東京の司法書士が、東御で蔵を建てるまで
アクアテラソル馨光庵は、長野県東御市鞍掛の古くからの集落に建つワイナリーです。NAGANO WINE(長野県の公式サイト)の「ワインのつくり手を訪ねて」vol.89(2024年2月15日掲載)によれば、オーナーの平井祐一朗さんは1966年生まれ、東京都出身。東京で営んでいた司法書士事務所を後進にゆずり、2018年、52歳で長野県へ移住しました。千曲川ワインアカデミーの5期生としてワインづくりを学びながら、信州うえだファームで2年間の農業研修を受け、新規就農しています。
公式サイトの新着情報によれば、ワイナリーは2023年9月1日に完成し、9月21日に果実酒製造免許を取得。その秋から、委託醸造を頼むワイン農家のぶどうと、馨光庵ブランドのワインの仕込みが始まりました。ファーストヴィンテージのリリースは2024年5月です。代表のあいさつで平井さんは、自然派か慣行かに縛られず、自然と対話するなかで最善の方法を見つけて栽培と醸造につなげたいと書いています。
醸造責任者の中田庸介さんは1989年生まれ。NAGANO WINEの記事によれば、2012年にヴィラデストワイナリーに入社してぶどう栽培とワイン醸造に携わり、2019年に独立。「なかだ農醸」として野菜とワイン用ぶどうを育てています。アドバイザーは「カーヴハタノ」の波田野信孝さんで、平井さんにとってはワインづくりの師、中田さんにとっては元職場の先輩にあたります。
木組みの蔵と、名前に込めたもの
建物を手がけたのは、宮城県名取市で大工店「馨香庵」を営む棟梁の千葉隆平さんです。公式サイトによれば、檜・杉・松・欅・栗を150本余り刻み、必要最小限の釘以外はすべて木組みで建て上げました。NAGANO WINEの記事は、下見板張や土壁、瓦葺きの屋根、手斧(ちょうな)の痕が残る梁、再利用した古い建具を紹介し、建物が周囲に溶け込むよう案内板や看板を置いていないと書いています。
社名の「アクアテラソル」は、アクア(水)・テラ(大地)・ソル(太陽)というラテン語から。「馨光庵」は、ワインの良い馨りが漂う場所という意味を込めた名前で、千葉さんの屋号に倣ったものでもあります。
南仏の5品種と、上田・東御・御代田の畑
NAGANO WINEの記事によれば、ワイン用ぶどうの畑は上田・東御・御代田の3か所、合わせて約1ha。2023年に初収穫を迎えました。平井さんが目指すのは南仏のようなドライで果実味のあるロゼで、そのためにシラー、ムールヴェードル、グルナッシュ、カリニャン、サンソーの苗木を日本中から集めたといいます。イタリアの白ぶどうヴェルメンティーノも植えています。中田さんが自身の畑で育てるのは、シャルドネやソーヴィニヨン・ブランのほか、ピノ・グリ、リースリング、ゲヴュルツトラミネールなど香りの立つ品種です。
主な銘柄と参考価格
公式サイトの新着情報で発売が告知された銘柄です。価格はいずれも小売価格(税込)で参考です。
- 『Cariño Mio(カリーニョ・ミオ)』——ロゼのためだけに植えた地中海の黒ぶどう(シラー、グルナッシュ、ムールヴェドル、サンソー、カリニャン)をベースに、白ワインの仕込み方(ダイレクトプレス)で造った辛口ロゼ。2025年春発売、3,850円(参考)
- 『馨白 Chardonnay & Trebbiano』——白ぶどうの収穫に合わせて収穫し、マセラシオンを最小限に抑えて低温で発酵させたと公式の商品説明で紹介。2025年春発売、3,300円(参考)
- 『馨白 Pilot』——上田市と東御市の市境、強粘土の南斜面の台地で育てた数種類の白ぶどうのフィールドブレンド。ステンレスタンクで低温発酵後、古樽で8か月熟成。セパージュは非公表で、公式の商品説明では柑橘とハーブ、ライチの香りが特徴とされています。2024年秋発売、3,300円(参考)
ほかに、ハーフボトル(375ml)のシードル『Adam』(セミスイート)と『Eva』(ドライ)があり、2025年は1,650円(税込)の発売予定と告知されています。
訪ねる前に・東御の造り手たち
公式サイトとNAGANO WINEの記事には、見学・試飲・直売の案内はありません。公式サイトに営業カレンダーは載っていますが、何の営業日かは書かれていません。建物には看板がないので、訪ねたい場合は事前にメールで問い合わせてください。条件は変わることがあります。
東御市は小さな造り手が集まる千曲川ワインバレーの中心地のひとつです。中田さんが経験を積んだヴィラデストワイナリー、リュードヴァン、ドメーヌ・ナカジマ、千曲川ワインアカデミーを開くアルカンヴィーニュとあわせて、この土地の層の厚さが見えてきます。長野の産地全体は産地:長野と第72講 長野完全編、ワイナリーを訪ねる準備は第51講にまとめています。


