湖国の個性派ワイン
滋賀は、日本最大の湖・琵琶湖を抱く内陸の県。ワイナリーの数は多くありませんが、東近江市を中心に、ひと癖もふた癖もある個性的な造り手が点在します。大産地の華やかさとは違う、土地に根ざした手づくりのワインが、湖国の魅力です。
にごりワインの草分け
滋賀ワインを全国に知らしめたのが、濾過をしない「にごりワイン」専門という独自路線。ぶどうの果実味と旨みをそのまま閉じ込めた、ジューシーで親しみやすい味わいが看板です。早くからこのスタイルを手がけた草分けとして、自然派ワインのファンに支持されています。
近江の食とともに
旨みのあるにごりワインは、近江牛や湖魚、発酵文化の根づく近江の味の名脇役。まずは「日本ワイン」とはから背景を知り、隣接の京都とあわせて、関西のワインの個性を味わってみてください。
気候と土地の個性
滋賀の中心には、県の面積のおよそ6分の1を占める琵琶湖があります。大きな水のかたまりは気温の変化を穏やかにし、湖国の暮らしと農業に独特のリズムを与えてきました。ワイナリーが点在する東近江は、鈴鹿山系から琵琶湖へ向かって川が流れ下る一帯で、水はけのよい土地に恵まれます。内陸の盆地らしく夏は暑く、冬は雪も降る気候ですが、湖のもたらす穏やかさと山からの冷気が同居するのが湖国らしいところ。大規模な銘醸地ではないぶん、造り手それぞれが土地との距離の近いワイン造りを続けています。湖国では古くから米と発酵の文化が育まれ、食とともにある醸造の感覚が土地に根づいています。ワイン造りもまた、その延長線上で受け止められているように感じられる産地です。
主な品種と味わいの傾向
中心はマスカット・ベーリーAとデラウェア。どちらも日本の気候に適応した品種で、いちごを思わせる果実味のジューシーな赤と、やさしい甘やかさのある白が生まれます。シャルドネやソーヴィニヨン・ブランなど欧州系への取り組みも見られます。滋賀ならではなのが、濾過をしないにごりの造り。澱(おり)ごと瓶に詰めることで、ぶどうの旨みと質感がそのまま残り、まるで「飲むぶどう」のような親しみやすさになります。ワインを構えて味わうのではなく、日々の食卓の飲みものとして楽しむ——そんな提案が滋賀ワインの核にあります。にごりワインはよく冷やし、澱を軽く混ぜてから注ぐと、旨みと質感をまるごと楽しめます。開栓時に軽く発泡するタイプもあるので、ゆっくり開けるのが安心です。
郷土の食との合わせ方
近江牛のすき焼きには、マスカット・ベーリーAの赤。割り下の甘辛と、いちごのような果実味が響き合い、やわらかな渋みが脂を受け止めます。鮒寿司には、にごりワイン。乳酸発酵による鮒寿司の酸味と旨みに、同じく発酵の風味をまとったにごりの酸がぶつからずに寄り添う、発酵どうしの組み合わせです。湖魚の佃煮(えび豆やもろこ)には、デラウェアのやさしい白。佃煮の甘辛い味付けに、ぶどう由来の穏やかな甘みが重なります。発酵文化の根づく近江の食卓では、「旨みと酸のあるワイン」を選ぶのが合わせ方の近道です。赤こんにゃくや丁字麩の辛子和えなど近江の惣菜にも旨み系のワインは寄り添い、地元スーパーの惣菜と気軽に合わせられるのも日常づかいのワインの良さです。
ワイナリー巡りのコツ
滋賀のワイナリー巡りは、近江の観光とセットで組み立てるのがおすすめです。彦根や近江八幡の町並み、湖東の古刹など、東近江エリアは見どころが豊富。直売所を備えた造り手では試飲や買い物が楽しめますが、営業日や見学の可否は時期で変わるため事前確認を。試飲をするなら公共交通とタクシーの組み合わせ、または飲まない運転役との分担が基本です。電車旅なら、東近江をのんびり走るローカル線の車窓も旅情を誘います。ヒトミワイナリーは当サイトの個別ページでも紹介しています。
産地の歩みとこれから
滋賀のワイン造りは、昭和期から続く造り手の歩みに、平成以降の個性的な挑戦が重なって今の姿になったと伝えられます。大産地の道を追うのではなく、にごりワインという独自のスタイルで全国にファンをつくったことは、小さな産地の生き方として示唆的です。米と発酵の文化が深く根づく近江で、ワインもまた「発酵食品のひとつ」として食卓に混ざっていく——そんな自然体の広がり方が滋賀らしさです。自然派ワインへの関心の高まりとともに、この土地の造りに注目する人は増え続けています。
