どんなワイナリー? 奥尻ワイナリーは、日本海に浮かぶ奥尻島の離島ワイナリー。1993年の北海道南西沖地震の復興工事で雇った人たちを、工事のあとも島で雇い続けるために始まりました。約27ヘクタール・約65,000本すべてが自社畑で、対馬暖流に温められた島でピノ・グリやメルローを育てます。日本ワイナリーアワードでは2019年から8年連続で3つ星。
この記事の目次
復興工事のあとに、何を残すか
奥尻ワイナリーは、日本海に浮かぶ北海道・奥尻島にある離島のワイナリーです。ただ、この一軒の話は「島でワインを造ってみたら面白かった」という話ではありません。起点は、1993(平成5)年7月12日の北海道南西沖地震です。
午後10時17分、マグニチュード7.8。津波は藻内地区で遡上高およそ29メートルに達し、島全体で198名の犠牲者が出ました。奥尻町は1998年3月に「完全復興宣言」を出します。
問題は、そのあとでした。復興工事はいつか終わります。工事のために雇った人たちの仕事が終われば、その人たちは島を出ていく。島の建設会社グループが探したのは、「工事が終わったあとも、島で人を雇い続けられる仕事」でした。そこで選ばれたのが、ぶどう畑です。
ぶどうの栽培には、剪定から芽かき、除葉、収穫まで、一年を通して作業があります(第59講)。通年の雇用を生める農業——それが、島にワイナリーが立った理由でした。
1999年から2009年まで、十年
畑づくりは、いきなりワイン専用種から始まったわけではありません。
1999年、まず島に自生する山葡萄の苗木を植えます。ワイン専用種の栽培を始めたのは2001年で、このとき奥尻町米岡の採草地を畑に変えていきました。2002年に15,000本を定植(8.6ヘクタール)。
株式会社奥尻ワイナリーの設立は2007年3月20日。ワイナリーの建物(2階建・床面積1,460平方メートル)が完成したのは2008年10月で、建設には農林水産省の農山漁村活性化プロジェクト支援交付金が使われました。町が「奥尻島地区活性化計画」を策定し、平成19年度の実施計画から取り組んだ事業です。落成式は同年10月10日。当時の和田町長は「離島においてのワイン生産は初めて。震災から15年、久々の明るいニュース」と述べています。
最初の出荷は2009年4月10日。最初の苗木から、ちょうど十年でした。
「復興基金でつくられた」ではありません。 奥尻ワイナリーを紹介する記事で「震災の復興基金で建てられた」という説明を見かけることがありますが、公式に確認できる公的資金は農山漁村活性化プロジェクト支援交付金です。北海道南西沖地震復興基金という制度自体は実在しますが、それがワイナリーに投入されたという一次情報は見当たりません。細かい話に見えて、「誰がこの畑にお金を出したか」は、この一軒の性格そのものなので、区別して書いておきます。
塩害と、残った品種
海に囲まれているということは、風が必ず潮を運んでくるということです。
公式の沿革には、はっきりと「2004年 9月、台風18号で塩害被害」と記されています。植えて2年、これから樹が育とうという時期の被害でした。当初は十数品種を試していたものの、そこからこの島で耐えられるものに絞り込んでいったと伝えられます。
現在栽培しているのは、メルロー、シャルドネ、ピノ・ノワール、ピノ・グリ、ツヴァイゲルトレーベ、ケルナー、そして山葡萄。この顔ぶれは「島でいちばんおいしくなる品種」というより、「島で生き残れた品種」と読むほうが、たぶん正確です。
畑は約27ヘクタール、約65,000本。そしてそのすべてが自社畑です。買いぶどうに頼らず、栽培から醸造まで島の中で完結している——日本のワイナリーとしては、なかなか珍しい形です(畑の面積は資料によって23〜27ヘクタールと幅があり、ここでは公式の現行表記を採りました)。
