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ワインガイド Vinotier

VINOTIER WINE COURSELEÇON LXV

第65講 実践

ノンアルコール&低アルコールワイン完全編

「結局、ぶどうジュースでしょう?」——多くは違います。 一度ワインとして造り、低い温度でアルコールだけを抜く。その技術は120年前のドイツに始まりました。1%、0.5%、0.00%と国ごとに違う「ノンアル」の線、そして抜くのではなく最初から軽く造る伝統まで——第61講「気候変動」の続きとして、度数の話をもう一方の端から見る一講です。

脱アルコールノンアルコールワイン低アルコール
ノンアルコール&低アルコールワイン完全編のイメージ
実験室の机の上で、湯浴に浸したフラスコが回転し、斜めに伸びたガラスの冷却管に液体が溜まっているロータリーエバポレーター
減圧して、低い温度で沸かす — 実験室のロータリーエバポレーター。圧力を下げれば、液体はずっと低い温度で沸く。ノンアルコールワインの多くは、この原理を工業規模にした装置から生まれる
— I

ぶどうジュースとは、どこが違うのかWine, minus the alcohol

「ノンアルコールワインって、結局ぶどうジュースでしょう?」。いちばんよく聞かれる質問です。答えは「多くは違う。ただし、全部ではない」。第65講はノンアルコール&低アルコールワイン。第37講「ワインと健康」で選択肢のひとつとして触れた一杯を、造り方、法律、ラベル、そして選び方まで掘り下げます。

まず、棚に並ぶ「ワインのようなノンアル飲料」は、造り方で大きく三つに分かれます。

De-alcoholised脱アルコールワイン

一度ふつうのワインとして発酵・熟成させてから、アルコールだけを取り除いたもの。発酵で生まれた香りや酸の構造が残るのが特徴です。本講の主役

Blendedワイン原料を使った調合飲料

脱アルコールしたワインを原料の一部に使い、ぶどう果汁や糖類、酸味料、香料などで味を整えたもの。日本では「ワインテイスト飲料」と呼ばれることが多い。

Grape juiceぶどう果汁

そもそも発酵させていないもの。甘く、果実の香りは豊かですが、ワインらしい複雑さや乾いた後味はありません。

決定的な違いは「発酵を経たかどうか」です。第47講「醸造編」で見たとおり、酵母は糖をアルコールに変えるだけでなく、エステルなどの香り成分や、グリセロール、さまざまな酸をつくり出します。脱アルコールワインは、その「発酵の置き土産」を抱えたまま、アルコールだけを抜こうとする試みです。糖はすでに発酵で消えているので、本来はジュースよりずっと甘くない——ここが出発点になります。

「ノンアル」の線は、どこに引かれているか

「アルコールが入っていない」の意味は、国や文脈によって違います。数字で並べると、線の位置がよく見えます。

1%日本の酒税法:「酒類」の境目酒税法第2条は、酒類を「アルコール分一度以上の飲料」と定義しています。1%未満の飲料は、法律上そもそも「酒」ではありません。
0.5%国際・EU・米国:「脱アルコール」の境目OIV(国際ぶどう・ぶどう酒機構)の決議、EUの規則、米国FDAの指針はいずれも、0.5%前後を「脱アルコールワイン」の上限として扱っています。
0.00%日本の業界自主基準:「ノンアルコール飲料」酒類業界の9団体でつくる「飲酒に関する連絡協議会」の自主基準は、ノンアルコール飲料を「アルコール度数0.00%で、味わいが酒類に類似しており、20歳以上の者の飲用を想定・推奨しているもの」と定めています。

出典:酒税法第2条/OIV-ECO 432-2012・433-2012/規則(EU) 1308/2013(2021/2117による改正)/「酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準」(2026年7月最終改正)

つまり、海外で「ノンアルコールワイン」として売られている0.5%弱の製品は、日本の酒税法では酒類ではないが、日本の業界自主基準でいう「ノンアルコール(0.00%)」でもない、という位置にあります。ラベルの「0.00%」と「0.5%未満」は、同じ「ノンアル」でも別物です。この違いは第VI章の選び方で、もう一度大事になります。

