福島市、初めてのワイナリー
ワイナリー吾妻山麓(株式会社吾妻山麓醸造所)は、2019年8月に生まれた福島市初のワイナリーです。福島の名峰・吾妻山の裾野、福島市桜本の傾斜地に自社畑を開き、2020年4月にワイン用ぶどうの苗木5,000本を植えました。桃・梨・りんごの果樹王国として知られる福島市に、ワインという新しい一枝を接いだ若い造り手です。
「30年後のふくしまを元気に」——設立の経緯
母体は果樹農家でも酒蔵でもありません。東日本大震災のあと、「30年後を見据えて福島を元気にする」活動を支援するために2013年に設立された一般財団法人ふくしま未来研究会が出資し、2019年8月にワイナリーを設立しました。創業者の横山泰仁氏(現・会長)は、震災当時、双葉郡の病院事業に携わっていた人物で、取材記事では「街に賑わいを取り戻したい」という思いと、ヨーロッパで感じた「ワインは人と人をつなぐもの」という実感が原点だったと語られています。
2020年9月に醸造免許を取得し、同年10月にワインとシードルの醸造を開始。2021年4月に販売を始めました。初年度は長野県高山村のシャルドネや山形県産のカベルネ・ソーヴィニヨン(ロゼ)、そして福島市産りんご「ふじ」を使ったシードルからのスタートです。
醸造と栽培を率いるのは牧野修治氏。仙台市出身で、カリフォルニア大学デイヴィス校でぶどう栽培と醸造を学び、山梨の大手・中堅ワイナリーで約12年働いたのち、2021年4月からこの蔵に加わり、2024年5月に代表取締役社長に就きました(同社の発表による)。エノログ(ワイン醸造技術管理士)の資格を持ち、「手垢を残さないワイン」「単一品種で造る」という姿勢が、取材記事で繰り返し紹介されています。
横森ヴィンヤード——火山灰と扇状地の畑
自社畑は醸造所の南側、福島市桜本・上野寺の「横森ヴィンヤード」。吾妻山の裾野を流れる阿武隈川の支流・白津川がつくった扇状地で、吾妻山の噴火に由来する火山灰が混じる、石の多い水はけのよい土だと同社や取材記事は説明しています。近くの高湯温泉などから流れてくる硫黄の香りを、この土地ならではの個性として挙げる紹介もあります。傾斜地で草生栽培を行い、当初は土地の力を見きわめるために施肥をしなかったと伝えられています。
植えた品種として各媒体に挙がるのは、ソーヴィニヨン・ブラン、アルバリーニョ、タナ、メルロー、シャルドネ、プティ・ヴェルド、シラーなど。このうち自社畑産のワインとして実際に世に出たのは、ソーヴィニヨン・ブラン、アルバリーニョ、タナです。標高は資料によって100〜300m前後と幅があり、面積も「約2ha」「合計1.6ha」と記述が割れるため、ここでは断定を避けます。
自社畑のぶどうが初めてワインになったのは2023年。同年9月に醸造を始め、2024年7月31日に「FUMÉ BLANC 2023」(ソーヴィニヨン・ブラン、300本)と「ALVARINHO 2023」(150本)を、各750ml・3,300円(税込)で発売しました。福島市の観光サイトはこれを「オール福島市産ワイン」と呼んでいます。同年12月には、自社畑の赤「TANNAT 2023」(樽熟成15か月)もリリース。フランス南西部の品種タナを福島の火山灰の畑で育てる試みは、東北の蔵ではまだ珍しい選択です。
ラインナップ——自社畑の白、メルロ、そしてシードル
同社の発表と販売店の情報から、現行の顔ぶれを整理します(価格は2026年9月時点で確認できたもの)。
| 系統 | 主な銘柄 | 特徴 |
|---|---|---|
| 自社畑(エステート) | FUMÉ BLANC、ALVARINHO、TANNAT | 横森ヴィンヤードのぶどう100%。白2種は2023年が初ヴィンテージで各3,300円。タナは樽熟成15か月 |
| 県外・県内産ぶどう | MERLOT、CHARDONNAY、新鶴シャルドネ、PINOT BLANC、MUSCAT BAILEY A | 長野県高山村、山形県寒河江市、福島県会津美里町新鶴地区などのぶどうを単一品種で。メルロが受賞の中心 |
| デラウェアのオレンジワイン | DE LAPIN(デラパン) | 山形県高畠町のデラウェアを果皮ごと醸した一本。2022年が初ヴィンテージ、2023年は600本限定 |
