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ワインガイド Vinotier マイリスト

VINOTIER WINE COURSELEÇON XCV

第95講 実践

ホットワインと冬のワイン完全編

シナモンとクローブの湯気から、冬が始まる。 ドイツのグリューワイン、アルザスのヴァン・ショー、北欧のグレッグ。EUの定義・クリスマス市の歴史・家で作るときのワイン選び・温めても残るアルコール——寒い夜のワインをたどります。第94講「北陸完全編」に続く、テーマ講座です。

EUが定めるグリューワインクリスマス市とグレッグ温めても残るアルコール
ホットワインと冬のワイン完全編のイメージ
電飾と松の枝で飾られた三角屋根の木の屋台が並ぶ、夕暮れのクリスマス市。黒板にホットワインの品書きが見える
ミュンスターのクリスマス市 — 三角屋根の屋台の黒板に「カルヴァドス入りの白のグリューワイン」。日が暮れると、湯気の立つマグを手に屋台をめぐる季節が来る
— Prologue

湯気の立つ一杯から、冬が始まるVin chaud

十一月の終わり、ドイツやアルザスの広場に木の屋台が並ぶと、シナモンとクローブの甘い香りが通りに流れ出します。厚手のマグに注がれた温かい赤ワイン——グリューワイン。ワインを温めて飲むのは、冬のヨーロッパでいちばん身近な楽しみ方のひとつです。

この講では、ホットワインを三つの視点でたどります。ひとつはEUの規則が決めている「グリューワイン」の定義。次に、ドイツ・アルザス・北欧のクリスマス市と、それぞれの呼び名。そして、家で作るときのワインの選び方と、温めてもアルコールは残るという事実。最後に、ホットワイン以外で冬の夜に開けたい一本にも触れます。

規則・年号・数字は、EUの規則、各都市の公式サイト、スウェーデンの国営酒類販売会社、米国農務省(USDA)の資料に拠り、ワインの選び方や合わせ方は編集部の提案として書き分けます。年末年始の料理との合わせ方は、前回の第93講ワインと年末年始の食卓完全編にまとめています。

— I

グリューワインとは何か——EUの定義Glühwein

「グリューワイン(Glühwein)」は、ドイツ語で「赤く熱した(glühen)ワイン」。じつはこの名前は、EUの規則で中身が決められた法律上の名称です。

フレーバードワインという区分

香りを付けたワインの飲み物は、EUでは規則(EU)No 251/2014(フレーバードワイン製品の規則。2021年の規則2021/2117で一部改正)が扱います。その中の「アロマタイズド・ワインベース・ドリンク(香りを付けたワインベースの飲み物)」は、ぶどう由来の原料が全体の50%以上、アルコールの添加は原則として認めず、実際のアルコール度数は4.5%以上14.5%未満と定められています。

グリューワインの条件

同じ規則の附属書IIは、グリューワインを次のように定義しています。

原料Wine only

赤ワインか白ワインだけから造る。白ワインで造った場合は、「white」など白ワインであることを示す言葉を名前に添える。

香り付けCinnamon & cloves

香りの中心はシナモンとクローブ(丁子)のどちらか、または両方。

アルコール度数≥ 7% vol

実際のアルコール度数は7%以上。温めて出す前の、製品としての条件です。

水No water

製法上の例外を除き、水を加えることは禁止。薄めたものはグリューワインと名乗れない。

同じ附属書は、北欧とバルト諸国のViiniglögi / Vinglögg / Karštas vynas(グレッグ)も、赤か白のワインだけから造り、シナモンとクローブを中心に香りを付けた、7%以上の飲み物として並べています。瓶詰めのグリューワインがスーパーに並ぶドイツでは、この定義が売り場のラベルの約束ごとになっているわけです。

日本でホットワインと呼ばれるものは、この定義に縛られません。家で温めたワインに果汁や紅茶を足すのも自由です。ただ、「ワインだけで、水で薄めない」という本場の条件は、家で作るときにも味の目安になります。

出典:Regulation (EU) No 251/2014(Article 3、Annex II B (8)(9))、Regulation (EU) 2021/2117。