「0.00%」は、本当にゼロなのか。 自主基準の本文は「0.00%」とだけ書いています。表示は小数第2位までなので、測定値を丸めた数字です。たとえばアサヒビールは、自社のFAQで「0.00%」を「0.005%未満」と説明しています。「0.00%」は「限りなくゼロに近い」、「0.5%未満」は「少しは入っているかもしれない」と読むのが正確です。
— II

アルコールを抜く三つの方法How alcohol is removed

ワインからアルコールを抜くのは、思うより難しい仕事です。アルコールは水より沸点が低い(約78℃)ので、温めれば飛ばせます。けれどふつうに加熱すれば、香りも一緒に飛び、煮詰めたような味になってしまう。技術の歴史は、この問題との格闘でした。

① 減圧蒸留(真空蒸留)——120年の歴史

いちばん古く、いまも主流の方法です。容器の中の圧力を下げると、液体は低い温度で沸騰します。高い山の上でお湯が100℃より低い温度で沸くのと同じ原理です。

この方法を早くから実用化したのが、ドイツ・ラインガウ地方リューデスハイムのカール・ユング(Carl Jung)社です。同社の公式サイトによれば、1907年に減圧によるアルコール除去の特許を取得しました。真空下で30℃未満の低温に保ってアルコールを取り除き、その過程で逃げた香り成分を回収してワインに戻す——120年近く前に、現代の脱アルコールの基本形ができていたわけです。ドイツは第11講で見たとおり冷涼な白ワインの国ですが、ノンアルコールワインの草分けでもあります。

② 膜技術(逆浸透膜)——水とアルコールだけを通す

二つ目は、ごく小さな穴の膜を使う方法です。ワインに圧力をかけて膜に押しつけると、水やアルコールのような小さな分子は膜を通り抜け、色素やタンニン、多くの香り成分のような大きな分子は残ります。膜を通った液からアルコールを分離し、残りの水分をワインに戻す。熱をほとんどかけずに済むのが利点です。

ただし、学術レビューは、この方法では水を加え戻す工程が必要になり、多くの産地でそれが規制の対象になる点を指摘しています(ワインへの加水は、原則として認められていないため)。

③ スピニングコーンカラム——回転する円錐で香りを先に取る

三つ目は、オーストラリアのFlavourtech社が手がけるスピニングコーンカラム(SCC)です。塔の中に、回転する円錐と固定された円錐が交互に何段も重なっていて、ワインは回転する円錐の遠心力で薄い膜になって流れ落ちます。下から蒸気を当て、減圧下でまず揮発しやすい香り成分を取り出し、次にアルコールを取り出す。最後に香りをワインへ戻します。レビューで示される運転温度はおよそ28〜38℃。

方法原理強み課題
減圧蒸留圧力を下げ、30℃前後の低温でアルコールを沸かす歴史が長く、設備の実績が多い揮発しやすい香りが一緒に失われやすい。香りの回収が鍵
逆浸透膜膜で水とアルコールを分け、アルコールを取り除く熱をほとんどかけない水を戻す工程が必要。制度上の扱いに注意
スピニングコーン回転する円錐で薄膜化し、減圧下で香り→アルコールの順に分離香りを先に分けて戻せる。処理量が大きい装置が大がかりで、委託加工になることが多い

出典:Sam et al. (2021) Foods 10(10):2498(脱アルコール技術のレビュー)/Carl Jung社公式サイト/Flavourtech社公式サイト。温度は文献に示された目安

抜いたあとに、何が残らないのか

どの方法でも、アルコールそのものが味の一部だったという事実は変わりません。アルコールは、ほのかな甘さ、とろみ(ボディ)、温かさ、そして香りを持ち上げて運ぶ役割を担っています。先のレビューは、脱アルコールによってエステル類などの香りが失われ、ボディや粘性の感覚が落ちる一方、酸味や渋みは強く感じやすくなることを指摘しています。

