用語ではありません。

「修道士が土を舐めて畑を見分けた」——史料はない

ブルゴーニュの話として必ず語られる逸話があります。中世の修道士が畑の土を舐め、味の違いから区画を分けていった、というもの。美しい物語ですが、これを裏づける史料は見つかっていません。研究者のなかには、ブルゴーニュのクリマという概念そのものを「21世紀の発明」と評する立場さえあります。

史料で確かめられるのは、次の線までです。

  1. 1109〜1115年ごろシトー会への土地の寄進が始まる。修道院が畑を持ち、管理する体制ができていく。
  2. 1330年ごろ〜1336年クロ・ド・ヴージョの名称が成立し、囲い壁が完成。区画を物理的に囲うという発想が、目に見える形になった(1164年にはヴージョのセラーへの言及も文書に現れる)。
  3. 1395年フィリップ豪胆公がガメイを禁じる布告を出す。区画と品種を統治の対象とする考え方が現れる。
  4. 17〜18世紀「climat(クリマ)」という語が畑の区画を指す言葉として定着していく。
  5. 1855年ラヴァルが畑の分類を発表。現在のグラン・クリュ/プルミエ・クリュの骨格につながる。

つまり、修道士たちが区画ごとの違いを認識し、記録していたことは文書で裏づけられます。けれど「土を舐めて見分けた」という場面は、後世に形づくられた物語です。事実のほうが十分に面白いのだから、作り話は要りません——この講の全体を貫く姿勢も、それです(第4講「ブルゴーニュ完全編」、銘醸図鑑:ヴォーヌ・ロマネ)。

ユネスコに登録された「土地の細分化」

2015年7月4日、「ブルゴーニュのクリマ」がユネスコ世界遺産に登録されました。中核ゾーンは13,219ha、緩衝地帯は50,011ha。ディジョンからマランジュまで約60kmの畑の帯に加えて、ボーヌとディジョンの歴史地区も構成資産に含まれます。興味深いのは、登録されたのが「土地を細かく分けてきたこと、そのもの」だという点です。ワインの味ではなく、人が何世紀もかけて土地を区切り、名づけ、記録してきた営みが文化遺産として評価された。OIVの定義に「集団的知識」という語が入っていたことを、思い出してください。

よく「1,247のクリマ」と書かれますが、この数字はコート・ドール分です。ユネスコの公式資料は「1,200を超える」と記し、クリマ協会の資料ではブルゴーニュ全体で「約1,500」とされます。

— II

土の見取り図——六つの顔と、代表産地A map of vineyard soils

ワインの世界で語られる土の名前は、たいてい岩石の名前です。石灰岩、粘板岩、花崗岩、玄武岩。まずは代表的なものを並べて、それぞれが何であり、どこで語られるのかを整理しておきましょう。

土の系統正体代表産地よく言われること
石灰岩・泥灰土
limestone / marl
大昔の海の生きもの(貝や微細な殻)が積もってできた堆積岩。泥灰土は炭酸塩と粘土がほぼ半々に混じったものシャブリ、コート・ドール、シャンパーニュ、サンセール引き締まった酸、張りのある白
粘土
clay
ごく細かい鉱物の粒。水を抱え込み、乾くと縮み、濡れると膨らむポムロール、サンテミリオンの一部、トスカーナ厚みのある質感、メルローの畑
砂利・小石
gravel / galets
川が運んで丸めた石。土そのものというより「石だらけの表土」メドック、グラーヴ、シャトーヌフ・デュ・パプ水はけ、熱、カベルネの畑
花崗岩
granite
マグマが地下でゆっくり固まった深成岩。風化すると粗い砂になるボジョレーのクリュ、コンドリュー、ドウロの一部軽やかさ、香りの伸び
粘板岩・片岩
slate / schist
泥が押し固められ、熱と圧力で薄く割れるようになった変成岩モーゼル、プリオラート、ドウロ蓄熱、急斜面、リースリングの畑
火山性
volcanic
溶岩、火山灰、軽石、凝灰岩。「ひとつの岩石」ではなく成因のグループエトナ、サントリーニ、ソアーヴェ東部、トカイ硬質な酸、独特の塩気

「テラ・ロッサ(赤い土)」や「レス(風が運んだ細かい砂)」のように、岩石名ではなく土そのものの呼び名もあります。前者はクナワラ、後者はオーストリアやオレゴンで語られます。

まず知っておきたい——「岩盤」と「土」は違う

混乱の元になりやすい区別をひとつ。畑の下の岩盤と、根が実際に張っている土は同じものではありません。土は岩の風化物に、有機物と、しばしばよそから運ばれてきた粒が混ざってできています。

畑の断面——上から順に
表土0〜40cmほど
心土〜1mほど
岩盤母材(母岩)
ラベルや生産者の語りで「この畑は石灰岩」と言うとき、指しているのはたいていいちばん下の岩盤です。けれど根の大半が暮らしているのは、上の2層。その中身は、岩盤の風化物だけとは限りません。