— II

クリスマス市の屋台でMarchés de Noël

雪の残る赤い屋根の屋台に、松の枝で縁取った「Punsch-Glühwein」の看板と大きな木樽の飾りが載っている
ドレスデン、シュトリーツェルマルクトの屋台 — 1434年に始まったとされる市。屋根の上の樽と「パンチ・グリューワイン」の看板が目印

グリューワインがいちばん似合うのは、冬の夜の広場です。ドイツ語圏とアルザスには、数百年の歴史を持つクリスマス市がいくつもあります。

ドレスデンStriezelmarkt

ドレスデン市の公式サイトによれば、シュトリーツェルマルクトは1434年から続く市。旧市場広場(アルトマルクト)に屋台が並ぶ。

ニュルンベルクChristkindlesmarkt

ニュルンベルク市の年表では、最古の記録は「Kindles-Marck 1628」と記された1628年の木箱。2026年の会期は11月27日〜12月24日。

ストラスブールChristkindelsmärik

ストラスブール市は1570年からの伝統と案内している。アルザスでは温めたワインをヴァン・ショー(vin chaud)と呼ぶ。2026年は11月27日〜12月24日。

赤だけでなく、白も

屋台の品書きには、赤のグリューワインのほかに白のグリューワインや、果物のパンチ、アルコールを含まない子ども向けのパンチが並ぶのが一般的です。冒頭の写真のミュンスターの屋台の黒板には「カルヴァドス入りの白のグリューワイン」。リンゴのブランデーを足した、屋台ならではの一杯です(蒸留酒を足すと、上のEUの定義からは外れた「店の飲み方」になります)。

アルザスの白ワインの産地と品種は第20講アルザス完全編、ドイツのワインそのものは第11講ドイツ完全編で。

日本のクリスマスマーケット

日本でも、グリューワインを出すクリスマスマーケットが冬の恒例になりました。横浜赤レンガ倉庫の「Christmas Market in 横浜赤レンガ倉庫」は2026年11月20日〜12月25日の開催で、公式サイトによれば約20店舗でホワイトグリューワインを出し、毎年デザインの変わるオリジナルのマグも用意されます。入場は有料(平日500円から、指定日は1,000円)です。

出典:Landeshauptstadt Dresden「Striezelmarkt」、Stadt Nürnberg「A market timeline」および Christkindlesmarkt公式サイト、Ville de Strasbourg「Strasbourg Capitale de Noël」、横浜赤レンガ倉庫「Christmas Market in 横浜赤レンガ倉庫」(2026年11月3日確認)。会期・料金は変わることがあるため、出かける前に公式サイトで確かめてください。

— III

北欧のグレッグ、アルザスのヴァン・ショーGlögg

温めたワインは、国ごとに名前と香りが少しずつ違います。中でも、スウェーデンのグレッグは独自の文化を持っています。

スウェーデンの国営酒類販売会社システムボラーゲットの解説によれば、グレッグ(glögg)の名は、ワインに砂糖を溶かして温めることを意味する動詞glödgaから。香辛料を混ぜたワインは古代ギリシャ・ローマにさかのぼり、1890年ごろにスウェーデンのワイン商が、あらかじめ混ぜて瓶に詰めたグレッグを売り出したことで広まったといいます。

香辛料はシナモンとクローブが中心で、カルダモン、生姜、ナツメグ、ビターオレンジの皮もよく使われます。ワインから造るヴィングレッグ(vinglögg)は、アルコール度数7%以上で、赤か白のワインから造り、ほかのアルコールを足さないもの。酒精強化ワインを使ったものは別の区分になります。

グリューワイン/ヴァン・ショー

ドイツ語圏とアルザス。シナモンとクローブ、オレンジの香り。屋台では厚手のマグで、立ったまま。

グレッグ

スウェーデンなど北欧。カルダモンや生姜、ナツメグも効かせる。瓶詰めの既製品が冬の店先に並ぶ。

どの国でも共通するのは、ワインを「主役の飲み物」としてより、寒い夜に人が集まるための飲み物として扱っていることです。グラスの形やサービス温度など、ワインを注ぐ基本は第26講保存とサービング完全編にまとめています。

