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ワインガイド Vinotier

VINOTIER WINE COURSELEÇON LXXXI

第81講 実践

スイーツとワイン完全編

ショートケーキと辛口のシャンパーニュ。 華やかな組み合わせなのに、ワインが妙に酸っぱく感じたことはありませんか。甘いものは、ワインの酸味と苦みを強く感じさせます。だから合わせるワインは、デザートと同じか、それより甘く。第77講「魚介」・第79講「肉料理」に続くペアリングの実践編、締めくくりはデザートです。

ワインはデザートより甘く甘口ワインの種類和菓子と果物
スイーツとワイン完全編のイメージ
暗い背景の卓上に、杏、白ぶどう、桃、メロンが銀の皿に盛られ、白い布がかけられた17世紀の静物画。奥に脚付きのワイングラスが見える
ヤスペル・ヘーラールツ「デザート(果物とワイングラス)」 — 17世紀フランドルの静物画。熟した果物とワインは、ヨーロッパの食卓で古くから食後の楽しみとして描かれてきた
— I

甘さはワインを変えるSweetness Changes Wine

第77講魚介とワイン、第79講肉料理とワインに続くペアリングの実践編。コースの最後はデザートです。じつはデザートは、ワイン選びでいちばん失敗しやすい皿でもあります。理由は一つ、甘さです。

辛口のワインが、酸っぱく、苦くなる

誕生日のショートケーキに、乾杯で開けた辛口のシャンパーニュ。華やかな組み合わせなのに、ケーキを食べたあとのひと口が、妙に酸っぱく、薄く感じられた——そんな経験はないでしょうか。英国のワイン教育機関WSETの講座などで教えられている料理とワインの原則では、料理の甘さはワインの苦み・酸味・アルコールの熱さを強く感じさせ、反対にワインの甘さ・果実味・ボディを弱く感じさせると整理されています。

強強く感じるものワインの酸味、苦み、アルコールの熱さ。辛口の白や泡は酸っぱく、渋い赤は苦く感じやすい
弱弱く感じるものワインの甘さ、果実味、ボディ。やや甘口のワインでも、甘いケーキの後では辛口のように、薄く感じられることがある
則だから、ワインはデザートと同じか、それより甘く甘いものに合わせるワインは、少なくともデザートと同じくらい甘いものを選ぶ。デザートワインが甘いのは、この理由による

味は、互いに打ち消し合う

味覚の研究では、二つの味を同時に口にしたとき、互いの強さが変わることが知られています。2003年に米国の研究者がまとめた総説によると、甘味と酸味、甘味と苦味の組み合わせは、主に互いを弱め合う関係にあります。ただし、どれだけ弱め合うかは、それぞれの濃さによって変わります。

出典:Keast R.S.J., Breslin P.A.S., Food Quality and Preference 14(2), 111–124 (2003)。デザートとワインの組み合わせそのものを試験した研究は見当たらないため、本講では「甘いものの後でワインの甘さが感じにくくなる」点は、ワイン教育で広く教えられている経験則として扱います。

甘いワインの甘さは、ワインの酸味を穏やかに感じさせます。デザートとワインの甘さが釣り合っていれば、ワインの酸は「酸っぱさ」ではなく、口の中を軽くする爽やかさとして働きます。合わせるときの目安は甘さの釣り合い、そして酸。甘いだけで酸の少ないワインは、デザートと合わせると重たく感じやすくなります。

— II

甘口ワインの地図A Map of Sweet Wines

ぶどうの糖分をワインに残す方法は、大きく分けて糖分を凝縮させるか、発酵を途中で止めるかの二つです(詳しくは第19講甘口ワイン完全編)。造り方で、甘さの質も合う菓子も変わります。

