
南の島のワインを、数字で見るKyushu in Numbers
第80講岩手で北の冷涼な産地を歩いた日本の産地編は、一気に南へ。今回は九州です。梅雨と台風に見舞われる、ぶどうにとって手強い土地で、どんなワインが造られているのでしょうか。
| 県 | ワイナリー数 | 製成数量(うち日本ワイン) |
|---|---|---|
| 福岡 | 8場 | 48kl(44kl)[回答6場] |
| 佐賀 | 0場 | — |
| 長崎 | 2場 | 17kl(17kl)[回答1場] |
| 熊本 | 5場 | 101kl(101kl)[回答4場] |
| 大分 | 6場 | 158kl(158kl)[回答5場] |
| 宮崎 | 6場 | 203kl(203kl)[回答5場] |
| 鹿児島 | 4場 | 15kl(10kl)[回答3場] |
| 九州7県 | 31場 | — |
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート、2024年の実績)。ワイナリー数は、果実酒の免許を持ち2024年に生産か出荷の実績があった製造場の数(2025年1月1日現在、全国は519場)。製成数量は調査に回答した製造場だけの合計で、県全体の量ではありません。九州7県の合計は編集部が表の数字を足したものです。
九州7県のワイナリーは合わせて31場。全国の約6%です。いちばん多いのは福岡の8場で、大分と宮崎が6場ずつ。佐賀は果実酒の製造免許を持つ製造場が1場ありますが、2024年に生産・出荷の実績があったワイナリーは0でした。造る量でみると、回答した製造場の合計で宮崎が203klと九州でいちばん多く、日本ワインの出荷数量では宮崎県が全国9位に入っています。
同じ調査で、回答したワイナリーが受け入れた原料ぶどうを県別に並べてみましょう。
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)の原料用国産生ぶどうの都道府県別受入数量。回答したワイナリーの合計です。
中身を見ると、県ごとの個性がはっきりします。宮崎はキャンベル・アーリーが102tと半分近くを占め、ナイアガラが続きます。大分と熊本はシャルドネがそれぞれ90t台と60t台で最多。宮崎はアメリカ系、大分・熊本はシャルドネ——九州の中でも、産地の顔はひとつではありません。
四百年前の葡萄酒からFrom 1627 to Today
九州は、日本のワインの歴史をたどるうえで欠かせない土地です。記録に残るいちばん古いワイン造りの舞台が、ここにあるからです。大学の発表資料と各社の公式サイトをもとにたどります。
- 1627年ごろ——細川家の「葡萄酒」熊本大学の2020年の発表によれば、小倉藩主の細川忠利が、南蛮の技術を身につけた家臣に命じて、中津郡大村(いまの福岡県みやこ町)で葡萄酒を造らせました。原料は山ぶどうの一種「ガラミ」で、黒大豆も使った「薬酒」だったとされます。寛永4〜7年(1627〜1630年)とされてきた期間は、新しく見つかった史料で寛永9年(1632年)まで延びました。同大学は「文献上明確に確認できる最古の日本産ワイン醸造」と表現しています。
- 1953年——宮崎で巨峰とキャンベル都農ワインの公式サイトによれば、都農町の永友百二がこの年、宮崎県で初めて巨峰を植えました。同じ年の記録には、カトーバとキャンベルでぶどう酒を仕込んだことも記されています。
- 1971年・1972年——大分と福岡で大分の三和酒類が1971年に果実酒の製造免許を取り、1974年に「安心院ワイン」を売り出しました。福岡・田主丸では1972年、規格外の巨峰を生かすために巨峰ワイナリーが生まれます。福岡県によれば、田主丸の巨峰栽培は1957年に始まりました。
- 1996年——都農ワイン開業町などが出資する第三セクターとして1994年に設立され、1996年11月15日にグランドオープン。雨の多い宮崎の海辺で、キャンベル・アーリーのワインを看板にしました。
- 1999年〜2003年——シャルドネと高原熊本ワインが1999年に設立され、同じ年に山鹿市菊鹿町でシャルドネを植え始めました。2001年には大分・宇佐市に安心院葡萄酒工房が開設、2003年には標高850mの久住ワイナリーが生まれています。
- 2014年以降——島と、南の端へ2014年、長崎県で初めての自社醸造ワイナリーとして五島ワイナリーが開業。2018年には熊本ワインが菊鹿に醸造所を開き、2022年には鹿児島・錦江町に花瀬ワイナリーが開設されました。
雨と台風との戦いRain, Typhoons and Pergolas
世界の銘醸地の多くは、夏に雨の少ない土地です。九州はその反対。気象庁の平年値で、県庁所在地とワイナリー周辺の観測点を比べてみましょう。
