
北陸3県のワインを、数字で見るHokuriku in Numbers
第92講東海で太平洋側を歩いた日本の産地編は、日本海側の北陸へ。富山・石川・福井の3県です。寒ぶりと白えびの富山湾、能登の千枚田、加賀の城下町、越前の山あい。雪国の小さな醸造所を、まず数字でたどります。隣の新潟は第76講新潟完全編で歩いたので、ここでは比べる相手として並べます。
| 県 | ワイナリー数 | 果実酒の製造免許場 | 製成数量(うち日本ワイン) |
|---|---|---|---|
| 富山 | 4場 | 6場(うち試験免許1) | 31kl(31kl) |
| 石川 | 3場 | 6場(うち試験免許2) | 4kl(4kl) |
| 福井 | 2場 | 3場(うち試験免許1) | — |
| 3県の合計 | 9場 | 15場 | — |
| (比較)新潟 | 12場 | 19場(うち試験免許5) | 410kl(402kl) |
| (比較)山梨 | 85場 | 119場(うち試験免許3) | 8,918kl(3,762kl) |
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート、2024年の実績)の都道府県別のワイナリー数・果実酒の製造免許場数・製成数量。ワイナリー数は、果実酒の免許を持ち2024年に生産か出荷の実績があった製造場の数(2025年1月1日現在、全国は519場)。製成数量は回答した製造場の合計で、「—」は表で数字が示されていないものです。3県の合計は編集部が足したものです。
3県のワイナリーは合わせて9場。新潟ひとつ(12場)より少なく、全国519場のうちの2%に届きません。日本ワインの産地としては、まだ小さな土地です。
ただし、この表には読み方の注意があります。製成数量や原料ぶどうの受入数量は、調査に回答した製造場だけの合計です。石川は3場のうち2場、福井は2場のうち1場しか回答していません。ワイナリーが受け入れたぶどうの量を並べると、次のとおりです。
出典:同じ調査の原料用国産生ぶどうの品種別受入数量(2024年4月〜2025年3月、回答したワイナリーの所在県ごとの合計)。福井は表で数字が示されていません。
石川の7tは、いかにも少なく見えます。ところが、ぶどうの産地から見た別の表では、山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニヨンを掛け合わせた赤ぶどうヤマソービニオンの受入で、石川県産が31t、山形の86tに次いで全国2位です。県内のワイナリーの受入合計(7t)を大きく上回るので、県別の合計には石川の畑の実際が表れていない可能性が高い、と読むのが自然です(どの製造場が未回答かは、資料からは分かりません)。富山の41tは甲州5t・メルロー6t、残りの29tは「その他」に入ります。
雪と雨の、日本海側Snow, Rain and the Sea of Japan
冬の北西の季節風が、日本海の湿り気を雪にして山にぶつける。北陸の空は、ぶどう栽培にとって楽な条件ではありません。気象庁の平年値で比べてみましょう。
| 観測点 | 年平均気温 | 年降水量 | 年間日照時間 | 降雪の深さ合計 |
|---|---|---|---|---|
| 富山 | 14.5℃ | 2,374.2mm | 1,647.2時間 | 253cm |
| 伏木(富山・高岡) | 14.2℃ | 2,281.0mm | 1,650.1時間 | 238cm |
| 金沢(石川) | 15.0℃ | 2,401.5mm | 1,714.1時間 | 157cm |
| 輪島(石川・能登) | 13.8℃ | 2,162.3mm | 1,580.1時間 | 121cm |
| 福井 | 14.8℃ | 2,299.6mm | 1,653.7時間 | 186cm |
| 敦賀(福井) | 15.6℃ | 2,199.5mm | 1,598.1時間 | 126cm |
| (比較)新潟 | 13.9℃ | 1,845.9mm | 1,639.6時間 | 139cm |
| (比較)甲府 | 15.1℃ | 1,160.7mm | 2,225.8時間 | 23cm |
出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。降雪の深さ合計は、寒候年の降雪量の合計の平年値です。
気温は甲府とほぼ同じか、少し低い14〜15℃台。違いは雨と日照です。6地点の年降水量は2,100〜2,400mmで、甲府のおよそ2倍。新潟よりも多い数字です。年間日照時間は1,600時間前後で、甲府より500〜600時間短い。そして富山の降雪は合計253cm、甲府の10倍を超えます。