南オーストラリア・クナワラの「テラ・ロッサ」が、この区別のきれいな例です。赤い粘土質の土の下には石灰岩があり、長く「石灰岩が溶けて残ったのがこの赤土だ」と説明されてきました。ところが2004年の Geomorphology 誌の研究は、ストロンチウム同位体比からこの赤土の主体は風で運ばれてきた堆積物であると結論しています。赤いのは酸化鉄——正確には、ゲーサイトよりヘマタイト(赤鉄鉱)が優先してできるためです。ついでに、テラ・ロッサはクナワラ固有の土ではありません。地中海性の気候と石灰岩があれば世界中にできる、ありふれた土壌型です。

剪定を終えた冬のぶどう畑。株と株のあいだの地面が、白っぽい石灰岩の角ばった小石でびっしり覆われ、その隙間から緑の草が生えている
石灰質の畑(南西フランス・ガイヤック) — 白い小石が地面を覆う。石灰岩がワインに与える唯一の特異な性質はアルカリ性で、それ自体がぶどうに有益だという証拠はない、と地質学者アレックス・マルトマンは言う。効いているのはむしろ水はけのほうだ

「花崗岩の産地」は、たいてい花崗岩だけではない

産地の紹介でよく見る一行は、たいてい単純化されています。いくつか例を挙げます。

Beaujolaisボジョレー

「花崗岩の産地」と紹介されるが、地域全体で花崗岩を基盤とするのは4分の1弱とされる。10のクリュはたしかに北部の結晶質岩の上にあるが、コート・ド・ブルイイの主役は青灰色の閃緑岩で、ジュリエナは10クリュ中もっとも花崗岩が少ない。南部はジュラ紀の石灰岩(「黄金の石」)。

Côte-Rôtieコート・ロティ

日本語でも英語でも「花崗岩」と書かれることがあるが、ローヌワイン委員会の公式説明は変成岩——北が雲母片岩、南が片麻岩、南東端がミグマタイト。「ほぼすべての畑が変成岩の上にある」と明記されている。一方コンドリューは本当に花崗岩だが、植わっているのはヴィオニエ。

Moselモーゼル

デボン紀(およそ4億年前)の粘板岩の産地。生産者団体の分類では青〜灰色の粘板岩が畑の約50%、赤色粘板岩が約16%。ただしウルツィヒの名高い畑はデボン紀の赤色粘板岩ではなく、ペルム紀の赤い火山性砂岩という例外。赤色粘板岩の代表はエルデン側にある。

地質学者アレックス・マルトマンは、ワインの世界では「硬くて磨ける岩は、色や鉱物組成に関係なく何でも花崗岩と呼ばれてしまう」と皮肉っています。産地の説明に出てくる岩石名は、地質図の用語というよりその土地の言い習わしであることが多い——そう思っておくと、混乱が減ります。

名前の由来を追うと、話が見えてくる

Kimméridgienシャブリの代名詞。ジュラ紀末の地質年代(およそ1億5,500万〜1億4,900万年前)の名で、イングランド南岸の地名に由来します。この年代の泥灰土と石灰岩の互層にはコンマのような形をした小さな牡蠣の化石(Exogyra virgula)が実際に含まれ、フランス地質調査所の地質図でも層の名前そのものに使われています。ただし「シャブリ=キンメリッジアン」は法的な定義ではありません。1938年の原産地呼称の条文には地質の条項がありましたが、産地拡大をめぐる争いの末、1970年代に放棄されました(銘醸図鑑:シャブリ・グラン・クリュ)。
galets roulésシャトーヌフ・デュ・パプの「転がされた石」。よく「デュランス川が運んだ」と書かれますが、フランス地質調査所の地質図は上位の段丘について「例外なくローヌ系」と明記しています。デュランス由来なのはアルルに近いクロー平野のほうで、名前の似た台地との混同です(銘醸図鑑:シャトーヌフ・デュ・パプ)。
llicorellaプリオラートの黒い岩の、カタルーニャ語の呼び名。古生代(主に石炭紀)の粘板岩で、産地の約8割を覆います。英語版の百科事典にある「火山起源」という記述は誤り。また「甘草(リコリス)の香りは llicorella のせい」という説明も見かけますが、カタルーニャ語で甘草は regalèssia。語の似かよいによる誤解です(銘醸図鑑:プリオラート)。

ついでにボルドー左岸の graves(砂利) も。しばしば「ギュンツ氷期の」と説明されますが、アルプス式の氷期区分は現在の正式な地質年代区分としては使われておらず、フランス地質調査所自身が図幅の注記で「ギュンツ?」と疑問符つきで書いています。素直に前期更新世の末(およそ100万年前前後)と言うのが正確です。礫の出どころもピレネー系(ガロンヌ川)と中央山塊系(ドルドーニュ川)の両方で、左岸と右岸では石の顔ぶれが違います。