| 観測点 | 年平均気温 | 年降水量 |
|---|---|---|
| 宮崎 | 17.7℃ | 2,625.5mm |
| 都農(宮崎) | — | 3,298.1mm |
| 熊本 | 17.2℃ | 2,007.0mm |
| 鹿北(熊本・菊鹿の近く) | 14.9℃ | 2,177.9mm |
| 大分 | 16.8℃ | 1,727.0mm |
| 院内(大分・安心院の隣) | 14.9℃ | 1,729.1mm |
| 竹田(大分・久住の近く) | 14.7℃ | 1,885.3mm |
| 福岡 | 17.3℃ | 1,686.9mm |
| (参考)甲府 | 15.1℃ | 1,160.7mm |
出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。都農は統計期間が2010〜2020年で、気温の平年値はありません。県庁所在地は気象台、それ以外はアメダス。
宮崎市の年降水量は2,600mm超、第70講山梨の甲府の2倍以上です。都農のアメダスは3,300mm近く、6月だけで700mmを超えます。都農ワインの公式サイトは、多い年には4,000mmを超える雨が降り、収穫期には台風が来ると説明しています。雨と湿気はぶどうの病気を招き、実を割れさせ、味を薄めます。
造り手の工夫
都農ワインが公式サイトで挙げる対策は、排水対策、防風林、ビニールのトンネル、棚の構造の工夫、品種の更新。畑は火山灰の黒ボク土で、毎年冬に堆肥を入れて土を作ります。開園当初は垣根仕立てでしたが、いまはすべての畑を平棚にしています。
国税庁の調査でも、九州の多くの原料ぶどうは棚で育てられています。棚栽培のキャンベル・アーリーの受け入れ量は宮崎が全国1位、棚栽培のシャルドネは大分が全国2位。一方で熊本は垣根仕立てのシャルドネで全国3位と、ヨーロッパ式の仕立ても使います。棚と垣根の違いは第59講ぶどう畑の一年・栽培完全編へ。
九州は、どこも雨が多いわけではない
表をよく見ると、大分の安心院に近い院内や、福岡は1,700mm前後と、宮崎よりずっと少なめです。安心院葡萄酒工房の公式サイトは、宇佐地方はむしろ雨が少なく、昔は干ばつが心配の種だったと紹介し、霧の深い盆地で昼夜の寒暖差が大きいことを強みに挙げています。標高850mの久住ワイナリーは、収穫期の寒暖差が20℃を超えることもあると説明します。低い土地の多雨と、盆地や高原の涼しさ。九州のワインは、この両方の顔を持っています。気候とワインの関係は第61講ワインと気候変動もあわせてどうぞ。
品種と、県ごとの造り手Grapes and Wineries
九州のワインを支えるのは、雨に強いアメリカ系のぶどう、生で食べる巨峰、そして近年評価を高めるシャルドネです。国税庁の統計から、主な品種の位置を確かめます。
原料としての受け入れ量は宮崎が129tで全国2位(1位は北海道)、長崎も5位。華やかな香りで、都農や五島ではロゼやスパークリングに仕立てられる。
受け入れ量は大分が全国5位。熊本・菊鹿のシャルドネは日本ワインコンクールで高く評価された。安心院では瓶内二次発酵のスパークリングにもなる。品種ページ
原料の受け入れ量は福岡が全国3位(長野・山梨に次ぐ)。田主丸の巨峰ワイナリーは、巨峰100%のワインを造る。
ナイアガラの受け入れ量は宮崎が全国4位。安心院では、山ぶどうの血を引く日本の交配品種小公子も育てている。ナイアガラ
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)の品種別受入数量、各社の公式サイト。交配品種については第69講交配品種とクローンへ。
県ごとの主な造り手
海に近い黒ボク土の畑を平棚で。キャンベル・アーリーのロゼやスパークリング、シャルドネで知られる。くわしく
「菊鹿シャルドネ樽熟成2019」が日本ワインコンクール2022で金賞・部門最高賞(熊本県の発表)。くわしく
2006年から安心院産のぶどうだけで造る。公式の品種一覧はシャルドネ、小公子、タナなど11品種。くわしく
くじゅう連山のふもと、標高850mの高原に約6haの自社畑。九州の中でも特に冷涼な畑だ。
巨峰の産地で、規格外の巨峰を生かすために生まれた。観光サイトは福岡でいちばん古いワイナリーと紹介している。くわしく
福江島の水はけのよい火山灰土で、キャンベル・アーリーやマスカット・ベーリーAを育てる島のワイナリー。くわしく
このほか、宮崎の山あいには五ヶ瀬ワイナリー、綾町には雲海酒造の醸造所があり、鹿児島には2022年開設の花瀬ワイナリーがあります。見学や直売の条件は変わることがあるので、訪ねる前に各社の案内を確かめてください。

ワインのGIは、まだない
