
全国4位の産地を、数字で見るThe Fruit Kingdom's Wine
第68講北海道、第70講山梨、第72講長野に続いて、日本の産地編の四つ目は山形です。さくらんぼやラ・フランスで知られる「果樹王国」は、東北でいちばん長いワイン造りの歴史をもつ県でもあります。
| 指標(2024年実績) | 山形 | 全国の順位 |
|---|---|---|
| ワイナリー数 | 24 | 4位(山梨85・長野81・北海道69に次ぐ) |
| 日本ワインの製成量 | 1,062kl | 5位 |
| ワイン用に受け入れた県産ぶどう | 2,362t | 4位(山梨・長野・北海道に次ぐ) |
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)。ワイナリー数はその年に生産か出荷の実績があった製造場の数で、全国は519場。ぶどうの受入量は2024年4月〜2025年3月にワインの原料として使われた量です。
規模では上位3道県に差をつけられていますが、山形には別の強みがあります。ぶどうそのものの産地としての厚みです。農林水産省の統計では、山形県のぶどうの収穫量は12,800t(2025年産)で、山梨・長野・岡山に次ぐ全国4位。なかでもデラウェアの生産量は日本一だと山形県はしています。
ワイナリーが受け入れた山形県産のぶどうの中身を見てみましょう。
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)の産地別受入数量。山形県産のうち69.0%が県内のワイナリーで使われ、残りの約3割は山梨・新潟・宮城などの県外へ出荷されています。
上位に並ぶのは、日本で生まれた赤のマスカット・ベーリーAと、アメリカ生まれの小粒のデラウェア。そのあとにシャルドネとメルローが続きます。品種別では、デラウェアとヤマ・ソーヴィニヨンは山形県産が全国1位、マスカット・ベーリーA、シャルドネ、メルローは全国2位です。生食用のぶどうの産地として育った土台の上に、ヨーロッパ系の品種が重なっている——それが山形の品種構成です。
薬用ぶどう酒から、デラウェアの王国へA Northern History
山形のワインの歴史は、南陽市の赤湯(あかゆ)を中心に語られることが多い土地です。国税庁がGI山形の指定にあたってまとめた文書をもとに、年を追って見ていきます。
- 江戸時代——赤湯のぶどうの言い伝え赤湯の鳥上坂(とりあげざか)のあたりでは、江戸時代にぶどうの栽培が始まったと伝えられています。甲州から来た鉱山の人が持ち込んだ、修験者が伝えた、など由来には複数の説があり、確かなことはわかっていません。
- 19世紀後半——果樹試験場とぶどう酒果樹の試験場ができ、ブラック・ハンブルクなどのヨーロッパ系品種も試されました。ワインの醸造は19世紀末ごろ、薬用の甘味果実酒として始まります。赤湯の酒井ワイナリーは1892年(明治25年)の創業で、山形県の観光サイトなどでは「東北最古のワイナリー」と紹介されています。
- 1910年代——フィロキセラとデラウェアぶどうの根につく害虫フィロキセラの被害を受け、デラウェアへの植え替えが進みました。山形がデラウェアの産地になる転機です。1920年には上山でタケダワイナリーが果実酒の製造免許を得ています。
- 1930年代——マスカット・ベーリーAの到来甘味ぶどう酒で知られた神谷伝兵衛が、新潟の川上善兵衛が交配したマスカット・ベーリーAとブラック・クイーンの栽培と醸造を山形で始めました。いま受入量1位の品種の出発点です。
- 1950〜80年——種なしデラウェアの時代1950年のぶどう栽培面積は335haで全国3位。1960年代にはジベレリン処理による種なしデラウェアの出荷が始まり、1980年には栽培面積3,780ha、その82%がデラウェアになりました。
- 1984年〜——組合、そしてGI1984年に山形県ワイン酒造組合ができました(果実酒の酒造組合として全国で2番目)。1990年に高畠ワイナリー、2008年には若い造り手の「ヴィニョロンの会」が発足。2016年に上山がワイン特区となり、2021年6月30日に地理的表示「山形」が指定されました。
第72講長野で、塩尻・桔梗ヶ原の林農園が山形県赤湯からメルローの穂木を得たという話に触れました。「日本のメルロー」の産地の出発点に、山形のぶどうがかかわっていたわけです。
三つの地域と、盆地の気候Okitama, Murayama, Shonai
山形県ワイン酒造組合に加盟する23のワイナリーは、県内を三つの地域に分けて紹介されています。内訳は村山13、置賜7、庄内3。それぞれの顔を見てみましょう。
県南部の盆地。赤湯の酒井ワイナリーなど老舗が集まる、山形のワインの原点。デラウェアの一大産地で、1990年設立の高畠ワイナリーは無料で見学と試飲ができる観光ワイナリー。