火山灰と黒い石の地面の上で、太い古木が渦巻き状の輪に編まれ、その内側と周囲から新しい緑の枝葉が伸びている
サントリーニの籠仕立て(クルーラ) — 火山灰・軽石・玄武岩の混じった土。粘土をほとんど含まない砂質のため、この島のぶどうは19世紀のフィロキセラ禍を免れ、いまも自根(接ぎ木なし)で育つ。強い日射と季節風から房を守るために、蔓を渦に編む

砂——害虫が来られなかった土

土壌の話で現象としてはっきりしている数少ない例が「砂とフィロキセラ」です。19世紀後半、北米から持ち込まれたフィロキセラはヨーロッパの畑をほぼ壊滅させ、以後ぶどうは抵抗性のある台木に接ぎ木するのが当たり前になりました。ところが砂の多い土壌では、この虫が広がらないのです。

観察は各国で一致しています。南アフリカの調査(1972年)では砂の割合が65%未満の土壌に被害が集中し、米国ワシントン州の2022年の研究も砂65%未満を高リスク、80%超を低リスクと区分しました。おかげでポルトガルのコラレス、南フランスのサーブル・ド・カマルグ、ハンガリー大平原、そしてサントリーニでは、いまも自根のぶどうが育ちます。フランス国立農業研究所のぶどう遺伝資源センターが1949年にあえて海岸の砂地へ移転したのも同じ理由——台木なしで品種を保存できるからです。

ただし、なぜ砂だと生きられないのかは、まだわかっていません。 有力な説は「砂には安定した亀裂や隙間の構造がないため、幼虫が土の中を根から根へ移動できない」というもので、1928年の米国農務省の報告以来くり返されていますが、査読を経た研究で機構が確かめられたわけではありません。日本語圏でよく見る「砂粒が虫の体を傷つける」という説明は、この仮説の俗流版です。なおチリに自根が残るのは砂のおかげではなく、地理的な隔離のため。混同しないでください。
— III

「ミネラル感」の正体——科学でわかっていることThe truth about minerality

ここがこの講の中心です。「このワインにはミネラル感がある。石灰岩の畑だからね」——広く交わされるこの一文を、順に分解していきます。結論から言うと、土のミネラルが、そのままワインの味として舌に届いているわけではありません。

ひとつめの問題——「ミネラル」という語が三つの意味で使われている

①地質学の鉱物

石英、長石、方解石、雲母——結晶構造を持つ化合物。これらは水にほとんど溶けない。マルトマンの言い方を借りれば、石英はワイングラスと同じ物質である。溶けないものに味はない。

②栄養素のミネラル

カリウム、カルシウム、鉄、マグネシウムなどのイオン。ぶどうが根から吸うのはこちら。炭素・水素・酸素を除いて14種の必須ミネラル栄養素がある。①とは別物。

③味わいの表現

テイスティングで使われる「ミネラル感」。①でも②でもない、感覚の言葉。ところが①や②と同じ単語なので、「石の味がする=石の成分が入っている」という飛躍が起きやすい。

ふたつめの問題——濃度が、桁で足りない

では②のミネラルは、ワインの中にどれくらい入っているのか。マルトマンが2013年の論文でまとめた数字を、人が味やにおいを感じられる濃度と並べてみます。

成分ワイン中の濃度人が感じ取れる濃度(水中)
亜鉛3〜5 ppb(10億分の3〜5)約4 ppm=およそ1,000倍
銅およそ0.1〜0.5 ppm2.4〜3.8 ppm(味)/7.8〜24.6 ppm(におい)
カルシウム30〜120 ppm125 ppm
カリウム平均577 ppm、多くて約1,000 ppm—

ワインの無機物は全体の0.15〜0.4%にすぎません。検出された約50種の無機成分のうち、およそ25種は多くても1〜100 ppb、およそ20種は ppt(1兆分の1)のレベルです。

しかも右の列は「水に溶かしたときの」閾値です。ワインには何百もの香気成分と、酸と、アルコールと、糖がある。そのなかで無機イオンのごくわずかな味は、マルトマンの表現では「飲み込まれて失われる」。対照的に香りの成分は桁違いに鋭く効き、ソーヴィニヨン・ブランのパッションフルーツ香を担うチオールのひとつは0.0001 ppbという薄さで感知されます。

マルトマンはこうも書いています。「ワイン中の無機元素の検出閾値そのものを扱った研究が見当たらない。理由はおそらく健康上の問題である——検出できるレベルまでミネラルを添加すれば、そのワインはほぼ確実に毒性を帯びる」。

