ロッシェル塩から始まった町のワイナリー
朝日町ワインは、最上川が町の中央を流れる山形県西村山郡朝日町のワイナリーです。会社概要が記す始まりは1944(昭和19)年9月。国の要請で、ワインに含まれる酒石酸から、電波探知機に使う軍需物資ロッシェル塩を取り出すための工場として生まれました。社名は当初「山形果実酒製造有限会社」でした。
戦後の1952年からは大手ワインメーカーの委託でポートワインの原料を造り、1973年に農協の後押しで自社ワイン「サンワイン」を発売。1975年には農協と朝日町が共同出資する第三セクターとなり、1979年に「朝日町ワイン」の名で商品を出しました。1990年に現在の社名・有限会社朝日町ワインへ。1985年から試験蒸留を重ねたブランデー「高野(たかの)」を1999年に発売し、2000年に観光ワイナリー「ワイン城」を開いています。
いまの株主は朝日町とJAさがえ西村山、代表取締役は鈴木浩幸氏。2024年8月付の会社紹介資料では、年間の生産量を34万本としています。
町の契約農家が育てるぶどう
公式サイトや山形県ワイン酒造組合のページが掲げる言葉は「良い葡萄がなければ、良いワインは生まれない」。ぶどうは町の農家が育て、醸造担当がそれをワインに仕上げる——という分業を、会社紹介資料は「ぶどう・人・自然の恵み」と表現しています。同じ資料によれば、町の面積の76%は森林で、冬のぶどう畑は約6フィート(1.8mほど)の雪に埋もれます。
主力はマスカット・ベーリーA、デラウェア、ナイアガラ、そして国内で改良された白ぶどうのリースリング・フォルテ。GI山形の認定銘柄の一覧には、ほかにリオン、セーベル9110、ブラック・クイーン、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンの名も並びます。日本ワインコンクール2025の資料では、標高350mの柏原地区で、町の朝日町ぶどう生産組合と一体となってマスカット・ベーリーAを育てていると紹介されています。
主な銘柄
- 柏原ヴィンヤード遅摘み赤——柏原地区で11月上旬まで待って収穫したマスカット・ベーリーAを、樽を使わずに仕上げた赤。山梨県の公表資料によれば、2024年ヴィンテージが日本ワインコンクール2025の国内改良等品種 赤で金賞・部門最高賞。前年に続く2年連続の金賞とされています(販売価格1,771円・税込、参考)。
- マイスターセレクション キュヴェ マスカットベーリーA 赤——町内の契約農家のマスカット・ベーリーAをフランス産の樽で11か月熟成し、瓶で2年以上寝かせてから出す赤。会社紹介資料では、デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード(DWWA)2024で銀賞と紹介されています(国内小売価格3,511円、資料掲載時点の参考)。
- スパークリングデラウェア 辛口/スパークリングナイアガラ 甘口——山形県産のデラウェア、ナイアガラをそれぞれ100%使い、低温で発酵させた泡。
- レイス デラウェア マセレーション——デラウェアを果皮や種と一緒に漬け込んだ、オレンジ色の白(オレンジワイン)。
このほか、日常の食卓向けの「朝日町ワイン」赤・白・ロゼや、GI山形の認定を受けた品種別のワインがそろいます。在庫や価格は変わるため、最新は公式オンラインショップで。
ワイン城を訪ねる
ワイン城は入場無料。公式サイト「売店・見学について」によれば、売店の横にある見学コーナーから、ガラス越しに瓶詰めラインを眺められます。予約は不要ですが、瓶詰めは平日のみで、作業のない日もあります。施設の内部に入ることや、スタッフの案内付きの見学はありません。目の前の自社ぶどう畑は自由に歩けます。
売店では全銘柄を扱い、試飲コーナーで数種類を無料で試せます。運転する人と20歳未満の人は試飲できません。旅行会社のツアーなどの団体は、売店が広くないため事前に連絡を。
- 営業時間:4〜10月 9:00〜17:00、11〜3月 9:00〜16:00
- 休み:年末年始
- 駐車場:無料50台
- 所在地:山形県西村山郡朝日町大字大谷字高野1080(TEL 0237-68-2611)
- 車:山形自動車道 寒河江ICから約20分(朝日町観光協会)
営業時間・見学条件は2026年11月1日に公式サイトで確認したものです。変わることがあるので、出かける前に公式サイトか電話で確かめてください。
山形の中での位置づけ
山形のワイン造りは、南の置賜地方(南陽・高畠)と、山形市の周辺の村山地方に集まっています。朝日町は村山地方の西、最上川の上流にあたる山あいの町で、同じ西村山郡には月山トラヤワイナリーがあります。明治から続く南陽市の酒井ワイナリーと並べると、山形のワインが町ごとにちがう歩みをたどってきたことがわかります。
戦時の工場から町と農協のワイナリーへ——朝日町ワインの歩みは、日本のワイン造りの一つの典型です。デラウェアやナイアガラといった生食用ぶどうの産地が、マスカット・ベーリーAの遅摘みで全国の審査会の部門最高賞を取るまでの流れは、日本ワイン産地巡りや交配品種とクローンの講座とあわせて読むと立体的に見えてきます。

