
東北4県のワインを、数字で見るTohoku in Numbers
第88講関東に続く日本の産地編は、北へ。すでに歩いた第74講山形と第80講岩手を除く、青森・秋田・宮城・福島の4県です。雪と寒さの土地で、ワインはいま少しずつ増えています。
| 県 | ワイナリー数 | 果実酒の製造免許場 | 製成数量(うち日本ワイン) |
|---|---|---|---|
| 青森 | 10場 | 21場(うち試験免許3) | 64kl(57kl) |
| 宮城 | 10場 | 11場(うち試験免許1) | 119kl(118kl) |
| 福島 | 9場 | 12場(うち試験免許1) | 97kl(97kl) |
| 秋田 | 8場 | 13場(うち試験免許2) | 42kl(41kl) |
| 4県の合計 | 37場 | 57場 | — |
| (比較)山形 | 24場 | 27場(うち試験免許1) | 1,086kl(1,062kl) |
| (比較)岩手 | 17場 | 20場(うち試験免許1) | 550kl(546kl) |
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート、2024年の実績)の都道府県別のワイナリー数・果実酒の製造免許場数・製成数量。ワイナリー数は、果実酒の免許を持ち2024年に生産か出荷の実績があった製造場の数(2025年1月1日現在)。製成数量は回答した製造場の合計です。4県の合計は編集部が表の数字を足したものです。
4県のワイナリーは合わせて37場。山形(24場)と岩手(17場)を足すと、東北6県で78場になります。製成数量はどの県も100kl前後かそれ以下と小さく、山形の1,086klとは桁がひとつ違います。そのかわり、4県とも製成数量のほぼすべてが日本ワイン——国産のぶどうだけで造られたワインです。輸入原料のワインが大半を占める神奈川(第88講)とは、対照的な姿です。
青森は免許場21のうち試験免許が3つ。製成数量や品目の分類は違いますが、同じ調査の「果実酒」全体(シードルなどを含む)の表では、青森は製成数量で全国7位に入ります。りんごの国らしく、ぶどう以外の果実のお酒も盛んな県です。
ワイナリーが受け入れた原料ぶどうの量を、県別に並べてみましょう。
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)の原料用国産生ぶどうの品種別受入数量(2024年4月〜2025年3月)。回答したワイナリーが所在する県ごとの合計です。
中身は県ごとに違います。福島はシャルドネ40t・メルロー20tと欧州系の品種が目立ち、宮城はデラウェア27t・メルロー16t、青森と秋田はナイアガラがいちばん多い品種です。どの県も「その他」が半分以上を占めます。山ぶどうの仲間や、青森の特産スチューベンなどは、この表では品種の列がなく「その他」に入っています。
もう一つ、ぶどうの産地別の表から。青森県産のピノ・ノワールは23tで全国3位、福島県産のヤマソービニオン(山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配種)は14tで全国4位です。また、山形県産のぶどうが県外のワイナリーへ出荷された733tのうち、113tが宮城へ届いています。宮城の受入159tの7割あまりが山形産という計算になります(編集部の計算)。県境を越えて、ぶどうとワインが行き来しているのが東北です。
寒さと日照の土地Cool Climate of the North
東北は日本のぶどう産地の中でも涼しい地域です。奥羽山脈をはさんで、太平洋側と日本海側で空の表情も変わります。気象庁の平年値で比べてみましょう。
| 観測点 | 年平均気温 | 年降水量 | 年間日照時間 |
|---|---|---|---|
| 仙台(宮城) | 12.8℃ | 1,276.7mm | 1,836.9時間 |
| 福島 | 13.4℃ | 1,207.0mm | 1,753.8時間 |
| 若松(福島・会津) | 12.0℃ | 1,253.0mm | 1,631.6時間 |
| 青森 | 10.7℃ | 1,350.7mm | 1,589.2時間 |
| 秋田 | 12.1℃ | 1,741.6mm | 1,527.4時間 |
| (比較)山形 | 12.1℃ | 1,206.7mm | 1,617.9時間 |
| (比較)甲府 | 15.1℃ | 1,160.7mm | 2,225.8時間 |
出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。年間日照時間の長い順に並べています。
年平均気温は、第70講山梨の甲府より2〜4℃低め。いちばん北の青森は10.7℃です。日照は、太平洋側の仙台と福島が1,700〜1,800時間台と多く、年降水量も1,200mm台と、甲府に近い少なさです。福島盆地は桃やりんごなど果物の産地として知られ、福島市の特区の名前も「フルーツ盆地」。果樹を育ててきた土地の延長に、ぶどう畑があります。