みっつめの問題——経路が、四度断ち切られている

仮に土のミネラルが味になるとしても、岩からグラスまでには四つの関門があります。

  1. 岩 → 土の中のイオン岩の鉱物が根に吸える形になるまでには、風化、粘土鉱物の生成、土壌pH、微生物と、多くの変数が挟まります。岩石の組成が、そのまま土壌溶液の組成になるわけではありません。
  2. 土 → 根 → 果実樹は必要なイオンを選んで取り込み、体内で振り分けます。畑の地質と果実の無機組成は、素直には対応しません。
  3. 果実 → ワイン醸造でさらに動きます。清澄に使うベントナイト(粘土)は、ワイン中の希土類元素を最大830%増やすという報告があり、濾過は銅の20〜50%を取り除きます。ワインに入っている粘土の多くは、畑ではなく醸造所から来ている——これは笑い話ではありません。
  4. そして、閾値ここまで来ても、②で見たとおり濃度が足りない。「ワインの無機組成から産地を特定する」手法がなかなか確立しないのは、この四段構えの断絶のためです。
通説の内部矛盾。 マルトマンはもうひとつ、鋭い指摘をしています。「論理的には、もっとも養分を供給できる肥沃な土壌こそが、もっともミネラルを与えるはずだ。ところが『ミネラル感』は、逆に痩せた石がちな土壌に結びつけられている」。もし本当にミネラルが移行しているのなら、話は逆でなければなりません。

実測で否定された例——シャブリの「ヨード」

シャブリのワインに「ヨード(海の香り)」を感じ、「大昔の海の地層だからだ」と説明する——これは実際に測られ、否定されました。2013年の分析によると、シャブリの畑の土のヨード含量は約4 ppbで、近隣のコルトンより低い。葉も約5 ppb。そしてワインのヨード含量も約4 ppb で、コルトンより低く、ヨードがまったく話題にならないニューワールドのシャルドネの半分以下でした。

さらに決定的なのが2024年の研究です。ワイン愛好家のデータベースに蓄積されたシャブリ・プルミエクリュの試飲ノート16,542件(2003〜2022年)を、気象・地形・土壌のデータと突き合わせたところ——「ミネラル」という語の出現は、キンメリッジアン土壌とは相関しませんでした。相関したのは生育期の気温と日照時間(いずれも負の相関、つまり涼しく曇りがちな年ほどミネラル感が語られる)と、南〜南西向き斜面の比率でした。

そしてシャブリの生産者団体自身が、公式にこう述べています。「ミネラリティが場所から味への単純な転移でないことを、私たちは知っている。……岩からグラスへの直接の相関は存在しない。ワインの花崗岩、粘板岩、石灰岩、火打石といった風味は、風化した岩石そのものをぶどうが吸い上げた産物ではない」。産地の側が、いちばん冷静なのです。

では、あの感覚は何なのか

「ミネラル感は存在しない」という話ではありません。多くの人が、かなり似たワインに対してそう感じているのは事実です。研究はいま、その感覚の化学的な担い手を探しています。2018年の総説が挙げる要因は、五つ。

1酸高い酸度と低いpH。ミネラル感の評価と安定して結びつく、もっとも素直な要素。用語:酸味
2還元的な硫黄化合物いま最有力。シャブリの研究(2017年)では、「よりミネラル」と評価された側のワインでメタンチオール(貝のような香りに関与)が有意に高かった。スイスのシャスラを使った研究(2016年)では、「高ミネラル」と評価された2本でポリスルファン——火打石を打ちつけたときの匂いと同じ不安定な化合物——が有意に高かった。
3亜硫酸2016年の仏・NZ共同研究では、遊離・結合の亜硫酸がもっとも重要な組成上の予測因子だった。用語:亜硫酸塩
4塩味下で述べるとおり、これだけは例外的に「本物のミネラル」が効いている可能性がある。
5果実味の欠如じつはこれが大きい。熟した果実の香りが弱いとき、人は「ミネラル」と言う傾向がある。何かが「ある」のではなく、何かが「ない」ことの表現でもある。

唯一の例外——塩味

マルトマン自身が「味を持つ唯一の重要な例外」と認めるのが塩です。塩味の官能閾値は1リットルあたり384〜482mgの塩化物とされ、この域に届くワインは実際にあります。リアス・バイシャスのバル・ド・サルネスで200〜400mg/L、サントリーニではナトリウムが本土の2倍強。海に近い畑、潮を含んだ風、灌漑の水——経路はいくつも考えられ、赤の醸し発酵では塩化物が1.7倍に濃縮されるという報告もあります。「海が近いから塩気がある」は、ミネラル感一般と違って、部分的に実測で支えられる数少ない説明です(第66講:スペイン北部と内陸)。

そもそも「ミネラリティ」は、新しくて、定義のない言葉

最後にひとつ、拍子抜けするような事実を。この言葉には、合意された定義がありません。

フランス語話者1,697人に自由記述で尋ねた2016年の調査は、こう結論しています。「ミネラリティという概念の精確な定義は存在しないように見え、ワインの専門家のあいだですら、合意された意味を見いだすことはできない」。経験の浅い層は「聞いたことがない」と答え、ある層はミネラルウォーターのイオンを連想し、もっとも経験豊富な層だけが火打石や酸といった感覚に言及しました。ブルゴーニュ大学の研究者は、専門家から30以上の定義記述語を集めています。