失われやすいもの

フルーティーな香り(エステル)、口の中の厚み、ほのかな甘さと温かさ。「水っぽい」「薄い」と感じる原因の多くはここにあります。

目立ちやすくなるもの

酸味、渋み、苦み。アルコールが隠していた角が表に出ます。赤ワインのノンアルが難しいと言われるのは、このためです。

だから多くの製品では、ぶどう果汁や糖を加えて丸みを補ったり、炭酸で爽快感を足したりという味の設計が行われます。どんな補正をしているかは製品ごとに違い、表示で確かめるしかありません。原材料欄に「ぶどう果汁」「糖類」「香料」などがあるかを見ると、その一本の方向性がわかります。

— III

ルールとラベル——各国は線をどう引いたかRules and labels

ノンアルコールワインは、長いあいだ法律の「すき間」にいました。ワインの定義からは外れ、かといってジュースでもない。ここ十数年で、国際機関とEUが相次いでその居場所を決めています。

OIV——2012年の二つの定義

国際ぶどう・ぶどう酒機構(OIV)は、2012年6月のイズミル総会で、脱アルコールに関する決議をまとめて採択しました。

OIV-ECO 432-2012「ワインの脱アルコールによって得られる飲料」=アルコール度数0.5% vol未満。 ワイン(または特殊ワイン)だけを原料とし、OIVが認める処理だけを経たもの。加盟国の法律が認めれば「dealcoholised wine」と呼ぶことも妨げない、と注記されています。
OIV-ECO 433-2012「ワインの部分脱アルコールによって得られる飲料」=0.5% vol以上、ワインの最低度数未満。
OIV-OENO 394A/394B-2012脱アルコールの方法と、アルコール分の「補正」。 方法は部分真空蒸発、膜技術、蒸留。官能上の欠陥があるワインには使えず、醸造技術者の管理下で行う。ふつうのワインの度数を調整する「補正」では、減らせるのは最大20%までとされています。

EU——2021年に「ワインの仲間」へ

EUは規則(EU) 2021/2117で共通市場規則(1308/2013)を改正し、脱アルコールをワイン制度の中に正式に位置づけました。第61講「気候変動」で、度数が上がり続ける時代の制度改正として紹介した、あの改正です。

項目規則(EU) 2021/2117 の内容
認められる方法部分真空蒸発・膜技術・蒸留(単独または組み合わせ)。官能上の欠陥を生じてはならず、果汁の糖度を上げる操作と組み合わせてはならない
前提各カテゴリーの特性を完全に備えたワインになってから脱アルコールする
表示「de-alcoholised」アルコール度数0.5%以下
表示「partially de-alcoholised」0.5%超で、脱アルコール前のカテゴリーの最低度数未満
原産地呼称ワインPDO/PGIのワインに認められるのは部分脱アルコールのみ(生産仕様書への記載が必要)。完全な脱アルコールは地理的表示のないワインに限られる

出典:規則(EU) 2021/2117(前文41、附属書VIII第I部E節、第119条ほか)。栄養成分・原材料表示の義務は2023年12月8日から適用

ここから読み取れるのは、「シャブリのノンアル」や「バローロのノンアル」は、制度上つくれないということです。原産地の名前を名乗れるのは部分脱アルコールまで。0.5%以下にした時点で、そのワインは土地の名前を手放すことになります。

そして2026年、言葉がもう一度変わった。 EUは2026年に「ワインパッケージ」と呼ばれる改正、規則(EU) 2026/471を成立させました。表示の新ルールでは、0.5%以下は「alcohol-free」と表示し、0.05%以下なら「0,0 %」を併記。0.5%を超え、元のカテゴリーの最低度数より30%以上低いものは「reduced alcohol」。さらに脱アルコールした製品には「produced by de-alcoholisation」の表示が必要になります。表示部分の適用は2027年9月19日からで、それまでに旧ルールで表示された在庫は売り切りが認められます。あわせて、脱アルコールしたスティルワインから二次発酵や炭酸ガスの添加で泡をつくること、脱アルコールワインとふつうのワインを混ぜて部分脱アルコールワインをつくることも認められました。数年のあいだ、店頭には新旧の表記が混在すると考えておくとよいでしょう。

