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ワインガイド Vinotier マイリスト

VINOTIER WINE COURSELEÇON XCVII

第97講 実践

ソムリエとワインの資格完全編

最後に問われるのは、一本の開け方。 J.S.A.のソムリエとワインエキスパート、英国発のWSET、マスター・ソムリエ、マスター・オブ・ワイン。受験の条件と試験の中身から、名前の似た肩書きの違いをたどります。

ソムリエの受験条件ワインエキスパートとWSETMSとMWの違い
ソムリエとワインの資格完全編のイメージ
樽の上に置かれた、丸い指輪状の持ち手が付いた浅い銀の杯、タストヴァン
樽の上のタストヴァン — ワインの色と味を見るための、浅い銀の杯。資格の話は、いつも一杯の見極めに戻ってくる
— Prologue

月曜の午後、トレイの上の一本Le métier et le titre

2026年度の試験では、11月9日の月曜日、札幌から那覇までの16都市で、ソムリエの第三次試験が行われます。課題はワインの開栓とデカンタージュ。作業はすべて、一枚のトレイの中で完結させる決まりです。

120問の筆記を越え、テイスティングを越え、最後に問われるのは一本の開け方。ワインの資格には「手」を見るものもあれば、1万語の論文を求めるものもあります。肩書きは似ていても、中身はかなり違います。

この講では、日本ソムリエ協会(J.S.A.)のソムリエとワインエキスパート、英国発のWSET、そしてマスター・ソムリエとマスター・オブ・ワインを、受験の条件と試験の中身から比べます。日程や受験料は「2026年度」と年を明記し、各団体の公式資料に拠りました。合格のコツではなく、カウンターの向こうの人が何を学んできたのか、自分はどこから学ぶのかを考える材料としてまとめています。

— I

1969年、同じ年に始まったL'année 1969

いまのワイン資格の骨組みの多くは、1969年に動き出しました。

国際ソムリエ協会A.S.I.

1969年6月、フランスのランスでの会合から発足。同じ年に最初の世界最優秀ソムリエコンクールがブリュッセルで開かれた。

日本ソムリエ協会J.S.A.

1969年1月、飲料販売促進研究会として発足。1976年に日本ソムリエ協会へ改称し、1986年にA.S.I.へ加盟した。

WSETWine & Spirit Education Trust

1969年、英国の酒類業界の人材育成のために設立された慈善信託。

マスター・ソムリエ試験Master Sommelier

最初の試験は1969年、ロンドンのヴィントナーズ・ホールで。運営団体のコート・オブ・マスター・ソムリエは1977年までに整えられた。

先行していたのはマスター・オブ・ワインで、最初の試験は1953年。日本では第1回のソムリエ呼称資格認定試験が1985年、第1回のワインエキスパート試験が1996年に行われました。2026年度はそれぞれ第42回と第31回にあたります。

1995年には東京で開かれた世界最優秀ソムリエコンクールで、田崎真也氏が優勝しました。

出典:A.S.I.「About ASI」「ASI Champions」、日本ソムリエ協会「沿革」、2026年度募集要項、WSET「Our story」、Court of Master Sommeliers公式サイト、Institute of Masters of Wine「Our History」(いずれも2026年11月6日確認)。

— II

J.S.A.ソムリエ——仕事が受験の条件になるSommelier

黒いハンドルに銀の金具が付いたソムリエナイフ。刃とスクリュー、二段のてこを開いた状態
ソムリエナイフ — 刃でキャップシールを切り、スクリューを立て、てこで抜く。第三次試験の開栓も、この一本の扱いから始まる

J.S.A.のソムリエ呼称は、知識の試験である前に、職業の資格です。受験できるかどうかは、いま何の仕事をしているかで決まります。

募集要項の定義では、ソムリエは飲食、酒類・飲料の仕入れ、管理、輸出入、流通、販売、教育機関、酒類製造のいずれかに属し、専門的知識とテイスティング能力を持つプロフェッショナル。レストランの人に限りません。世にある「◯◯ソムリエ」は通称で、職業分類上の正式な呼称ではないとも断っています。

