りんご農家から生まれた醸造所
VinVie(ヴァンヴィ)は、長野県の南部、下伊那郡松川町にあるワインとシードルの醸造所です。運営は株式会社VINVIE。名前は、仏語の vin(ワイン)と vie(人生・生活・生命)を組み合わせたもので、公式は「命を継なぐ/人生を潤す/生活に根付くワイン」という意味を込めたと説明しています。
始まりは、町のりんご農家でした。代表の竹村暢子さんは、松川町の「りんご屋たけむら」に嫁ぎ、長く果樹の仕事に携わってきた人です。2016年にはドイツ・フランクフルトの国際シードル見本市に足を運び、2018年4月4日に会社を設立。栽培を家業のりんご農家を継ぐ竹村隆さん、栽培と醸造を東京農業大学で農芸化学を学んだ竹村剛さん、営業と企画をヴィラデストワイナリーで働いた経験を持つ佐藤篤さんが担います。外から来た投資ではなく、町の果樹農家が自分たちの果実を酒にするために立ち上げた蔵——それがVinVieの成り立ちです。
醸造担当の竹村剛さんは、町内の老舗信州まし野ワインなどで経験を積んでいます。自社の醸造所ができる前、最初期のシードルはまし野ワインへの委託醸造でした。
「りんごワイン・シードル特区」の町
松川町は、大正時代に本格的な果樹栽培が始まった果樹の町です。町の農業粗生産額の7割を果樹が占め、りんご、梨、洋梨など多くの種類が育ちます。
その果樹を酒にする道を開いたのが、「南信州松川町りんごワイン・シードル特区」です。2016年に認定された構造改革特区で、町の全域が対象。酒税法の特例によって、地元の果実を使う小さな醸造所が酒類製造免許を取りやすくなる仕組みです。特区の申請に先立つ2014年には、農家たちが振興会を立ち上げていました。竹村暢子さんは、その流れを汲む「南信州まつかわりんごワイン・シードル振興会」の広報も務めています。
特区ができる前、町のワイナリーは信州まし野ワインの一軒だけでした。現在は、VinVieのほか、果樹園が営むマルカメ醸造所などが加わっています。長野県の「信州ワインバレー構想」では、松川町は天竜川ワインバレーに属し、VinVieも加盟ワイナリーに名を連ねます。
丘の上の醸造所と、梨棚のぶどう
醸造所は、標高720mの丘の上に建っています。2020年4月11日にショップとともに開業し、同じ年から自社での醸造を始めました。
ぶどうの栽培で面白いのは、古い梨棚を活かした棚栽培です。果樹の町ならではの工夫で、日本のぶどう畑に多い棚仕立て(第59講「栽培編」で扱った棚と垣根の違い)を、梨の産地の設備で実現しています。公式サイトが挙げる栽培品種は次のとおりです。
- 白:ソーヴィニヨン・ブラン、プティ・マンサン、ゲヴュルツトラミネール、ケルナー、竜眼
- 赤:メルロー、シラー、カベルネ・フラン、ピノ・ノワール
- 生食・醸造兼用:ナイアガラ、デラウェア
プティ・マンサンやゲヴュルツトラミネールのような、日本ではまだ珍しい品種が並ぶのが特徴です。ただし、すべてのワインが松川町のぶどうだけで造られているわけではありません。長野県の原産地呼称(GI長野)の2026年8月の認定資料を見ると、「ルージュ 山葡萄 2024」は飯田市の畑のヤマブドウ100%、白ブレンド「緒(いとぐち)2025」はソーヴィニヨン・ブランとシャルドネを半分ずつで松川町と高山村の畑、「プチマンサン 2025」は高森町の畑のぶどうです。南信州を中心に、県内の複数の畑から果実を集めていると理解するのが正確です。
多彩なりんご——シードルの蔵として
VinVieを語るうえで欠かせないのがシードルです。りんご農家が母体だけに、公式サイトが挙げるりんごの品種は、フジ、王林、紅玉、シナノゴールド、秋映、つがる、シナノレッドといった日本の生食用から、グラニースミス、ピンクレディ、そしてヴァージニアクラブ、コックスオレンジピピン、ゴールデンラセット、マッキントッシュといった欧米のシードル用・調理用の品種まで、実に多彩です。
ワインでいう「品種のブレンド」は、シードルでも味を決めます。長野県の原産地呼称管理制度(NAC)のシードル認定資料では、たとえば次のような配合が公開されています。