加盟ワイナリーがもっとも多い地域。上山には1920年のタケダワイナリーに、ウッディファーム、ベルウッドヴィンヤードなどの新しい造り手が加わる。1944年創業の朝日町ワイン、1984年設立の天童ワインも。
日本海側の平野と山あい。鶴岡市の月山ワイン(庄内たがわ農協)は、1979年に旧朝日村の農協で醸造を始めた。醸造所の名は「月山ワイン山ぶどう研究所」。

上山の「ワイン特区」
新しい造り手を呼び込んでいるのが、上山市の「かみのやまワイン特区」です。2016年6月に国の構造改革特区として認定され、果実酒の年間の最低製造数量が通常の6キロリットルから2キロリットルに下がりました。第72講で見た長野・千曲川の特区と同じしくみで、小さな畑から始める造り手が免許を取りやすくなっています。
盆地の夏と、雪の冬
気象庁の平年値で、県内の4地点を比べてみましょう。
| 観測点 | 年平均気温 | 年降水量 | 年日照時間 | 最深積雪 |
|---|---|---|---|---|
| 山形(村山) | 12.1℃ | 1,206.7mm | 1,617.9h | 51cm |
| 米沢(置賜) | 11.4℃ | 1,444.6mm | 1,595.8h | 103cm |
| 酒田(庄内) | 13.0℃ | 1,986.8mm | 1,538.8h | — |
| 新庄(最上) | 11.0℃ | 2,005.6mm | 1,324.6h | 128cm |
| (参考)上田・長野 | 12.0℃ | 906.2mm | 2,221.9h | — |
出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。山形・酒田・新庄は気象台・特別地域気象観測所、米沢・上田はアメダス。最深積雪は寒候年の最深積雪の平年値で、酒田と上田は表では省略しています。
内陸の山形市の8月は、平均25.0℃、日最高30.5℃、日最低20.9℃。盆地らしく夏はしっかり暑く、ぶどうがよく熟します。一方で年降水量は1,200〜2,000mmと長野よりずっと多く、日照も少なめ。そして冬は雪。米沢や新庄では1mを超える積雪が平年並みです。国税庁のGI山形の文書は、生育期(4〜10月)の日照が約1,100時間、収穫期の月平均気温は高い月でも約25℃で、昼夜の気温差が大きいことを、この産地の特徴としてあげています。雨と雪の多い土地で、どう病気を防ぎ、木を冬越しさせるか。栽培の工夫は第59講ぶどう畑の一年・栽培完全編へ。
品種と、GI山形Grapes and the GI
山形のぶどうは、四つのグループに分けると見通しがよくなります。そして2021年、その品質を示すしくみとして、県全域の地理的表示ができました。
生食用で日本一の産地のぶどう。ワインにすると軽やかで香りの華やかな白になり、辛口から甘口、微発泡やにごりまで幅が広い。手ごろな価格の地元の一本の定番。
1930年代から山形で育てられてきた赤。いちごやキャンディを思わせる香りと、穏やかな渋み。ブラック・クイーンとともに、山形の赤の土台。
シャルドネとメルローは受入量でいずれも全国2位。上山や朝日町、高畠のシャルドネのスパークリングや樽熟成の白、メルローやカベルネ・ソーヴィニヨンの赤に挑む造り手が多い。
日本の野生の山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニヨンを交配した品種。寒さに強いとされ、色が濃く酸のしっかりした赤になる。交配品種の話は第69講交配品種とクローンへ。

GI山形の生産基準
国税庁は2021年6月30日、ぶどう酒の地理的表示「山形」を指定しました。名乗れるのは、次の基準を満たし、管理機関(ワイン地理的表示「山形」使用管理委員会)の確認を受けたワインです。
出典:国税庁「地理的表示『山形』の生産基準」。山形県ワイン酒造組合のサイトの一部には「2022年(令和3年)指定」とありますが、令和3年は2021年です。
第72講のGI長野と比べると、山形はアメリカ系品種の糖度の下限が12.0%と、長野の16.0%よりかなり低く設定されています。一方、長野にはさらに厳しい「プレミアム」の基準がありますが、山形にはありません。デラウェアやスチューベンなど、生食用としても育てられてきたぶどうを広く制度の中に迎え入れた基準だといえます。表示の読み方は第41講ラベルの読み方、日本ワインの定義は用語:日本ワインへ。
買う、訪ねる、合わせるDrink Yamagata
最後に、山形のワインを手に取り、訪ね、食卓に並べるための手がかりをまとめます。
選ぶときの目安
まず知る一本
デラウェアの白やにごり、マスカット・ベーリーAの赤。香りが素直で価格も手ごろなものが多く、地元では日常の一本。ラベルの「GI山形」の表示は、県内産の指定品種で県内で造られた証。