雨の多い土地で病気を抑えるには、水はけのよい斜面を選び、風通しのよい仕立てにすること。雪の重みに耐える棚や垣根の手入れも欠かせません。こうした畑の工夫は第59講ぶどう畑の一年・栽培完全編、気温と雨の読み方は第61講ワインと気候変動へ。北陸の造り手の多くが、雨や湿気に強いとされる品種や、山ぶどうの血を引く日本の交配品種を選んでいるのも、この空の下だからです。

北陸のワインの歩みFrom 1927 to Today
丘の上のぶどう園から、能登の山ぶどう、城下町の町家の醸造所まで。各社の公式資料・国の資料・報道で確かめた出来事を並べます。
- 1927年・1933年——富山の丘のぶどう園富山市婦中町の丘にやまふじぶどう園が開かれ、1933年にワインの醸造を始めました。初代が最初のワインに付けた名は「蓬莱山葡萄酒」。公式は「北陸で最も古いぶどう園とワイナリー」と名乗っています(ホーライサンワイナリー公式)。
- 1996年〜2000年——福井の山ぶどう福井県大野市で5アールの畑から山ぶどうの栽培が始まり、2000年秋に酒類製造免許を取得。白山ワイナリー(白山やまぶどうワイン)は「福井県初の自家農園を持つワイナリー」となりました(公式)。
- 2004年〜2006年——能登半島へ穴水町に能登ワインの会社が設立され、2006年に醸造所が完成して最初のワインが出ました。山ぶどうの血を引くヤマソーヴィニヨン(ヤマソービニオン)が、いまも看板です。
- 2007年〜2012年——海を望む丘氷見の魚問屋を母体とする会社が2007年に設立され、2008年春に耕作放棄地を開いて最初の苗を植えました。いまのSAYS FARMです。輪島市門前町では、2011年にハイディワイナリーの会社が設立され、2012年春に畑を開墾しています(各社公式)。
- 2016年〜2020年——街のワイナリー2018年、金沢市尾張町の大正期の町家に金沢ワイナリーが醸造所を構えました。金沢市俵町では2016年にぶどうを植えたヴァン・ド・ラ・ボッチが2020年8月に開業。富山県南砺市では、2018年にドメーヌ・ボーが立ち上がり、2020年に醸造棟が完成しました(各社公式)。
- 2020年——ふくいワイン特区福井県全域が「ふくいワイン特区」に認定され、特産の果実酒を少ない量から造れるようになりました(国税庁の一覧)。越前市のSIX THREE ESTATE WINERYは、2022年に自社の畑のぶどうだけで搾ったワインを造ったと公式で述べています。
- 2024年——能登半島地震1月1日の地震で、輪島市門前町のハイディワイナリーは建物が全壊し、畑へのトンネルも通れなくなりました。9月には奥能登豪雨も重なります。機械の修繕と施設の撤去を終え、2025年4月7日に見学試飲ツアーを再開しました(公式)。
3県の造り手Wineries of Three Prefectures
金沢国税局の「酒蔵マップ」(2025年1月1日現在)に載る果実酒の製造場と、各社の公式サイトで確かめた範囲で紹介します。
やまふじぶどう園。自園は6haで約40品種、年に約35kl(約5万本)。富山県産マスカット・ベーリーAの『R359 サンゴク』は、Kura Master 2026でプレジデント賞を受けました(公式)。
富山湾と立山連峰を望む丘に、約7haで欧州系品種18,000本。原料は100%自社畑。2026年春に地下セラー棟が完成(公式)。くわしく
トレボー株式会社。2024年現在で14品種を育てる。『Domaine Beau Marselan 2023』が日本ワインコンクール2026で銀賞(主催者の受賞リスト)。
天空ワイナリー。1954年創業の丸八が運営し、魚津の郷土料理「昆布締め」に合うワインを目指す。酒蔵マップの代表銘柄は『アルバリーニョ』。
穴水町特産の牡蠣の殻を畑にすき込む土づくりと、ヤマソーヴィニヨンが看板。見学と売店あり。くわしく
海を望む2つのエリアで7品種・約8,000本。アルバリーニョやプティ・ヴェルドを育てる。地震を越え、2025年4月に見学試飲ツアーを再開(公式)。
金沢産のぶどう100%。いまは3haで16品種。ラベルは自閉症のある次男が描く。見学は予約制(公式・金沢市の観光サイト)。
大正期の町家の都市型醸造所。能登の耕作放棄地で6種のぶどうを育てる。2階のレストランは2026年8月21日から休業中(公式)。
白山やまぶどうワイン。自生種の山ぶどう、小公子、ヤマ・ソーヴィニヨンなど、山ぶどうの系統の品種で造る(公式)。
福井にはもう1軒、越前市のSIX THREE ESTATE WINERYがあり、酒蔵マップの代表銘柄は『SHIKIBU』。レストラン『TSUKIHI』を併設しています。見学や直売の条件は変わることがあるので、訪ねる前に各社の案内を確かめてください。
コンクールが選んだ、北陸の一本
日本ワインコンクール2026の受賞は全国で351本。そのうち3県からは1本で、南砺市ドメーヌ・ボーの『Domaine Beau Marselan 2023』(欧州系品種・赤、銀賞、750ml・3,300円)です。マルスランは、カベルネ・ソーヴィニヨンとグルナッシュを掛け合わせたフランス生まれの赤ぶどう。比べると新潟は11本が受賞しており、北陸の造り手がこれから名前を広げていく段階にあることが分かります(主催者の受賞リスト)。