一方、日本海側の秋田は年降水量が1,700mmを超え、日照は5地点でいちばん短い1,527時間。冬は北西の季節風が雪を運ぶ日本海側の気候です。会津の若松や青森も、冬は雪の多い土地として知られます。冬の寒さと雪にどう備えるか——仕立てや品種の選び方は、第59講ぶどう畑の一年・栽培完全編と、寒さに強い品種を扱った第69講交配品種とクローンへ。
寒い土地では、色づきや糖度を上げにくい年もある一方、酸がきれいに残りやすいとされます。青森産のピノ・ノワールが全国3位の量になっていることや、山ぶどうの血を引く品種が各地で使われていることは、この土地の涼しさと結びついているといえそうです。

東北4県のワインの歩みFrom Shintsuru to Kawauchi
大手の契約栽培から、特区の小さな醸造所、そして震災からの復興まで。生産者の発表、国や県・市の資料で確かめられた出来事を並べます。
- 1975年——会津・新鶴のシャルドネ福島県の旧新鶴村の要請で、メルシャンが地元の農家6名とともにシャルドネとセイベルの栽培を始めました。1977年からは「新鶴ワイン祭り」が開かれています(メルシャンの発表)。
- 1982年——秋田・大森の契約栽培メルシャンが秋田県の大森町(現・横手市)で契約栽培を始め、1986年に秋田県限定のワインとして発売しました。2026年7月には、発売40年の式典が開かれています(同社の発表・報道)。
- 1998年——本州最北の畑青森県むつ市のサンマモルワイナリーが、ぶどうの栽培を始めました。公式サイトは自社畑を「本州最北」とし、北緯41度の畑と紹介しています。
- 2008年〜2010年——青森と秋田の特区黒石市(2008年)、弘前市・大鰐町(2010年)、秋田県鹿角市(2010年)が、ワイン・シードルなど果実酒の特区の認定を受けました(国税庁の一覧)。
- 2011年——震災東日本大震災で、宮城県山元町にあった県内唯一のワイナリーが被害を受け、宮城のワイン造りは一度途絶えます(秋保ワイナリーの公式の沿革)。
- 2012年〜2015年——復興のワイナリー福島県二本松市では、2012年3月に東和ワイン特区の認定を受け、同年に農家がふくしま農家の夢ワインを設立、2013年秋に初めて醸造しました(復興庁の事例集)。2015年には郡山市のふくしま逢瀬ワイナリーが完成し、12月には仙台市の秋保ワイナリーが「震災後の県内初のワイナリー」として開業しています。
- 2019年〜2021年——広がる造り手2019年3月、青森県鶴田町の「つるたスチューベン」が、ぶどうの生果として初めて農産物の地理的表示(GI)に登録されました。同じ年に福島市でワイナリー吾妻山麓が設立され、宮城の南三陸ワイナリーはワインの販売を始めて、宮城県で初めて日本ワインコンクールで受賞。2021年6月には、原発事故の避難指示を経験した福島県川内村にかわうちワイナリーが開所しました(福島県)。
4県の造り手Wineries of Four Prefectures
本州最北の畑から、鉱山の町の醸造所、復興のワイナリーまで。公式サイト、県・市の資料、生産者の発表で確かめた範囲で紹介します。
「下北ワイン」の造り手。1998年に栽培を始め、北緯41度の自社畑のぶどうでワインを造る。大鰐町にも工場がある。くわしく
国税庁の東北の酒蔵マップに「八戸ワイン」の銘柄で載る造り手。八戸市は2016年にワイン産業の特区の認定を受けている。
鹿角市花輪の商店街にある小さなワイナリー。鹿角市は2010年に果実酒の特区の認定を受けた。くわしく
山ぶどう系の小公子やワイングランドを、接ぎ木をしない自根で育てる。国の重要文化財・旧小坂鉱山事務所でワインを熟成させる(秋田県の資料)。
山ぶどうとの交配種エビカヅラのワインや、キャンベル・アーリーに山ぶどうのワインを合わせた一本を造る(秋田県の資料)。
震災後の宮城で初めてのワイナリー。2020年には東北の食と酒の組み合わせを広める「テロワージュ東北」を立ち上げた。くわしく
2019年にワインの販売を始め、同年に宮城県で初めて日本ワインコンクールで受賞した、海の町の造り手。
福島県産の果物の魅力の発信と、農家の復興支援を掲げて開設された。ワインのほか、シードルやブランデー、桃のスパークリングも造る。くわしく
吾妻連峰の麓、果樹の盆地に開かれた造り手。2020年4月に自社畑へ5,000本の苗木を植えた(公式)。くわしく
このほか福島では、二本松市東和地域のふくしま農家の夢ワイン、標高約700mの畑を持つ川内村のかわうちワイナリーが、震災後の地域の再生とともに歩んでいます。見学や直売の条件は造り手ごとに違い、変わることもあるので、訪ねる前に各社の案内を確かめてください。
ワインのGIは、まだない
国税庁の地理的表示の一覧によれば、ワインのGIは山梨・北海道・山形・大阪・長野の5つで、4県にはワインのGIはありません。4県のお酒のGIは、福島の清酒「南会津」「喜多方」、青森の清酒「青森」で、どれも2024年以降の登録です。一方、果物では青森の「つるたスチューベン」が農産物のGIに登録されています。GIの読み方は第41講ラベルの読み方へ。