出典:Systembolaget「Glögg」(2026年11月3日確認)。

— IV

家で作るホットワイン——ワイン選びと温度À la maison

鍋の中の濃い赤のホットワインに、輪切りのオレンジ、シナモンスティック、スターアニス、カルダモンが浮かんでいる
鍋で温めるホットワイン — 輪切りのオレンジ、シナモン、スターアニス、カルダモン。沸かさず、湯気が立つくらいで火を止める

家で作るなら、高価なワインは要りません。ただ、どんな赤でもいいわけではない——ここが、ホットワインの味を分けるところです。

ワインは、果実味が豊かで渋みの穏やかな赤

編集部の提案は、果実味が豊かで、渋みと樽の香りが穏やかな赤。温めると渋みは目立ちやすくなり、砂糖と香辛料を加えると、樽の香りやワインの繊細な香りは隠れてしまう傾向があります。南フランスやスペインの果実味の熟した赤、グルナッシュやメルロー主体の赤、日本のマスカット・ベーリーAなどが扱いやすい選択です。熟成した上質なワインは、温めずにそのまま飲むほうが持ち味を生かせます。

白で作るなら、香りが華やかでやや甘みのある白。リンゴやはちみつ、生姜と合わせると、屋台の白のグリューワインに近い一杯になります。

作り方の目安

  1. 鍋にワインを注ぐ。 フルボトル1本(750ml)で4〜5杯分が目安。
  2. 香辛料と柑橘を入れる。 シナモンスティック1本、クローブ数粒、スターアニス、オレンジの輪切り。カルダモンや生姜を足すと北欧風に。
  3. 甘みは少しずつ。 砂糖かはちみつを、味を見ながら加える。
  4. 弱火で温め、沸かさない。 縁に小さな泡が出て、湯気が立つくらいで火を止める。沸騰させると香りが飛び、煮詰まった味になりやすい。
  5. 数分置いて香りを移し、耐熱のマグやカップへ。

温めても、アルコールは残る

「温めればアルコールは飛ぶ」と思われがちですが、実際は大部分が残ります。米国農務省(USDA)の栄養素残存率表(Release 6、2007年)は、料理に使ったアルコールがどれだけ残るかを、調理の方法ごとに示しています。

沸いた液体に加え、火を止める85%残る
フランベ75%
混ぜて煮る・焼く 15分40%
同 1時間25%
同 2時間30分5%

これは料理での数字で、ホットワインを直接測ったものではありません。それでも、沸かさずに数分温める程度では、アルコールの大半が残ると考えるのが妥当です。子どもや、お酒を控えている人に「温めたから大丈夫」と出すのは避けてください。一緒に楽しむなら、ぶどうジュースで同じ香辛料のノンアルコール版を、別の鍋で作るのが確実です。

出典:USDA「Table of Nutrient Retention Factors, Release 6」(2007年。元の測定は Augustin ほか 1992年)。ワインの選び方と作り方は編集部の提案です。

— V

冬の夜に開ける、温めない一本Vins d'hiver

ホットワインは屋台と大人数の夜のもの。ひとりで、あるいは二人で過ごす冬の夜には、温めずにグラスで味わいたい一本があります。

酒精強化ワインPort · Madeira

食後に小さなグラスで。熟成したトゥニー・ポートやマデイラのナッツやカラメルの香りは、暖房の効いた部屋の長い夜に似合う。ポート・マデイラの図鑑へ。

骨格のある赤Full-bodied red

煮込み料理やジビエの季節。シラーやカベルネ・ソーヴィニヨンの、少し温度を上げて出す赤。

甘口の白Sweet wine

チーズやチョコレートのデザートと。貴腐ワインや遅摘みのリースリングを、冷やしすぎずに。

冬の赤は、冷えた部屋に置いたままでは渋みが立ちやすくなります。飲む少し前に室内に出しておき、手のひらでグラスを包むくらいの温度で。酒精強化ワインの造りと種類は第15講酒精強化ワイン完全編、甘口ワインとデザートの合わせ方はペアリング:チョコレートにまとめています。

