
「自然派」は、ひとつではない三つの物差しに分ける
ワインショップの棚で、「ビオ」「オーガニック」「ビオディナミ」「ヴァン・ナチュール」「自然派」——これらの言葉が、ほとんど同じ意味であるかのように並んでいます。しかし中身はまるで違います。片方はEUの規則に条文として書かれた制度であり、もう片方は法的定義を持たない思想です。この回は、その境目をはっきりさせることから始めます。
まず、いちばん大事な整理から。これらの言葉は「どの範囲に、どんな縛りがあるか」で三段階に分かれます。
この三つは、入れ子でもなければ、順位でもありません。有機認証を持つが自然派ではないワインも、自然派を名乗るが無認証のワインも、どちらも大量に存在します。まずは一覧で比べてみてください。
| ビオロジック(有機) | ビオディナミ | ヴァン・ナチュール | |
|---|---|---|---|
| 法的な位置づけ | EU規則に定義あり | 民間の私的基準 | 定義なし(任意の枠組みが一部にあるのみ) |
| 対象範囲 | 栽培+醸造 | 栽培+醸造+作業暦 | 主に醸造での不介入 |
| 第三者検査 | あり(義務) | あり(団体の認証) | 原則なし(枠組み参加時のみ) |
| 亜硫酸の上限 | 辛口の赤100 / 白ロゼ150 mg/L | 辛口の赤100 / 白ロゼ140 mg/L(デメター) | 添加する場合は総量30 mg/L以下(仏の枠組み) |
| ラベルの目印 | ユーロリーフ+管理機関コード | Demeter / Biodyvin のロゴ | ロゴがないことも多い |
※亜硫酸の数値は後述のとおり、残糖の量によって適用される区分が変わります。ここでは辛口の場合を示しています。
言い換えれば、左に行くほど「誰かが検査して確かめられること」、右に行くほど「造り手が引き受けている選択」になります。どちらが上等という話ではありません。ただし、買う側にとっての意味はまるで違います。左は保証、右は信頼です。
ビオロジック規則の言葉で書かれた「自然」
意外に思われるかもしれませんが、EUに「有機ワイン」という表示ができるようになったのは2012年のことです。それ以前は、たとえ有機栽培のぶどうを使っていても、ラベルには「有機栽培ぶどうから造られたワイン」としか書けませんでした。畑の規則はあったのに、醸造の規則がなかったからです。
これを変えたのが2012年3月採択、同年8月1日適用の実施規則(EU)203/2012でした。ここで初めて、蔵の中で何をしてよく、何をしてはいけないかが条文になりました。現在は規則(EU)2018/848に引き継がれています。中身を具体的に見ると、「自然」という言葉がどれだけ技術的な内容を持つかがわかります。
禁止されていること
冷却による部分濃縮/物理的手段による脱亜硫酸/電気透析(酒石の安定化)/陽イオン交換樹脂による処理/部分脱アルコール。添加物ではソルビン酸が使えません。
条件つきで許されること
濾過は孔径0.2マイクロメートル未満は不可(=完全な無菌濾過はできない)。加熱処理は75℃を超えないこと。逆浸透やイオン交換樹脂には現時点で追加の制限がありません。
よくある誤解 「有機ワインは脱色炭(醸造用の活性炭)が使えない」と説明されることがありますが、脱色炭は有機ワインでも認可されています。禁止されているのはソルビン酸のほうです。また加熱処理の上限も、2012年の規則では70℃でしたが、現行は75℃。細部は改正されていくので、古い解説を鵜呑みにしないことです。
数字で見る、有機の亜硫酸
有機ワインのいちばん実質的な違いは、おそらく亜硫酸(SO2)の上限が低いことです。ここは数字で押さえておく価値があります。
| 区分 | 一般のワイン | 有機ワイン |
|---|---|---|
| 赤(辛口) | 150 mg/L(残糖5g/L未満) | 100 mg/L(残糖2g/L未満) |
| 白・ロゼ(辛口) | 200 mg/L(残糖5g/L未満) | 150 mg/L(残糖2g/L未満) |