受験の条件(2026年度)

本職であること60%

酒類・飲料の職務が主たる仕事で、全収入の60%以上をそこから得ていること。副業では受験できない。

経験年数3 years

実働月90時間以上の勤務で通算3年以上。会員歴2年以上のJ.S.A.会員は通算2年以上。基準日にも同じ条件で従事していること。無給の期間は数えない。

年齢と基準日20+

基準日の2026年8月31日に満20歳以上。国籍は問わない。

試験の流れ(2026年度)

  1. 第一次:CBT方式の筆記7月15日〜8月26日のうち、自分で予約した日時に全国の指定会場で。70分・120問。出題は協会の教本から。合否はその場で画面に出る。
  2. 第二次:テイスティングと論述9月28日。テイスティング40分のあと、論述20分。論述は第三次の審査対象になる。
  3. 第三次:サービス実技11月9日。ワインの開栓とデカンタージュ。全国16都市の会場で。
  4. 書類審査職務経歴書と必要な証明書を10月9日〜20日(必着)に提出する。第三次に進む人全員が対象で、実技を通っても書類で条件を満たさなければ合格にならない。

受験料は2026年度の場合、一次から受ける一般の人で32,900円(1回受験、教本代込み)、J.S.A.会員で23,700円。合格後に認定登録料20,950円がかかります。2023年からは英語でも受験できます。

要項によれば、認定バッジは「貸与」されるもので、所有者は協会です。胸の印は、個人の持ち物というより預かった約束に近いのかもしれません。店で見かけたら、遠慮なく好みと予算を伝えてみてください。頼み方は第35講レストランでのワインに。もちろん、資格を持たない人のサービスが劣るという話ではなく、呼称は経験の一面を示すものです。

出典:日本ソムリエ協会「2026年度 J.S.A.ソムリエ呼称資格認定試験 募集要項」「ソムリエ受験資格の事例集(2026年度)」(2026年11月6日確認)。条件には細則があるため、受験を考えるときは最新の要項で確かめてください。

— III

ワインエキスパート——職業を問わない呼称Wine Expert

同じ協会の、もうひとつの呼称。こちらは基準日に満20歳以上なら、国籍も職種も経験も問いません。別の仕事を持ちながらワインを学びたい人の扉です。

ソムリエ

酒類・飲料の職務が本職で、通算3年以上(会員は2年以上)。一次、二次(テイスティング40分と論述20分)、三次(サービス実技)、書類審査まで。

ワインエキスパート

職業・経験は不問。一次は同じ70分・120問のCBT。二次はテイスティング50分で、サービス実技はない。定義は「専門的知識・テイスティング能力を有する者」。

ワインエキスパートに過去5年以内に合格した人は、ソムリエを受けるとき一次が免除されます(逆も同様)。もう少し手前の入口には、20歳以上なら職歴を問わないJ.S.A.ワイン検定(ブロンズ・シルバーの2クラス)があります。

数字で見る、これまでの認定者

協会の資格保有者一覧表(2026年1月1日現在)の累計です。ワインアドバイザーは1986年に試験が始まった旧呼称で、現在の試験案内には並んでいません。

ソムリエ41,194人
ワインエキスパート24,872人
ワインアドバイザー12,955人
ソムリエ・エクセレンス575人
WE・エクセレンス407人

2025年の合格率は、ソムリエが19.9%(受験者2,866人)、ワインエキスパートが26.4%(同3,577人)。率は年ごとに動き、ソムリエは2021年に42.1%、2023年に17.7%でした。

その上の呼称、エクセレンス

上位の呼称は長く「シニア」と呼ばれ、2019年度からエクセレンスに改められました。

ソムリエ・エクセレンスExcellence

認定後3年目以降で、同じ職務を通算10年以上。2026年度は筆記が9月28日、テイスティングと実技が11月16日。会場は東京のみで、テイスティングの通過者だけが実技へ進む。2025年の合格者は156人中20人。

