第97講の最後に予告したとおり、今回はボルドーの街のすぐ南へ向かいます。ペサックのぶどう畑に立つと、葉の向こうに給水塔が見えます。畑の先には家並みが続きます。ここは、1855年の格付けでメドックの外からただ一軒選ばれたシャトー・オー・ブリオンの土地です。そして、赤と辛口の白がともに主役を張る土地でもあります。
砂利の帯と、北の10コミューン
「グラーヴ」は砂利を意味します。INAOの説明では、痩せた土に大小の砂利が広がり、昼の熱をぶどうに返し、水はけに優れます。AOCグラーヴは、ボルドーの北からランゴンの南東まで、ガロンヌ左岸に幅およそ10kmで続く帯で、43のコミューンにまたがります。認められたのは1937年3月4日。赤と辛口の白のAOCで、赤はカベルネ・ソーヴィニヨンとメルローの釣り合いで造られ、白はセミヨン、ソーヴィニヨン、ミュスカデルから造られます。
その帯の北端が、AOCペサック・レオニャンです。1987年9月9日の政令で認められ、範囲はカドージャック、カネジャン、グラディニャン、レオニャン、マルティヤック、メリニャック、ペサック、サン=メダール=デランス、タランス、ヴィルナーヴ=ドルノンの10コミューン。いまの仕様書はこう定めています。
- 色──泡のない赤と白だけ。白の糖分は1リットルあたり4g以下で、辛口に限られる
- 赤の品種──カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、カベルネ・フラン、プティ・ヴェルド、コ(マルベック)、カルメネール
- 白の品種──ソーヴィニヨン、ソーヴィニヨン・グリ、セミヨン、ミュスカデル
- 畑──1haあたり6,500本以上を植え、基準の収量は1haあたり54hL(超えてよい限度は60hL)
土は、ガロンヌの古い流れが運んだものです。INAOによれば、第三紀の終わりから第四紀にかけ、ピレネーの氷河が融けるたびに大量の砂利が運ばれ、石灰岩と貝殻の混じった層の上に積もりました。砂利の厚さは3mを超えることもあり、ゆるやかな丘(クループ)を作ります。斜面と、ガロンヌへ注ぐ小さな流れが水を逃がします。AOCの区画からは、新しい沖積土、砂地、水を通さない下層土の畑が外されました。カベルネ・ソーヴィニヨンが赤の中心にあるのは、INAOの説明ではこの砂利でよく熟すためです。熟成とともに、カシスの香りが煙やスパイス、革、干しプラムへ移る傾向があるとされます。
街に削られた畑
この土地の難しさは、ボルドーのすぐ隣にあることでした。INAOの仕様書は歴史をこう記しています。中世には「ラス・グラバス・ド・ブルデウ」(ボルドーのグラーヴ)と呼ばれ、1152年のアリエノール・ダキテーヌの結婚で英国との結びつきが強まりました。14世紀には英国でクラレットが好まれ、畑が広がります。
そして20世紀。街が広がるなかで、のちのAOCの範囲だけで、20世紀初めから1970年代までに3,000ha以上の畑と数百の造り手が失われました。残ったのは550ha、そのうち100haも近くなくなる見込みだったといいます。
ここで若い栽培家たちが動きます。彼らはグラーヴのなかに階層を求め、組合によれば創設の会長アンドレ・リュルトンのもとで、1987年のAOCにたどり着きました。いまの言葉でいえば、畑を守るために名前を分けたのです。2010年の時点で畑は1,640ha、61の生産者。組合はいま1,800haを超えると伝えています。仕様書の言葉を借りれば、名高い畑のいくつかは、住宅地の中の緑の避難所です。

1855年、メドックの外の第1級
ボルドーの赤の序列といえば、1855年の格付けです。名前のとおりほとんどがメドックのシャトーで、例外がオー・ブリオンでした。一覧は仲買人たちが取引価格をもとに作ったもので、オー・ブリオンは第1級の4軒の一つとして載りました。ムートン・ロートシルトが加わる1973年までは、4軒だけの第1級です。
市場の評価は、ずっと早くからありました。ポンタックの事業はロンドンにも届き、1660年にはチャールズ2世の酒蔵の記録に、1663年にはピープスの日記に名が現れ、1666年にはロンドンに酒場「ポンタックズ・ヘッド」が開いたと、デキャンター誌の資料は記します。ピープスの言葉は「これまで出会ったことのない、よい、きわめて独特な味」というものでした。
そして1855年の時点では、オー・ブリオンは「グラーヴのシャトー」でした。ペサック・レオニャンの名が生まれるのは132年後です。1975年産のラベルには、まだ「Appellation Graves Contrôlée」と刷られています。名前があとから土地に追いついた、という順序です。
もう一つの格付け——1953年と1959年
混同されやすいのが、グラーヴ格付けです。これはAOCではなく、シャトーのワインの一覧。グラーヴのワイン組合の働きかけで、INAOが選んだ審査員が1953年に選び、1959年に数軒を加えて修正しました。BBRによれば、順位のない一つの階級で、アルファベット順に並びます。メドックのように何級という序列がありません。