| それ以外(甘口など) | 区分ごとに200〜300 mg/L | 一般の上限から最低30 mg/L減 |
※注意:一般ワインと有機ワインでは「辛口」の線引き自体が違います(一般は残糖5g/L未満、有機は2g/L未満)。「有機は一律50下がる」という説明は不正確です。
そして、ラベルの読み方。EU域内で造られた有機ワインにはユーロリーフ(葉の形をした星のロゴ)の表示が義務で、その近くに必ず管理機関のコード番号(たとえばフランスなら FR-BIO-01 のような形式)と、原料の産地表示が並びます。ロゴだけあってコード番号がないものは、EUの有機ワインではありません。なお有機に転換中(通常3年)のぶどうから造ったワインは、その旨を書けてもユーロリーフは使えません。ラベルの読み解き全般は第41講ラベルの読み方完全編もあわせてどうぞ。
増え続ける、とは限らない
規模も見ておきましょう。OIV(国際ぶどう・ぶどう酒機構)によれば、2019年時点で世界の有機ぶどう栽培面積は約45万4千ヘクタール、全ぶどう畑の6.2%。2005年から2019年にかけて年平均13%で伸び、同じ期間に慣行栽培の面積はわずかに減っていました。スペイン・フランス・イタリアの三国だけで世界の有機ぶどう畑の75%を占めます。
ただし、右肩上がりの話として片づけるのは正確ではありません。フランスの公的機関アジャンス・ビオの集計では、2024年、フランスの有機ぶどう畑は数十年ぶりに減少に転じました。認証済み面積は前年から約6,700ヘクタール(4%)減り、新規に転換を始めた面積は前年比で4割以上落ち込んでいます。背景にあるのは有機の失敗ではなく、ボルドーを中心としたワイン消費の減退と価格の低迷です。理念は、経済の上に立っている——この産業の現実を、数字が示しています。

ビオディナミ1924年の講義と、証拠の現在地
ビオディナミの出発点は、ワインの世界ではありません。1924年6月、当時ドイツ領だったコーベルヴィッツ(現在のポーランド、コビエジツェ)で、思想家ルドルフ・シュタイナーが行った全8回の農業講義です。受講者は111名。化学肥料の普及とともに作物や家畜が衰えていると感じた農業者たちが集まりました。シュタイナーはその翌年に世を去っており、これは最晩年の仕事のひとつでした。
ここで押さえておきたいのは、シュタイナー自身がこの講義を「完成した処方」ではなく「検証されるべき示唆」として語っていたことです。のちに信奉と反発の両方を呼ぶことになるこの体系は、少なくとも出発点においては、実地で確かめられることを前提にしていました。
畑で実際に行われていること
認証の仕組みもあります。デメター(Demeter)は1928年に商標が登録された、有機農産物としては世界初のエコラベルとされる存在で、1997年に19か国の代表が集まって国際組織が発足しました。現在は60か国を超え、約25万ヘクタール・7,000を超える農家が加盟しています(2022年時点)。フランスのワインに特化した組織としては、1995年に約15名の生産者が立ち上げたビオディヴァン(Biodyvin)があり、現在は約220ドメーヌ・およそ5,000ヘクタール。検査は有機認証機関のエコセールに委託されています。
デメターのワイン基準は、有機よりさらに踏み込んでいます。亜硫酸は辛口の赤で100 mg/L、白・ロゼ・スパークリングで140 mg/L。酵母は土着酵母が原則で、外部の酵母は発酵が止まった場合の是正など限られた場面にしか使えません。魚膠やゼラチンといった動物由来の清澄剤、パスチャライゼーション、アスコルビン酸やソルビン酸は使えず、樽材はオークのみ。容器はステンレス、コンクリート、木、陶器、そしてクレイ・アンフォラが認められています。
ラベルに二段階がある デメターの認証ぶどうを使っていても、醸造がデメターのワイン基準ではなくEUの有機基準にとどまる場合、ラベルに書けるのは「デメターのぶどうから造られたワイン」まで。デメターの名をワイン自体に冠することはできません。畑と蔵が分けて評価されている、ということです。
