八重原台地の南東の縁
496ワイナリー/シクロヴィンヤードは、長野県東御市八重原のワイナリーです。所在地は八重原1018。NAGANO WINE(長野県の公式サイト)では、信州ワインバレー構想の千曲川ワインバレーに数えられています。
公式サイトによれば、畑は東御市を東西に流れる千曲川の左岸(南岸、旧北御牧村)、標高660mほどのテーブル状の八重原台地の南東の縁にあります。北に千曲川を挟んで浅間連山の烏帽子岳、南に八ヶ岳の最北端・蓼科山があり、その中間に位置する台地です。
競輪選手から、ぶどう畑へ
園主の飯島規之さんは、公式サイトの「HISTORY」によれば約25年走った競輪選手で、2012年の初めに引退しました。現役時代は自転車トラック競技の個人追い抜き(パシュート)で日本一になり、ワールドカップで銀メダル、アジア選手権で優勝しています。主力の銘柄名『パシュート』は、この種目と同じ名前です。
会社沿革によれば、飯島さんは2012年春に長野県へ移り、小諸の長野県農業大学校研修部で農業の基礎を学びました。2013年春には東御市へ移り、ヴィラデストワイナリーの創業時の代表、玉村豊男さんに師事してワイン造りを学んでいます。NAGANO WINEの紹介では、妻の祐子さんとともにぶどう栽培を始めたとされています。
荒れ地の開墾と、委託醸造の時代
選んだ土地は、作業のしにくい傾斜地が多く、採算や高齢化で耕作放棄され、雑木が生い茂っていた農地でした。2014年の正月から、チェーンソーで木を切り倒し、重機を入れ、仲間と無数の石を拾って畑に戻し、同じ年の春に苗木約1,200本を植えています。この最初の畑を「ホームストレッチ」と呼び、メイン畑としています。2020年1月時点では2.2haに約4,800本を育てていました。
自社の醸造所ができるまでは委託醸造です。2015年ヴィンテージからアルモノワールとメルローを伊那ワイン工房に委託し、同じ年と翌年には長野県工業技術総合センターでの研究試験醸造にも自園のぶどうで参加しました。2016年ヴィンテージで『パシュート アルモノワール』『パシュート シャルドネ』『パシュート ソーヴィニヨン・ブラン』『アマンダ メルロー』の4種を発売しています。
2017年11月にシクロヴィンヤード株式会社を設立。国の総合化事業計画(6次産業化)の認定を受け、2018年9月2日に地鎮祭、同年に醸造所を建て、2019年3月の春分の日にワイナリーショップを開きました。2019年秋に収穫したぶどうはすべて自社で仕込み、2020年春から販売しています。
湖の底だった強粘土の畑
公式サイトが繰り返し語るのは土です。八重原台地には、八ヶ岳・蓼科山の影響を受けたカオリナイトという粘土鉱物が厚く積もった強粘土質の土壌が広がります。開墾のときには地中から青い粘土(グライ層)が出てきて、八重原がかつて巨大な湖の底だったことを示しているといいます。乾くとひび割れるほど締まる土は根の伸びと収量を抑え、一方で水と養分を蓄える力は大きい。傾斜が排水を補っています。
畑は大部分が南東向きの斜面で、畝の多くは南北方向の垣根仕立て。午前の日差しを受け、午後の強い西日による熱のこもりを避けられる向きだと説明しています。メイン畑の東端には信州大学の千曲川ワインバレー分析センターが置いた気象観測装置があり、10分おきに気温や降水量、日射量、土壌水分を測っています。公式サイトはこのデータをもとに、昼夜の寒暖差の大きさと雨の少なさを挙げる一方、遅霜・早霜の危険が高い土地でもあると書いています。土と気候のとらえ方はテロワールの項にまとめています。
栽培の方針ははっきりしています。レインガードや傘かけといった雨よけは使わず、降る雨もこの土地の個性と考える。化学肥料と除草剤は一切使わない。そしてワインは自社畑のワイン専用種100%で、栽培から醸造、販売まで一貫して手がけています。
『パシュート』『アマンダ』『タンデム』
品種はシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、メルロー、ピノ・ノワールと、ツヴァイゲルトレーベとカベルネ・ソーヴィニヨンを掛け合わせたアルモノワールの5つ。銘柄名には自転車競技の言葉が並びます。2026年11月時点の公式オンラインショップの品ぞろえから、いくつか挙げます(価格は税込)。
- パシュート シャルドネ 2024 ステンレス発酵── 3,850円。『パシュート シャルドネ』は2019年、漫画『マリアージュ~神の雫 最終章~』(モーニング2019年3月21日号)の日本ワイン飲み比べの回に登場しました。
- パシュート ソーヴィニヨン・ブラン TOTO 蓼科── 樽発酵とステンレス発酵があり、2023年がそれぞれ3,900円と3,850円。公式サイトによれば、ソーヴィニヨン・ブランはミシュランガイド二つ星のレストランなどで使われました。
- アマンダ メルロー 2020── 4,200円。
- 496 八重原 メルロー 2021── 7,150円。上田地域振興局の案内では、粘土質を好むとされるメルローを八重原台地で育て、フレンチオーク樽で17か月熟成させた赤です。
- タンデム サイクリング ロゼ 2024、タンデム サイクリング ブラン ド ノワール 2024── 各3,600円。
- アルカンシェルのシリーズ── シャルドネ(勘六山)、ソーヴィニヨン・ブラン、赤の『タンデムルージュ』、樽熟成のピノ・ノワール『マディソン』など、6,800〜11,000円のシリーズ。
売店の開く日を確かめて
醸造所の売店は常設の営業ではなく、開く日を公式サイトのトップの「最新のお知らせ」で知らせています。2026年11月3日に更新された告知では、11月8日(日)の12:00〜16:00に営業します。NAGANO WINEの紹介ページも定休日は「要問合せ」、営業時間は公式サイトで確かめるよう案内しています。上田地域振興局の案内(2023年1月31日現在の情報)では試飲と見学はできず、ラッピングは有料で受けています。遠方からなら、公式オンラインショップ(気温の高い時期はクール便のみ)で取り寄せるのが確実です。
東御市には、師にあたる玉村豊男さんのヴィラデストワイナリーやリュードヴァンなど、千曲川ワインバレーの造り手が集まっています。産地の全体像は産地:長野と第72講 長野完全編で整理しています。