| 果実酒 | ふくしまシードル、うさぎ山のポワレ | 福島市産りんご(つがる・ふじ)100%の辛口シードル。ポワレは市内生産者の洋梨7品種をブレンド(375ml) |
看板といえるのはメルロと、自社畑の白2種です。メルロは日本ワインコンクール、フェミナリーズ、SAKURAアワードで最も多く賞を受けている銘柄で、メルローという品種の柔らかさを、この蔵の「単一品種・手垢を残さない」方針で素直に表しています。デラウェアを醸したDE LAPINは、第55講「オレンジワイン」で扱った皮ごと発酵の手法を、日本でいちばん身近な品種で試せる一本。そしてふくしまシードルは、和梨の産出額が全国1位、桃も全国トップクラスという福島市の果樹の力を、そのままボトルに移したような存在です。初年度のラベルは福島西高校デザイン科の生徒が手がけました。
受賞歴——県内初の3つ星と、メルロの銀賞
日本ワイナリーアワードでは、2025年に福島県のワイナリーとして初めて3つ星を獲得し、2026年も2年連続で3つ星に選ばれました(2026年は県内で吾妻山麓、いわきワイナリー、ふくしま逢瀬ワイナリー、かわうちワイナリーの4場が3つ星)。
ワイン単位では、日本ワインコンクール2026で「MERLOT 2023」が欧州系品種赤の銀賞。フェミナリーズ世界ワインコンクール2026ではMERLOT 2023、DELAWARE 2024、ふくしまシードル2023の3点がゴールド、SAKURAアワード2026ではMERLOT 2023がゴールド、DELAWARE 2024とDE LAPIN 2024がシルバーを受けています。2025年のSAKURAアワードでもCHARDONNAY 2023とMERLOT 2022がシルバーでした(いずれも同社の発表による)。設立から5年あまりの蔵として、着実に評価を積み上げていることがわかります。
DE SAISON——市街を一望するセラードア
2023年3月末、醸造所の隣にセラードア「Cellar Door ショップ&テイスティングルーム」が開きました。愛称は「DE SAISON(ドゥ・セゾン)〜桜本展望館〜」。ふくしま未来研究会と醸造所が共同で運営する施設で、福島市中心部を一望する展望テラス、テイスティングサーバーによる有料試飲、ワインとシードルの販売、ジェラートや軽食、そしてフラワーガーデンと散策路を備えています。ショップでは桃のコンポートや赤ワインのジェラートといった、この土地らしい一皿も用意されています。
営業は10〜16時。定休日は公式ページに「木曜定休/不定休」とあり、2026年の営業カレンダーでは祝日を除く水・木曜が休みで、冬季(1〜3月)は営業日が変わります。テラス利用はワンドリンクオーダー制。醸造所のツアーは常設ではなく「要相談」で、無料駐車場は20台です。
訪ね方と、福島市の「ふく酒街道」
住所は福島市桜本字梨子沢4-2。東北自動車道・福島西ICから車で15分ほど、あづま総合運動公園から車で5分ほどの高台にあります。福島駅西口から福島交通の高湯温泉行きバスで「上姥堂」下車という行き方も紹介されています。ワイナリーで試飲をするなら、公共交通で行くかドライバーを決めておくのが鉄則です(第51講「ワイナリー訪問」)。
福島市はこの蔵を含む西部の5つの醸造所——日本酒の「金水晶 四季の蔵」、みちのく福島路ビール、どぶろくの醸造所、ワイナリー吾妻山麓、クラフトビールのYellow Beer Works——を「あづま山麓ふく酒街道」として2024年春から売り出しています。ワイン、日本酒、ビール、どぶろくを一日で巡れる、全国でも珍しい組み合わせです。高湯温泉に泊まって翌朝立ち寄る、という組み方も相性がいいでしょう。
同じ福島県で2015年に生まれた郡山のふくしま逢瀬ワイナリーは、三菱商事復興支援財団の「ふくしまワイナリープロジェクト」から始まった蔵。復興という同じ出発点から、郡山の6次産業化と福島市の自社畑という異なる道を歩む2軒を比べると、震災後の福島ワインの現在地が見えてきます。さらに、同じ東北で長い歴史を持つ岩手のエーデルワインとあわせて知れば、「老舗」と「新鋭」、東北ワインの二つの時間が重なります。基礎は第9講「日本ワイン産地巡り」と福島の産地ガイドでどうぞ。
