
近畿6府県のワインを、数字で見るKinki in Numbers
第94講北陸から南へ下り、日本の産地編は近畿へ。大阪・京都・兵庫・奈良・和歌山・滋賀の6府県です。商業施設の地下で仕込む京都の醸造所、港町の神戸、ぶどう御殿の畑を継いだ奈良の一軒、醤油の町の和歌山。河内の斜面は第78講大阪完全編に譲り、ここでは6府県を並べて見ます。
| 府県 | ワイナリー数 | 果実酒の製造免許場 | 製成数量(うち日本ワイン) |
|---|---|---|---|
| 大阪 | 10場 | 19場(うち試験免許7) | 105kl(105kl) |
| 兵庫 | 9場 | 16場(うち試験免許3) | 5kl(5kl) |
| 京都 | 4場 | 8場(うち試験免許3) | 277kl(219kl) |
| 和歌山 | 3場 | 8場(うち試験免許2) | 15kl(15kl) |
| 滋賀 | 2場 | 3場(うち試験免許1) | 97kl(96kl) |
| 奈良 | 1場 | 4場(うち試験免許2) | — |
| 6府県の合計 | 29場 | 58場 | — |
| (比較)山梨 | 85場 | 119場(うち試験免許3) | 8,918kl(3,762kl) |
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート、2024年の実績)の都道府県別のワイナリー数・果実酒の製造免許場数・製成数量。ワイナリー数は、果実酒の免許を持ち2024年に生産か出荷の実績があった製造場の数(2025年1月1日現在、全国は519場)。製成数量は回答した製造場の合計で、「—」は表で数字が示されていないものです。和歌山は、ワイナリー数の表では3場ですが、製成数量と受入数量の表では対象が4場になっています。合計は編集部が足したものです。
6府県のワイナリーは合わせて29場。全国519場の5.6%で、その3分の2が大阪と兵庫に集まります。回答分の日本ワインを足すと440kl、山梨の1割強の規模です。
目を引くのは順位の逆転です。回答分で最も多く造っているのは、ワイナリー4場の京都。同じ調査の上位10都道府県の表でも、ワインの製成数量で全国9位、日本ワインで10位に入ります。一方、9場ある兵庫はわずか5klです。ただしこれは9場のうち4場だけの合計で、奈良の1場も回答していません。ワイナリーが受け入れたぶどうの量を並べると、次のとおりです。
出典:同じ調査の原料用国産生ぶどうの品種別受入数量(2024年4月〜2025年3月、回答したワイナリーの所在府県ごとの合計)。奈良は表で数字が示されていません。比較の山梨は5,706tです。
兵庫の7tも、この表だけでは読み違えます。ぶどうの産地から見た別の表では、兵庫県産のカベルネ・ソーヴィニヨンが11tで全国5位。県内の受入合計を1品種で上回るので、未回答の製造場の分が合計に入っていない可能性が高い、と読むのが自然です。同じ表で京都府産は甲州12tで全国5位、竜眼7tで3位。大阪産のデラウェア70tは全国3位です。滋賀も受入116tのうち41tがデラウェア。京都の256tは233tが「その他」で、品種は読み取れません。
瀬戸内、盆地、日本海、熊野灘Four Climates in One Region
近畿の空は一つではありません。港町、山に囲まれた盆地、雪の降る日本海側、雨の多い紀伊半島の南端。気象庁の平年値で比べてみましょう。
| 観測点 | 年平均気温 | 年降水量 | 年間日照時間 | 降雪の深さ合計 |
|---|---|---|---|---|
| 大阪 | 17.1℃ | 1,338.3mm | 2,048.6時間 | 1cm |
| 神戸 | 17.0℃ | 1,277.8mm | 2,083.7時間 | 1cm |
| 和歌山 | 16.9℃ | 1,414.4mm | 2,100.1時間 | 1cm |
| 京都 | 16.2℃ | 1,522.9mm | 1,794.1時間 | 15cm |
| 奈良 | 15.7℃ | 1,365.1mm | 1,835.8時間 | 5cm |
| 彦根(滋賀) | 15.0℃ | 1,610.0mm | 1,863.3時間 | 81cm |
| 舞鶴(京都・日本海側) | 14.8℃ | 1,941.2mm | 1,552.4時間 | 135cm |
| 豊岡(兵庫・日本海側) | 14.6℃ | 2,072.0mm | 1,487.3時間 | 204cm |
| 潮岬(和歌山・紀伊半島南端) | 17.5℃ | 2,654.3mm | 2,255.9時間 | 0cm |
| (比較)甲府 | 15.1℃ | 1,160.7mm | 2,225.8時間 | 23cm |
出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。降雪の深さ合計は、寒候年の降雪量の合計の平年値です。