対馬暖流の島。 奥尻島は周囲およそ84キロ。対馬暖流の影響で、北海道本島に比べると温暖だと公式は説明しています。島の約6割がブナの原生林で、水が豊富。海の透明度は約25メートル。ただし畑の標高・土壌については公式にも資料がなく、「海洋性気候の島」という以上に踏み込める材料がありません。気温や降水量の具体的な数値も同様です。この島の畑の条件は、まだ十分に言語化されていない、というのが正直なところです。
OKUSHIRI という名前の9本
ラインナップは、750mlの「OKUSHIRI」シリーズが中心です。
白がピノ・グリ(やや辛口)、シャルドネ(辛口)、ケルナー(辛口)。赤がメルロー、ピノ・ノワール、ツヴァイゲルトレーベ(いずれもミディアムボディ)。これにピノ・ノワール ロゼ、黒ぶどうから造るメルロー ホワイト、甘口のノースレッドが加わって9種類。2023年には別ブランド「風揺 139.4,42.1 メルロー2022」も登場しました。
看板は、ピノ・グリです。公式でも一番人気とされ、あとで触れるとおり、コンクールで結果を出しているのもこの品種です。ピノ・グリはアルザスや北イタリアで知られる品種ですが、冷涼な土地でこそ酸が残り、香りがふくらみます。
スパークリングは造っていません。 離島・冷涼と聞くと瓶内二次発酵のスパークリングを想像したくなりますが、現在のラインナップにスパークリングはありません。ピノ・ノワール ロゼの説明に「少し発泡性を感じる」とあるだけで、製法についての記載もありません。期待して取り寄せると違うものが届くので、ここははっきりさせておきます。
価格は、公式サイトに定価の表示がありません。小売店では3,000円台のものが多く見られます。蔵出しは年に数回で、公式のお知らせで「ピノグリ2025 蔵出し出荷開始」のように告知されます。気になる年があるなら、公式のお知らせを見ておくと取りこぼしません。
第1回から、9年連続
小さな島の、社員8名・季節雇用12名のワイナリーですが、評価はきわめて安定しています。
日本ワイナリーアワードでは、第1回(2018年)の「コニサーズワイナリー」から第9回(2026年)まで、9年連続で選出。2019年以降は8年連続で3つ星(★★★)です。この賞は「その年に出したワインの点数」ではなくワイナリーそのものの評価なので、連続受賞は品質が年によってぶれていないことを意味します。
日本ワインコンクールでは、2015年に「OKUSHIRI Pinot Gris 2014」が欧州系品種(白)部門で銀賞、2024年に「OKUSHIRI Pinot Gris 2023」が同部門で銅賞。9年を隔てた2つの受賞が、どちらも同じ品種だというところに、この島の答えが出ています。
島へ渡る
訪ねるには、まず海か空を越えます。
フェリーは江差から約2時間10分。空路なら函館空港から約30分、札幌丘珠空港から約50分で奥尻空港に着きます。日帰りで気軽に、という距離ではありません。だからこそ、行った人にとっては忘れられない一軒になります(第51講)。
ワイナリーは奥尻町字湯浜300、営業は9:00〜17:00、駐車場は約20台。工場見学は前日までに電話(01397-3-1414)で予約が必要です。日本ワイナリー協会の掲載では見学は無料で、試飲とワイナリー限定商品の購入ができます。定休はオンシーズン(4月下旬〜10月下旬)が不定休、オフシーズン(11月上旬〜4月中旬)が日曜。年末年始は休業します。見学の開始時刻や所要時間は変わることがあるので、予約の電話でそのまま確認してしまうのが確実です。
道南のワイナリーとしてはこだてわいんとあわせて知っておくと、北海道のワインの西の端がどこまで伸びているかが見えてきます。島の畑は、震災のあとに「人が残るため」に植えられました。その意味を知って飲むピノ・グリは、たぶん、少しだけ味が変わります。
よくある質問
奥尻ワイナリーはどんなワイナリー?