造り方代表的なワイン特徴合わせやすい菓子(編集部の提案)
貴腐ソーテルヌ(仏)、トカイ・アスー(ハンガリー)貴腐菌でぶどうの水分が抜け、糖と酸が凝縮。蜂蜜や杏を思わせる香りと評されるクレーム・ブリュレ、タルト・タタン、杏のタルト
凍結アイスヴァイン(独)、アイスワイン(加)樹上で凍ったぶどうを凍ったまま搾る。酸がはっきりしている果物のタルト、レアチーズケーキ
陰干しヴィン・サント(伊)、ペドロ・ヒメネス(西)収穫したぶどうを干して糖を凝縮。木の実や干し果物の香り焼き菓子、ナッツ、あんこ
酒精強化ポート(葡)、バニュルス・モーリー(仏)発酵の途中でぶどうの蒸留酒を加え、甘さを残す。度数が高いチョコレート、ガトー・ショコラ
弱発泡・甘口の泡モスカート・ダスティ(伊)、ドゥミ・セックのシャンパーニュ度数が低めで軽やか。果実の香りショートケーキ、果物、軽いムース
暗い背景の前で、金色の甘口ワインが注がれたワイングラスを近くから写した写真
ソーテルヌのグラス — ボルドー南部の貴腐ワイン。金色から、熟成とともに琥珀色へ深まっていく

規定で決まる「甘さ」

甘口ワインの多くは、産地の規定で最低限の糖分が決められています。ソーテルヌは、貴腐のついた過熟ぶどうの収穫が求められ、品種はセミヨン、ソーヴィニヨン・ブラン、ソーヴィニヨン・グリ、ミュスカデル。どの区画のワインにも1リットルあたり45グラム以上の糖分が求められます。トカイのアスーは、2013年ヴィンテージから最低の残糖が1リットルあたり120グラムに引き上げられ、かつての「3・4プットニュ」に当たる甘さの軽いものはなくなりました。スペイン・ヘレスのペドロ・ヒメネスは、干したぶどうを使い、糖分は1リットルあたり212グラム以上と定められた、とびきり甘いワインです。

ドイツのアイスヴァインは、収穫と圧搾のときにぶどうが凍っていることが条件で、ドイツワイン・インスティトゥートはマイナス7℃程度以下の冷え込みが数時間続くことを目安に挙げています。暖冬の2019年ヴィンテージでは、ドイツ全土でアイスヴァインの収穫ができなかったと報じられました。カナダのオンタリオ州では、マイナス8℃以下で収穫・圧搾することが規定されています。

泡の甘さは、ラベルで読める

スパークリングワインの甘さは、EUの規則でラベルの表示が決まっています。ケーキに合わせるなら、辛口の「ブリュット」ではなく、ドゥミ・セックかドゥーを探すのが近道です(スパークリングワインの選び方)。

表示糖分(1リットルあたり)デザートとの相性の目安
ブリュット・ナチュール3g未満甘い菓子には不向き
エクストラ・ブリュット0〜6g甘い菓子には不向き
ブリュット12g未満甘さ控えめの焼き菓子、塩味のつまみ
エクストラ・ドライ12〜17g甘さの穏やかな果物
セック17〜32g果物、軽い焼き菓子
ドゥミ・セック32〜50gショートケーキ、フルーツタルト
ドゥー50g超甘さのしっかりしたケーキ

出典:EU規則2019/33 附属書III、各産地の生産規定(ソーテルヌ=INAO、トカイ=ハンガリー農業省の産品仕様書、ヘレス=原産地呼称統制委員会)、ドイツワイン・インスティトゥート、オンタリオ州VQA。

— III

洋菓子とチョコレートCakes and Chocolate

ここからは、第I章の原則にもとづく編集部の提案です。洋菓子は、甘さの強さと、クリーム・果物・焼き目・チョコレートのどれが主役かを見ると、合わせるワインが決まります。

ショートケーキ・フルーツタルトFruits & crème

生クリームと苺の軽い甘さには、モスカート・ダスティやドゥミ・セックの泡。モスカート・ダスティは、規定上アルコール度数が4.5〜6.5%と低く、甘く香り高い弱発泡のワイン。イタリア・ピエモンテには、甘口の赤の泡ブラケット・ダックイもある。

カスタード・キャラメルCrème brûlée

クレーム・ブリュレ、プリン、タルト・タタン。卵と焦がした砂糖の香りには、貴腐ワインやレイト・ハーヴェストの甘口白。蜂蜜や杏を思わせる香りと、キャラメルの香ばしさが重なる。

チーズケーキCheesecake

レアチーズは酸があるので、酸の生きた甘口——アイスワインや甘口のリースリング。ベイクドなら、樽で熟成させた貴腐ワインも。チーズと甘口ワインの組み合わせは第73講チーズとワインで。