産地を味わう一本
上山や朝日町、高畠のシャルドネ(スパークリングや樽熟成)、メルローやヤマ・ソーヴィニヨンの赤。畑の名前や地区名の入った銘柄は、同じ品種でも造り手ごとの違いが出やすい。
買い方の基本は第33講ワインの買い方へ。
温泉と蔵をめぐる
山形の産地めぐりの楽しみは、温泉地とワインの産地が重なっていることです。上山はかみのやま温泉、南陽は赤湯温泉。温泉街に泊まり、翌日に蔵を訪ねる旅が組みやすい県です。
タケダワイナリーは駅からタクシーで約5分。工場と畑の見学は要予約・無料(約30分)。ほかの蔵も駅からタクシーで回れる距離に点在する。
酒井ワイナリーは温泉街の中、駅から車で約5分。店頭で試飲と購入ができる(水曜定休)。
高畠ワイナリーは予約なしで醸造の様子を見学でき、数種の無料試飲もある。春と秋にはワイナリーの祭りも。
産地ぐるみの催しもあります。上山城のまわりで毎年5月に開かれる「山形ワインバル」(山形ワインバル実行委員会)と、南陽市で同じく5月に開かれるワインフェスティバル(2026年で53回目)。県内の造り手が一度に集まる機会です。営業日や見学の条件は季節で変わるので、出かける前に各ワイナリーの公式サイトで確認を。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、県内のワイナリーはワイナリーガイドへ。試飲をするなら、車の運転はしないこと。
山形の食卓と
山形県ワイン酒造組合は、県産のワインの最大の特徴を「食事との相性の良さ」だとしています。ここからは、第27講料理ペアリングの考え方をもとにした、編集部からの提案です。
牛肉と里芋を醤油で煮る村山の芋煮に。醤油の甘辛さと牛の脂を、渋みの穏やかな赤がやわらかく受け止める(鍋料理も参考に)。米沢牛のすき焼きや焼肉には、メルローやヤマ・ソーヴィニヨンのしっかりした赤も(焼肉)。
塩ゆでのだだちゃ豆や、醤油で煮た玉こんにゃくには、冷やしたデラウェアの辛口や微発泡を。シャルドネのスパークリングは、庄内の魚介や天ぷらと(天ぷら)。
第71講和食とワインで見た「うま味と酸」の考え方は、山形の郷土料理にもそのまま使えます。醤油と出汁の効いた料理には、酸の穏やかな軽めの赤か、香りの素直な白が合わせやすいでしょう。
よくある質問Frequently asked
土台はデラウェアの軽やかな白と、マスカット・ベーリーAのやさしい赤。香りが素直で、食事に合わせやすいワインが多いのが特徴です。その上に、上山や朝日町、高畠などのシャルドネやメルロー、山ぶどうの血を引くヤマ・ソーヴィニヨンの濃い赤が加わります。
国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは24場で、山梨・長野・北海道に次ぐ全国4位です。山形県ワイン酒造組合の加盟は23で、村山13、置賜7、庄内3という内訳です。
どちらも2021年6月30日に指定された県全域の地理的表示です。山形はアメリカ系品種の糖度の下限が12.0%(長野は16.0%)で、デラウェアなど生食用としても育つぶどうを広く受け入れています。一方、長野のような厳しい「プレミアム」の基準は、山形にはありません。
果樹王国の、北のワインNorthern Fruit, Northern Wine
山形は、ワイナリー数でも県産ぶどうの受入量でも全国4位の産地です。19世紀末の薬用ぶどう酒から始まり、1892年に赤湯で酒井ワイナリーが、1920年に上山でタケダワイナリーが生まれました。フィロキセラのあとのデラウェアへの植え替え、1930年代のマスカット・ベーリーAの到来、種なしデラウェアの時代を経て、1984年には全国で2番目の果実酒の酒造組合ができています。
いまの山形は、日本一のデラウェアと、受入量1位のマスカット・ベーリーAを土台に、シャルドネやメルロー、ヤマ・ソーヴィニヨンを重ねた産地です。2016年の上山の特区から新しい造り手が加わり、2021年にはGI山形が指定されました。生食用のぶどうの棚と、ワイン用の垣根が、温泉地のまわりに並んでいます。
次の一本。 今回は山形の2本を並べてください。1本目はデラウェアの辛口の白か微発泡。2本目はマスカット・ベーリーAの赤。同じ県の、生食用としてもおなじみの二つのぶどうが、ワインになるとどんな香りになるかを確かめてみてください。料理は芋煮か、牛肉と里芋の煮物をひと皿。余裕があれば、ヤマ・ソーヴィニヨンの赤を焼肉と。
次回はテーマ編へ。「中華料理とワイン完全編」。甘酢、豆板醤や花椒の辛さ、油と醤油のコク——北京・上海・広東・四川の味の組み立てを分解して、どんなワインの酸・甘み・泡が合うのかをたどり、紹興酒との飲み比べから、餃子や麻婆豆腐など家庭の中華の合わせ方までまとめます(ペアリング:中華料理と産地:山形もあわせてどうぞ)。