日本海に浮かぶ奥尻島にある、離島のワイナリーです。株式会社奥尻ワイナリーの設立は<strong>2007年3月20日</strong>、ワイナリーの建物が完成したのが<strong>2008年10月</strong>、最初の出荷が<strong>2009年4月10日</strong>。島の建設会社グループが母体で、1993年の北海道南西沖地震の復興工事のために雇った従業員を、工事が終わったあとも島で雇い続けるための事業として始まりました。「日本初の離島ワイナリー」と紹介されることが多く、開業当時の町長も「離島においてのワイン生産は初めて」と述べています。
なぜ震災の復興とワインがつながるの?
復興工事はいつか終わります。終わったときに仕事がなくなれば、人は島を出ていく——その順番を止めるために選ばれたのが、ぶどう畑でした。ぶどうの栽培は剪定・芽かき・除葉・収穫と一年じゅう作業があり、通年の雇用に向いています(<a href="/courses/wine-course-LIX-viticulture.html">第59講</a>)。2001年から奥尻町米岡の採草地を畑に変えていき、ワイナリーの建設には農林水産省の<strong>農山漁村活性化プロジェクト支援交付金</strong>が使われました。なお「北海道南西沖地震復興基金で建てられた」という説明を見かけることがありますが、公式に確認できる公的資金はこの交付金です。
どんなワインを造っているの? 値段は?
750mlの「OKUSHIRI」シリーズが中心で、<strong>ピノ・グリ、シャルドネ、ケルナー、メルロー、メルロー ホワイト、ピノ・ノワール、ピノ・ノワール ロゼ、ツヴァイゲルトレーベ、ノースレッド</strong>の9種類。看板は<strong>ピノ・グリ</strong>です。2023年には別ブランド「風揺 139.4,42.1 メルロー2022」も登場しました。公式サイトに定価の表示はありませんが、小売店では<strong>3,000円台</strong>で売られているものが多いようです。なお<strong>スパークリングワインは造っていません</strong>。ピノ・ノワール ロゼに「少し発泡性を感じる」という説明があるだけなので、瓶内二次発酵のスパークリングを期待して買うと戸惑うかもしれません。
どんな賞を獲っている?
<strong>日本ワイナリーアワード</strong>では、第1回(2018年)の「コニサーズワイナリー」から第9回(2026年)まで9年連続で選出されており、<strong>2019年以降は8年連続で3つ星</strong>です。日本ワインコンクールでは、<strong>2015年に「OKUSHIRI Pinot Gris 2014」が欧州系品種(白)部門で銀賞</strong>、<strong>2024年に「OKUSHIRI Pinot Gris 2023」が同部門で銅賞</strong>を受賞しています。どちらもピノ・グリでの受賞で、この品種がこの島の看板であることが結果にも表れています。
塩害は大丈夫なの?
実害がありました。公式の沿革には<strong>2004年9月の台風18号で塩害被害</strong>と明記されています。海に囲まれた島で、風は必ず潮を運んできます。当初は十数品種を植えていたものの、そこから<strong>この島で耐えられる品種に絞り込んでいった</strong>と伝えられ、現在のラインナップはその選別を通過した顔ぶれです。ぶどうの品種選びが「どれが一番おいしいか」ではなく「どれが生き残るか」から始まる——離島の栽培のきびしさが、そのまま現れています。
島へはどう行く? 見学はできる?
フェリーは<strong>江差から約2時間10分</strong>。空路なら<strong>函館空港から約30分、札幌丘珠空港から約50分</strong>で奥尻空港に着きます。(函館発着のフェリー航路は確認できていないので、船で渡るなら江差と考えてください。)ワイナリーは奥尻町字湯浜300、営業9:00〜17:00、駐車場は約20台。<strong>工場見学は前日までに電話(01397-3-1414)で予約</strong>が必要で、日本ワイナリー協会の掲載では無料、試飲とワイナリー限定商品の購入ができます。定休はオンシーズン(4月下旬〜10月下旬)が不定休、オフシーズン(11月上旬〜4月中旬)が日曜です。
最終更新: 2026-09-11 / 編集: Vinotier編集部