米国——「wine」と同じ大きさで「dealcoholized」

米国では、アルコール度数7%未満のワインは、表示の規制が酒類を所管するTTBではなくFDA(食品医薬品局)の管轄になります。FDAの指針では、脱アルコールワインの商品名には「dealcoholized」または「alcohol-removed」を「wine」と同じ大きさの文字で付け、0.5%未満である旨を表示します。「alcohol-free」はアルコールが検出されない場合に限って使える言葉です。

日本——「酒ではない」から始まる

日本では、1%未満の飲料は酒税法上の酒類ではないため、ワインの表示ルール(果実酒の表示基準)の外側にあります。そのうえで業界の自主基準は、0.00%のノンアルコール飲料について、容器に「20歳以上の者を対象としている旨」を表示すること、酒類と誤認させる広告をしないこと、健康上の理由で禁酒・断酒している人や妊産婦をターゲットにした広告やサンプリングを行わないことなどを定めています。売り場では酒類と同じように区分して陳列し、年齢確認で対応するのが基本です。

国内大手の例では、サントリーが2022年3月に「ノンアルでワインの休日」を発売しています。同社の発表によれば、醸造したワインを蒸溜してアルコールを除いた「ワインエキス」を使ったノンアルコールのワインテイスト飲料で、原材料にはぶどう、糖類、ワインエキス、酸味料、香料などが並びます。第I章の分類でいえば「ワイン原料を使った調合飲料」にあたる一本です。輸入の脱アルコールワインも、1%未満であれば日本では酒類ではない飲料として販売されます。

— IV

生まれつき軽いワインたちNaturally low in alcohol

黒い背景に、Moscato d'Asti と書かれた白いラベルのボトルが一本立っている
モスカート・ダスティ — ラベルの「Denominazione di Origine Controllata e Garantita」はDOCGの意味。規定で、実際のアルコール分は4.5〜6.5%。抜いたのではなく、途中で止めて残した軽さ

アルコールを「抜く」のではなく、最初から低く造るという道もあります。しかもそれは流行ではなく、何世代も続いてきた産地の伝統です。飲む量を控えたいけれど、ワインそのものを楽しみたい——そんな日には、こちらが答えになることもあります。

モスカート・ダスティ
4.5〜6.5%
モーゼルのカビネット
法定下限7%、8%前後も多い
ヴィーニョ・ヴェルデ
基本8〜11.5%
ゲタリアのチャコリ
下限9.5%
一般的な赤ワイン
13〜14.5%前後

バーの長さは各タイプの代表的な度数の目安(15%を100とした相対表示)。規定値の出典は本文を参照

モスカート・ダスティ——発酵を途中で止める

イタリア・ピエモンテのモスカート・ビアンコから造る、やさしい甘さと微発泡のワインです。原産地の規定(disciplinare)では、総アルコール(残った糖が全部アルコールになった場合の潜在分を含む)は11%以上、そのうち実際のアルコール分は4.5〜6.5%。つまり発酵を途中で止め、糖の半分ほどを甘さとして残すことで、低い度数と甘さを同時に得ているわけです。同じ地域のアスティ・スプマンテは実際のアルコール分6%以上で、より泡が強いタイプ。食後のフルーツや、昼下がりの一杯に向きます(第13講「スパークリング」、第19講「甘口ワイン」)。

ドイツのカビネット——酸と甘さの細い綱渡り

ドイツのワイン法では、カビネットを含む高品質ワインの実際のアルコール分の最低は7%(ベーレンアウスレーゼやアイスヴァインなどは5.5%)。モーゼルのリースリングのカビネットには、わずかな甘さを残して8%前後に仕上げたものが少なくありません。高い酸が甘さを引き締めるので、甘ったるさはなく、度数の低さを感じさせない緊張感があります。ただし近年は辛口で度数の高いカビネットも増えているので、ラベルの度数表示を確かめてください(第11講「ドイツ」)。