言葉としての歴史も浅い。『オックスフォード・ワイン大事典』に "minerality" の項目が立ったのは、2015年の第4版が最初です。科学文献にいたっては、2012年より前に「知覚されるミネラリティ」を扱った論文は一本もありませんでした。

だから使うな、という話ではありません。 「ミネラル感」は、酸が高く、果実味が控えめで、わずかに還元的で、ときに塩気のある白ワインという、実在する一群を指すのに便利な言葉です。ただ、それを「土の成分の味」だと説明しないこと。テイスティングの言葉の使い方は第31講「テイスティングの言葉完全編」でも扱っています。
— IV

では、土は何をしているのかWhat soil actually does

ミネラルが味に移らないのなら、土は関係ないのか。まったくそんなことはありません。土は、ぶどうの育ち方を通じて、決定的に効いています。経路は主に四つです。

① 水——これが本命

2004年、ボルドーの研究チームがサンテミリオンで美しい実験をしました。半径1km以内の平坦地に三つの畑を選ぶ——砂利質、粘土の下層を持つ畑、根の届く深さに地下水がある砂質。品種は3つ、台木はすべて同じ、灌漑なし。気候の違いは5年分のヴィンテージ変動として見る。こうすれば土だけを取り出して比べられます。

結果はこうでした。気候・土壌・品種のいずれも有意に効き、しかも気候と土壌の影響は、品種の影響より大きかった。そして多くの変数が、樹の水ストレスの強さと相関していました。論文の結論はこう書かれています——「気候と土壌が果実の品質に与える影響は、樹の水分状態への影響を介して働いている可能性が高い」。

同じグループが年数を延ばして行った分散分析では、何が何を決めているかが数字で見えます。

果粒の重さ土壌 32%(気候25%/品種19%)
新梢の総伸長土壌 52%(ヴィンテージ26%)
色素(アントシアニン)土壌 14%(ヴィンテージ52%/品種11%)
総酸度ヴィンテージが66%を占める

土は樹の勢いと果粒の大きさをいちばん強く支配し、酸や色素は年(天候)の影響のほうがずっと大きい——というのが、この実験の見取り図です。第29講「ヴィンテージ」の話と、きれいにつながります。

メカニズムも分子レベルで見えています。2007年の研究によれば、ヴェレゾン前のほどよい水不足は、糖の蓄積と色素の合成開始を前倒しし、関連する遺伝子の発現を早めます。果粒が小さくなって「濃くなる」だけではなく、代謝そのものが変わるのです。

「小さい果粒=良いワイン」は、じつは支持されていません。 シラーズで果粒0.8〜0.9gと1.2〜1.3gを比べた研究(2005年)では、糖度・酸・pH・色・官能評価のいずれにも差が出ませんでした。差が出たのは0.3gと2.0gという極端な比較だけ。別の研究は「抽出を決めるのは果粒の大きさより果皮の割合」と結論しています。効いているのは水不足であって、果粒の大きさはその結果を映す指標にすぎない——そう捉えるのが正確です。

② 熱——ただし、通説の核心は実測で否定されている

「石が昼の熱を蓄え、夜にぶどうへ放射して熟させる」。シャトーヌフ・デュ・パプの案内では必ず語られる説明です。ところが、これを実際に測った数少ない研究が示したのは、少し違う絵でした。

測って確かめられたことニュージーランド・マールボロ

砂利が地表に露出した区画では、深さ30cmの地温が一貫して1〜2℃高かった。生育のステージは前倒しになり、収穫時の糖度とpHは高く、酸度は低かった。=石は「土」を温める。

確かめられなかったこと同じ研究の但し書き

論文は明記している——「気温は影響を受けなかった(air temperature was unaffected)」。房のまわりの空気の温度は、測定できるレベルでは変わらなかった。=夜に熱を返して房を熟させる、という機構は確認できていない。

マルトマンの整理も示唆的です。石の熱的な役割は主としてアルベド(反射率)の問題であり、「滑らかな白い石は粗い暗色の玄武岩よりはるかにアルベドが高く、したがって暗色のほうが速く温まるが、夜にはより速く熱を放ってしまう」。そして興味深いことに、マルトマンはシャトーヌフのガレを「蓄熱する石」ではなく「白っぽく光を反射する石」の例として、サンセールのカイヨットやヘレスのアルバリサと並べて挙げています。

つまり、石が効いていないのではありません。効き方が、語られてきたものとは違うのです。地温を上げて生育を早める、夏の蒸発を抑える、明るい石は光を樹冠へ反射する——ここまでは確かです。「夜の放射熱で熟す」の部分だけが、測定の裏づけを欠いています。

③ 根の張り方——「30m潜る」は誇張です

「ぶどうの根は何十メートルも地中を潜って、深い層のミネラルを吸い上げる」。広く語られますが、240の土壌断面を集めた2006年のメタ解析が出した数字は、もっと地味です。

