ワイナリーの楽しみは、ワインそのものだけではありません。ぶどう畑を眺めながらの一皿こそ、産地を訪ねる醍醐味。レストランやカフェを併設した蔵では、その土地で育った食材と、できたてのワインのマリアージュを心ゆくまで味わえます。
温泉や宿まで備えた滞在型リゾートから、気軽なカフェ、本格コースのレストランまで。「食」を軸に選んだ、一日いたくなるワイナリーを集めました。多くは予約制・曜日限定です。運転される方は試飲を控え、お出かけ前に各公式サイトで最新情報をご確認ください。
「食」で選ぶ、四つのタイプ
ひとくちに「レストラン併設」といっても、滞在の時間も予算感もまるで違います。旅の組み立て方で選ぶと外しません。
①滞在型リゾート——一日では帰らない。食事に宿と温泉まで揃うタイプ。カーブドッチワイナリー(新潟)は畑を望むレストランに温泉・宿を備えた滞在型の草分けで、NIKI Hills Winery(北海道・仁木町)は余市川を望む丘にレストラン「Aperçu」とホテルを構えます。富山・氷見のセイズファームには、予約制のレストラン・カフェと一日一組の宿が。夜まで飲むつもりなら、このタイプ一択です(詳しくは泊まれるワイナリー特集へ)。
②畑を望むレストラン型——景色が一皿の一部になる。長野・東御のヴィラデストワイナリー、1885年創業のルミエールワイナリー(山梨)のフレンチ「ゼルコバ」、京都の丹波ワイン「レストランduTamba」など。ぶどう畑を眺めながらコースをいただく、いわば王道です。多くが予約制で、ランチ中心の営業。
③街なかのアーバン型——駅から歩ける。サドヤワイナリーは甲府駅から徒歩5分ほどの立地に約700坪の地下セラーと本格フレンチを併せ持ち、東京ワイナリー(練馬区)は醸造の様子が見える小さな店内で「昼呑み」を出します。伊勢志摩ワイナリー(三重)はワインバーを併設した市街地の醸造所。車を出さずに済むのが、このタイプ最大の利点です。
④カフェ・マルシェ型——ふらりと立ち寄る。ココ・ファーム・ワイナリー(栃木)の斜面を望むカフェ、奥出雲葡萄園(島根)の「庭カフェ」のピザ、日本最古のワイナリーまるき葡萄酒が2024年に開いたカフェ「IWAI TERRACE」、八剣山ワイナリー(北海道)の「八剣山キッチン&マルシェ」。予約なしで気軽に、一時間だけ、という日に。
その土地の食材と合わせてみる
ワイナリーの食事がおいしいのは、料理とワインが同じ土地で育っているからです。第27講で見た「同郷合わせ」が、いちばん自然な形で成立する場所——それが産地のレストランです。
海の丘なら、富山湾と立山連峰を望むセイズファーム。魚問屋を母体とするこの蔵の看板品種は、海の幸に寄り添うアルバリーニョです。海を望む丘に「TSUNOWINE & BAKERY」を構える宮崎の都農ワイン、五島列島の五島ワイナリーも同じ発想で楽しめます。
山の丘なら、岩手・葛巻町のくずまきワイン。山ぶどうを生かした酸とポリフェノールの豊かな赤を、隣接する「森のこだま館」の食事とともに。標高約900mという日本有数の高地にある長野・小諸のテールドシエルにはワインハウスが併設され、北海道のふらのワインでは隣接の丘の「ふらのワインハウス」で樽から直送のワインと富良野の食材が味わえます。同じ日本ワインでも、海側と山側では合う一皿がはっきり違う——それを一度に確かめられるのが、産地で食べるということです。
出かける前に決めておく三つ
①予約の要否。NIKI Hillsの「Aperçu」やセイズファームのレストランのように事前予約が前提の店は少なくありません。週末と収穫期は早く埋まります。日程が固まったら、まず席を押さえる。
②営業日と時間帯。ワイナリーのレストランはランチ中心・曜日限定の営業が多く、冬期休業もあります。「ワイナリーは開いているがレストランは休み」という日は珍しくないので、蔵とレストランの営業情報はそれぞれ別に確認を。
③移動手段。食事と一緒にワインを飲みたいなら、運転する人を作らない組み方が必要です。駅から歩けるアーバン型を選ぶ、タクシーを使う、泊まってしまう——このいずれか。車で行くなら、運転者は試飲も一切控えるのが大原則です(微量でも飲酒運転になります)。
よくある勘違い
「ワイナリーなら、どこでも食事ができる」——これは誤解です。当ガイドが掲載する日本のワイナリー106軒のうち、レストランやカフェを備えるのは38軒、3軒に1軒強にとどまります。多くの蔵は醸造が本業で、売店と試飲カウンターだけという構えが標準。食事を旅の柱にするなら、訪問先を先に決めてから行程を引くのが確実です。
もうひとつ。「併設レストランは観光地価格で割高」という思い込みも、実態とはずれています。カフェやマルシェで軽く済ませられる蔵もあれば、コース主体の店もあり、幅は街のレストランと変わりません。むしろその蔵でしか開けられないワインがグラスで飲めることが、産地で食べる最大の見返りです。行きの一杯を我慢して、席に着いてから開ける。それが、ワイナリーの食事のいちばんいい味わい方だと思います。