ワインエキスパート・エクセレンスExcellence

満30歳以上で、認定後5年目以降。2026年度は筆記が9月28日、テイスティングと論述が11月16日、東京で。2025年の合格者は127人中16人。

出典:日本ソムリエ協会「2026年度 J.S.A.ワインエキスパート/ソムリエ・エクセレンス/ワインエキスパート・エクセレンス 呼称資格認定試験 募集要項」、呼称資格認定試験ページ、ワイン検定ページ、「資格保有者一覧表」2026年1月1日現在(2026年11月6日確認)。ソムリエの累計は呼称申請による認定を含みます。

— IV

WSET——四段の階段で学ぶWine & Spirit Education Trust

J.S.A.の呼称が年に一度の認定試験だとすれば、WSETは講座と試験がひと組になった、段階式の学びです。認定された講座提供校(Approved Programme Provider)を通じて、70を超える国で開かれています。

Level 1Award in Wines

受講の条件はなし。総学習時間の目安は6時間。試験は選択式30問、45分で、70%以上が合格。

Level 2Award in Wines

総学習時間は28時間(指導下の学習17時間、自習11時間)。試験は選択式50問、60分。

Level 3Award in Wines

総学習時間は84時間。理論(選択式50問と記述)と、2種のブラインドテイスティング(30分)の2ユニット。Level 2相当の知識が推奨される。

Level 4Diploma in Wines

Level 3の修了が必須。総学習時間は500時間、6ユニットで、配点の半分は世界の産地を扱うD3。D6は3,000語の研究課題。通常18か月〜3年かかり、修了者はDipWSETと名乗れる。

Level 1〜3は英国の資格規制機関Ofqualの規制下にあります。公式の案内では、これらのワインの講座の言語に日本語も挙げられていますが、言語や日程、費用は提供校ごとに違うので、提供校で確かめてください。

J.S.A.との違いは順番です。ワインエキスパートは一度の試験で教本に向き合い、WSETは段を一つずつ上がります。どちらが上という関係ではなく、学び方と使う場面で選ぶものです。味わいの言葉を整えたい人は、第31講テイスティングの言葉からでもいいでしょう。

出典:WSET「Specification」Level 1 Award in Wines(2018)、Level 2(2023)、Level 3(2022)、Level 4 Diploma in Wines(2019)および公式サイトの案内(2026年11月6日確認)。仕様書は改訂されることがあります。

— V

サービスの頂、ワインの知の頂MS & MW

緑の灯りが奥へ続く地下の貯蔵庫。通路の両側の壁一面に、瓶が横に積まれている
カリフォルニア、シュラムスバーグの貯蔵庫 — 瓶の壁の奥まで歩くような長い学び。マスター・オブ・ワインの課程は、最短でも3年かかる

よく並べて語られる二つの称号は、名前が似ていて、見ているものが違います。

マスター・ソムリエ(MS)

コート・オブ・マスター・ソムリエの4段階(Introductory、Certified、Advanced、Master)の頂点。Advancedの修了が前提で、理論・テイスティング・実務サービスの3部を各75%以上で、3年以内にそろえる。試験は毎年ロンドンと米国で行われる。

マスター・オブ・ワイン(MW)

ワイン業界の人を対象にした、マスター・オブ・ワイン協会の称号。ブラインドの実技(12本×3回)、理論5科目、1万語の研究論文の3部すべてに合格して初めて名乗れる。部分合格という状態はない。

マスター・オブ・ワインの数字

最初の試験は1953年で、英国の酒類業界の人が対象でした。受験者21人のうち合格は6人。その6人が1955年に協会を作ります。英国の外に門戸が開いたのは1988年。協会の公式サイトによれば、現在のMWは426人、31か国(2026年11月6日確認)。1953年からの累計の合格者は528人です。