もう一つの特徴は、赤と白を別々に格付けしたことです。メドックとサン=テミリオンの格付けは赤で、1855年の白の格付けはソーテルヌの甘口。ここでは辛口の白に格が与えられました。1959年の一覧は次の16軒です。
- 赤のみ(7軒)──オー・ブリオン、ラ・ミッション・オー・ブリオン、ラ・トゥール・オー・ブリオン、パプ・クレマン、スミス・オー・ラフィット、オー・バイィ、ド・フューザル
- 白のみ(3軒)──ラヴィル・オー・ブリオン、クーアン、クーアン・リュルトン
- 赤と白(6軒)──ブスコー、カルボニュー、ドメーヌ・ド・シュヴァリエ、ラトゥール・マルティヤック、マラルティック・ラグラヴィエール、オリヴィエ
いま組合が挙げるのは14軒です。ラ・トゥールとラヴィルが、ディロン家のもとでラ・ミッションに統合されたためです。
順序に注意すると、制度の関係が見えます。格付けが先で、AOCは1959年の修正から28年後。名前が「グラーヴ」のままなのはこのためです。INAOの仕様書は、16軒のすべてがペサック・レオニャンの範囲にあると記しています。AOCグラーヴのほかの土地に、格付けの一軒はありません。ラベルに「Cru Classé de Graves」と書けるのは、AOCの決まりのなかにその表記が認められているからです。
オー・ブリオンは、この一覧にも赤で載りました。1855年とあわせて二つの格付けに名前のある、ただ一軒のシャトーです。白は同じ一覧に見えません。1960年に加えられたとする説もあるとBBRは書いていますが、議論があります。
辛口の白という、もう一つの顔
ペサック・レオニャンを語るとき、赤だけでは半分です。組合はここを、コミューン名のAOCとしてボルドーで唯一、赤と白の両方を造る土地と説明し、辛口の白が量のおよそ5分の1を占めると説明します。白を造るのはソーヴィニヨンとセミヨンが中心で、INAOの説明では、若いうちは淡い麦わら色で、果実味と張りのある味わい。年を経ると金色を帯び、菩提樹やエニシダのような花の香りが現れるとされます。
二つの品種の役割を、組合はこう分けています。ソーヴィニヨン・ブランが骨格と鮮やかさ、セミヨンが厚みと果実の砂糖煮のような香り。ミュスカデルは花の香りを添えます。甘口のソーテルヌを支えるのと同じ品種が、ここでは辛口に仕立てられます。カルボニューの白は、樽と大樽で10か月熟成します。比率は造り手で大きく違います。UGCBの資料では、マラルティック・ラグラヴィエールはソーヴィニヨン・ブランが79%、パプ・クレマンはセミヨンが49%でソーヴィニヨン・ブランを上回ります。
量の少なさも、この白の性格です。ドメーヌ・ド・シュヴァリエの白は畑7haから2万5,000本。オー・ブリオンの白は畑全体51.5haのうち約2.8ha。その一方で、カルボニューのように白が15万本という造り手もいて、グラーヴの白の入口を広げています。
造り手を訪ねる
街に最も近いのは、オー・ブリオンとラ・ミッション・オー・ブリオンです。1935年にディロンが前者を取得し、1983年に後者も手に入れました。隣り合う二軒は、いま同じ一族の手にあります。ペサックにはもう一軒、教皇の名を持つパプ・クレマンがあります。
南へ下るとレオニャンです。ドメーヌ・ド・シュヴァリエは赤が90%の畑から、赤白ともに格付けを受けたワインを出します。オー・バイィは格付けが赤のみで、ひとまとまりの30haに樹齢100年の古木が残ります。カルボニューは100haのうち白の比重が大きく、歴史的に白で知られてきた一軒です。マラルティック・ラグラヴィエールは1997年からボニー家の手にあり、畑はUGCBの資料で73haです。さらに南のマルティヤックでは、スミス・オー・ラフィットが80haのギュンツ期の砂利の上で、自前の樽を使って赤と白を造ります。
選び方と、注ぐ場面
ラベルで見たいのは三つです。「Pessac-Léognan」はAOCの名前。「Cru Classé de Graves」は格付けの一軒である印。そして色です。格付けは赤と白で別なので、スミス・オー・ラフィットの白のように、格付けの対象でない色のワインもあります。ペサック・レオニャンの仕様書は「Vin de Graves」「Grand Vin de Graves」の併記も認めています。
はじめての一本なら、白から入る手があります。カルボニューは白の量がまとまった一軒で、セカンドのラ・クロワ・ド・カルボニューは国内通販で4,500円台の例も見られます。赤なら、同じくセカンドのル・クラランス・ド・オー・ブリオンで第1級の入口に触れることもできます。価格は年と店で変わるため、目安としてご覧ください。
注ぐ場面は、白なら魚の料理です。天ぷらや焼き魚、樽の香りのある白なら鶏のローストも合わせやすいでしょう(編集部の提案)。赤はローストビーフやステーキに。カウンターで同じシャトーの赤と白を一杯ずつ頼めるなら、砂利の丘が二つの色をどう分けるのかが見えてきます。メドックと比べるならメドック格付け、ボルドー全体の地図は第5講 ボルドー完全編にまとめています。樽の役割は第63講も手がかりになります。
次回は産地講座に戻り、第98講『ナパ・ヴァレー完全編』をお届けします。ボルドーの品種をカリフォルニアの光の下で育てた谷の、畑の区分と造り手をたどります。