荒谷に戻ったぶどう畑
ドメーヌ・ケロスがある天童市荒谷には、かつて葡萄酒工場が2軒あり、一面にぶどう畑が広がっていたといいます。公式サイトの「ぶどう畑」によれば、工場が撤退してぶどうの出荷先がなくなり、畑はさくらんぼやラ・フランス、りんごに植え替えられていきました。その荒谷で、もう一度ワインのためのぶどうを育てているのが、中川淑子さんと中川憲一郎さんです。
最初に開墾した「1番畑」は、かつて祖父と叔父がぶどうを育て、長く耕作放棄地になっていた小さな畑。近所の先輩や友人の手を借りて垣根を整え、ソーヴィニヨン・ブランを植えました。公式サイトは2019年を「就農2年目」と書いており、2018年には耕作放棄地を整地した「2番畑」にメルローとカベルネ・ソーヴィニヨンを植え、後継者のいなかったマスカット・ベーリーAの「3番畑」を引き継いでいます。会社としての株式会社KELOSの設立は2022年1月11日。資本金1,000万円、事業はぶどう栽培とワイン醸造、ワイン講座の開催です。
名前の由来は山形弁。ワインの名「ノン・デ・ケロ~ス」は「のんでください」の意味で、その響きがワイナリーの名になりました。畑ではぶどうに「おがってケロ(大きく育ってね)」、ワイナリーでは「美味しくなってケロ」とささやく——公式サイトはそう書いています。
10か所の畑と、プティ・マンサンへの賭け
畑は荒谷地区に10か所、合わせて約2ヘクタール。番号で呼ばれ、いちばん近い畑はワイナリーから約350m、遠い畑でも車で5分ほどです。山形盆地の東側、標高160m前後。西に月山、東に奥羽山脈を望み、昼夜の寒暖差が大きく、山に囲まれて雨が少ない土地と紹介されています。立谷川の扇状地にあたり、黒ボク土で石が多く、水はけがよいとのこと。
栽培の方針は、ヴィニフェラ種は主に垣根、マスカット・ベーリーAなどの在来品種は棚。除草剤は使わず、有機農業で認められた農薬を優先し、化学農薬は最小限にとどめるとしています。約30aの垣根仕立て「8番畑」からは晴れた日に月山と蔵王が見え、ラベルに描かれた大森山も望めます。いちばん広いのは約50aの棚仕立て「10番畑」で、デラウェア、キャンベル・アーリー、甲州などを育てています。
植えている品種は多く、赤はメルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルド、カベルネ・フラン、マスカット・ベーリーA、キャンベル・アーリー、スチューベン、小公子。白はシャルドネ、プティ・マンサン、ソーヴィニヨン・ブラン、セミヨン、アルバリーニョ、甲州。気候風土に合う品種を探すための多品種で、その中でもプティ・マンサンとプティ・ヴェルドに可能性を感じて畑を広げたと書かれています。
2025年産の一本ずつ
公式サイトの「2025年産」ページは、銘柄ごとに畑の番号、収穫日、糖度、製造本数まで記しています。
- 『Nom De KELOS プティ・マンサン2025』——ワイナリーの創業を決めたとき「一番作りたかったワイン」。2020年に栽培を始めた7・8番畑のぶどうで、製造413本(750ml)、2026年6月27日発売。2024年はぶどうが未熟で発売を見送り、2年ぶりのリリースです。
- 『Nom De KENEGUSS メルロー2025』——よい年だけ出す最上級シリーズ「ケネガス」。2018年に植えた2番畑などのメルロー100%をフランス産の樽で寝かせ、製造296本、2026年9月19日発売。
- 『あかキャン2025(vol.2)』——古木のキャンベル・アーリー100%を瓶内二次発酵させた発泡性ワイン。2025年は秋と翌春の2回に分けて瓶詰めし、こちらは春の瓶詰め。製造685本。
- 『Nom De KELOS マスカット・ベーリーA 2025』——樹齢約30年の3番畑と若木の9番畑から。製造365本。
- 『Nom De KELOS シャルドネ2025』——シャルドネ93%にプティ・マンサン7%。製造784本、2026年4月25日発売。
ほかにメルロー67%・カベルネ・ソーヴィニヨン33%の『ルージュ2025』(177本)、プティ・マンサンとシャインマスカットを混醸した一本もあります。数百本単位の造りなので、銘柄によっては早く売り切れることがあります。
訪ねる——土曜だけ開くワイナリー
ワイナリーの建物は木造2階建てで、45度勾配の三角屋根が目印。1階に醸造室とショップ、2階にワイン教室を開くセミナー室があります。ステンレスタンク12基、メンブラン型とバスケットの2種のプレス機、手動の瓶詰め機などがあり、ショップの見学窓から一部が見えます。瓶詰めはポンプを極力使わず、タンクを持ち上げて自然落下で送ると説明されています。
公式サイトによれば、ショップの営業は土曜12:00〜17:00。見学は土曜11時開始・約50分・おひとり1,100円(税込)で、栽培と醸造の説明、醸造室の案内、ワインまたはぶどうジュースの試飲が付きます。見学は事前予約制で、申し込みはお問合せフォームから。8〜10月は収穫・醸造の繁忙期のため休止することがあります。晴れた日は畑に出ていて電話に出られないことが多いとも書かれているので、連絡はフォームか留守番電話で。条件は変わることがあるため、訪ねる前に公式サイトを確かめてください。
場所は羽前荒谷郵便局の斜め向かい。山形自動車道・山形北ICから約4.4km(約10分)、山交バス「荒谷四辻」バス停から約300mです。公式サイトは、試飲をする人にはバスでの来訪を勧めています。
天童から山形のワインを見る
同じ天童市には1984年創立の天童ワインがあり、荒谷のかつての葡萄酒工場の記憶と、新しく畑を拓く小さなドメーヌが同じ市内に並んでいます。上山市のウッディファーム&ワイナリーも自社畑のぶどうだけでワインを造る一軒です。ドメーヌ・ケロスは、荒谷の棚に残る古木と、新しく植えた垣根を一つのワイナリーで扱う一軒です。県全体の産地像は山形の産地ガイドに、日本ワインの見取り図は第9講にまとめています。