63%上部60cmにある根の割合

240断面の平均。ぶどうの根の大半は、意外なほど浅いところにいる。

80%上部1mにある根の割合

植物全体の中では「深い部類」ではあるが、針葉樹林の1mまで91%と比べれば、極端ではない。横の広がりは最大10mほど。

6mもっとも有名な深根の記録

論文はこう書く——「もっとも広く引用されている報告は、ボルドーで根が6mの深さまで伸びていたという、たった一つの観察からなる」(1972年)。論文著者は「これはぶどうが極端に深根性であることを示すものではない」と明言している。

根の深さを決めるのは、台木の遺伝よりも土の条件——根が通れない層があるか、岩盤に割れ目があるか、です。マルトマンは、ドウロ上流で片岩の畑が花崗岩の畑より高く格付けされる理由を、「片岩の割れ目は急傾斜〜垂直で根が利用しやすく、塊状の花崗岩には根が入れないからだろう」と説明しています。土が効くのは、成分ではなく構造を通じて、というわけです。

④ 土壌pHと台木——石灰は「良い」のではなく「厄介」

石灰質の土は、しばしば銘醸地の代名詞として語られます。しかしマルトマンは冷たく言います。「石灰岩が与える唯一の特異な性質は土壌のアルカリ性であり、それがぶどうに特に有益だという証拠はない」。むしろ高いpHは鉄や亜鉛を溶けにくくし、葉が黄色くなるクロロシス(白化症)を招きます。原因物質として最重要とされるのは重炭酸イオンです。

だからヨーロッパでは、石灰質の畑に石灰耐性の高い台木を選びます。「石灰質のテロワール」は、実務のレベルでは台木の選択という話に落ちるのです。

6%リパリア・グロワール石灰にきわめて弱い。石灰質の畑では使えない
17%SO4・1103P・110R汎用性が高い層
40%41Bシャスラ×ベルランディエリ。1882年にミラルデらが交配し、石灰質の畑の再生を可能にした台木。シャンパーニュなどで定番
最高フェルカル石灰耐性の指標(IPC)でもっとも高い部類

数字は活性石灰への耐性の目安(%)。指標には複数の算出流儀があり、資料によって値が異なります。なお石灰耐性の高い161-49Cについては、近年フランス各地で若木の枯死が報告され、研究機関が原因を調べています。「石灰質には161-49C」と単純に勧められる状況ではありません。栽培全般は第59講「栽培完全編」に。

おまけ——窒素とカリウム、土が味に触れるいちばん近い経路

土の成分が味に「間接的に、しかしはっきり」効く例も、ないわけではありません。ひとつは窒素。果汁の同化性窒素が足りないと発酵が停滞し、硫化水素の異臭が出ます。窒素施用区ではソーヴィニヨン・ブランの香気チオールが最大2.5倍になったという圃場研究もあり、赤は樹勢を抑えるために窒素を絞り、白(とくに香りの品種)は絞りすぎると香りを失う——赤と白で処方が逆になります。

もうひとつはカリウム。果実のカリウムが多すぎると遊離の酒石酸が減り、ワインのpHが上がります。高pHは色を不安定にし、亜硫酸の効きを落とし、微生物的にも不安定にする。赤は醸しのあいだに果皮からさらにカリウムが出るため影響が大きい。「痩せた土のほうが良いワインになる」という経験則には、少なくともこの経路の裏づけがあります(圃場での定量研究はまだ見当たりませんが)。

— V

テロワール論の限界と、土を味わう実践Limits, and how to taste soil

ここまでを踏まえて、最後に二つ。テロワール論そのものへの批判と、それでも土を体験するための具体的な方法です。

批判の側——「テロワールは神話である」

カリフォルニア大学デーヴィス校の栽培学者マーク・マシューズは、『Terroir and Other Myths of Winegrowing』(カリフォルニア大学出版局)で、業界の四つの前提を実証データで叩いています。①低収量・小果粒が品質を決める ②樹のバランスが鍵 ③決定的な成熟期間があり樹はストレスを受けるべき ④テロワールが重要。たとえば欧州とカリフォルニアの歴史データでは、好天の年には高収量と高品質が同時に起こります。また「低収量にすると果粒は大きくなる」ため、①の二つの主張はそもそも両立しません。

ただし公平に言えば、マシューズは土の重要性そのものを否定してはいません。彼が書くのは「土壌はぶどう樹の生育と果実発達に深甚な影響を与える」、しかし「ミネラル養分の風味への寄与は確立されていない」ということです。

地質と格付けの関係についても、マルトマンが厳しい指摘をしています。「多くのフランスのアペラシオンは部分的に地質境界に従って画定されたが、それは歴史的なドグマに従ったにすぎない。したがって、地質が高格付けの畑と相関するからといって、いま地質の重要性を推論するのは循環論法である」。さらに彼は、コート・ドールの断面図では地層と格付けがきれいに一致するように見えるのに、平面図(地図)にすると格付けは斜面の向き=日照との関係のほうに対応し、地層との一致が崩れる、と指摘します。