手前に木の杭と針金に絡むぶどうの葉と黒ぶどうの房、奥に緑の丘と白い家々の集落が見えるポルトガル北部の風景
ミーニョ地方のぶどう畑 — ポルトガル北西部、ヴィーニョ・ヴェルデの産地。大西洋からの湿った風と雨が、軽やかで酸の高いワインを生む

ヴィーニョ・ヴェルデ——規定に「上限」がある産地

ポルトガル北西部のヴィーニョ・ヴェルデは、世界でも珍しく規定にアルコール分の「上限」を持つ産地です。基本のワインは実際のアルコール分8%以上、11.5%以下。ただし品種名やサブリージョン名、レゼルヴァなどを表示するワインは11.5%を超えてよく、アルヴァリーニョは11.5%以上が求められます。軽くて安い、ほんのり泡の白というイメージは、この基本規定に支えられています(第21講「ポルトガル」)。

チャコリ——大西洋の、鋭く軽い白

スペイン・バスク地方のチャコリ(ゲタリアコ・チャコリーナ)は、実際のアルコール分の下限が9.5%。高い位置から注いで泡立てる伝統の注ぎ方で知られる、酸の鋭い白です。海の幸のピンチョスと合わせる、バスクの日常酒です(第14講「スペイン」)。

「低アルコール」に厳密な定義はない。 ここで挙げた数字は、それぞれの産地の規定です。「何%以下なら低アルコールワイン」という世界共通の基準はありません。EUの2026年の新ルールでは、元のカテゴリーの最低度数より30%以上低いものを「reduced alcohol」と表示する仕組みになりましたが、これは脱アルコールした製品の表示の話で、伝統的に軽いワインが「低アルコールワイン」と名乗る制度ではありません。度数は、ラベルの数字で確かめるのがいちばん確実です(アルコール度数、第41講「ラベルの読み方」)。
— V

伸びる市場と、造り手のタイプThe market and its makers

ノンアルコールの酒類は、もはや「飲めない人のための代用品」ではなくなりつつあります。数字と造り手の顔ぶれから、その変化を見てみます。

数字で見る「ノー&ロー」

酒類市場の調査会社IWSRは、2026年1月の発表で、ノンアルコールの代替飲料(ビール・ワイン・RTD・スピリッツの合計)の世界の数量が2025年に9%伸びる見込みだとし、2024〜2029年に数量で36%の成長、2029年には180億サービングを超えると予測しました。同じ調査では、ノンアルコールのワインやスピリッツを選ぶ人の40%が理由に「健康的なライフスタイル」を挙げています(調査は日本を含む10市場)。

ただし注意したいのは、この成長の中心はノンアルコールビールだということ。ワインのノンアルは、まだ市場全体から見れば小さな領域です。「伸び率は高いが、母数は小さい」——ワインのノンアルは、そういう段階にあります。

造り手の三つのタイプ

Pioneers老舗の専業

ドイツのカール・ユングのように、百年以上前から脱アルコールを本業としてきた造り手。減圧と香りの回収という基本形を、早くから確立してきました。

Wine houses大手ワイナリーの一ライン

スペインのトーレスは、2008年から脱アルコールワイン「ナチュレオ」を造り、「スペイン初」としています。大手のスパークリングの造り手も0.0%の泡を相次いで展開しています。

Specialistsノンアル専門の新興ブランド

北欧、英国、フランスなどで、最初からノンアルコールだけを手がけるブランドが次々に生まれています。原料ワインを仕入れ、加工を専門業者に委託する形も多い。

ここで見えてくるのは、「どこのぶどうか」よりも「どう抜き、どう整えたか」が味を左右するという、ふつうのワインとは逆の構図です。第III章で見たとおり、原産地の名前を名乗れるのは部分脱アルコールまで。完全なノンアルコールワインの世界では、産地よりも造り手と技術が「ブランド」になるのです。