- ビターシャープ:コックスオレンジピピン60%、ゴールデンラセット20%、ブラムリー20%
- クリプスピンク:ピンクレディ100%
- 蜂酵母のシードル:紅玉37%、シナノスイート26%、秋映26%ほか
酸味と渋みを持つ醸造用りんごを使う「ビタースイート」「ビターシャープ」は、生食用のりんごだけでは出せない骨格を狙ったもの。ほかにホップを使った「ホップシードル」、山の塩を使った「ゴーゼシードル」、りんご果汁を凍らせて濃縮する「紗[うすぎぬ]クリオコンセントレーション」、その年の新りんごで造る「南信州アップルヌーヴォー」など、実験的なラインナップが並びます。
蜂の酵母で醸す
とりわけユニークなのが「蜂酵母のシードル」です。米ノースカロライナ州立大学の研究で見つかった蜂に由来する酵母を使い、2019年7月に長野県庁で発表されました。アシナガバチ由来の酵母は紅玉主体のりんごに、マルハナバチ由来の酵母はピンクレディ主体のりんごに合わせています。同社はこの酵母のシードルへの使用を初の試みとしています。
ワインのラインナップ
ワインは、2,000円前後の日常の一本と、品種の個性を立てた上位の一本の二層で組まれています。
- 日常のシリーズ(2,090〜2,200円前後):ブラン シャルドネ/ルージュ 山葡萄/グリ 竜眼/ブラン ナイアガラ/ロゼ
- ブレンド(2,860円前後):緒[いとぐち](白)/編[とじいと](赤)
- 品種もの(3,500円前後〜):ソーヴィニヨン・ブラン/ゲヴュルツトラミネール/プティ・マンサン 醸し
- 樽熟成(3,960円前後):カベルネ・フラン 樽熟成/シラー 樽熟成
※価格は酒販店での税込価格の例。ヴィンテージ・販売店により異なります。最新は公式オンラインショップで確認してください。
「プティ・マンサン 醸し」は、白ぶどうを果皮ごと発酵させる、いわゆるオレンジワインのスタイルです(オレンジワイン)。「グリ 竜眼」は、長野で古くから栽培されてきた竜眼(善光寺ぶどう)を使った一本です。日本の在来品種と欧州系品種、どちらにも手を伸ばしているのがVinVieの幅の広さです。
2026年には、第21回GI長野でワイン3銘柄、第40回NACでシードル3銘柄が認定を受けました。
はじめての一本の選び方
- まず蔵の個性を知るなら:スタンダードの「VinVie シードル」と「ブラン シャルドネ」を一本ずつ。りんご農家の蔵であることが、並べるとよくわかります。
- 食事に合わせるなら:「ルージュ 山葡萄」。ヤマブドウらしい酸は、きのこや鹿肉など南信州の山の料理と組ませたくなります。
- シードル好きなら:醸造用りんごを使う「ビターシャープ」か「蜂酵母のシードル」。一般的な甘いシードルとの違いがはっきり出ます。
醸造所を訪ねる
ショップは金・土・日・月曜と祝日の10〜17時に開いています(2026年4月から金曜を追加。年末年始と臨時休業あり)。第三者のサイトには以前の営業日が残っていることがあるので、訪問前に公式サイトで確かめてください。
- 見学ツアー:1人1,000円・約30分。11時・13時・15時の回を専用フォームから予約(最大15名)。
- 試飲:有料。50ccの試飲とグラス120ccから選べます(例:赤ブレンド「編」350円/800円、シードル300円/600円)。
- 窓越しの見学:ツアーに参加しなくても、醸造設備はガラス越しに常時見られます。
- カフェ・レストラン:ありません。りんごジュースやコーヒー、ナッツなどの軽いものはあります。
アクセスは、中央道・松川ICから車で約5分、JR飯田線の伊那大島駅からタクシーで約10分。運転する人がいるなら、ショップのりんごジュースは同行者のための一本にもなります(飲まない人と一緒に楽しむ工夫は第65講「ノンアルコール&低アルコールワイン完全編」で)。
同じ長野で「暮らしとワイン」を掲げるサンクゼールや、代表メンバーのゆかりがあるヴィラデストワイナリーとあわせて訪ねると、長野のワインづくりの多様さが見えてきます。ワイナリー訪問の基本は第51講で、日本ワインの産地全体は第9講でまとめています。