では、ブラインドで土は当てられるのか

ここは慎重に書きます。「テイスターが土壌タイプそのものをブラインドで言い当てられるか」を直接検定した研究は見当たりません。あるのは「畑や母岩のタイプごとにワインが有意に異なるか」を調べた研究です。

差は出るドイツ・リースリングの研究

地質的に多様な25の畑 × 5連続ヴィンテージ。玄武岩礫を含むロームの畑のワインは、5年を通じて明色砂岩の畑より柑橘・桃・メロンが有意に強かった。判別分析では5つの母岩タイプを官能特性でグループ化できた。ただし土壌+気候で説明できたのは官能変動の48%。残り半分は説明できていない。

でも、ブラインドでは消える30回のブラインド試飲会の分析

別の研究は結論する——「ベテランのパネルであっても、テロワールの属性はブラインド試飲では大きく失われる。一方、銘柄を見せた試飲の報告は、少数の記述語に著しく収束する」。つまり「知っていること」が、感じ方をかなり作っている。

もっとも示唆的な発見。 上のドイツの研究は、標準化した醸造と各ワイナリーの通常の醸造の両方を試しました。すると——各ワイナリーが自分のやり方で造ったワインのほうが、テロワール間の差をよく描き分けたのです。人の手を排除すると、かえって土地の違いが見えにくくなる。テロワールから人を引き算することはできない、という主張の、なかなか強い傍証です。

実践①——土を「並べて」飲む

土の違いを体験する、いちばん確実な方法は単純です。同じ造り手が、同じ品種を、土壌の違う畑で仕込んだものを並べる。造り手・品種・年・醸造をそろえれば、残る変数はかなり絞られます。実在する例を挙げます。

造り手(産地)品種並べるもの
ツィント・フンブレヒト
アルザス
リースリングロッシュ・グラニティック(花崗岩)/ロッシュ・カルケール(石灰質)/ロッシュ・ヴォルカニック(火山性)。土壌名をそのままラベルに掲げた3本。これ以上わかりやすい教材はない
フルニエ・ペール・エ・フィス
サンセール
ソーヴィニヨン・ブランシレックス(火打石)/カイヨット(小石)/テール・ブランシュ(白い土=泥灰土)。サンセールの三土壌を別々に瓶詰めする定番の構成
ピエロパン
ソアーヴェ
ガルガーネガカルヴァリーノ(玄武岩に富む火山性)/ラ・ロッカ(粘土に富む海成石灰質)。1971年に世に出たイタリア初の白の単一畑。白※両者は品種構成も異なる点に注意
テヌータ・デッレ・テッレ・ネレ
エトナ
ネレッロ・マスカレーゼサン・ロレンツォ(黒い軽石を含む火山灰土壌)/サント・スピリト(ほぼ火山灰のみの深い土壌)。標高がほぼ同じで土の質だけが違う、貴重な対比赤
シュロス・ゴベルスブルク
カンプタール
グリューナー・ヴェルトリーナーリート・グルプ(純粋なレス)/リート・ラム(ペルム紀の赤色シルト岩由来・粘土が多い)/リート・レナー(レス+古い岩の風化物)
シャトー・ティヴァン
ボジョレー
ガメイコート・ド・ブルイイ(青い石=閃緑岩)/ブルイイ。同じ造り手・同じ品種で、火成岩の種類が違う

どれも手に入りやすいとは限りません。現実的な代案としては、同じ造り手のシャブリとプティ・シャブリ、あるいはエトナのコントラーダ(区画)違いを2本並べるだけでも、十分に発見があります。買い方は第33講「ワインの買い方完全編」を。

実践②——地図を見る

いまは、産地の地質図が無料で公開されています。

  1. ブルゴーニュ業界団体が公開するインタラクティブ地図で、84のアペラシオンに加えクリマ/リュー・ディの単位まで表示できます。クリマの一覧地図はPDFでも配布されています。
  2. フランス全土の地質図フランス地質調査所(BRGM)が5万分の1の地質図を誰でも閲覧・ダウンロードできる形で公開しています。この講の記述の多くも、実際にこの地質図で確認したものです。
  3. アルザス51のグラン・クリュそれぞれについて、公式サイトが地質を公開しています。ブランは花崗岩、ゴルデールはアルザス唯一の海成オーライト石灰岩、ランゲンは唯一の火山性——といった具合に。
  4. イタリア・ドイツ・オレゴンバローロは2010年に181のMGA、ソアーヴェは2019年ヴィンテージから33のUGAが公式化されました。ドイツはラインラント=プファルツ州の公的ポータルで1,600超の畑を照会でき、オレゴンのダンディー・ヒルズは「赤いジョリー土壌が申請地の約80%を覆う」と土壌を根拠に境界が引かれた例です。
地図を見るときの構え。 産地の境界が地質の境界と一致していても、それは「地質が味を決める証拠」ではありません。歴史的に、地質を基準に線を引いたという事実の記録です。シャブリのように、いったん地質で線を引いてからのちに放棄した産地もあります。地図は、味の説明書ではなく人がどう考えてきたかの記録として読むのが、いちばん豊かだと思います。
— FAQ

よくある質問Frequently asked

Q結局、土はワインの味に関係あるの?

