
東海4県のワインを、数字で見るTōkai in Numbers
第90講東北で雪の土地を歩いた日本の産地編は、太平洋側の東海へ。愛知・岐阜・三重・静岡の4県です。名古屋の街なか、伊勢の門前町、伊豆の丘、そして飛騨の山あい。大産地の山梨と長野にはさまれた土地にも、醸造所は点々とあります。
| 県 | ワイナリー数 | 果実酒の製造免許場 | 製成数量(うち日本ワイン) |
|---|---|---|---|
| 愛知 | 10場 | 20場(うち試験免許3) | 408kl(408kl) |
| 静岡 | 10場 | 14場(うち試験免許3) | 93kl(81kl) |
| 岐阜 | 5場 | 15場(うち試験免許6) | 5kl(3kl) |
| 三重 | 4場 | 10場(うち試験免許3) | 7kl(7kl) |
| 4県の合計 | 29場 | 59場 | — |
| (比較)山梨 | 85場 | 119場(うち試験免許3) | 8,918kl(3,762kl) |
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート、2024年の実績)の都道府県別のワイナリー数・果実酒の製造免許場数・製成数量。ワイナリー数は、果実酒の免許を持ち2024年に生産か出荷の実績があった製造場の数(2025年1月1日現在、全国は519場)。製成数量は回答した製造場の合計です。4県の合計は編集部が表の数字を足したものです。
4県のワイナリーは合わせて29場で、第88講関東(56場)のおよそ半分。愛知と静岡が10場ずつで並び、岐阜は免許場15のうち6つが試験免許です。
目を引くのは愛知です。製成数量408klのすべてが日本ワインで、日本ワインの製成数量で全国6位に入ります(同じ調査の上位10都道府県の表)。ただし県内のワイナリーが受け入れた生ぶどうは47tで、製成数量との関係はこの調査からは読み取れません。ワインの販売(消費)数量でも愛知は全国6位。名古屋という大きな飲み手の街を抱えた県です。
ワイナリーが受け入れた原料ぶどうの量を、県別に並べてみましょう。
出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)の原料用国産生ぶどうの品種別受入数量(2024年4月〜2025年3月)と、受入数量上位5地域産のぶどうの出荷状況。回答したワイナリーが所在する県ごとの合計です。
静岡が群を抜きます。品種の列では甲州28t・シャルドネ18t・メルロー11tで、残る256tは「その他」。ぶどうの産地別の表を見ると、北海道産のぶどうが県外へ出荷された先の1位が静岡(184t)、長野産の出荷先の3位も静岡(33t)です。静岡の受入319tのうち、少なくとも7割近くが北海道と長野から届いている計算になります(編集部の計算)。一方で、垣根仕立てのヤマソービニオン(山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配種)では、静岡県産が10tで全国3位。県内の畑の個性も、数字に表れています。
温暖な海辺と、飛騨の高原Sea Coast and Highlands
太平洋に面した温暖な平野と、北の飛騨の山国。東海はまるで違う二つの顔を持ちます。気象庁の平年値で比べてみましょう。
| 観測点 | 年平均気温 | 年降水量 | 年間日照時間 |
|---|---|---|---|
| 浜松(静岡) | 16.8℃ | 1,843.2mm | 2,237.9時間 |
| 静岡 | 16.9℃ | 2,327.3mm | 2,151.5時間 |
| 名古屋(愛知) | 16.2℃ | 1,578.9mm | 2,141.0時間 |
| 岐阜 | 16.2℃ | 1,860.7mm | 2,108.6時間 |
| 津(三重) | 16.3℃ | 1,612.9mm | 2,108.6時間 |
| 高山(岐阜・飛騨) | 11.4℃ | 1,776.5mm | 1,638.3時間 |
