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ワインガイド Vinotier マイリスト

VINOTIER WINE COURSELEÇON LXXXIX

第89講 実践

スペイン料理とワイン完全編

一皿目の前に、冷えたフィノを一杯。 スペインの食卓は、小皿のタパスと酒精強化のシェリーから始まります。シェリーとタパス、米と生ハム、北の海と内陸の窯焼き——南から北へ、土地の料理と土地のワインをたどります。第87講「イタリア料理とワイン」に続くペアリングの実践編です。

タパスとシェリーパエリアと生ハムピンチョスとチャコリ
スペイン料理とワイン完全編のイメージ
白い漆喰の壁と木の梁の下、通路の両側に黒ずんだ木の樽が何段にも積み重なって奥まで続く熟成庫
シェリーの熟成庫(ソレラ) — 段ごとに積んだ樽の、いちばん古い段から少しずつ抜き、一つ若い段の酒で補っていく。シェリーは、この仕組みで年を重ねる
— I

シェリーと、小皿のタパスJerez y el tapeo

第85講「フランス料理」、第87講「イタリア料理」に続くペアリングの実践編。今回はピレネーの南、スペインの食卓です。手がかりは三つ。小皿とシェリー、米と生ハム、そして北の海と内陸の窯焼きです。

タパスは「食べ歩く」もの

スペインでは、バルからバルへ小皿をつまみながら一杯ずつ飲み歩くことを「タペオ(tapeo)」と呼び、バスク地方では小皿を「ピンチョス(pintxos)」と呼びます。「タパ(ふた)」という名前の由来には諸説あり、スペイン政府観光局は、虫やほこりが入らないよう、ハムやチーズの薄切りでグラスにふたをした——という説を「最もよく知られた説」として紹介しています。王さまが始めさせたという話も広く語られますが、確かな記録はなく、言い伝えとして楽しむのがよさそうです。

食事の時間が遅いのもスペインらしいところ。観光局によれば、レストランの昼食はおおむね13時〜16時、夕食は20時〜23時半ごろ。昼と夜のあいだを、タパスと一杯がつないでいます。

シェリーの種類を知る

アンダルシアの小皿にまず合わせたいのが、シェリー(ヘレス)です。ぶどう酒にアルコールを加えて造る酒精強化ワインで、規定書が定める産地は、ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ、エル・プエルト・デ・サンタ・マリア、サンルーカル・デ・バラメーダなど10の市町。熟成は長く伝統の3都市に限られてきたため「シェリーの三角地帯」と呼ばれましたが、統制委員会は2022年、熟成できる地域を10市町すべてに広げました。主な品種は白ぶどうのパロミノです。

種類造り(規定書)合わせ方の目安(編集部の提案)
フィノ/マンサニーリャ酒の表面に育つ酵母の膜「フロール」の下で熟成させる辛口。マンサニーリャはサンルーカルの酒蔵で熟成させたものよく冷やして、オリーブ、えびのにんにく炒め、魚の揚げ物、いわしの炭火焼き
アモンティリャードフロールの下で熟成したあと、空気に触れさせてさらに熟成ナッツ、熟成したチーズ、きのこ、コンソメ
オロロソフロールを育てず、空気に触れさせる熟成だけで造る辛口肉の煮込み、生ハム、硬い羊乳のチーズ
ペドロ・ヒメネス(PX)天日で干したぶどうの果汁を85%以上使う、濃い甘口デザートやバニラアイス、青かびのチーズ

スペイン政府観光局は、マンサニーリャとフィノの相手に、えびのにんにく炒め、オリーブ、いわしの炭火焼き、魚介の揚げ物などを挙げています。辛口のフィノのアルコール度数は規定で14〜17%と、ふつうのワインより高めなので、小さなグラスでゆっくりと。酒精強化ワインの造りは第15講酒精強化ワイン完全編で詳しく扱っています。

出典:シェリーの原産地呼称の規定書(2026年5月の統合版)、ヘレス統制委員会の発表(2022年、熟成地域の拡大)、スペイン政府観光局の「スペイン料理の雑学」「各地のワインとタパス」「営業時間」のページ。表の合わせ方は編集部の提案です。

— II

米の料理——パエリアLa paella valenciana

スペイン料理といえばパエリア。けれど本場バレンシアのパエリアは、魚介をのせた華やかな一皿ではなく、鶏肉とウサギ、豆の、意外に素朴な料理です。

取っ手の付いた浅く広い鉄の鍋に、サフランで黄色く色づいた米と、緑の平たいいんげん、鶏肉が敷き詰められたパエリア
パエリア・バレンシアーナ — 鶏肉、ウサギ、平たいいんげん、白いんげん(ガロフォ)、サフラン。バレンシア州は2021年、パエリアを無形の文化財に指定した

