
デラウェアの産地を、数字で見るOsaka in Numbers
第68講北海道から第76講新潟まで、日本の産地編はおもに東日本を歩いてきました。六つ目は西へ。大都市・大阪は、じつは百年を超えるぶどうとワインの産地です。
| 指標 | 大阪 | 全国の順位 |
|---|---|---|
| ワイナリー数(2024年) | 10 | 8位(7府県で並ぶ) |
| ぶどうの収穫量(2024年産) | 3,340t | 7位 |
| デラウェアの栽培面積(2023年産) | 239.7ha | 2位 |
| ワインの原料になった大阪産デラウェア | 70t | 3位 |
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)、農林水産省「都道府県の農業、林業、漁業」(令和8年版)、同「特産果樹生産動態等調査」(令和5年産)。ワイナリー数はその年に生産か出荷の実績があった製造場の数で、全国は519場。前年の調査では大阪は7場でした。
ワイナリーの数は第76講の新潟(12場)に近い規模です。そしてぶどうの産地としては、収穫量で全国7位。とくに小粒のデラウェアは、栽培面積で山形に次ぐ全国2位です。府のサイトや報道では「デラウェア全国3位」という表現をよく見かけますが、これは少し前の年の数字。最新の調査では、山梨を上回っています。
国税庁の調査に回答した府内のワイナリーが、ワインの原料として受け入れたぶどうを並べてみましょう。
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)の府県別受入数量。調査に回答した4場の合計(150t)で、府全体の量ではありません。このほか「その他」にまとめられた品種が60tあります。
主役は、はっきりとデラウェアです。もともと生で食べるぶどうとして育てられてきた品種が、そのままワインの土台になっている——これが大阪の産地のいちばんの特徴です。シャルドネやメルローなどヨーロッパの品種も少しずつ増え、柏原の古い畑には甲州も残ります。
河内のぶどう、百四十年A Vineyard Beside the City
大阪のぶどうの歴史は、柏原市の堅下(かたしも)から始まります。大阪国税局がまとめた冊子『GI大阪誕生史』(柏原市立歴史資料館の館長が歴史の章を執筆)と、柏原市の資料をもとにたどります。
- 明治10年代——堅下村に甲州が根づく大阪府が沢田村(現在の藤井寺市)に設けた指導園の苗木を、堅下村の中野喜平が育てることに成功し、栽培が広まったと柏原市は説明しています。衰えていた綿づくりに代わる産業でした。導入の年は明治11年ごろ、1880年ごろ、明治17年と資料によって分かれ、冊子も「混沌としている」と書いています。
- 1889年——鉄道がぶどうを運ぶ大阪鉄道(現在のJR関西本線)が開通し、大阪の市街へぶどうを運べるようになりました。都市のすぐそばにある産地の強みが、このころから生きはじめます。
- 1914年——デラウェアと、カタシモの創業この年、駒ヶ谷村(現在の羽曳野市)に山梨からデラウェアが移植されました。同じ1914年5月、堅下では高井作次郎がワイン造りを始めます。いまのカタシモワイナリーで、現存する西日本最古のワイナリーとされます。
- 1934年——室戸台風と、119軒の醸造所9月21日の室戸台風が畑をなぎ倒しました。カタシモは畑の約65%が倒れたとしています。救済のため特例で醸造の許可が出され、計119軒が許可を得ました。大半は家内工業の規模でした。この年の10月に免許を受けたのが、いまの河内ワインです。
- 1935年——栽培面積、全国一斜面にもぶどう園が広がり、1935年(昭和10年)に大阪府のぶどう栽培面積は866haと全国で最も広くなりました。その約3割を堅下村が占めていたと冊子は記しています。
- 戦時中——酒石酸のための増産ワインに含まれる酒石酸が、音波探知機などに使う「ロッシェル塩」の原料になったため、ワインづくりが奨励されました。柏原市域の醸造量は、1939年の5,100石から1944年には18,334石まで増えています。
- 戦後——台風と都市化戦後、醸造量は急に減り、1950年のジェーン台風、1961年の第二室戸台風も畑を襲いました。1965年ごろからは宅地などの開発で栽培面積がさらに減っていきます。一方で1960年からは、植物ホルモンのジベレリンを使った種なしデラウェアが実用化されました。
- 2012年・2021年——協会とGI2012年に大阪ワイナリー協会が発足。2021年6月30日には、国税庁が地理的表示GI「大阪」を指定しました。

ワインの歴史そのものは第43講ワインの歴史で扱いました。大阪の歩みは、山梨の勝沼とはまた違う、都市の近郊で生食用のぶどうを育てる農家から生まれたワインの歴史です。