あります。ただし経路が違います。 土のミネラルが果汁に移って「石の味」になるのではなく、土の水はけ・保水力・熱・構造がぶどうの育ち方を変え、それが果実の成分を変えます。ボルドーの研究は「気候と土壌の影響は品種より大きく、それは樹の水分状態を介して働いている」と結論しています。土は効いている。効き方が、語られてきたものと違うだけです。

Q「ミネラル感」と言ってはいけない?

使って構いません。酸が高く、果実味が控えめで、わずかに還元的で、ときに塩気のあるワインを指すのに、これほど便利な言葉はありません。避けたいのは「この土だからこの味」という因果の言い切りのほうです。「石灰岩の畑だからミネラル感がある」ではなく「引き締まった酸があって、私はこれをミネラル感と呼んでいる」——それだけで、発言はずっと正確になります。

Q土を知るには、まず何から?

本を読むより並べて飲むほうが早いです。同じ造り手・同じ品種・同じ年で、畑だけ違う2本。手に入りにくければ、同じ造り手のシャブリとプティ・シャブリでも構いません。そのうえで産地の地質図を眺めると、飲んだ記憶と地面が結びつきます。逆順だと、たいてい知識が先に立って、舌が知識をなぞるだけになります。

— Recap

土は、味そのものではなく、育ち方を変えるSoil shapes the vine, not the flavour

この講でいちばん伝えたかったのは、ひとつの区別です。土のミネラルがワインに溶け込んで「石の味」になる——これは起きていません。濃度が桁で足りず、岩から舌までのあいだに四つの断絶があり、実測でも否定されています。シャブリのヨードは近隣より少なく、16,542件の試飲ノートを解析してもミネラル感とキンメリッジアン土壌に相関はありませんでした。産地の団体自身が「岩からグラスへの直接の相関は存在しない」と述べています。

けれど土は、決定的に効いています。水はけと保水力を通じて樹の水分状態を決め、それが果粒の大きさと代謝を変える。地温を1〜2℃上げて生育を早める。岩盤の割れ目の向きが根の伸び方を決める。石灰は台木の選択を強いる。土は味の原料ではなく、ぶどうの育ち方を決める条件なのです。

そして忘れたくないのは、人を引き算するとテロワールは見えにくくなるという、あのドイツの研究の発見です。標準化した醸造より、各ワイナリーが自分のやり方で造ったワインのほうが、土地の違いをよく描き分けた。OIVの定義に「実践」と「集団的知識」が入っているのは、飾りではありません。

次の一本。 今回は2本を並べてください。おすすめは同じ造り手のシャブリとプティ・シャブリ。値段の差は小さく、畑は隣り合い、造り手は同じ。違うのは斜面と地層です。予算が許せばサンセールの土壌別3本か、アルザスの「ロッシュ・グラニティック/カルケール/ヴォルカニック」を。そして飲みながら、こう自問してみてください——いま感じている違いを、土のせいだと説明したいのは、舌なのか、それともラベルを読んだ頭なのか。

次回は銘醸図鑑へ。第22弾は「ポムロール」。今回ちらりと触れた、ボルドー右岸の台地の頂に露出した膨潤性の粘土(青粘土)と、そこに立つ11ヘクタールあまりの畑の話です。格付けを持たないアペラシオンが、なぜ世界でもっとも高価な赤を生むのか。「世界に唯一の粘土」という語りを、地質図と突き合わせながらほどいていきます(第5講「ボルドー完全編」と銘醸図鑑:メドック1855年格付けもあわせてどうぞ)。

Le goût du lieu.

次に「この土だからこの味」と聴いたときは、否定するのではなく、一拍おいてみてください。土は味の原料ではなく、ぶどうの育ち方を決める条件です。そしてその上に、何世代もの人が土地を区切り、名づけてきた。テロワールとは、その全体のことです。

写真クレジット(すべてWikimedia Commons):
1. シャトーヌフ・デュ・パプのガレ・ルレ — “Châtauneuf-du-Pape Cep et galets roulés” by jean-louis zimmermann, CC BY 2.0
2. 石灰質の畑(ガイヤック) — “Terroir calcaire Gaillac 2” by PANDA 81, CC BY-SA 3.0
3. サントリーニの籠仕立て — “Santorini Kouloura Assyrtiko Vine” by AkatsukiKuro, CC0
※掲載写真はレイアウト上の都合によりリサイズ・トリミングして掲載しています。
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