朝日町ワインで19年、そして上山へ
ベルウッドヴィンヤードは、山形県上山市の西側、久保手(くぼて)地区の丘にある小さなワイナリーです。運営は株式会社ベルウッドヴィンヤード、代表は鈴木智晃さん。
鈴木さんは山形県朝日町の出身です。20歳で地元の朝日町ワインに入り、足かけ19年をそこで過ごしました。最初の15年ほどは主に醸造を担い、やがてぶどう栽培にも関心を広げていったと語っています。ワインの味は畑で決まる——醸造の現場から畑へと視線が移っていったことが、のちの独立につながりました。
39歳で上山市に移り、2017年春に新規就農。最初に手にしたのは、後継者がいなくなったデラウェアの畑45アールでした。山形のデラウェアは、生食用としても長く親しまれてきたぶどうです。担い手のいなくなった畑を引き継ぐところから、ワイナリーの物語は始まっています。
独立からの歩みを並べると、次のとおりです。
- 2017年春 上山市久保手でデラウェア畑45アールを引き継ぎ、新規就農。5月にピノ・ノワールを植える
- 2017〜2019年 醸造所ができるまでの3年間は委託醸造。微発泡の「デラペティ」などを世に出す
- 2018〜2019年 ソーヴィニヨン・ブラン(2018年5月)、カベルネ・ソーヴィニヨン(2019年5月)を植える
- 2020年 春に醸造所が完成、6月に酒類製造免許を取得、11月14日にショップを開店
- 2024年 5月にプティ・マンサンとアルバリーニョを植える
- 2026年 ダム熟成のワインを発売。日本ワイナリーアワード2026で三つ星とJAL賞
なぜ上山だったのか——「ワイン特区」の町
上山市は、温泉と城下町で知られる町であると同時に、1920年創業のタケダワイナリーを抱える、山形のワインどころのひとつです。
市は2016年6月17日に「かみのやまワイン特区」の認定を受けました。対象は市内全域で、果実酒の最低製造数量が年間6キロリットルから2キロリットルへと緩和されています。小さな規模でもワイナリーを始めやすくする仕組みです。
鈴木さんが上山を選んだのは、市の「ワインの郷プロジェクト」が新しいワイナリーの誘致を後押ししていたからだといいます。老舗のタケダワイナリー、蔵王ウッディファームが営むウッディファーム&ワイナリーに続き、2024年9月には新しいワイナリー「Voyage de YUUAI」も開業しました。古い蔵と新しい蔵が同じ町に並ぶ——ベルウッドヴィンヤードは、その「新しい側」を代表する一軒です。
久保手の丘の畑
畑は、上山市の西側、久保手・裏町地区にあります。標高は約250メートル、土は石混じりの強めの粘土質。畑からは蔵王連峰を一望できます。
中心となる畑は、ワイナリーの隣の小さな丘です。斜面の向きで品種を植え分けているのが特徴で、公式オンラインショップの説明によれば次のようになっています。
- 南向きの斜面:カベルネ・ソーヴィニヨン(25アール)、メルロ(10アール)——日当たりを必要とする晩熟の黒ぶどう
- 北向きの斜面:ピノ・ノワール(10アール)、ピノ・グリ(10アール)、ソーヴィニヨン・ブラン(15アール)——冷涼さを好む品種
- 久保手の集落内:種ありのデラウェア(10アール)
暑さに強い品種を南へ、冷涼を好む品種を北へ——斜面の向きと品種の相性は、第59講「栽培編」で扱った畑づくりの基本そのものです。2024年にはプティ・マンサンとアルバリーニョも植えられ、自社畑の品種はさらに広がっています。
「デラペティ」から、5つのシリーズへ
以前のベルウッドヴィンヤードを知る人にとって、代名詞は「デラペティ」でした。デラウェアを微発泡(ペティアン)に仕立てた一本で、委託醸造の時期、2017〜2019年に造られた銘柄です。2019年は961本の限定でした。
自社の醸造所ができてからは、ラインナップが5つのシリーズに整理されました。
| シリーズ | 位置づけ |
|---|---|
| コレクション ヴァンペティアン | 瓶の中で発酵させた微発泡のワイン。デラペティの流れをくむ |
| コレクション クラシック | 定番のスティルワイン。日常の一本 |
| コレクション スペリオール | 厳選したぶどうで造る、一段上のスティルワイン |
| キュヴェ デ ザミ | 厳選した買いぶどうのトップキュヴェ。基本は樽熟成 |
| ドメーヌ クロッシュ | 自社畑のぶどうだけで造るフラッグシップ |
面白いのは、買いぶどうのトップと自社畑のトップを、はっきり分けていることです。「キュヴェ デ ザミ(友人たちのキュヴェ)」は、契約農家のぶどうの中でも選りすぐったものを樽で仕上げるシリーズ。「ドメーヌ クロッシュ」は、久保手の丘で自ら育てたぶどうだけのシリーズ。どこで育ったぶどうかを、シリーズ名がそのまま教えてくれる仕組みです。
2026年9月時点の公式オンラインショップ(税込)では、次のような銘柄が並んでいます。
- クラシック(2,420円):ベーリーA ルージュ/アッサンブラージュ ロゼ