GI「大阪」を読むGeographical Indication Osaka
ラベルに「大阪」と産地を名乗るためのルールが、地理的表示(GI)です。国税庁が定めた生産基準のおもな中身を見ていきましょう。
| 項目 | GI「大阪」の基準(要点) |
|---|---|
| ぶどうの産地 | 大阪府内で収穫したぶどうだけ |
| 品種 | 36品種。食用はデラウェア・甲州・マスカット・ベーリーA・巨峰・ピオーネの5品種 |
| 果汁の糖度 | 原則16%以上。デラウェア18.0%以上、早摘みのデラウェア12.0%以上、甲州14.0%以上 |
| 造り | 補糖・補酸・除酸に上限あり。貯蔵と瓶詰めは府内で |
| アルコール分 | 9%以上(残糖45g/L以上の甘口は4.5%以上) |
出典:国税庁「地理的表示『大阪』生産基準」(2021年6月30日指定)。瓶内二次発酵の原料は糖度12.0%以上、天候不順の年は糖度の基準を1.0%下げられるなど、細かな例外があります。管理機関は「地理的表示『大阪』管理委員会」(事務局は大阪ワイナリー協会)。
目を引くのは、デラウェアにだけ二つの基準があることです。よく熟した糖度18%以上のぶどうと、酸を残すために早めに摘んだ12%以上のぶどう。後者はおもにすっきりした辛口やスパークリングに向く原料です。生食用として甘く育てる技術と、ワインのために早く摘む判断——デラウェアの産地ならではの基準と言えます。
食用品種の5つ
デラウェアを筆頭に、甲州・マスカット・ベーリーA・巨峰・ピオーネ。大阪のぶどう農家が長く育ててきた顔ぶれで、果物として売るぶどうとワインの原料が、同じ畑から生まれる。
それ以外の31品種
シャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなどのヨーロッパ系に加え、大阪府が育成した大阪RN-1や、日本で交配されたビジュノワールも。これからの大阪のワインを担う品種だ。
生産基準は、産地の自然条件も記しています。河内地域(羽曳野市・柏原市・太子町など)は金剛山地のふもとで日照が十分にあり、土台には中央構造線に沿った花崗岩、表面には水はけと風通しのよいゆるやかな斜面の砂壌土。そして夏の雨が少ないこと。土とワインの関係は第67講土壌とテロワールで、GIを含むラベルの読み方は第41講ラベルの読み方で扱っています。
造り手と、瀬戸内の気候Wineries and Climate
府内のワイナリーは、柏原市と羽曳野市に集まっています。大阪ワイナリー協会の会員を中心に、各社の公式サイトで確かめられる範囲で紹介します。
西日本最古とされるワイナリー。貯蔵庫は国の登録有形文化財。デラウェアを瓶内で発酵させた泡「たこシャン」で知られる。くわしく
室戸台風の年に「金徳屋洋酒醸造元」として始まった。1978年に河内産100%の「河内ワイン」を発売し、1997年にワイン館を開いた。
約5haの畑で約20品種を育てる。府の「大阪エコ農産物」の認証を受けたぶどうも使う。直売所と見学ツアーあり。くわしく
約3haの自家畑のぶどうだけを使い、野生の酵母で醸す小さな造り手。工房と畑の見学は休止中とされる。
大阪市の中心部、島之内にある醸造所で、ワイン食堂を併設。柏原の畑のデラウェアを甕で仕込むワインなども造る。
柏原の醸造所で、2015年に醸造免許を受けた。にごりのあるワイン「ニコリ」で知られる。
出典:各社の公式サイト、大阪ワイナリー協会の会員紹介。協会のサイトは「2012年発足、7ワイナリーが加盟」としています。国税庁の10場がどこかは公表されていません。見学や直売の条件は変わるので、訪ねる前に各社の案内を確認してください。

暖かく、雨の少ない大阪
気象庁の平年値で、府内の3地点を見てみます。
| 観測点 | 年平均気温 | 年降水量 | 年日照時間 |
|---|---|---|---|
| 大阪(大阪市) | 17.1℃ | 1,338.3mm | 2,048.6h |
| 堺 | 16.5℃ | 1,232.9mm | 2,041.4h |
| 八尾(柏原の北隣) | 16.9℃ | 1,263.9mm | — |
| (参考)新潟 | 13.9℃ | 1,845.9mm | 1,639.6h |
出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。八尾はアメダスで、2003〜2020年の18年分の統計(日照の観測なし)。
年平均気温は17℃前後と、日本の産地編ではいちばん暖かく、雨は年1,300mm前後と日本の中では少なめです。瀬戸内の気候に近い、暖かくて乾いた土地。早く熟すデラウェアが育てやすく、ハウスで覆えば梅雨より前に収穫することもできます。暖かい土地では、酸を残すためにいつ摘むかがワインの味を大きく左右します。GIの「早摘みデラウェア」の基準は、まさにその判断を形にしたものです。気候と栽培の関係は、第59講ぶどう畑の一年・栽培完全編と第61講ワインと気候変動もあわせてどうぞ。