選ぶ、訪ねる、合わせるDrink Tohoku
最後に、4県のワインを手に取り、産地を訪ね、土地の料理と合わせるための手がかりをまとめます。
選ぶときの目安
山ぶどうと香りの品種
小公子やワイングランド、エビカヅラ、ヤマソービニオンなど山ぶどうの血を引く品種は、寒さに強いとされ、東北の各地で使われています。ナイアガラやスチューベン、キャンベル・アーリーのような香りの豊かな品種のワインも、この土地らしい一本です。
涼しい土地のヨーロッパ品種
会津のシャルドネ、福島のメルロー、青森のピノ・ノワール。涼しい土地のヨーロッパ系品種は、酸のきれいなワインを探すときの手がかりになります。ラベルの「日本ワイン」の表示と、ぶどうの産地も確かめて——宮城の蔵で山形のぶどう、ということもあります。
味わいの表現は一般的な傾向で、銘柄や年によって異なります。生産量の少ないワインが多いので、蔵の直売や地元の酒販店で探すのが近道です。
訪ねる
秋保ワイナリーは仙台の温泉地・秋保のそば。福島の盆地のワイナリーとあわせて、果物の産地を巡る旅に組み込みやすい。
下北半島や十和田湖の周りは、移動に時間がかかる。宿を決めて、1日に1〜2軒をゆっくり回るのがおすすめ。
試飲をするなら、運転する人を決めておくこと。冬は雪で道が閉ざされたり、休業したりする造り手もあります。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、県ごとの特徴は青森・秋田・宮城・福島の産地ページへ。

東北の食卓と
秋保ワイナリーを立ち上げた毛利親房氏は、東北の食と酒の組み合わせを楽しむ「テロワージュ」という考え方を広めています(復興庁の資料)。ただし、個々の郷土料理とワインの組み合わせを公的な機関が勧めている例は見つかりませんでした。ここからの合わせ方は、第27講料理ペアリングと第71講和食とワインの考え方をもとにした、編集部からの提案です。
鶏の出汁と、せりの香り、焼いたごはんの香ばしさ。すっきりした辛口の白や泡が寄り添う(ペアリング:鍋)。
塩と胡椒で焼いた肉の香ばしさには、渋みの穏やかな軽めの赤やロゼを(ペアリング:焼肉)。
刺身や焼き魚には、樽の効いていない辛口の白を。磯の香りの強いものは、少量から試して(ペアリング:寿司・刺身)。
果物を使ったデザートには、果実の香りのナイアガラの白や、りんごのシードルを。甘さは料理と同じか、少し上のものを。
鍋、焼き物、海の幸、そして果物。雪国の温かい鍋と、果樹の土地の香り——4県の食卓は、軽やかな白や泡、香りの豊かなワインと出会いやすい土地です。
よくある質問Frequently asked
国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは、青森10・宮城10・福島9・秋田8で、4県合わせて37場です(2025年1月1日現在)。山形・岩手を加えた東北6県では78場になります。
震災前には山元町にワイナリーがありましたが、2011年の東日本大震災で被害を受けました。2015年12月に開業した仙台市の秋保ワイナリーが、震災後の県内初のワイナリーです(公式の沿革)。
ありません(国税庁の一覧)。ワインのGIは山梨・北海道・山形・大阪・長野の5つです。4県には清酒のGIが3つ(南会津・喜多方・青森)あり、果物では「つるたスチューベン」が農産物のGIに登録されています。
雪の土地の、新しい畑New Vineyards in the Snow Country
青森・秋田・宮城・福島のワイナリーは合わせて37場。製成数量は小さいものの、そのほとんどが国産ぶどうだけの日本ワインです。年平均気温は甲府より2〜4℃低く、太平洋側の仙台と福島は日照が多く雨が少なめ、日本海側の秋田は雨と雪の多い土地。青森産のピノ・ノワールは全国3位の量になり、山ぶどうの血を引く品種も各地で使われています。
1975年の会津・新鶴のシャルドネ、1982年の秋田・大森の契約栽培、本州最北のむつの畑、りんごの国のシードルとワインの特区。そして震災のあと、秋保・郡山・二本松・川内村に生まれた造り手たち。ワインのGIはまだありませんが、雪の土地の、新しい畑から、東北のワインは少しずつ厚みを増しています。
次の一本。 今回は東北の2本を並べてください。1本目は、会津や福島のシャルドネ、または青森のピノ・ノワールのような、涼しい土地のヨーロッパ系品種のワイン。2本目は、小公子やヤマソービニオンなど、山ぶどうの血を引く品種のワイン。ラベルの「日本ワイン」の表示と、ぶどうの産地も見比べてみてください。料理は、せり鍋かきりたんぽを、ひと鍋。
次回はテーマ編へ。「シードルとフルーツワイン完全編」。青森のりんごの特区で見たように、ワインの仲間はぶどうだけではありません。ノルマンディーやブルターニュのシードル、イングランドのサイダー、日本のりんごのお酒まで、果実のお酒の造り方と楽しみ方をたどります(第13講スパークリングワインもあわせてどうぞ)。