効果は、証明されているのか
ここが、この講座でもっとも慎重に書くべき箇所です。結論から述べます。調合剤や天体の暦に固有の効果があることを示す、再現性のある科学的証拠は、現時点で得られていません。
スイスのシャンジャン(ぶどう栽培・醸造学校)が2015年から行った比較試験は、「有機栽培」と「有機栽培+調合剤500/501」を同じ畑で並べて比べるという、この問いにまっすぐ答える設計でした。結果は、ぶどうの生理、収量、果実の品質、土壌の性質、さらに土壌の菌叢の多様性にいたるまで、有意な差は認められないというものでした(査読誌 OENO One 掲載)。天体の暦についても、2017年の PLOS ONE に載った研究で、ニュージーランドのワイン専門家19名が12種のピノ・ノワールを「実の日」と「根の日」にブラインドで評価したところ、日の種類による体系的な差は現れませんでした。
もっとも、これは「ビオディナミのワインが美味しくない」という意味ではまったくありません。研究が示しているのは、より繊細な事実です。ビオディナミの畑と慣行栽培の畑を比べると差が出る。しかしビオディナミと有機を比べると差が出ない——つまり、しばしば観察される品質の違いは、「有機であること」で説明がついてしまうのです。加えて、ビオディナミを実践する生産者の多くは、低収量、手摘み、畑への高い頻度の立ち会いといった丁寧な仕事を同時に行っています。生じた差のどこまでが調合剤に帰せられるのかを、いまの研究は切り分けられていません。
よく言われること
ビオディナミは科学的に効果が証明されており、だから偉大なワインが生まれる。
正確には
調合剤や暦の効果を支持する査読研究はいまのところ存在しません。一方で、ビオディナミの実践が畑への注意深さと低収量を伴うのは事実で、優れたワインが多いこと自体は否定されていません。効果の所在が未解明、というのが現在地です。
ヴァン・ナチュール定義のない領域と、2020年の合意
三つめが、いちばん語られ、いちばん定義しにくい領域です。「自然派ワイン」に法的な定義は、EU法にも各国法にも存在しません。だから名乗るのは自由で、だからこそ中身の幅が極端に広い。ここに、この言葉をめぐる混乱のほとんどが集約されています。
ただし、まったく手つかずというわけでもありません。フランスでは2019年9月に自然派ワイン擁護組合が発足し、2020年3月、その憲章がフランスの競争・消費・不正抑止総局(DGCCRF)に承認されました。フランス当局が「自然派」という領域を事実上はじめて認知した出来事です。表示名は「vin naturel(自然なワイン)」ではなく、「Vin Méthode Nature(ヴァン・メトード・ナチュール=自然な手法によるワイン)」。ワインそのものを「自然だ」と名乗ることはEU法上できないため、「手法」という一語を挟んである——この慎重さ自体が、この領域の性格をよく表しています。
憲章の要件は、かなり厳格です。
- ぶどうは100%、認証有機であること有機認証(AB等)を受けた畑のぶどうに限られる。有機は前提であって、ゴールではない
- 手摘みで収穫すること機械収穫は認められない
- 土着酵母のみで発酵させること培養酵母の添加は不可
- 醸造添加物を加えないこと逆浸透、濾過、遠心分離、フラッシュ殺菌、加熱醸造、凍結収穫(クリオエクストラクション)も禁止
- 亜硫酸は発酵前・発酵中に一切添加しないこと瓶詰め前に限り調整でき、その場合も総量30 mg/L以下。ラベルには「無添加」か「添加30 mg/L未満」のどちらかのロゴを表示する
運用も形だけではありません。組合は毎年、加盟ワインの最低1%について独立ラボで合成農薬の残留分析と亜硫酸値の検証を行い、疑義があれば外部機関による監査に進みます。2023年時点の会員は生産者と流通業者をあわせて274、2020年から2022年の3年間で認定されたキュヴェは累計684本でした。ただし——ここが大切なところですが——この枠組みに参加していない優れた自然派の造り手は、いくらでもいます。ロゴの有無は品質の証明でも反証でもありません。