出願には、ワインの仕事が主な生業か週20時間以上の関わりであること、WSET Diploma相当以上の資格、3年以上の継続した実務経験が求められ、課程は最短で3年です。日本を拠点とするMWには、2015年に称号を得た東京の大橋健一 MWがいます。

A.S.I.の資格

J.S.A.の会員には、もう一つ国際的な道があります。国際ソムリエ協会のASI Diplomaで、受験にはソムリエとしての実務経験3年以上が必要。2026年度は3月9日に東京で、テイスティング・筆記・実技が一日で行われました。

ひとつの頂があるのではなく、違う山が並んでいると考えるほうが実態に近いでしょう。

出典:Court of Master Sommeliers「Master Sommelier Diploma」、Institute of Masters of Wine「FAQs」「Our History」「Apply」、同2026年10月28日付の発表、大橋健一 MWのプロフィール、日本ソムリエ協会「ASI Diploma」(2026年11月6日確認)。

— FAQ

よくある質問Frequently asked

Qソムリエとワインエキスパートの違いは?

ソムリエは酒類・飲料の職務が本職で、全収入の60%以上を得ていて、通算3年以上(会員は2年以上)の経験が必要です。ワインエキスパートは満20歳以上なら職業を問いません。試験では、ソムリエにだけ論述とサービス実技、書類審査があります(2026年度)。

Qお酒の仕事をしていなくても取れる資格は?

J.S.A.ではワインエキスパートとワイン検定が、職業を問わず受けられます。WSETも、Level 1は受講の条件がありません。受験は20歳以上で、WSETのテイスティングも各国の法定年齢以上が前提です。

QWSETとJ.S.A.はどちらが上?

上下の関係ではありません。J.S.A.の呼称は日本の協会による認定、WSETは英国発の段階式の資格で、学び方が違います。

— Recap

資格の先に、次の一本があるAprès le diplôme

ソムリエは仕事が条件の呼称で、最後は一本を開ける手を見られる。ワインエキスパートは職業を問わない呼称で、知識と舌を問われる。WSETは四段の階段で、国をまたいで通じる物差し。マスター・ソムリエはサービスの頂、マスター・オブ・ワインは1万語の論文まで求めるワインの知の頂。多くは1969年に動き出し、別々の山として続いてきました。J.S.A.の募集要項の会長あいさつには、「これらの資格は最終目標ではなく」という一文があります。

次の一本。 試験を受けなくても、同じ体験はできます。シャルドネを産地違いで2本、たとえばブルゴーニュとカリフォルニアを用意し、ラベルを隠して抜栓を。ソムリエナイフで自分の手で開けて、色、香り、味を順に書き留めます。手順は第10講ブラインドテイスティング、グラスに注ぐまでの基本は第26講保存とサービングにあります。

次回は銘醸図鑑 第37弾へ。「ペサック・レオニャンとグラーヴ」。ボルドーの街のすぐ南、砂利の丘に広がる銘醸地。1855年の格付けでメドックの外からただ一軒選ばれたシャトー・オー・ブリオン、そして赤と白がともに名を連ねる土地の造り手たちを訪ねます(先に第5講ボルドー完全編と銘醸図鑑メドック格付けをどうぞ)。

À votre service.

次にレストランでワインリストを開くとき、グラスを運んでくる人の手元を少しだけ見てみてください。一本の開け方にも、その人が重ねてきた年月があります。

写真クレジット(すべてWikimedia Commons):
1. 樽の上のタストヴァン — “Tastevin fut” by Olivier Lemoine (https://Photo-Terroir.fr), CC BY-SA 4.0
2. ソムリエナイフ — “Corkscrew - sommelier knife” by Ivar Leidus, CC BY-SA 4.0
3. シュラムスバーグの貯蔵庫 — “Schramsberg Vineyards, July 2019-7563+7565” by Frank Schulenburg, CC BY-SA 4.0
※掲載写真はレイアウト上の都合によりリサイズ・トリミングして掲載しています。
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