冬のお酒について。 20歳未満の人は飲酒できません(成年年齢が18歳になった後も、飲酒は20歳から)。温めたワインにもアルコールは残ります。クリスマスマーケットや忘年会のあと、車やバイク・自転車を運転しないでください。呼気1リットル中0.15mg以上のアルコールで酒気帯び運転となり、それ未満でも酒気を帯びての運転は禁止されています。運転する人にお酒を出すこと、同乗することも罰則の対象です。妊娠中・授乳中の人は飲酒を控えてください。

出典:国税庁「未成年者の飲酒防止」、警察庁「飲酒運転の罰則等」。冬のワインの選び方は編集部の提案です。

— FAQ

よくある質問Frequently asked

Qグリューワインとホットワインの違いは?

日本語のホットワインは温めたワイン全般の呼び名です。グリューワインはEUの規則(No 251/2014)で決められた名称で、赤か白のワインだけから造り、主にシナモンとクローブで香りを付け、アルコール度数7%以上、水を加えないものを指します。

Q温めるとアルコールは飛ぶ?

大部分は残ります。米国農務省の資料では、沸いた液体に酒を加えて火を止めた場合で約85%、15分煮込んでも約40%が残るとされます。子どもやお酒を飲まない人には、ぶどうジュースで別に作ってください。

Qホットワインに合うワインは?

果実味が豊かで、渋みと樽の香りが穏やかな赤が扱いやすい目安です(編集部の提案)。グルナッシュやメルロー主体の赤、マスカット・ベーリーAなど。高価な熟成ワインは、温めずにそのまま飲むほうが持ち味を生かせます。

— Recap

寒い夜に、人が集まる一杯Bonne soirée d'hiver

グリューワインは、EUの規則で決められた名前。赤か白のワインだけから造り、シナモンとクローブで香りを付け、7%以上で、水で薄めない。ドレスデンの1434年、ストラスブールの1570年、ニュルンベルクの1628年と、クリスマス市の長い歴史の中で、屋台のマグの一杯は冬の風景になりました。スウェーデンではグレッグ、アルザスではヴァン・ショー。家で作るなら果実味の豊かな赤を沸かさずに温め、温めてもアルコールは残ることを忘れずに。そして静かな夜には、ポートや骨格のある赤を、温めずにグラスで。

次の一本。 週末に、果実味の豊かなグルナッシュかマスカット・ベーリーAを一本、鍋でグリューワインに。シナモンとクローブ、オレンジの輪切りだけで始め、二杯目からカルダモンや生姜を足して、北欧のグレッグとの違いを確かめてみてください。食後には、トゥニー・ポートを小さなグラスで一杯。

次回は銘醸図鑑 第36弾へ。「アイスヴァインとアイスワイン」。冬の畑で凍ったまま摘み取ったぶどうから造る、ドイツのアイスヴァインとカナダのアイスワイン。収穫の条件を決めた規則、凍ったぶどうを搾る造り、そして寒さの中で畑に出る造り手たちを訪ねます(先に第11講ドイツ完全編と第19講甘口ワインの世界をどうぞ)。

Vin chaud, cœur chaud.

屋台のマグを両手で包むと、冷えた指先から温まっていきます。寒い夜にワインを温めるのは、人が集まるための、いちばん古い工夫のひとつです。

写真クレジット(すべてWikimedia Commons):
1. ミュンスターのクリスマス市の屋台 — “Münster, Klemensstraße, Weihnachtsmarkt -- 2022 -- 5141” by Dietmar Rabich, CC BY-SA 4.0
2. 鍋で温めるホットワイン — “Glühwein-Zubereitung” by Angela Huster, CC0
3. ドレスデン、シュトリーツェルマルクトの屋台 — “Dresden, Striezelmarkt -- 2023 -- 9362” by Dietmar Rabich, CC BY-SA 4.0
※掲載写真はレイアウト上の都合によりリサイズ・トリミングして掲載しています。
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