亜硫酸をめぐる、いくつかの事実
自然派の話は、結局のところ亜硫酸の話に収束していきます。整理しておきましょう。詳しくは用語辞典の酸化防止剤(亜硫酸塩)もあわせてどうぞ。

瓶の中で起きていること欠陥と個性、そして扱い方
味わいの話に移ります。自然派のワインには、はっきりした傾向があります。果実味が前に出て、旨みがあり、揮発性の香りが立ち、そしてボトルごとの差が大きい。この最後の一点が、良くも悪くも本質です。
理由は醸造にあります。土着酵母だけで発酵させると、まず非サッカロミセス属の酵母が働き、アルコールが上がるにつれてサッカロミセス・セレヴィシエに主役が移る、という多段階の発酵になります。複雑さと土地の個性が出る一方、発酵の立ち上がりが遅く、マストの資化性窒素が足りない(おおむね140 mg/L未満)と発酵が途中で止まるリスクが上がります。止まっているあいだに酢酸菌が増えれば揮発酸が上がり、それがさらに発酵を妨げる——という悪循環も起こりえます。培養酵母は、この不確実性を買い取るための技術だったわけです。
「欠陥」と「個性」の線引き
自然派を語るとき避けて通れないのが、この論争です。冷静に整理すると、三つの現象は、それぞれ扱いが違います。
ブレタノミセス属の酵母が生む揮発性フェノール(4-エチルフェノール等)。絆創膏、馬小屋、なめし革、燻製肉。評価は割れています——どんな濃度でも欠陥とする立場、低濃度なら複雑さを足すとする立場、土地の一部とする立場。知覚の閾値に個人差が大きく、客観的な線引きは存在しません。
主成分は酢酸。低い濃度では香りに浮遊感や複雑さを与え、高くなると酢や除光液を思わせます。EU法にも上限があり、閾値を超えれば分析上も欠陥。低亜硫酸の環境では上がりやすい成分です。
ブレタノミセスや乳酸菌が生む窒素複素環化合物。ここだけはほぼ全員が欠陥と認める現象です。厄介なのは、ワインの酸性下では揮発しないため、グラスで嗅いでも分からないこと。口に含んで唾液と混ざってはじめて、ポップコーンや古い穀物のような後味として現れます。有効な処置法はありません。
もうひとつ、還元香も自然派でよく話題になります。硫化水素やメルカプタン類といった揮発性の硫黄化合物によるもので、腐った卵、焼けたゴム、ニンニクのような香り。発酵中の酸素や窒素が不足すると生じやすく、有機・ビオディナミの畑で使われる単体硫黄(うどんこ病の対策)が残留した場合にも起きやすいとされます。ここで注意したいのが、よく言われる対処法です。
「還元はデカンタージュで飛ぶ」は、半分だけ正しい 空気に触れて改善するのは主に硫化水素のほうで、メルカプタン類は酸素に触れても消えません(別の化合物に変わるだけです)。軽い還元は開いて解けることがありますが、強い還元は待っても開かない。グラスに注いで15分で判断せず、しかし何時間も期待しない——というのが現実的な付き合い方です。デカンタージュそのものはハウツーのデカンタージュのやり方で扱っています。
濁り、微発泡、そして温度
濁っていることは、それ自体は傷みではありません。清澄も濾過もしなければ、酵母やタンパク質が残るのは当然の帰結です。ただし濾過をしないことは微生物学的な安定性を下げる選択でもあり、瓶の中で発酵が再開することがあります。栓を開けたら微かに泡が立った、というのはこれが理由で、低亜硫酸のワインにボトル差が大きい最大の原因でもあります。
だから、扱い方が効きます。低亜硫酸のワインは温度・光・酸素に対する緩衝力が小さく、輸送と保管の履歴が味に直接出ます。とはいえ「自然派は必ず冷蔵庫で」と断定するのも正確ではありません。求められているのは特殊な保管ではなく、ワイン一般に推奨される11〜14℃前後の定温・暗所を、より厳格に守ることです。詳しくは第26講保存とサービング完全編と、ハウツーのワインの保存方法をどうぞ。
選ぶときの、three practical points
- 店を選ぶ低亜硫酸のワインほど、流通と保管の差が味に出る。冷蔵管理をして回転の速い専門店で買うのが、いちばん確実な近道です
