ガラナの会社から分かれた一軒
はこだてわいんのルーツは、ワインではなくヤマブドウにあります。
1930年代初頭、道南・森町で小原商店が自生のヤマブドウを原料に果実酒を造りはじめました(公式沿革は「昭和6年免許取得」と記しており、報道では1932年とするものもあります)。小原商店は、北海道の人なら誰でも知っている炭酸飲料コアップガラナの製造元です。
1973(昭和48)年4月26日、その果実酒部門を分離して設立されたのが駒ケ岳酒造株式会社。当時の本社は函館市亀田港町にありました。社名が現在の株式会社はこだてわいんになるのは1984年9月、本社・工場を七飯町へ移したときのことです。よく「函館のワイナリー」と紹介されますが、正確には函館市ではなく隣の七飯町にあります。
1985年、余市との40年
移転の翌年、同社は決定的な一手を打ちます。1985年2月、余市地区の7軒の農家と契約を結び、「はこだてわいん余市栽培研究会」を発足させました。以来40年、原料ぶどうの中心は一貫して余市です。道南に蔵を構えながら、良質なぶどうは道央に求める——この形が、同社の骨格になりました。
七飯町という土地についても、公式は「本州と比べて6〜7月の降水量が少なく、ぶどうが登熟する秋の期間が長い」「冬の積雪も少ない」と説明しています。七飯町は日本の西洋式農業発祥の地のひとつとも言われる場所です。
会社としては、2008年に函館ヤクルト販売の完全子会社となり、2026年6月にはヨシムラ・フードホールディングスの傘下へ移りました。資本の親は変わってきましたが、七飯の工場で年間300トンほどのぶどうを仕込み、年間およそ80万本を出荷する規模は変わりません。従業員は約30名。2006年に取得したISO9001は、北海道のワイナリーでは同社だけです。
凍らせて搾る——「しばれづくり」
看板は、独自製法「しばれづくり」のデザートワインです。公式の説明は簡潔で、「ぶどうを凍結させて搾汁することにより、ぶどうの果汁成分を濃縮して醸造」。水分が氷として残るぶんだけ、搾り出される果汁は糖も酸も香りも濃くなります。北海道の方言「しばれる」を冠したこの名は、甘口ワインの選び方で触れたアイスワインの発想を、道南の寒さに置き換えたものと言えます。
ただしアイスワインと同じものではありません。アイスワインは樹上で自然凍結したぶどうを収穫することが法で定められた呼称で、はこだてわいんはそこまでは謳っていません。日本ワインコンクールでも、しばれづくりは「極甘口」部門で、マンズワインの「クリオ・エクストラクション」などと同じ土俵に並びます(辛口・甘口)。凍結温度や残糖といった数値は公表されていないので、そこは踏み込まずに味わうのが正解でしょう。
現行は360mlの小瓶で、ソーヴィニヨン・ブランやナイアガラなど年ごとに顔ぶれが変わります(2026年9月時点で税込2,420〜3,300円)。コンクール出品時の旧称「しばれわいん」もいまだに流通しており、両方の表記を見かけます。
海面下283メートル
もうひとつの名物が、青函トンネル蔵置場です。2011年5月、同社は青函トンネル内の海面下283メートルの地点に酒類の蔵置免許を取得し、ワインを寝かせはじめました。「世界でもっとも深い場所にある貯蔵庫」というのが同社の表現です。2013年12月から「青函トンネル熟成ワイン」として数量限定で発売され、2021年には北海道新幹線開業5周年を記念してJR北海道函館支社とのコラボ商品も出ています。
年間を通じて温度が動かない海底トンネルで熟成させる、という物語は、ここにしかありません。ただし見学はできません。訪問者が回れるのは、あくまで七飯の本社工場です。
40年ぶりの自社畑と「北海道100」
長く契約栽培に頼ってきた同社が、2017年6月、七飯町上藤城に約1.7ヘクタールの自社圃場を開園しました。実に40年ぶりの自社畑です。シャルドネやカベルネ・ソーヴィニヨンといった欧州系を植え、2022年7月には初ヴィンテージ「北海道100 PREMIUM 七飯シャルドネ2020」を424本だけリリース。2025年11月には、七飯産シャルドネのスペシャルキュベがアジアのコンクールで金賞を得ています。
「北海道100」シリーズ自体は2014年4月に6種で発足しました。北海道産のワイン専用品種を100%使うのが条件で、いまはメルロー、ソーヴィニヨン・ブラン、ツヴァイゲルト・レーベ、バッカス、ピノ・ブラン、ロゼなどが並びます。ナイアガラやキャンベル・アーリーの親しみやすい甘口〜やや甘口と、この本格路線。二刀流でいることが、道南でワインを造り続けるための答えだったのだと思います。
賞と、道南での位置
コンクールでの実績は、しばれづくりが牽引してきました。2012年の国産ワインコンクールで「しばれわいん」が金賞、同年「香り仕込みケルナースパークリング」が部門最高賞・銀賞、2014年にふたたび「しばれわいん」が金賞・部門最高賞。同社は「部門最高賞は全国で13社しか選ばれていない」と説明しています。直近では日本ワインコンクール2025で「ケルナー2024」「ソーヴィニヨンブラン2024」が銀賞、「北海道100ソーヴィニヨンブラン2023」が銅賞、「しばれづくりケルナー2024」が極甘口部門の銀賞。日本ワイナリーアワードでは2024年から2026年まで3年連続で「コニサーズワイナリー」に選ばれています。
道南(渡島・檜山)でワイナリーが増えはじめたのは2010年代以降で、奥尻ワイナリーが2008年、農楽蔵が2012年、ほかは2020年代の設立です。1973年のはこだてわいんは、現存する道南のワイナリーでは群を抜いて歴史が長いことになります。北海道全体では2026年4月時点で76場。そのなかでも、同社はもっとも早い時期に立ち上がった一軒です。
訪ね方——無料見学と、葡萄館の無料試飲
見学は無料ですが、前日までに電話またはFAXでの予約が必要です(無料で見学できるワイナリー)。所要は約30分で、葡萄館のスタッフが仕込設備とビン詰め室を案内し、おすすめワインの試飲もつきます。実施は平日のみ(水曜を除く)、夏季(4〜10月)は11時・14時・15時30分の3回、冬季(11〜3月)は11時・14時の2回。仕込みの時期などで休止することもあります。
予約なしで立ち寄るなら、本社工場に隣接する直営店「葡萄館本店」へ。営業は10時から17時ごろまで(休業日は4〜12月が水曜、1月〜3月中旬は火・水曜)。常時5種類以上の無料試飲と、赤・白2種類の名物ワインソフトクリームがあります。市内で買うなら、金森赤レンガ倉庫「BAYはこだて」内の「葡萄館西部店」(9時30分〜19時・年中無休)が便利で、こちらでも無料試飲ができます。
アクセスは、新函館北斗駅から約6キロ・車で10分、函館駅から約22キロ・30分、大沼国定公園から約12キロ・17分。駐車場は無料です。大沼と函館を結ぶ道すがら、無理なく寄れる立地にあります。試飲があるので、運転する人は必ず飲まない役を決めてから向かってください(第51講)。
なお営業時間・定休日・試飲の内容は資料によって記載が分かれ、変更もあります。訪問前に公式サイトか電話でお確かめください。