2021年、「つなぎ、分かち合う技」として文化財に

バレンシア州政府は2021年10月29日の州令で、「パエリア・バレンシアーナ——つなぎ、分かち合う技」を無形の文化財(BIC)に指定しました(国の官報への掲載は2022年3月)。指定の文書は、パエリアの起源をバレンシアのアルブフェラ湖のあたりとし、欠かせない材料は米だと明記しています。一方で、材料の決まったリストは定めていません。家ごと、町ごとに違うことも含めて、守るべき文化としているのです。

観光局のレシピでは、材料は米、鶏肉、ウサギ、トマト、平たいいんげん、白いんげんの一種ガロフォ、オリーブオイル、サフラン、パプリカ、塩、水。カタツムリやローズマリーを加えることもあります。米そのものにも原産地呼称があり、「アロス・デ・バレンシア」はボンバやセニアなどの品種を対象にしています。

合わせるなら——ロゼ、白、軽い赤

観光局は、バレンシアの米料理には内陸のDOウティエル=レケーナのワインを勧めています。ボバル種の赤やロゼで知られる産地です。鶏肉とウサギのパエリアには、果実味のあるロゼか軽めの赤、魚介のパエリアやフィデウア(麺のパエリア)には辛口の白やカバが合わせやすい組み合わせです。具材別の選び方はペアリングパエリアに合うワインに、ロゼの造りは第53講ロゼワイン完全編にまとめています。

鍋の底の「ソカラット」

平たい鉄鍋で炊くパエリアは、底に香ばしいおこげができます。この香ばしさには、樽の香りが強すぎない赤やロゼが寄り添います(編集部の提案)。

「パエリア」は鍋の名前

パエリアは、もともとこの浅く広い鍋を指す言葉とされます。大勢で一つの鍋を囲む料理であることが、州が指定した「分かち合う技」という名前にも表れています。

出典:バレンシア州政府の州令176/2021(スペイン官報 BOE-A-2022-4133)、スペイン政府観光局のパエリアのレシピと「各地のワインとタパス」、アロス・デ・バレンシアDOPの規定書(スペイン農水食料省、2024年)。合わせ方の一部は編集部の提案です。

— III

生ハムとチーズ、そしてテンプラニーリョJamón, queso y tinto

バルの天井から下がる豚のもも。スペインの生ハムは、そのまま一皿のタパスであり、ワインの最良の相棒のひとつです。

ハモン・イベリコは「ラベルの色」で見分ける

イベリコ豚の生ハムは、2014年の国の品質規格(王令4/2014)で区分が決められ、1本ずつに色の違うラベルが付きます。どの区分にも固有の番号があり、出どころをたどれる仕組みです。

ラベル区分(王令4/2014)
黒デ・ベジョータ 100%イベリコ(どんぐりの季節に放牧で育った、純血のイベリコ豚)
赤デ・ベジョータ・イベリコ(どんぐりの季節に放牧で育った、交配のイベリコ豚)
緑デ・セボ・デ・カンポ・イベリコ(屋外で飼料も与えて育てた豚)
白デ・セボ・イベリコ(飼料で育てた豚)

産地を名乗る原産地呼称(DOP)も4つあります。ギフエロ、デエサ・デ・エストレマドゥーラ、ハブーゴ(2017年に「ハモン・デ・ウエルバ」から改名)、ロス・ペドロチェスです。白い豚の生ハムハモン・セラーノは、1999年にEUの「伝統的特産品保証」に登録されています。

脂の甘みには、熟成した赤かシェリー

どんぐりで育ったイベリコの脂は、常温で溶けるほどやわらかく、甘い香りがあります。合わせるなら、樽で熟成させたテンプラニーリョの赤——リオハのクリアンサやレセルバ——が定番。脂を流したいときは、冷えたフィノやカバもすっきりします(編集部の提案)。観光局は、カスティーリャ・イ・レオンのDOリベラ・デル・ドゥエロの赤に、豚の皮付きばら肉を揚げたトレスノスや生ハムのコロッケを合わせています。品種の性格は品種図鑑 テンプラニーリョ、銘醸地は銘醸図鑑 リオハとリベラ・デル・ドゥエロで。

マンチェゴは、羊のチーズ

ラ・マンチャのケソ・マンチェゴは原産地呼称を持つチーズで、規定書によれば、登録された牧場のマンチェガ種の羊の乳だけで造ります。熟成は小さいもの(1.5kg以下)で30日以上、大きいもので60日以上、最長2年。若いものは白やロゼと、熟成が進んで塩気とうま味が濃くなったものは、テンプラニーリョやオロロソと合わせてみてください。チーズ全般の合わせ方は第73講チーズとワイン、生ハムはペアリング生ハム・サラミに合うワインに。