焼き菓子・ナッツBiscotti

トスカーナでは、固く焼いたアーモンドのビスケットカントゥッチをヴィン・サントに浸して食べる習慣で知られる。「カントゥッチーニ・トスカーニ」は2016年にEUの地理的表示(IGP)に登録された。フィナンシェやマドレーヌにも、木の実の香りの甘口を。

チョコレートは別格

日本チョコレート・ココア協会の統計によれば、2023年の日本のチョコレート消費量は1人あたり年2.10kg。身近なのに、ワインと合わせるのはとくに難しい菓子です。甘さに加えて、カカオの苦みと渋みがあり、口の中で溶けた脂がワインの香りを覆うからです。辛口の赤を合わせると、渋みと苦みがぶつかりやすくなります。

ビター・ガトー・ショコラ

カカオの強い菓子には、甘さと度数のしっかりした酒精強化ワイン。グルナッシュ主体の南仏のバニュルスやモーリーは、チョコレートの相手としてよく名前が挙がる。ポートの生産者も、チョコレートとの組み合わせを提案している(第15講 酒精強化ワイン)。

ミルク・ホワイト

ミルクチョコは苦みが穏やかなので、果実味の濃い甘口の赤や、甘口の泡も。ホワイトチョコは甘さとミルクが主役で、苦みがほとんどない。甘口の白や、モスカート・ダスティのような軽い甘口が合わせやすい(ペアリング:チョコレート)。

「チョコには赤」は条件つき。 果実味の濃い辛口の赤がチョコレートに合うという声もあります。合わせるなら、苦みの少ないミルクチョコや、カカオの比率が高すぎないものを、少量ずつ。甘さの強いチョコレート菓子では、辛口の赤は苦く感じやすくなります。
— IV

和菓子と果物Wagashi and Fruits

和菓子とワインの組み合わせについて、専門の団体などがまとめた指針は見当たりません。ここでは第I章の原則にもとづく編集部の提案として、素材ごとに考えます。

黒い漆の皿に、淡い紅色の花をかたどった上生菓子が一つのせられ、中心に黄色いそぼろがあしらわれている
上生菓子 — 白あんを練った繊細な菓子。甘さは上品でも、砂糖の量は少なくない。辛口のワインより、軽やかな甘口が寄り添う
あんこAnko

小豆の粒あん・こしあんの甘さと穀物の香り。干したぶどうやナッツの香りを持つペドロ・ヒメネスやトウニー・ポートを、ほんの少量。どら焼きや最中にも。

練り切り・羊羹Nerikiri

練り切りの淡い甘さには、軽やかな甘口のリースリングやモスカート・ダスティ。羊羹のように甘さの濃いものは、陰干しや酒精強化の甘口へ。

栗・抹茶Marron & matcha

栗の菓子には、木の実の香りの樽熟成の甘口やヴィン・サント。抹茶の苦みはワインの苦みと重なりやすいので、甘さのしっかりした白や泡で受け止める。

果物と、日本のぶどう

果物はそれ自体に酸があるので、洋菓子より合わせやすい素材です。苺や桃には、甘口の泡やロゼ。柿や梨のように酸の少ない果物は、甘口の白を少し冷やして。日本の甘口ワインにも目を向けてみてください。ナイアガラやデラウェアのやや甘口は、香りが華やかで、果物や軽い和菓子と自然になじみます。日本の食卓とワインについては第71講和食とワインもどうぞ。

甘さが同じなら、香りでつなぐ。 杏のタルトに杏の香りの貴腐、栗に木の実の香りの甘口、苺に苺の香りの甘口の赤の泡。甘さの釣り合いが取れたら、次は似た香りを探すと、組み合わせが一段とまとまります。
— V

