銀行員から、砂丘のワイン造りへ
フェルミエを開いた本多孝さんは、1967年新潟市の生まれ。筑波大学を卒業して日本興業銀行に入り、金融の世界を歩いてきました。ワイン造りを志したのは2003年ごろとされ、2005年にみずほ証券を退職。翌2006年、隣接するカーブドッチが開いていたワイナリー経営塾で学び、醸造免許の取得やぶどうの調達について支えを受けながら、越前浜に醸造所とレストランを構えました。
経営塾からはその後、ドメーヌ・ショオ、カンティーナ・ジーオセット、ルサンクワイナリーが続きます。フェルミエはその最初の一軒、いわば「長男」にあたる存在です。会社名は HONDA VINEYARDS WINERY 株式会社。フランス語で「農家」を意味する店名には、ぶどうを育てるところから一本のワインまでを自分たちの手で、という姿勢がにじみます。
海から1km、10mの砂——越前浜のテロワール
畑と醸造所があるのは、角田山のふもと、日本海から約1kmの海岸砂丘です。公式サイトによれば、この砂の層はおよそ10mの深さがあり、かつての海底が隆起した土地だといいます。砂地は水はけがよく、ぶどうの根は水を求めて深く伸びます。雨の多い日本の産地で、砂が余分な水を逃がしてくれるのは大きな利点です(用語:テロワール)。
ぶどうは、越前浜のある西蒲区の自社畑に加え、新潟市南区の畑、そして北海道余市の契約畑からも得ています。創業時の自社畑は約2ha。インタビューでは、原料のおよそ4割が自社畑、6割が新潟と余市の契約農家のぶどうと語られています(現在の総面積は公式に示されていません)。栽培する品種は、アルバリーニョ、カベルネ・フラン、ピノ・ノワール、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、ピノ・グリ、プティ・ヴェルド、シャルドネ、ケルナー、そしてカベルネ・ドルサやカベルネ・ミトスといった交配品種まで多岐にわたります。
アルバリーニョの歩み
フェルミエを語るうえで外せないのがアルバリーニョです。スペイン北西部ガリシアのリアス・バイシャスを故郷とする白ぶどうで、大西洋の湿った風のなかでも病気に比較的強く、塩味を思わせるミネラル感と高い酸が持ち味。本場では湿気を避けるため、地面から高く持ち上げた棚(パラ)で育てられます(本場の話は第66講「スペイン北部と内陸完全編」で詳しく扱っています)。
公式サイトの年表をたどると、フェルミエのアルバリーニョはこう広がってきました。
- 2005年——醸造所の隣に最初の苗を植える
- 2010年以降——新潟市南区の中ノ口川沿いに畑を増やす
- 2011年——新飯田(にいいだ)で棚仕立ての栽培を始める
- 2012年——そこから300mほどの場所に畑を追加
- 2016年——新飯田の畑を自社所有に
「日本初のアルバリーニョ」を名乗るのは隣のカーブドッチで、2005年にリアス・バイシャスから苗300本を取り寄せたとしています。フェルミエは同じ時期にこの品種に取り組み、砂丘のアルバリーニョを看板に育て上げた造り手です。どちらが「最初」かを競うより、新潟の砂丘という土地がこの品種の受け皿になったと捉えるほうが実態に近いでしょう。国内では大分の安心院葡萄酒工房なども手がけています。
造りの考え方
公式サイトが掲げる醸造の方針は、次のようなものです。
- 発酵は野生酵母で
- ポンプに頼らず、高低差で果汁やワインを動かすグラビティフローと、酸化を防ぐ不活性ガスの活用
- 亜硫酸は低く抑える(用語:亜硫酸塩)
- 赤は全房発酵を取り入れ、昔ながらのバスケットプレスで搾る
- 畑では除草剤や化学肥料を使わない
アルバリーニョの具体的な仕込み(シュール・リーや樽の有無など)は、キュヴェごとの公式情報が限られるため、ここでは断定しません。ボトルごとの裏ラベルや販売ページの説明を確認してください。
ラインナップと価格の目安
ラインナップは、大きく次のように分かれます(価格は2026年9月時点の公式オンラインショップ、税込)。
- アルバリーニョ——スタンダードの「アルバリーニョ」(8,360円)、上位の「エルマール」「エルマール アロマティカ」「エルヴォルカン」(13,000〜14,000円台)。スペイン語で El Mar は「海」、El Volcán は「火山」
- 赤——カベルネ・フラン、ピノ・ノワール、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワールのドイツ名を冠した一本)、ブレンドの「ブーケティエ」
- スパークリング——瓶内二次発酵の「キュヴェ ドラゴン」(ブラン・ド・ブラン/ブラン・ド・ノワール/アッサンブラージュ、7,000〜9,000円台)、ケルナーのスパークリング(4,840円)
- 新潟シリーズ——「田園」シャルドネ、「夕陽」カベルネ・メルロー、「花火」など、4,000円台の親しみやすいライン
- カベルネ・ジャポネ——日本で育種・栽培される交配品種を使ったシリーズ(ベガ、アルタイル、シリウスなど)
日本ワインのなかでも価格帯は高めで、少量生産・ヴィンテージごとの入れ替わりが前提の蔵です。気になるキュヴェは見つけたときに押さえるのが確実です。なお、コンクールの受賞歴は公式に確認できる情報が見当たらないため、ここでは記載していません。
合わせたい料理
砂丘のアルバリーニョの酸と塩味は、寿司や刺身、白身魚のカルパッチョ、岩牡蠣、甘えびといった日本海の魚介に素直に寄り添います。レモンを搾る料理なら、たいてい合うと考えてよいでしょう。カベルネ・フランは香草を効かせた鶏や豚のロースト、キュヴェ ドラゴンは食前酒から天ぷらまで幅広く。レストランでは自家ワインと地元食材のペアリングで、その答え合わせができます。
訪ねる——ツアー、レストラン、ワインコースト
ツアー&テイスティングは約1時間。アルバリーニョとカベルネ・フランの畑を歩き、醸造所を見学して、4種を試飲します。料金は1名2,750円、定員は1日最大6名。基本は金・土の14:30〜と日・月の10:30〜で、公式サイトの問い合わせフォームから申し込むと、確認の電話が入る仕組みです。
レストランは畑を望むフレンチで、11〜16時の営業(コースのラストオーダー14時)。ショートコースは5,940円〜、フルコースは13,200円〜(2名以上・要予約)。ディナーは予約制です。定休は火曜と不定休。予約はTableCheckか電話で受け付けています。
一帯の新潟ワインコーストには、カーブドッチ、フェルミエ、ドメーヌ・ショオ、カンティーナ・ジーオセット(週末営業)、ルサンクワイナリーの5軒が歩いて回れる距離に集まっています。最寄りはJR越後線の内野駅で、新潟駅から車で約40分。予約制のシャトルバスもあります。1日で複数の蔵を巡る計画の立て方は第51講「ワイナリー訪問とワインツーリズム」を参考に。新潟の海辺で、砂丘が育てた白を確かめに行く価値のある一軒です。