出典:王令4/2014(イベリコ製品の品質規格、スペイン官報)、スペイン政府観光局のイベリコの生ハムのページ、スペイン環境省の発表(2017年、ハブーゴDOP)、EU規則2419/1999(ハモン・セラーノ)、ケソ・マンチェゴDOPの規定書(2025年)。ワインとの組み合わせは観光局の紹介と編集部の提案です。

— IV

北の海——ピンチョスとチャコリ、タコとアルバリーニョEl Norte verde

雨の多い北の大西洋岸は「緑のスペイン」と呼ばれます。魚介が豊かで、ワインも、酸のきれいな軽い白が主役になります。

天井から生ハムがずらりと下がり、黒板のメニューが掛かったバルのカウンター。棚にワインの瓶が並び、手前に小皿が置かれている
サン・セバスティアンのバル — 天井の生ハム、黒板のグラスワインの品書き、カウンターの小皿。旧市街ではバルを何軒もはしごするのが楽しみ方

バスク——ピンチョスとチャコリ

サン・セバスティアンの旧市街は、カウンターに小皿を並べたバルが軒を連ねる、ピンチョスの町です。ここで飲まれるのが、微かに泡を感じる軽い白チャコリ。原産地呼称は3つあり、ゲタリアコ・チャコリーナ(1989年)、ビスカイコ・チャコリーナ(1994年)、アラバコ・チャコリーナ(2001年)です。ゲタリアの規定では、白ぶどうのオンダラビ・スリが約95%を占めます。

観光局は、チャコリにギルダ(オリーブ・アンチョビ・青唐辛子の串)、たらのフライ、きのこのオムレツを合わせています。塩気と酢の効いた小皿に、酸と軽い泡がよく合います。なお、瓶を高く掲げて注ぐ「エスカンシア」は、観光局が紹介しているのはバスクやアストゥリアスのシードラ(りんごの酒)の注ぎ方です。

ガリシア——タコとアルバリーニョ

北西のガリシアでは、ゆでたタコにオリーブオイルとパプリカをふったプルポ・ア・フェイラが名物。合わせるのは、DOリアス・バイシャス(1988年認定)のアルバリーニョです。観光局は、アルバリーニョに蒸したムール貝、ツナのエンパナーダ、プルポ・ア・フェイラ、パドロンの青唐辛子を挙げています。魚介を白で合わせる理屈は第77講魚介とワインで、北スペインの産地は第66講北スペイン完全編で歩いています。

出典:バスク州政府のゲタリアコ・チャコリーナDOの資料、ビスカイコ・アラバコ両DOの州令、ガリシア州農業品質機関のリアス・バイシャスDOの資料(2025年)、スペイン政府観光局の「各地のワインとタパス」「サン・セバスティアン」のページ。

— V

内陸の窯焼きと、お店で・家でAsados y brindis

北の高原カスティーリャは、観光局が「アサド(窯焼き)のスペイン」と呼ぶ土地。冬の寒さが厳しい内陸では、肉を薪の窯でじっくり焼く料理が育ちました。

子羊の窯焼きと、リベラ・デル・ドゥエロ

ドゥエロ川沿いの町アランダ・デ・ドゥエロでは、乳飲み子羊レチャソを薪の窯で焼き、リベラ・デル・ドゥエロの赤と一緒に出す祭りが開かれます。リベラ・デル・ドゥエロのワインルートも、子羊や子豚の窯焼きとの組み合わせを勧めています。皮は香ばしく、身はやわらかい窯焼きには、テンプラニーリョ(土地の名ではティント・フィノ)の骨格のある赤がよく合います。マドリードのひよこ豆と肉の煮込みコシードのような料理にも、同じく内陸の赤を(編集部の提案)。

乾杯はカバで

祝いの席の泡は、瓶内二次発酵で造るカバ。規定書では、瓶の中で澱と接する期間が最低9か月、レセルバは18か月、グラン・レセルバは30か月です。主な品種はマカベオ、チャレッロ、パレリャーダ。辛口のカバは揚げ物の小皿から魚介まで幅広く合い、困ったときの一本になります。泡の造り方は第13講スパークリングワイン大全で。

バルで頼むEn el bar

カウンターでは、まずグラスで土地のワインを一杯。アンダルシアならフィノ、バスクならチャコリ、ガリシアならアルバリーニョ。小皿を2〜3品つまんだら次の店へ、が気楽な楽しみ方です。