大阪湾と紀伊水道に面した3地点は、年平均17℃前後、雨は1,280〜1,410mm、日照は2,050〜2,100時間。雨の少なさと日照は、甲府に近い数字です。違いは暑さで、8月の日最低気温の平年値は大阪25.8℃、神戸26.1℃に対し、甲府は23.3℃。夜が冷えにくいので、早く熟す品種を選び、酸を残すためにいつ摘むかが大きな判断になります。
同じ府県の中でも空は変わります。兵庫の豊岡は降雪が合計204cm、雨は神戸の1.6倍。舞鶴の雪は京都市の9倍です。和歌山の潮岬の雨は甲府の2倍を超え、9月だけで339.2mmが降ります。府県の名より、畑がどの空の下にあるかで読む土地です。気温と雨の読み方は第61講ワインと気候変動へ。

近畿のワインの歩みFrom 1880 to Today
官営のぶどう園から、酒蔵が受け継いだ神戸ワインまで。文化庁・農林水産省・神戸市の資料と各社の公式資料で確かめた出来事を並べます。
- 1880年——官営の播州葡萄園明治政府が殖産興業の一環として、いまの兵庫県稲美町に葡萄の栽培と醸造を試す官営の施設を開きました。1888年に前田正名へ払い下げられ、明治20年代後半に廃園となります。播州葡萄園跡は2006年に国の史跡に指定されました(文化庁)。
- 1914年・1934年——河内の斜面柏原でカタシモワイナリーが創業し、室戸台風の1934年には羽曳野の飛鳥ワインなどが免許を受けました(第78講)。
- 1979年——京都で初めてのワイナリー丹波高原の京丹波町に、京都で初めてのワイナリーとなる丹波ワインが創業します。掲げたのは「京都の食文化に合うワイン」でした。
- 1983年——神戸ワイン昭和50年代に拓いた果樹団地を生かし、市と地元農家、神戸農政公社が育てたブランドです(神戸市)。1984年に市の農業公園が開園しました。
- 1991年・2011年——滋賀のワイン東近江市で1991年にヒトミワイナリーが創業し、2026年に35周年を迎えました。酒蔵の太田酒造は、栗東市浅柄野の荒地を開墾したぶどう園に、2011年9月に新しい栗東ワイナリーを完成させています(近畿農政局)。
- 2019年〜2024年——新しい醸造所2019年に和歌山県湯浅町の湯浅ワイナリーが完成、2021年に神戸の港にf wineryが開業。2021年6月30日にGI「大阪」が指定され、2022年に奈良県で初めてのワイナリー、木谷ワインが自社醸造を始めました。2024年には海南市に紀乃國わいん工房が生まれます(各社公式・奈良県・近畿農政局)。
- 2024年12月——灘の酒蔵へ白鶴酒造が神戸農政公社から「神戸ワイン」の製造・販売を継承しました。2026年9月11日には、神戸産ぶどう100%の『神戸レゼルバ』2025ヴィンテージが発売されました(白鶴酒造)。
6府県の造り手Wineries of Six Prefectures
国税庁の29場の内訳は公表されていません。公式サイトと公的機関の資料で確かめられた造り手を、府県ごとに並べます。
現存する西日本最古とされる造り手。在来の堅下本葡萄の白が、ヴィナリ国際ワインコンクール2026で金賞(公式)。河内の造り手は第78講へ。くわしく
京都で初めてのワイナリー。丹波高原の冷涼な内陸性気候を生かし、「京都の食文化に合うワイン」を掲げる。銘柄は『小式部』『すめらぎ』。くわしく
千歳グループの造り手。天橋立と阿蘇海を望む畑で育てる。年に5万本。牡蠣殻を砕かず畑に敷き込む(公式・近畿農政局)。
京都高島屋S.C.の地下1階。店内で醸造するワイン食堂で、タンブラーを持参すれば好きな量だけ量り買いできる(高島屋の案内)。
こうべアグリパークの中にある「神戸ワイン」の醸造所。原料は市内の西区・北区の生産者が育てる。いまは白鶴酒造が担う。くわしく
すべて国産ぶどう100%で、培養酵母を使わず無濾過。滋賀のほか山形・岩手・山梨の農家のぶどうも使う。パン工房も併設(公式)。くわしく
太田酒造。自社畑のぶどうだけの『浅柄野』と、国産ぶどう100%のブレンド『BIWA WINE』の2系統。マスカット・ベーリーAやレッドミルレンニュームを育てる(近畿農政局)。
奈良県で唯一のワイナリー。銀行員から転身した木谷一登さんが、放棄された畑を継ぎ、デラウェアを軸に自然酵母で仕込む。くわしく
株式会社TOA。醤油の町で『TOA200』を造る。山梨県産の北杜の雫の赤は、醤油や柚子を使う和食に合うと掲げる。
ほかに、神戸市中央区の港にはフェリシモのf winery(2021年開業、醸造所見学あり。公式)。海南市の紀乃國わいん工房(「紀之國」の表記も)は築約100年の古民家を改装した個人の工房で、2025年度に県産100%の第1号が瓶で50本ほどできました(近畿農政局)。見学や直売の条件は変わるので、訪ねる前に各社の案内を確かめてください。
コンクールが選んだ、近畿の一本