| (比較)甲府 | 15.1℃ | 1,160.7mm | 2,225.8時間 |
出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。年間日照時間の長い順に並べています。
平野と海沿いの5地点は16〜17℃で、第70講山梨の甲府より1〜2℃高く、日照も甲府に近い2,100時間超。違いは雨。いちばん少ない名古屋でも甲府の1.4倍ほど、静岡は2,300mmを超え、甲府のおよそ2倍です。暖かく、日が照り、雨が多い——病気を防ぐ畑の仕事が、ぶどうの質を分けます。
北の高山は11.4℃。東北で見た青森(10.7℃)に近い、涼しい高原の数字です。日照は1,600時間台と短く、同じ岐阜県の岐阜市とは5℃近い差があります。高い標高で酸を残す栽培の考え方は、第72講長野と第61講気候とワイン、雨の多い土地での仕立ては第59講ぶどう畑の一年・栽培完全編へ。

東海4県のワインの歩みFrom Tajimi to Ise
修道院の畑から、伊豆の丘、福祉の醸造所、門前町の蔵まで。公式資料・国や自治体の資料・報道で確かめた出来事を並べます。
- 1930年——多治見の修道院岐阜県多治見市に、カトリック神言修道会の神父らが修道院を建てました。周りにはぶどう畑が広がり、地下でワインが醸造されていた時期もあります(共同通信、2026年3月)。
- 1987年〜2000年——伊豆の丘へ三島市の2アールの畑でワイン用ぶどうの試験栽培が始まり、1989年には旧修善寺町に試験農場、1999年に果実酒の製造免許を取得。2000年1月、伊豆市下白岩に中伊豆ワイナリー シャトーT.Sが開業しました(公式の年表)。
- 2003年〜2015年——福祉のワイナリー社会福祉法人AJU自立の家が2003年にワイン事業を始め、多治見修道院の畑でワイン用ぶどうの栽培を開始。2015年4月、障害のある人の就労支援の場として、愛知県小牧市に小牧ワイナリーを開きました(公式)。
- 2009年〜2019年——果実酒の特区が広がる三重県熊野市(2009年)、愛知県豊田市(2013年)、三重県名張市(2015年)、愛知県日進市(2016年)、静岡県富士宮市と愛知県大府市(2019年)が、果実酒を対象に含む特区の認定を受けました(国税庁の一覧)。
- 2019年ごろ——富士山の麓で富士宮市北山の生まれの石川弘幸さんが、およそ50アールの畑に約1,500本のぶどうを育て、特区の認定を受けて醸造所を本格的に動かし始めました。自社畑の日本固有の品種だけでワインを造ると語っています(富士市の広報紙、2020年7月)。
- 2022年〜2023年——門前町の醸造所と新しい特区2022年11月、伊勢市の商店街の裏通りに伊勢美し国醸造所(伊勢志摩ワイナリー)が開業しました(三重県観光連盟の資料)。2023年には岡崎市と伊勢市が、ワインの名を冠した特区の認定を受けています。
- 2026年——コンクールで日本ワインコンクール2026で、静岡・中伊豆の『伊豆ソーヴィニヨン・ブラン2025』が金賞。岐阜・飛騨高山の白2本と、三重・伊勢のオレンジワインも銅賞を受けました(主催者の受賞リスト)。
4県の造り手Wineries of Four Prefectures
伊豆の丘から、街なかの小さな蔵、飛騨の高原まで。公式サイト、名古屋国税局の酒蔵マップ(2026年1月現在)、コンクールの受賞リストで確かめた範囲で紹介します。
畑は2026年に10ha、赤6種・白4種を育てる(公式)。ホテルや温泉を併設し、泊まって飲める。くわしく
果実酒の特区がある富士宮市・北山の造り手。酒蔵マップに載る代表銘柄は『富士の夢』。
社会福祉法人の福祉型ワイナリー。小牧と多治見修道院の畑のぶどうで造る。代表銘柄は『KOMAKI Rouge』。くわしく
知多半島のやきものの町の造り手。酒蔵マップの代表銘柄は『常滑シャルドネ』。
伊勢美し国醸造所。伊勢市駅に近い街なかの蔵に、レストランとバーが入る。『美し国』の名で白・赤・オレンジを造る。くわしく
名張市の特区の町の造り手。酒蔵マップの代表銘柄は『Natural POP Life』。
