エッセイストが描いた「田園の理想郷」
ヴィラデストを開いたのは、エッセイスト・画家の玉村豊男氏(1945–2026)です。ただ、ワイナリーが最初にあったわけではありません。
1991年8月、玉村夫妻は東京から小県郡東部町(現・東御市)へ移り、西洋野菜とハーブを育てる農園「ヴィラデスト」を始めました。翌1992年5月、0.2ヘクタールの畑にメルロー、シャルドネ、ピノ・ノワールを植えます。これが最初のぶどうです。醸造免許を取ってワイナリーとして初めて仕込んだのは、それから11年後の2003年10月。翌2004年4月にショップとカフェが開き、法人「株式会社ヴィラデストワイナリー」も同月に設立されました。
つまりこの一軒は、畑とガーデンが先にあって、ワイナリーがあとから加わった場所です。ぶどう畑とハーブガーデン、カフェ、ショップ、ギャラリーがひとつの丘にまとまっている構成は、その順番をそのまま映しています。
玉村氏は2026年8月9日、80歳で亡くなりました(会社の公式発表は8月25日)。ヴィラデストの代表取締役会長として、また後述する日本ワイン農業研究所の代表取締役社長として、長野のワインの制度づくりにも関わった人です。この記事では、その仕事を過去形で書きます。
標高850メートル、三つの区画
ワイナリーの立地は、千曲川流域の段丘の上、標高約850メートル。公式が強調するのは「日本有数の小雨地帯」であること、日照時間が長いこと、昼夜の寒暖差が大きいことの三つです。雨が少ないことは、ぶどうの病気を抑えるうえで日本ではきわめて有利に働きます(第59講)。
畑は、時期を追って三つの区画に広がりました。
- 和・田沢地区(1992年〜)——ワイナリーのある丘。標高約850m。垣根仕立て。
- 八重原地区(2015年〜)——メルロー主体で約2ヘクタールを新規植栽。
- 御堂地区(2019年〜)——シャルドネ主体で約3ヘクタールを新規植栽。2024年に「御堂シャルドネ」として初めて単独で瓶詰めされたと公式ニュースにあります。
品種は公式のワイナリー紹介にあるとおりシャルドネ、メルロー、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、ゲヴュルツトラミネール。ワインリストにはピノ・グリもあります。
ワインの階段
ラインナップは三段構えです。
頂点がヴィニュロンズリザーブ(シャルドネ/メルロー)。その下にプリマベーラ(シャルドネ/メルロー・カベルネ)、いちばん気軽なカンティーヌ(ブラン=シャルドネ+ソーヴィニヨン・ブラン/ロゼ=メルロー)。これにタザワメルロー、八重原メルロー、御堂シャルドネといった区画名を冠したもの、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン(樽熟成あり/なし)、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネール、オレンジシャルドネ、貴腐シャルドネなどが並びます。シードルとぶどうジュース、蒸留酒(ヴィナッチャ)まで造っているのは、「農園が先」のワイナリーらしいところです。
看板のヴィニュロンズリザーブ シャルドネについて、公式のテクニカルシート(2025年ヴィンテージ)は仕様をはっきり書いています。生産本数4,034本、アルコール12.5%、新樽比率約25%、樽発酵、マロラクティック発酵あり、樽熟成約7か月。仕込みは2025年9月29日から10月12日にかけて、瓶詰めは2026年5月18日。樽は使うが新樽は4分の1にとどめ、収穫から1年以内に瓶に入れる——冷涼な高地の酸を、樽で塗りつぶさない設計です。
価格は公式で、プリマベーラが3,410円、単一品種ものが3,850円前後、ソーヴィニヨン・ブラン樽熟成が4,620円、ヴィニュロンズリザーブが5,500円(いずれも税込)。中心帯はおよそ3,400〜5,500円と見ておけば大きく外れません。