国税庁の地理的表示の一覧によれば、ワインのGIは山梨・北海道・山形・大阪・長野の5つで、九州にワインのGIはありません。九州にあるのは、焼酎の「壱岐」「球磨」「薩摩」と、清酒の「佐賀」、そして2025年10月に指定された清酒の「福岡」です。九州は、ワインより先に焼酎と日本酒で名を知られてきた土地だといえます。GIの読み方は第41講ラベルの読み方へ。
買う、訪ねる、合わせるDrink Kyushu
最後に、九州のワインを手に取り、産地を訪ね、郷土の料理と合わせるための手がかりをまとめます。
選ぶときの目安
キャンベル・アーリーのロゼと泡
宮崎や長崎らしさを知るなら、まずキャンベル・アーリー。いちごやキャンディを思わせる華やかな香りの、やや軽い味わいが多い。渋みが少ないので、ワインに慣れていない人にもすすめやすい。ロゼの楽しみ方は第53講ロゼワインへ。
シャルドネの白
熊本・菊鹿や大分のシャルドネは、九州の新しい顔。樽で熟成させたもの、ステンレスタンクで果実味を生かしたもの、瓶内二次発酵の泡まで造り手ごとに幅がある。ラベルの説明で造りを確かめて選びたい。
香りの表現は一般的な傾向で、銘柄によって異なります。買い方の基本は第33講ワインの買い方へ。
訪ねる
久住の高原と宇佐市安心院の盆地は、別府・湯布院の温泉地とあわせて巡りやすい。標高が違う2つの産地を比べると、九州のワインの幅が分かる。
田主丸はぶどう狩りの季節(夏〜秋)がにぎやか。熊本は菊鹿のシャルドネ、宮崎は海辺の都農へ。九州は広いので、1日に回る蔵を絞るのがこつ。
試飲をするなら、運転する人を決めておくこと。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、各県の特徴は産地:九州と宮崎・大分・熊本・福岡の産地ページへ。
九州の食卓と
九州の郷土料理とワインの組み合わせを、公的な機関が勧めている例は見つかりませんでした。ここからは、第27講料理ペアリングの考え方をもとにした、編集部からの提案です。
延岡発祥とされるチキン南蛮や、別府発祥とされる大分のとり天には、キャンベル・アーリーのロゼやスパークリングを。甘酢やタルタルの甘みには、果実味のあるロゼが寄り添う(ペアリング:揚げ物・鶏肉)。
宮崎の地鶏の炭火焼きには、樽の香りのあるシャルドネか軽めの赤を。熊本の馬刺しは脂の少ない赤身なので、渋みの強い赤より軽やかな赤やロゼを少し冷やして(第79講肉料理とワイン)。
甘めの醤油や甘酢、柚子こしょう。甘みと香りの強い九州の味つけには、果実味のある軽やかなワインがよく合います。
よくある質問Frequently asked
国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは、九州7県で合わせて31場です(2025年1月1日現在)。福岡8、大分6、宮崎6、熊本5、鹿児島4、長崎2で、佐賀は0でした。
排水の工夫、防風林、ビニールのトンネル、雨の当たり方や風通しを考えた棚仕立て、雨に強い品種選びなどで乗り越えてきました。また、大分の安心院や久住の高原のように、雨が比較的少なかったり、昼夜の寒暖差が大きかったりする土地もあります。
熊本大学は、小倉藩主・細川忠利が1627年ごろから豊前(いまの福岡県みやこ町)で造らせた葡萄酒を、文献で明確に確かめられる最古の日本産ワイン醸造と表現しています。山ぶどうの一種を使った薬酒で、いまのワインとは造りも目的も違います。
雨の国の、南のワインWines of the Rainy South
九州のワイナリーは7県で31場。宮崎が造る量でいちばん多く、日本ワインの出荷数量で全国9位に入ります。四百年前、小倉藩の細川家が豊前で造らせた葡萄酒は、文献で確かめられる最古の日本産ワイン醸造とされます。戦後は宮崎の巨峰とキャンベル、大分の安心院ワイン、福岡・田主丸の巨峰ワイナリーから始まり、1996年の都農ワイン、1999年の熊本ワイン、そして高原の久住、島の五島、南の錦江町へと造り手が広がってきました。
年に2,000mmを超える雨と、収穫期の台風。造り手は棚と土づくりと品種選びで向き合い、盆地や高原の涼しさも生かしてきました。雨に強いキャンベル・アーリーと、新しい顔のシャルドネ——その二つが、九州のワインの今を語っています。
次の一本。 今回は九州の2本を並べてください。1本目はキャンベル・アーリーのロゼかスパークリング。2本目は熊本か大分のシャルドネ。アメリカ系の華やかな香りと、欧州系の落ち着いた白で、同じ南の雨の土地のワインがどう違うかを比べてみてください。料理はチキン南蛮かとり天を、ひと皿。
次回はテーマ編へ。「エスニック料理とワイン完全編」。タイ、ベトナム、インド、韓国、メキシコ——唐辛子の辛さとアルコール、ハーブやココナッツ、魚醤の香りに、どんなワインを合わせればよいのかを、研究や専門家の推奨からたどります(ペアリング:辛い料理・カレーもあわせてどうぞ)。