- スペリオール(2,750〜3,300円):デラウエア オランジュ/甲州/ピノ・ノワール&ブラック・クイーン
- キュヴェ デ ザミ(3,960円):マスカット・ベーリーA
- ドメーヌ クロッシュ(4,400円):デラウエア オランジュ
- ダム熟成(4,400〜5,940円):ソーヴィニヨン・ブラン(ドメーヌ クロッシュ)/メルロ、シャルドネ&プティ・マンサン(キュヴェ デ ザミ)/ピノ・グリ&ソーヴィニヨン・ブラン オランジュ(ドメーヌ クロッシュ)
※在庫と価格は時期によって変わります。ル・ペタル、メリメロ、グレファージュ、テルセなど、完売して入れ替わった銘柄も多くあります。
目を引くのは「オランジュ」の多さです。白ぶどうを果皮ごと発酵させるオレンジワインのスタイルで、デラウェアでも、ピノ・グリとソーヴィニヨン・ブランのブレンドでも造られています。香りの華やかなデラウェアは、果皮の渋みと香ばしさが加わると食事に寄り添う一本に変わります(オレンジワインの基本は第55講)。生産量は、2020年、2021年ともに約2万本分と語られています。
造りの考え方——無濾過・生詰め
ベルウッドヴィンヤードは、全商品を無濾過・生詰めで瓶に詰めています。濾過をしないぶん、ぶどう由来の成分や口当たりを残せる一方、瓶の底に澱(おり)が出ることがあります。澱が気になるときは、飲む前にしばらく瓶を立てておき、最後の少量を残して注ぐとよいでしょう。
酸化防止剤は最小限の使用です。ただし、発酵には酵母を加えています。無濾過や酸化防止剤の少なさから「自然派」と紹介されることもありますが、鈴木さん自身が酵母を添加していると語っており、野生酵母での発酵をうたう造りとは別物です。「何をして、何をしないか」を具体的に知ることが、この蔵のワインを正しく楽しむ近道です(自然派ワインの定義の揺れは第45講で扱っています)。
体制はごく小さく、2023年時点で常勤は鈴木さんと妻の2人。繁忙期は家族が手伝っています。
ダムの中で眠るワイン
2026年に加わった新しい試みが、「ダム熟成(エルヴァージュ・アン・バラージュ)」です。上山市の前川ダムの内部にある点検用のトンネル(監査廊)で、ワインを寝かせています。監査廊の温度は年間を通じて約10℃で、ワインの熟成に向いた安定した環境です。
これは、山形県が2024年9月から酒造組合やワイナリーと組んで行っている貯蔵の実験の一環で、ベルウッドヴィンヤードのダム熟成のワインは2026年5月16日に発売されました。温度が一定で、光も振動も少ない場所——ワインの保存に必要な条件(第26講)を、ダムという意外な場所が満たしているわけです。
三つ星とJAL賞
ベルウッドヴィンヤードは、日本ワイナリーアワード2026で三つ星に選ばれ、あわせてJAL賞を受けました。JAL賞は、次の世代のワイナリーにエールを送る賞で、2026年は南三陸ワイナリーとベルウッドヴィンヤードの2軒が受賞しています。2020年に醸造所を開いた蔵が、6年でここまで評価されたことになります。
名前の由来は、代表の姓の「鈴木」から連想した「リバティベル(自由の鐘)」。ロゴにはこの鐘が描かれています。ラベルは切手がモチーフで、その年のワインを手紙のように届けたいという思いが込められています。ヴィンテージごとに届く手紙——そう思って飲むと、同じ銘柄の年ごとの違いも楽しみになります。
はじめての一本の選び方
- 蔵の原点を知るなら:デラウェアの「デラウエア オランジュ」。スペリオール(2,750円)とドメーヌ クロッシュ(4,400円)を並べると、買いぶどうと自社畑の違いが見えてきます。
- 食卓の定番に:「ベーリーA ルージュ」(2,420円)。軽やかな赤は、山形の芋煮や焼き鳥によく合います。
- 特別な日に:ダム熟成の「ソーヴィニヨン・ブラン」か「メルロ」。10℃のダムで過ごした時間が、どう味に出るかを確かめてみてください。
ショップを訪ねる
ショップは11〜17時、原則無休です(臨時休業と年末年始の休みあり)。見学ツアーと常設の試飲はありません。食品衛生の観点から醸造室には案内しておらず、ショップのガラス窓から樽貯蔵庫を眺める形になります。開栓しているワインがあれば、試飲できることもあるそうです。
- 所在地:山形県上山市久保手(公式サイトの表記で確認を)
- アクセス:JRかみのやま温泉駅からタクシーで約15分、東北中央道・山形上山ICから車で約10分。駐車場あり
- サポーター会員:「ENTRE NOUS(アントル・ヌ)」という会員制度があり、2026年度は直営店で10%の割引。過去には植樹や収穫の手伝い、収穫祭も行われてきました
見学のできるタケダワイナリーやウッディファーム&ワイナリーと組み合わせれば、上山の老舗と新世代を一日で巡ることができます。車で回るなら運転手の分の飲み物も忘れずに。ワイナリー訪問の心得は第51講で、日本ワインの産地全体は第9講でまとめています。