選ぶ、訪ねる、合わせるDrink Hokuriku
最後に、3県のワインを手に取り、産地を訪ね、日本海の幸と合わせるための手がかりをまとめます。
選ぶときの目安
海を望む畑の、欧州系の白
氷見や門前町、魚津の造り手が育てるアルバリーニョやシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン。雨の多い海辺に挑む白です。造り手が公式に「海のワイン」「昆布締めに合う」と掲げているものもあり、富山湾の魚と並べる一本として選びやすい。
山ぶどうの血を引く赤
能登のヤマソービニオン、福井・大野の山ぶどうや小公子。日本の野生のぶどうを親に持つ品種は、色が濃く、酸のはっきりした赤になりやすいとされます。富山の丘のマスカット・ベーリーAとあわせて、北陸らしい赤の選び方です。
味わいは一般的な傾向で、銘柄や年によって異なります。本数の少ない銘柄が多いので、直売や地元の酒販店で探すのが近道です。
訪ねる
SAYS FARMは予約制のレストランと宿を持ち、見学(500円)は食事か宿泊の人が対象。ホーライサンは売店とカフェがあり、ぶどう狩りもできます(各社公式)。
金沢の2軒は街なか。輪島市門前町のハイディは見学550円・テイスティング1種330円で、仮設のワインショップを営業しています(2025年4月以降の公式の案内)。
試飲をするなら、運転する人を決めておくこと。冬は雪で道の状況が変わるので、時間に余裕を持って。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、県ごとの特徴は富山・石川・新潟の産地ページへ。

北陸の食卓と
北陸の郷土料理とワインの合わせ方を、公的な機関が勧めている例は見つかりませんでした。ここからは、第77講魚介とワインと第71講和食とワインの考え方をもとにした、編集部からの提案です。
昆布のうまみが移った白身や、甘みのある白えびには、樽の目立たない、酸の伸びる白を。冷やしすぎないほうが、うまみに寄り添います。
福井県の資料では、越前がにの雄の漁期は11月6日〜3月20日、雌のせいこがには11月6日〜12月31日。茹でたカニの甘みには、冷えた泡や辛口の白を。
鴨や鶏にとろみのついただしの治部煮には、渋みの穏やかな赤を(ペアリング:鍋料理)。わさびの辛みには、果実味のある一本が合わせやすい。
サバをぬかに漬けた塩辛いへしこは、少量を焼いて。塩気には酸のある赤や、すっきりした白が負けにくい。寒ぶりの照り焼きにも、同じ赤を(ペアリング:照り焼き)。
昆布締め、カニ、治部煮、へしこ。北陸の食卓は、うまみと塩気、そして海の甘みの土地です。酸のある白と、軽めの赤を一本ずつ。
よくある質問Frequently asked
国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは、富山4・石川3・福井2で、3県合わせて9場です(2025年1月1日現在)。果実酒の製造免許場は3県で15あります。
富山市婦中町のホーライサンワイナリー(やまふじぶどう園)です。1927年にぶどう園を開き、1933年にワイン造りを始めました。公式は「北陸で最も古いぶどう園とワイナリー」と名乗っています。
ワインのGIはありません。3県のお酒のGIは清酒の「白山」だけです。果実酒にかかわる特区は、福井県全域の「ふくいワイン特区」(2020年)があります(国税庁の一覧)。
雪国の丘と、海辺の醸造所Hillside Vines by the Sea of Japan
北陸3県のワイナリーは9場。雨は甲府のおよそ2倍、日照は500時間以上短く、富山の雪は平年で合計2mを超えます。それでも、石川県産のヤマソービニオンは全国2位の量が仕込まれ、富山の丘では100年近くワインが造られてきました。
1933年の富山のぶどう園、2000年の福井の山ぶどう、2006年の能登、海を望む氷見と門前町の畑、金沢の町家の醸造所。地震と豪雨を越えて、ツアーを再開した造り手もいます。雪国の丘と、海辺の醸造所から、北陸のワインはこれからの産地です。
次の一本。 今回は北陸の2本を並べてください。1本目は、氷見や門前町のアルバリーニョのような、海を望む畑の白。2本目は、能登のヤマソービニオンか福井の山ぶどうのような、日本の野生のぶどうの血を引く赤。料理は昆布締めと、寒ぶりの照り焼きを。
次回はテーマ講座へ。第95講「ホットワインと冬のワイン完全編」。ドイツのグリューワイン、フランスのヴァン・ショー、北欧のグロッグ。スパイスと果物で温めるワインの由来と作り方、そして寒い季節に開けたい一本をたどります(第93講ワインと年末年始の食卓と第26講保存とサービングもあわせてどうぞ)。
