ジャムから始まった物語
サンクゼールの話は、ワインではなくペンションから始まります。1975年、久世良三氏が長野・新潟県境の斑尾高原でペンションの経営を始めました。そこで妻のまゆみ氏が作っていた手作りジャムが宿泊客のあいだで評判になり、1979年、ジャムの製造販売に乗り出します。公式には、この年の6月1日が創業です。
1982年6月、中野市で株式会社斑尾高原農場を設立。サンクゼールという社名になるのはずっと後の2005年10月で、それまでの会社は「斑尾高原農場」でした。昔の話を「サンクゼール社が〜」と書くと、実は少し時代が合いません。
旧三水村の丘へ——1988年の初仕込み
ジャムの工房がワイナリーになるまでには、十年近い準備がありました。1985年に三水村(現・飯綱町)で本社・工場・農園をつくる計画が動き出し、1986年には村が百周年記念事業の一環として企業誘致を決定。1987年に約16,000平方メートルの土地を取得して工事に入ります。
1988年4月に建物が完成して移転し、同時にワインの試験製造免許を取得。同年10月に初仕込みを迎えました。翌1989年にはレストランを開き、ぶどうを育てる農業生産法人も立ち上げます。そして1990年、「サンクゼール」ブランドが発足し、ワイナリーと売店が完成——いまの「サンクゼールの丘」の骨格がここでそろいました。果実酒の製造免許を取ったのは1994年6月です。
三つのヴィンヤード
丘の周りには、公式サイトが紹介する三つのヴィンヤードがあります。
- 大入(おおいり)ヴィンヤード——標高約650mの丘陵地で、面積は約7ha。畑の中心です。
- チャペルヴィンヤード——レストランの目の前に広がる急斜面の畑。後述の赤ワイン「チャペルヴィンヤードプラス」の名の由来です。
- 戸谷峰(とやみね)ヴィンヤード
合わせて約10ha。ただし実際に植わっているのは約3.5ha・約12,000本で、最大15,000本まで植える余地を残しています。看板品種はシャルドネです。北信の冷涼な丘で、酸を保ったまま熟すことをねらった選択だと考えられます(栽培の一年の流れは第59講)。
ワインとシードル——ラインナップの見取り図
公式のワインリストを眺めると、サンクゼールの造りは大きく四つの系統に分けて見ると整理しやすくなります。
- シャルドネの系統——サンクゼールシャルドネ、長野シャルドネなど。シャルドネは国際コンクール「シャルドネ・デュ・モンド」でも評価され、2025年にはサンクゼールシャルドネNVが金賞と世界トップ10入り(同社によれば、トップ10で唯一の日本ワイン)、2023年と2026年には長野シャルドネが金賞を受けています。
- 赤とブレンド——長野ルージュ、チャペルヴィンヤードプラス、サンクチュアリー、ザイオンなど。チャペルヴィンヤードプラス2018は、2022年の国際女性審査員コンクール「フェミナリーズ」で金賞を受けました。
- 香りの白と北米系品種——ナイアガラを使ったナイアガラブラン、ケルナー、そして長野県の伝統品種・竜眼を使った微甘口の白「長野竜眼」。ロゼのキャンベルローズもあります。
- 泡とりんご——スパークリングのほか、飯綱シードル(ブラムリー&ふじ/ふじ&高坂)やいいづなアップルブランデー。飯綱町はりんごの産地で、2013年2月にはサンクゼールのシードルが長野県原産地呼称の認定を受けています。飯綱シードル ブラムリー&ふじ2022はジャパン・シードル・アワード2023で最高評価の五つ星(大賞)でした。
日本ワインコンクールでの足跡
公式サイトの受賞一覧から、日本ワインコンクール(旧・国産ワインコンクール)の主な結果を年代順に抜き出すと、造りの軸がよく見えます。
| 年 | ワイン | 結果 |
|---|---|---|
| 2005 | サンクゼールシャルドネ2003 | 銀賞 |
| 2011 | サンクゼールシャルドネ2008 | 銀賞 |
| 2016・2017 | ナイアガラブラン2015・2016 | 銀賞 |
| 2019 | ナイアガラブラン2018 | 銀賞・部門最高賞・コストパフォーマンス賞 |
| 2022 | サンクゼールシャルドネ2019/サンクチュアリー2019/長野シャルドネ2019 | 各銀賞 |
| 2025 | ナイアガラブラン2024 | 銀賞・部門最高賞・コストパフォーマンス賞 |
| 2026 | ナイアガラブラン2025 | 金賞・部門最高賞 |
シャルドネで20年以上評価を積み、ナイアガラでは部門の頂点を何度も取っている——欧州系と北米系の両方で結果を出しているのが、この造り手の特徴です。日本ワイナリーアワードでは2026年に四つ星を得ています。
丘まるごと楽しむワイナリー
丘にはサンクゼール・ワイナリー本店、1989年開業のワイナリーレストラン・サンクゼール、デリカテッセン、そして2005年に自分たちの手で建てたという白いサンクゼールチャペルが点在し、北信五岳を望むロケーションごと楽しめる造りになっています。
- 無料ワイナリーツアー:11:00/13:30/15:00、約15分、各回10名まで。予約不要で、本店で整理券を受け取る方式。
- 有料ツアー(要予約):3種を試飲するテイスティングツアー(約1時間・2,200円)、ガーデンランチ付き(約2時間・4,400円〜)、レストランランチ付きの半日コース(約3.5時間・6,000円〜)など。
- 本店:平日9:00〜17:00、土日祝9:00〜18:00。ワイン、シードル、ジュースの試飲ができます。
- レストラン:ランチ11:00〜15:00。定休日は月ごとに変わるので、公式サイトのカレンダーで確認を。
いずれも時期によって変わることがあるため、出発前に公式サイトを見ておくのが安心です。ワイナリーを訪ねるときの基本的な段取りは第51講にまとめています。
北信州ドライブの目的地に——アクセス
車なら長野市中心部から国道18号で北へ約40分、上信越自動車道の信州中野ICから約12分。電車なら長野駅から牟礼(むれ)駅まで約20分、そこからタクシーで約5分です(長野〜牟礼間はしなの鉄道北しなの線)。ワインを飲むなら、電車とタクシーの組み合わせが現実的です。
ヴィラデスト(東御)やマンズワイン小諸が千曲川沿いの東信の顔なら、サンクゼールは北信の顔。食とワインの「買って・食べて・飲んで」が一か所で完結するので、家族連れのワイナリー入門にも向いています。