- 最初は「クセの少ない一本」から自然派の中にも、驚くほど端正なワインから、強い個性のものまで幅があります。入口は軽やかな白・ロゼ・微発泡が扱いやすい。具体的な選び方は自然派ワインの選び方で
- ラベルの言葉を、階層で読むユーロリーフと管理機関コードがあれば有機は確実。デメターやビオディヴァンのロゴがあればビオディナミ。どちらもなく「ナチュール」とだけあるなら、それは造り手への信頼で買うということです
健康についての注意 「自然派は体に良い」「亜硫酸が少ないから二日酔いしにくい」という話は、それを支持する信頼できる証拠が現時点でありません。亜硫酸に反応するのは主に亜硫酸感受性の喘息をお持ちの方で、人口の1%未満とされ、頭痛はその典型的な症状としては挙げられていません。むしろ、発酵前に亜硫酸を加えなかったワインでヒスタミンなどのバイオジェニックアミンが高くなる傾向を示した研究もあります。アルコール飲料である以上、体への影響の主因はアルコールそのものです。この点は第37講ワインと健康完全編で詳しく扱っています(お酒は20歳になってから。妊娠中・授乳期の飲酒は避けてください)。
よくある質問Questions
別のものです。オレンジワインは「白ぶどうを果皮ごと発酵させる醸造技法」、自然派は「介入を減らす姿勢」——軸が違います。培養酵母や亜硫酸を使うオレンジワインも、果皮浸漬をしない自然派の白も普通にあります。よく一緒に語られるのは、果皮から出るタンニンやフェノールが天然の酸化防止のはたらきをして、亜硫酸を減らしやすいためです。詳しくはオレンジワインと、源流の甕については第30講ハンガリー&ジョージア完全編をどうぞ。
矛盾ではありません。酵母が発酵の過程で亜硫酸を自分で作るためで、その量は一般に10〜20 mg/L程度。EUでは総量が10 mg/Lを超えれば表示が義務なので、加えていなくても記載が必要になります。「無添加=ゼロ」ではなく「加えていない」という意味だと理解してください。
上下ではなく、保証されている範囲が違うと考えるのが正確です。有機とビオディナミは第三者の検査がある認証で、「何をしていないか」が確かめられます。ヴァン・ナチュールは原則として認証がなく、造り手の姿勢を信頼して買うもの。どちらにも素晴らしいワインと、そうでないワインがあります。
ラベルの言葉から、瓶の中身へWhat we can actually verify
この回でやったことは、ひとことで言えば「言葉を、確かめられるものと確かめられないものに分けた」ということです。有機は条文で、ビオディナミは団体の基準で、ヴァン・ナチュールは憲章か、あるいは何もない。それぞれの言葉が、どこまでを保証しているのか——それさえ分かっていれば、棚の前で迷うことは減ります。
もうひとつ、正直に確認しておきたいことがあります。ビオディナミの調合剤に固有の効果は証明されていない。自然派が健康に良いという証拠もない。それでも、この領域から素晴らしいワインが生まれ続けているのは事実です。証明されていないことと、価値がないことは別だからです。畑に何度も足を運び、収量を落とし、リスクを引き受けて造る——その姿勢が結果を生んでいる可能性は、むしろ研究の側が示唆しています。理屈が追いついていないだけ、という見方もできるでしょう。
次の一本。 同じ造り手の、同じ品種で「有機認証あり」と「ヴァン・メトード・ナチュール」の二本が並んでいたら、迷わず両方買ってみてください。値段の差より、亜硫酸の量が香りの立ち方と余韻の長さをどう変えるかのほうが、はるかに面白い比較になります。第31講テイスティングの言葉完全編の語彙が、そのまま役に立つはずです。
次回は銘醸図鑑へ。スペイン、リオハ。樽で長く寝かせてから出荷するという、世界でも珍しい流儀を貫いてきた産地です。クリアンサ、レセルバ、グラン・レセルバという熟成の階段はどう決められているのか。伝統派と現代派はどこで分かれたのか。「待つこと」を制度にした土地を、造り手の作風から歩きます。