レストランでEn el restaurante

米料理は2人前から、という店も少なくありません。大きな鍋を囲むなら、ロゼか白を1本。ワインリストの読み方は第35講レストランでワインをで。

家で作るならEn casa

オリーブと揚げ物にはフィノ、パエリアにはロゼ、生ハムとマンチェゴにはリオハの赤。3本あれば、家のスペインバルはたいてい間に合います。

迷ったときの三つの手順

  1. 土地を見る——料理の生まれた地方(アンダルシア、バレンシア、バスク、ガリシア、カスティーリャ……)と同じ土地のワインを探す。
  2. 主役を見る——揚げ物と塩気の小皿には冷えたフィノか泡、米料理にはロゼか白、生ハムと窯焼きにはテンプラニーリョ、北の魚介には軽い白。
  3. 強さをそろえる——軽い小皿には軽い酒、濃い煮込みや熟成チーズにはオロロソや熟成した赤。甘いデザートには、もっと甘いPXを。

スペインの産地の全体像は第14講スペイン完全編、料理とワインの原則は第27講料理ペアリング完全編で。

ワインはお酒です。20歳未満の人は飲酒できません。妊娠中・授乳中の人は飲酒を控えてください。シェリーなど酒精強化ワインは度数が高いので、少量にとどめ、水も一緒に。車を運転する予定がある日は飲まないでください。出典:スペイン政府観光局のカスティーリャ・イ・レオンの料理・レチャソの祭り・リベラ・デル・ドゥエロのワインルート・コシードのページ、カバの原産地呼称の規定書(2026年1月改正)。

— FAQ

よくある質問Frequently asked

Qスペイン料理には赤と白、どちらが合う?

料理によります。生ハム、窯焼きの肉、煮込みにはテンプラニーリョの赤、魚介やタコ、ピンチョスにはアルバリーニョやチャコリの白が合わせやすい組み合わせです。迷ったら、揚げ物から魚介まで幅広く合うカバか、冷えたフィノを。

Qタパスに合うお酒は?

アンダルシアの小皿には、よく冷やした辛口のシェリー——フィノやマンサニーリャ——が土地の定番です。スペイン政府観光局も、オリーブやえびのにんにく炒め、いわしの炭火焼きとの組み合わせを紹介しています。軽く飲みたいときはカバや辛口の白も。

Qパエリアには何を合わせる?

本場バレンシアの鶏肉とウサギのパエリアには、果実味のあるロゼか軽めの赤、魚介のパエリアには辛口の白やカバが合わせやすい一本です。観光局は、バレンシアの米料理に内陸のDOウティエル=レケーナのワインを勧めています。

— Recap

小皿にシェリー、鍋にロゼ、窯に赤Tapas, Arroz & Asado

スペイン料理とワインの合わせ方は、南から北へ歩くと見えてきます。アンダルシアの小皿には、フロールの下で育つ辛口のフィノやマンサニーリャ。バレンシアのパエリアには、ロゼか白、軽い赤。生ハムとマンチェゴには、樽で熟成させたテンプラニーリョ。バスクのピンチョスにはチャコリ、ガリシアのタコにはアルバリーニョ。カスティーリャの窯焼きにはリベラ・デル・ドゥエロの赤。そして乾杯はカバで。

次の一本。 今回はフィノ(またはマンサニーリャ)とリオハのクリアンサを一本ずつ。フィノはよく冷やしてオリーブとナッツ、揚げ物と。リオハは生ハムとマンチェゴ、肉料理まで通してみてください。白い酒精強化と樽の赤、二本で南と北のバルを家で試せます。

次回は銘醸図鑑 第33弾へ。「シェリー(ヘレス)」。今回タパスの相棒として紹介した、フロールとソレラが育てる酒精強化ワインです。10の市町に広がった産地、フィノからPXまでの種類と規定、そしてボデガ(酒蔵)の名門たちを歩きます(先に第15講酒精強化ワイン完全編をどうぞ)。

¡Buen provecho y salud!

次にスペイン料理を囲むとき、皿の生まれた土地と、その土地のワインをひと呼吸だけ思い浮かべてみてください。揚げ物と小皿には冷えたフィノ、米には土地のロゼ、生ハムにはテンプラニーリョ、北の魚介には海沿いの白。それだけで、ワイン選びはずっと楽になります。

写真クレジット(すべてWikimedia Commons):
1. シェリーの熟成庫(ソレラ) — “Sherry cellar, Solera system, 2003” by Falkue, CC BY-SA 3.0
2. パエリア・バレンシアーナ — “01 Paella Valenciana original” by Jan Harenburg, CC BY-SA 4.0
3. サン・セバスティアンのバル — “Pintxos de Donostia” by Gordito1869, CC BY-SA 3.0
※掲載写真はレイアウト上の都合によりリサイズ・トリミングして掲載しています。
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