温泉旅館が始めた、御牧ケ原のワイナリー
ジオヒルズワイナリーは、長野県小諸市山浦富士見平5656、御牧ケ原(みまきがはら)と呼ばれる台地の上にあるワイナリーです。千曲川を見下ろし、周囲の山並みを見渡す丘で、長野県の観光サイト「Go NAGANO」は標高を約800mと紹介しています。
始まりは、ワイナリーではなく温泉旅館でした。小諸には、島崎藤村ゆかりの宿として知られる「中棚荘」があります。その5代目・富岡正樹氏が、2002年に御牧ケ原でワイン用ぶどうの栽培を始めました。公式サイトによれば、最初に植えたのはシャルドネ888本。当初はマンズワインの契約農家としての栽培で、2007年にはマンズワインへの委託醸造で造った「中棚シャルドネ」を売り出しています。
その後、2008年にメルロー、2009年ごろにピノ・ノワール(公式サイト内で2009年と2010年の表記があります)を植え、2011年にはメルローの醸造・販売を始めました。2015年にはピノ・ノワールを初めて収穫し、東御市のアルカンヴィーニュでスパークリングの原料になっています。同じ年、小諸市が国から「ワイン特区」の指定を受けました。そして2018年、自社のワイナリーが完成し、初めての醸造を迎えます。
運営会社の設立は、公式サイトの「About」では2016年、会社情報のページでは2018年11月1日と書かれており、資料によって年が分かれます。代表取締役は富岡正樹氏です。
「風」の名前と、ベトナムとのつながり
醸造責任者は、正樹氏の三男・富岡隼人氏です。公式サイトによれば、隼人氏は2010年にベトナムへ渡り、中部の古都フエで日本語教師や児童施設のボランティアとして約5年を過ごしました。2015年にベトナム人の妻と結婚して帰国し、アルカンヴィーニュが主催する「千曲川ワインアカデミー」の一期生としてワイン造りを学んでいます。2016年の収穫から醸造に関わるようになり、公式サイトではシャルドネとメルローの味わいが変わった(メルローはやわらかく、まろやかになった)と紹介されています。
ワイナリーの名前の「Gio」はベトナム語で「風」、「Hills」は英語の「丘」。風が吹き抜ける丘、という意味です。ワインの銘柄名にも「cám ơn(ありがとう)」「Hạnh phúc(幸せ)」など、ベトナム語が多く使われています。公式サイトでは、将来は日本とベトナムの架け橋になることを目指すとしています。
台地の強粘土と、8つの品種
公式サイトによれば、御牧ケ原は標高700〜800mの準高冷地で、四方から切り離されたテーブル状の台地です。土は黄赤色の粘土を多く含むローム層の強粘土質。年間の降水量は985mmと少なめで、昼と夜の寒暖差が大きいため、ぶどうの酸が保たれやすいとされます。化学合成農薬はできるだけ使わない栽培を心がけていると説明されています。
栽培品種は、シャルドネ、メルロー、ピノ・ノワール、ソーヴィニヨン・ブラン、シラー、ピノ・グリ、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・ムニエの8つ。ソーヴィニヨン・ブランは香りを大切にするため、気温の下がる夜に摘むナイトハーヴェストで収穫しているそうです。収穫はボランティアの手も借りて行われます。
Go NAGANOの紹介によれば、千曲川の左岸に自社畑があり、右岸は契約農家のぶどうを使っています。地域の土壌は右岸が火山灰土、左岸が強粘土質と説明され、畑ごとに醸造の方法を変えているとのこと。スパークリング以外は野生酵母で発酵させています。
ワインのラインナップ
公式サイトのワインページに並ぶ主なシリーズを整理します(価格は2026年10月時点の公式表示、750ml)。
- アン・サン・スパークリング(11,000円)── シャルドネとピノ・ノワール(2023年以降はピノ・ムニエも)を、瓶内二次発酵で3年以上熟成させたフラッグシップ。
- ハィン・フック・スパークリング(5,500円)── 白ぶどうのブラン・ド・ブランで、瓶内二次発酵・1年熟成。ラベルは漫画家の石塚真一氏のデザイン。
- Mimakigaharaシリーズ(各6,050円)── 自社畑のぶどうを醸し、1年熟成させたドメーヌのシリーズ。Go NAGANOによれば「_C」は左岸の自社畑のシャルドネを古樽で半年ほど熟成させたもの。
- カム・オン(cám ơn)シリーズ(2,970〜3,520円)── 契約農家のぶどうから造るシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、ピノ・グリ、メルロー、ロゼなど。Go NAGANOによれば、カム・オン・シャルドネは右岸産で、樽で発酵させたのち1年近く樽熟成させています。
- フオン・トム(白・赤)── 野生酵母で発酵させ、樽を使わずに仕上げるシリーズ。
- トアイ・マイ(白・ロゼ)── 気軽に飲めることを重視したシリーズ。
- シードル── 「ファー・チョン・シードル」「ホン・ゴック・シードル」など。
瓶内二次発酵(シャンパーニュと同じ造り方)については用語:スパークリングワインと第6講 シャンパーニュ完全編で解説しています。また、小諸市の小学生・高校生がぶどうの栽培からラベルのデザイン、販売までを担う「Connect to the Future」という銘柄もあり、地元の子どもたちとワイン文化をつなぐ取り組みとして紹介されています。
訪ねる前に
醸造所の見学は無料で、前日までに予約(電話0267-48-6422、または公式サイトの問い合わせフォーム)が必要です。ただしゴールデンウィーク、お盆の時期、9〜11月は見学を受け付けていません。収穫と仕込みの秋は見学できない点に注意してください。
2階のカフェは、360度ガラス張りのパノラマ席から山々を眺められる空間です。営業は土・日・祝日の10:00〜16:00(ランチ11:30〜14:00)で、ベトナム料理を中心にフォーやベトナムコーヒーを出しています。試飲について公式サイトに記載はありませんが、Go NAGANOでは「有料・カフェでグラス販売」と案内されています。なお、観光サイトの一部には定休日を「不定休」とする記載もあるため、出かける前に確かめるのが確実です。
同じ敷地には、薪火料理の店「SONG Mimakigahara」があります。公式サイトによれば、木〜日曜にディナーのコースを出し、1日1組(最大4名)の宿泊も受け付けています。満室のときは中棚荘を案内してもらえるとのことです。
アクセスは、Go NAGANOによれば上信越自動車道の小諸IC・佐久北ICから車で約15分、小諸駅からタクシーで約15分。公式サイトの道案内では、小諸駅から千曲川を渡って「千曲ビューライン」を約2km進み、左手の小さな池を目印に「GIOHILLS」の看板で左折します。駐車場の案内は公式で確認できませんでした。試飲をするなら、運転しない人を決めておきましょう。訪問の心得は第51講 ワイナリー訪問へ。
小諸のワイナリーと合わせて
小諸市には、1973年開設のマンズワイン 小諸ワイナリーや、小諸市滋野のテールドシエルがあります。ジオヒルズの歩みは、マンズワインの契約農家として始まり、アルカンヴィーニュのワインアカデミーで造り手が育ったという点で、千曲川ワインバレーの広がりそのものを映しています。長野の産地の全体像は産地:長野と第72講 長野完全編で整理しています。