量・温度・保存How to Serve

甘口ワインは、辛口とは楽しみ方が少し違います。少量を、よく冷やしてが基本です。

量は少しでSmall glass

甘口ワインは糖分が多く、酒精強化ワインは度数も高い。食後に小ぶりのグラスで少量注ぐのが一般的。ハーフボトルが多いのもそのため。

冷やしてTemperature

甘口の白や泡はよく冷やすと甘さが重く感じにくい。ポートなどの赤の甘口は、冷やしすぎず少しひんやりした程度に(適温の目安)。

開けたあとStorage

酒精強化ワインは度数が高く、開栓後も比較的長く楽しめるとされる。泡や軽い甘口は早めに。栓をして冷蔵庫へ(ワインの保存)。

ケーキと一緒に出す場面では、乾杯の泡とデザートの泡を分けるのも一つの方法です。乾杯は辛口のブリュット、ケーキにはドゥミ・セックや甘口の泡を。贈りものや持ち寄りの選び方は第39講パーティーと贈りもの、甘口ワイン全般の選び方は甘口ワイン・デザートワインの選び方にまとめています。

ワインはお酒です。20歳未満の人は飲酒できません。妊娠中・授乳中の人は飲酒を控えてください。甘口ワインは糖分が多く、食後に甘い菓子と一緒にとると糖分も重なります。体調や持病が気になる人は、医師の指示にしたがってください(第37講 ワインと健康)。

— FAQ

よくある質問Frequently asked

Qケーキに辛口のシャンパーニュは合わない?

甘いケーキと合わせると、辛口の泡は酸っぱく、薄く感じやすくなります。乾杯は辛口で、ケーキにはラベルにドゥミ・セックやドゥーとある甘口の泡、またはモスカート・ダスティを合わせると、どちらもおいしく楽しめます。

Qチョコレートに合うワインは?

カカオの強いビターなチョコには、ポートやバニュルスのような甘い酒精強化ワインがよく挙げられます。ミルクチョコには果実味の濃い甘口、ホワイトチョコには軽い甘口の白や泡。辛口の赤は苦みがぶつかりやすいので、合わせるなら少量ずつ試して。

Q和菓子にワインは合う?

合わせ方しだいです。公的な指針はありませんが、原則は洋菓子と同じで、菓子と同じかそれより甘いワインを。あんこにはペドロ・ヒメネスやトウニー・ポートを少量、練り切りには軽い甘口のリースリングが編集部のおすすめです。

— Recap

甘さをそろえ、酸で軽く、香りでつなぐMatch the Sweetness

デザートとワインの原則は、ほかの料理よりずっと単純です。甘いものは、ワインの酸味と苦みを強く、甘さと果実味を弱く感じさせる。だから、ワインはデザートと同じか、それより甘く。そのうえで、酸のあるワインを選べば後味が軽くなり、似た香りを選べば組み合わせがまとまります。

ショートケーキには甘口の泡、カスタードやキャラメルには貴腐ワイン、焼き菓子にはヴィン・サント、ビターなチョコレートには酒精強化ワイン、あんこにはペドロ・ヒメネスを少しだけ。甘さ・酸・香りの三つを見れば、食後の一杯は迷わなくなります。

次の一本。 今回はモスカート・ダスティと、トウニー・ポートを一本ずつ。苺のショートケーキ、ビターなチョコレート、どら焼きを用意して、六通りを試してください。軽い甘口と濃い甘口、どの菓子にどちらが合うか。最後に、乾杯用の辛口の泡をケーキと合わせて、第I章の「酸っぱくなる」現象も確かめてみましょう。

次回は銘醸図鑑へ。「ポート(ドウロ)」。今回、チョコレートやあんこの相手として名前が挙がった、ポルトガル北部ドウロ川沿いの酒精強化ワインです。段々畑の続く渓谷、ヴィンテージ・ポートとトウニー、ポルトの対岸の熟成庫までを歩きます(先に第15講酒精強化ワインと第21講ポルトガルをどうぞ)。

Le dessert, avec un vin plus doux.

次にケーキを切り分けるとき、グラスの中のワインがケーキより甘いかどうか、ひと口目で確かめてみてください。甘口のワインを少しだけ、よく冷やして。食後のひとときは、それだけで特別な時間になります。

写真クレジット(すべてWikimedia Commons):
1. 果物とワイングラスの静物画 — “Jasper Geeraards - Dessert (Fruits and Glass of Wine)” by Jasper Geeraards, Public domain
2. ソーテルヌのグラス — “Glass of Château d’Yquem, Sauternes” by Megan Mallen, CC BY 2.0
3. 上生菓子 — “Namagashi” by akira yamada from Yokohama, Japan, CC BY-SA 2.0
※掲載写真はレイアウト上の都合によりリサイズ・トリミングして掲載しています。
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