日本のワイナリーは? 日本ワインの造り手が自社で脱アルコールワインを造る例は、まだほとんど見当たりません。設備が大がかりで、小規模なワイナリーには導入の壁が高いためと考えられます。一方で、ワイナリーが自社のぶどうやりんごで造るジュースは各地で定番になっています。ワイナリーを訪ねるときに運転手役の人がいるなら、こちらが「その土地の、飲まない一杯」になります(第51講「ワイナリー訪問」)。
— VI

選び方と、おいしく飲むコツChoosing and serving

ノンアルコールワインは、製品ごとの差がふつうのワイン以上に大きい分野です。「一本飲んでがっかりしたから、もう飲まない」ではもったいない。選ぶ手順を決めておくと、当たりに出会う確率が上がります。

  1. まず、度数表示を確かめる「0.00%」か「0.5%未満」か。 第I章で見たとおり、この二つは別物です。妊娠中・授乳中の方、運転する方、服薬中の方、アルコールに弱い体質の方は、「0.00%」表示のものを選び、必要なら医師や薬剤師に相談してください。
  2. 次に、原材料欄で「タイプ」を見分ける「ワイン(脱アルコール)」が中心か、「ぶどう果汁・糖類・香料」が並ぶ調合タイプか。前者はドライで酸がしっかり、後者は甘くまとまりやすい傾向があります。好みがどちらかを知る手がかりになります。
  3. 最初の一本は「泡」から炭酸の刺激が、アルコールが抜けたことによるボディの物足りなさを補ってくれるため、スティルよりも満足感を得やすいと言われます。次は白かロゼ、赤は最後。渋みと酸が目立ちやすい赤は、いちばん難度が高いタイプです(第53講「ロゼ」)。
  4. しっかり冷やす白と泡は冷蔵庫でよく冷やし、赤も少し冷やしぎみに。温度が上がると甘さと水っぽさが目立ちます。グラスはふつうのワイングラスで(第26講「温度とサービス」)。
  5. 料理を「助っ人」にする塩気、うま味、脂のある料理は、ボディの軽さを埋めてくれます。生ハム、揚げ物、チーズ、焼き鳥の塩。逆に、繊細な料理と一対一で向き合わせると、物足りなさが出やすい(第27講「ペアリング」)。
  6. 開けたら早めにアルコールには保存を助ける働きもあります。それがないぶん、開栓後は冷蔵して早めに飲みきるのが基本。保存の目安は製品の表示に従ってください。

こんな場面で、こう使う

ノンアルコールワイン

運転して帰る日、飲まない人と囲む食卓、平日の休肝日。乾杯の一杯だけでも、全員が同じ泡のグラスを持てる。パーティーでは最初から同じテーブルに並べておくのがさりげない配慮です(第39講)。

生まれつき軽いワイン

飲む量を少し控えたいけれど、ワインの味を楽しみたい日。モスカート・ダスティのグラス1杯は、一般的な赤ワインの半分以下のアルコール量。「減らす」ではなく「選ぶ」という発想です。

最後に、「交互に飲む」という方法もあります。1杯目はワイン、2杯目はノンアル、3杯目にまたワイン。食事の時間はそのままに、アルコールの量だけを減らせます。どれくらいが「適量」かは、第37講で整理した目安も参考にしてください。

健康についての注意。 ノンアルコールワインや低アルコールワインは、病気の予防や治療を目的とした飲み物ではありません。また「0.5%未満」などの表示の製品には、微量のアルコールが含まれることがあります。体質や持病、服薬、妊娠・授乳などで飲酒を控えるよう指示されている方は、製品の表示を確認のうえ、医師・薬剤師にご相談ください。本講の内容は一般的な情報であり、医学的な助言ではありません。20歳未満の方の飲用は想定していません。
— FAQ

よくある質問Frequently asked

Qノンアルコールワインは、運転前に飲んでも大丈夫?