サミットに二度出たシャルドネ
このワイナリーの評価を一言で示すなら、ヴィニュロンズリザーブ シャルドネがサミットで二度、外相会合で一度使われたという事実でしょう。
公式の受賞歴によれば、2008年7月の北海道洞爺湖サミットではワーキングランチで2005年が、2016年5月の伊勢志摩サミットではワーキングディナーで2014年が、各国首脳に供されました。2023年にはG7長野県軽井沢外相会合の夕食会で「ヴィニュロンズリザーブ メルロー2020」が使われています。
コンクールの結果もぶれていません。2008年、シャルドネ2007が国産ワインコンクール(現・日本ワインコンクール)で金賞と欧州系白ワイン最優秀カテゴリー賞。2015年にはソーヴィニヨン・ブラン2014が日本ワインコンクール金賞。近年は海外の審査にも出しており、2026年はシャルドネ2024がデカンター・ワールド・ワイン・アワード(DWWA)で銀賞、メルロー2022も同じく銀賞、日本ワインコンクール2026ではシャルドネ2025とプリマベーラ シャルドネ2024がそれぞれ銀賞でした。日本ワイナリーアワードの2026年(第9回)一覧では4つ星に置かれています。
千曲川ワインバレーの起点
ヴィラデストがほかの一軒と違うのは、自分の畑の外側に仕組みを作ったことです。
東御市は2008年11月、長野県で最初のワイン特区(とうみSunライズ ワイン・リキュール特区)に認定されました。果実酒の最低製造数量が年6キロリットルから2キロリットルに下がり、小さな畑からでもワイナリーを始められるようになった制度です。2015年には周辺市町村に広がった「千曲川ワインバレー(東地区)特区」となり、その後も加わる自治体が増えて、現在は12市町村にまたがっています。
同じ2015年4月、ヴィラデストは「千曲川ワインアカデミー」を開講しました。主催は玉村氏が代表を務めた日本ワイン農業研究所(=兄弟ワイナリーのアルカンヴィーニュ)で、玉村氏が「主宰」。ぶどう栽培・醸造・ワイナリー起業経営を土日の座学と実習で1年かけて学ぶ、民間のワインアカデミーです。東御市の公式ページに載る市内のワイナリーはいまや15軒。長野の東側に造り手が集まった背景には、特区とアカデミー、そしてその真ん中にこの丘があったことが効いています。
丘の上でランチを——予約と冬季休業
訪問のハイライトは、ガーデン越しに千曲川と山並みを望むカフェです。ただし、ふらりと行くと入れないことがあります。カフェの食事(11:30〜15:00)は予約必須。個人・個人グループのみで最大16名、グループは13:30以降が推奨です。
ワイナリーツアーは営業期間中の土日祝、13:00の1回のみ。定員10名、1名500円(税込)、中学生以上で、前日までの予約が必要です。予約なしでも歩けるQRコード式の無料セルフガイドツアーがあるので、平日に来た人はこちらを。ショップでの試飲はなく、飲むならカフェのグラスワイン(840〜1,200円)です。
営業は10:00〜17:00(カフェ休業日はショップのみ16:00まで)、毎週水曜が定休(時期により変動)。そして12月下旬〜3月中旬は冬季休業で、2026年は3月14日に開きました。計画は春から秋に。
アクセスは上信越自動車道東部湯の丸ICから約4km、北陸新幹線上田駅からタクシーで30分弱、しなの鉄道田中駅または大屋駅からタクシーで約10分(各駅前にタクシー常駐)。駐車場は第一・第二があり、大型バスは第二へ。犬は駐犬場までで、ショップとカフェには入れません。
同じ東御の丘にはアルカンヴィーニュ(和6667)があり、隣の小諸には標高約950mのテールドシエルがあります。一日で2〜3軒を回るなら、この三角形が組みやすい(第51講)。
ワイナリーの前に、畑とガーデンがあった。その順番を知って丘に立つと、テーブルに置かれたシャルドネの意味が少し変わって見えます。