日本ワインコンクール2026の受賞は全国で351本。醸造地が近畿のものは4本で、いずれも銅賞です。和歌山のTOAが『TOA 200 空 赤 2022』(750ml・4,200円)と『TOA200海 赤 2024』(720ml・2,420円)、兵庫の白鶴酒造が『神戸ワイン ベネディクシオンブラン』2024(750ml・3,520円)、滋賀の太田酒造が『浅柄野 Red Millennium sec』2025(750ml・2,200円)です。大阪・京都・奈良の醸造地の受賞はありませんでした。もっとも、資料からは出品の有無が分かりません(主催者の受賞リスト)。海外では、丹波ワインの『京都丹波ソーヴィニヨン・ブラン 2024』がInternational Wine Challenge 2026で銀賞を受けています(公式)。
選ぶ、訪ねる、合わせるDrink Kinki
最後に、手に取り、訪ね、近畿の食卓と合わせるための手がかりをまとめます。
選ぶときの目安
デラウェアの、泡とにごり
河内の泡、奈良の自然酵母、東近江の無濾過。同じ品種が、府県ごとに違う造りに分かれていくのが近畿の面白さです。香りが華やかで軽やかな傾向があり、カウンターの一杯目に向きます。自然派の造りは第45講自然派ワインへ。
丹波と神戸の、欧州系
丹波のピノ・ノワールやソーヴィニヨン・ブラン、神戸のリースリングとカベルネ・ソーヴィニヨン。「和食に合う」を掲げる丹波と、神戸産ぶどう100%を掲げる神戸は、手土産や記念日の一本として選びやすい二つです。
味わいは一般的な傾向で、銘柄や年によって異なります。
訪ねる
丹波ワインのツアーは畑と醸造所の見学に3種の試飲で1人1,800円、土日祝に開催で3日前までの予約制。天橋立ワイナリーは無料の見学を随時受け付けています(各社公式)。
ヒトミワイナリーは直売所で無料の試飲ができ、月・木曜定休。工場見学はありません。神戸はこうべアグリパークのショップで買えます。見学の案内は確認できませんでした。
奈良の木谷ワインに常設の直売所はなく、オンラインか各地の販売店で。試飲をするなら、車も自転車も運転しないこと。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、府県ごとの特徴は京都・兵庫・奈良・滋賀・大阪の産地ページへ。

近畿の食卓と
近畿の郷土料理とワインの合わせ方を、公的な機関が勧めている例は見つかりませんでした。ここからは、第71講和食とワインと第77講魚介とワインの考え方をもとにした、編集部からの提案です。
神戸ビーフは農林水産省のGIに登録された、但馬牛の血統の牛肉。脂の甘みには、渋みのある赤を。神戸の赤を、神戸の肉で(ペアリング:ステーキ)。
鱧の落としの梅肉や、だしの香りには、樽の目立たない酸の伸びる白を。冷やしすぎないほうが、うまみに寄り添います(ペアリング:和食)。
農林水産省の解説では、塩で締めたサバを酢飯と柿の葉で包んだ料理。魚の塩気と酢飯の酸には、軽い泡や微発泡を(ペアリング:寿司・刺身)。
発酵の香りと強い酸を持つ鮒ずしは、ごく少量ずつ。にごりのあるワインやオレンジのほうが負けにくい。好みが分かれる組み合わせです。
和歌山のめはりずしには、高菜の塩気に軽い赤を。赤身と脂、だし、酢、発酵。近畿の食卓は、一つの地方の中で味の軸が次々と変わる土地です。泡と白と赤を一本ずつ。
よくある質問Frequently asked
国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは、大阪10・兵庫9・京都4・和歌山3・滋賀2・奈良1で、6府県合わせて29場です(2025年1月1日現在)。果実酒の製造免許場は58あります。
いま続く造り手では、大阪・柏原のカタシモワイナリー(1914年)が現存する西日本最古とされます。さかのぼると、1880年に明治政府が兵庫に開いた官営の播州葡萄園がありますが、明治20年代後半に廃園となりました。
ワインのGIは「大阪」(2021年)だけです。果実酒にかかわる特区は、国税庁の一覧で大阪1、兵庫5、和歌山2の8つ。
都のそばの、四つの空Four Skies Around the Old Capital
近畿6府県のワイナリーは29場。回答分で最も多く造るのは4場の京都で、兵庫は県産のカベルネ・ソーヴィニヨンが全国5位の量です。大阪湾の周辺は甲府に近い雨と日照、そのかわり夏の夜が暑い。日本海側は雪、潮岬は甲府の2倍を超える雨。一つの地方に四つの空があります。
1880年の官営のぶどう園、1914年の河内、1979年の丹波高原、2022年の奈良の一軒、2024年に灘の酒蔵へ渡った神戸ワイン。都と港のそばで、酒造りの土地がワインを引き受けてきたのが近畿の歩みです。
次の一本。 今回は近畿の2本を並べてください。1本目は、大阪や奈良のデラウェアの泡、あるいは東近江のにごり。2本目は、丹波か神戸の欧州系の赤。料理は柿の葉寿司と、牛肉を少し。日本の地域も、これで一巡です。
次回はテーマ講座へ。第97講「ソムリエとワインの資格完全編」。J.S.A.のソムリエ呼称、ワインエキスパート、WSET など、ワインの仕事と学び方をたどります(第35講レストランでのワインもあわせてどうぞ)。