「0.00%」表示の製品を選ぶのが基本です。 日本の業界自主基準でいうノンアルコール飲料は0.00%ですが、輸入品などの「0.5%未満」表示の製品は、微量のアルコールを含むことがあります。表示を必ず確認し、少しでも不安があれば運転前は避けてください。

Qノンアルコールワインは、なぜぶどうジュースより高いの?

多くは一度ワインとして発酵・熟成させ、そのうえで専用設備でアルコールを取り除くためです。ワインを造る手間に、脱アルコールの加工と、香りを戻すなどの調整の手間が加わります。ジュースは発酵を経ていないので、造り方そのものが違います。

Qボルドーやシャブリのノンアルコールワインはある?

EUの規則では、原産地呼称(PDO)や地理的表示(PGI)のワインに認められるのは部分脱アルコールまでで、0.5%以下にした製品は原産地の名前を名乗れません。そのため「AOCの名前がついたノンアルコールワイン」は、制度上つくれないことになります。

— Recap

抜くこと、残すこと、選ぶことWhat remains when alcohol is gone

ノンアルコールワインの話は、裏返せば「アルコールはワインの中で何をしていたのか」という話でした。

アルコールは、甘さと厚みと温かさをつくり、香りを運んでいた。だからそれを抜くには、低い温度で沸かす減圧蒸留、膜で分ける逆浸透、回転する円錐で香りを先に取るスピニングコーンといった工夫が要り、抜いたあとには失われたものを補う設計が要ります。そして法律は、日本では1%で「酒」を分け、業界は0.00%で「ノンアル」を名乗らせ、EUは0.5%で「脱アルコール」を定義し、原産地の名前は部分脱アルコールまでと線を引きました。2027年秋からは、EUの店頭に「alcohol-free」と「0,0 %」の文字が並びはじめます。

一方で、モスカート・ダスティやカビネット、ヴィーニョ・ヴェルデのように、抜くのではなくもともと軽く造る伝統もあります。飲まない日の一杯と、少しだけ飲む日の一杯——どちらも「ワインを楽しむ」選択肢のうちです。

次の一本。 今回は二本を並べて。一本は脱アルコールのスパークリング(できれば0.00%表示のもの)、もう一本はモスカート・ダスティ。よく冷やし、原材料欄と度数表示を読んでから、同じ形のグラスで飲み比べてください。「抜いた軽さ」と「残した軽さ」の違いが、この講のいちばんの復習になります。飲まない人がいる食卓なら、脱アルコールの一本をみんなで、モスカートは飲める人だけで。

次回は銘醸図鑑へ。「プリオラート」。スペイン・カタルーニャの、黒い粘板岩「リコレリャ」の急斜面。一度は忘れられかけた山の産地が、1980年代末に集まった少数の造り手によって、スペインで二つしかない最上位の原産地呼称(DOQ/DOCa)にまで上りつめた物語です。ガルナッチャとカリニェナ、そして「度数の高い赤」の代表格——今回の軽さの話とは、ちょうど反対側にある一本です(第14講「スペイン」もあわせてどうぞ)。

Santé, sans alcool.

次に「今日は飲まない」と決めた夜も、グラスを手放す必要はありません。ラベルの数字を一つ読み、よく冷やして、いつものグラスに注いでみてください。抜いた軽さも、残した軽さも、ワインの世界の一部です。

写真クレジット(すべてWikimedia Commons):
1. ロータリーエバポレーター(減圧蒸発の装置) — “Rotationsverdampfer” by Gmhofmann, Public domain
2. モスカート・ダスティのボトル — “Moscato d'Asti Docg 2010” by Doyouwine, CC BY-SA 2.0
3. ミーニョ地方のぶどう畑(ヴィーニョ・ヴェルデ) — “Minho Vinho Verde Vineyards” by alexandra vale, CC BY 2.0
※掲載写真はレイアウト上の都合によりリサイズ・トリミングして掲載しています。
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