買う、訪ねる、合わせるDrink Osaka
最後に、大阪のワインを手に取り、畑を訪ね、食卓に並べるための手がかりをまとめます。
選ぶときの目安
デラウェアの泡と白
大阪らしさを味わうなら、まずデラウェア。瓶内二次発酵のスパークリングや、すっきりした辛口の白。マスカットにも似た華やかな香りと、軽やかな飲み心地。泡の造り方は第13講スパークリング大全へ。
GI「大阪」のラベル
府内のぶどうだけで造り、府内で瓶詰めしたしるし。2025年12月の審査会でも5社11銘柄が新たに認められた。認定されたワインの一覧は大阪府のサイトで確かめられる。
買い方の基本は第33講ワインの買い方へ。
電車で行ける、ぶどうの里
柏原市の案内では、デラウェアの食べごろは6月上旬〜8月中旬、甲州(地元では「本ぶどう」)は9月中旬〜10月中旬。柏原の観光ぶどう狩りは例年8月中旬〜10月中旬に開かれる。
府内のワイナリーが集まる野外のイベント。2026年は4月19日に羽曳野の石川河川公園で開かれ、14社が参加した。開催は協会の公式サイトで。
柏原・羽曳野のワイナリーは鉄道の駅から比較的近い造り手が多く、電車で訪ねやすいのが大阪の強みです。試飲をするなら、車も自転車も運転しないこと。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、府内のワイナリーはワイナリーガイドと産地:大阪へ。
大阪の食卓と
大阪の料理とワインの組み合わせを、公的な機関が勧めている例は見つかりませんでした。たこ焼きに合わせるという発想から生まれた「たこシャン」は、造り手自身の提案です。ここからは、第27講料理ペアリングの考え方をもとにした、編集部からの提案です。
たこ焼きや串カツに。泡と酸が衣や生地の油を流し、ソースの甘みには果実の香りが寄り添う(揚げ物も参考に)。よく冷やして、軽やかに。
出汁のきいたうどんや関東煮(かんとだき)には、すっきりした辛口の白。お好み焼きのソースや豚肉には、マスカット・ベーリーAの軽い赤を少し冷やして。
大阪府は、大阪ワインが文化庁の「100年フード」に認定されたこと、2019年のG20大阪サミットで府内のワインが使われたことを紹介しています。粉もんの街の、気取らないワイン。大阪の食卓には、それがよく似合います。
よくある質問Frequently asked
国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは10場で、全国8位(7府県で並ぶ)です。前年の調査では7場でした。柏原市と羽曳野市に多く、大阪市の中心部にも醸造所があります。
中心はデラウェアから造る、香りが華やかで軽やかな白やスパークリングです。辛口からやや甘口まで幅があります。マスカット・ベーリーAの軽い赤や、シャルドネ・メルローなどヨーロッパ系のワインも造られています。
はい。『GI大阪誕生史』によれば、1935年(昭和10年)に大阪府のぶどう栽培面積は866haで全国最大でした。いまもデラウェアの栽培面積は全国2位(2023年産)、ぶどうの収穫量は全国7位(2024年産)です。
街のそばの、デラウェアの斜面Delaware on the Slopes
大阪は、ワイナリー10場、ぶどうの収穫量で全国7位、デラウェアの栽培面積で全国2位の産地です。明治10年代に堅下で甲州が根づき、1914年にデラウェアが入り、同じ年にカタシモワイナリーが生まれました。1935年には栽培面積で全国一に。室戸台風のあとには百を超える小さな醸造所が生まれ、戦後の台風と都市化で畑は減りましたが、ワイン造りは続いてきました。
2012年に大阪ワイナリー協会ができ、2021年にはGI「大阪」が指定されています。デラウェアにだけ「熟したぶどう」と「早摘み」の二つの基準を持つGIは、生食用のぶどうの産地がワインの産地として歩んできた百四十年を映しています。大都市のすぐそばで、ぶどう農家が育ててきたワイン——それが大阪です。
次の一本。 今回はデラウェアの2本を並べてください。1本目は大阪のデラウェアのスパークリング。2本目は同じデラウェアの辛口の白。泡の有無で、同じ品種の香りや軽さがどう変わるかを比べてみてください。料理はたこ焼きと、串カツをひと皿ずつ。
次回はテーマ編へ。「肉料理とワイン完全編」。牛・豚・鶏・羊・ジビエ、そして部位と調理法——脂とたんぱく質、焼き目の香ばしさが、ワインの渋みや酸とどう響き合うのかを研究や専門家の推奨からたどり、ステーキから焼き鳥、すき焼きまで、肉の皿ごとの選び方をまとめます(ペアリング:ステーキと焼肉・BBQもあわせてどうぞ)。