飛騨の久々野町で、シャルドネやゲヴュルツトラミネールなど欧州系品種の白を造る。くわしく
美濃の平野の造り手。酒蔵マップの代表銘柄は『岩利五丁目 Merlot』。
同じ岐阜市の醸造所。酒蔵マップの代表銘柄は『天然葡萄酒 Le Bois』。
酒蔵マップにはこのほか、春日井ワイナリー春の風(愛知)、御殿場高原ワイン(静岡)、まほろばファーム(三重・伊賀市)、坂井農園(岐阜・各務原市)なども載っています。見学や直売の条件は変わることがあるので、訪ねる前に各社の案内を確かめてください。
コンクールが選んだ、東海の一本
| 銘柄 | 造り手・県 | 賞 | 販売価格 |
|---|---|---|---|
| 伊豆ソーヴィニヨン・ブラン2025 | 中伊豆・静岡 | 金賞 | 4,070円 |
| 伊豆メルロー2024 | 中伊豆・静岡 | 銀賞 | 4,070円 |
| 伊豆シンフォニー・レッド2023プレミアム | 中伊豆・静岡 | 銅賞 | 8,580円 |
| アポセカリー ゲヴュルツトラミネール 2025 | アポセカリー・岐阜 | 銅賞 | 4,700円 |
| アポセカリー ソーヴィニヨンブラン 2025 | アポセカリー・岐阜 | 銅賞 | 4,700円 |
| 美し国オレンジ 2025 | 伊勢志摩・三重 | 銅賞 | 5,280円 |
出典:日本ワインコンクール2026の受賞ワインリスト(主催者の公表)。価格はリストに載る販売価格(750ml)。中伊豆はほかに銅賞3本があります。
選ぶ、訪ねる、合わせるDrink Tōkai
最後に、4県のワインを手に取り、産地を訪ね、土地の料理と合わせるための手がかりをまとめます。
選ぶときの目安
温暖な土地の、欧州系の一本
伊豆のソーヴィニヨン・ブランやメルロー、伊勢のシャルドネ。暖かく雨の多い土地で欧州系品種に挑む造り手のワインは、コンクールの受賞銘柄から入ると探しやすい。ぶどうの産地も確かめて——静岡の蔵で北海道や長野のぶどう、ということもあります。
高原の白と、街の小さな蔵
飛騨のゲヴュルツトラミネールやシャルドネは、涼しい高原の白。修道院の畑のマスカット・ベーリーAや玉城町のデラウェアなど、日本で長く育てられてきた品種の一本も、この土地らしい選び方です。
味わいは一般的な傾向で、銘柄や年によって異なります。直売や地元の酒販店で探すのが近道です。
訪ねる
中伊豆はホテルと温泉を併設。伊勢の醸造所は伊勢市駅から歩いて約10分で、外宮の参拝と組みやすい。
小牧の見学はグループ向けの予約制。飛騨高山のアポセカリーは見学を受け付けていないので、高山の酒販店で探すのが確実。
試飲をするなら、運転する人を決めておくこと。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、県ごとの特徴は愛知・岐阜・三重・静岡の産地ページへ。

東海の食卓と
東海の郷土料理とワインの組み合わせを、公的な機関が勧めている例は見つかりませんでした。ここからの合わせ方は、第27講料理ペアリングと第71講和食とワインの考え方をもとにした、編集部からの提案です。
甘辛いたれと胡椒の揚げ鶏には、冷えた泡やすっきりした白を(ペアリング:鶏料理)。
豆味噌のコクや、焼いたうなぎのたれの香ばしさには、渋みの穏やかなマスカット・ベーリーAが寄り添いやすい。
伊勢えびの甘み、駿河湾の桜えびのかき揚げには、樽の目立たない白や泡を(ペアリング:天ぷら)。
割り下で煮る牛肉には、果実味のある赤を。甘い味付けなら軽めのものから(ペアリング:すき焼き)。
名古屋の濃い味、伊勢と駿河の海の幸、山国の牛肉。4県の食卓は、穏やかな赤と、すっきりした白や泡に出会いやすい土地です。
よくある質問Frequently asked
国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは、愛知10・静岡10・岐阜5・三重4で、4県合わせて29場です(2025年1月1日現在)。果実酒の製造免許場は4県で59あります。
製成数量では愛知の408klで、すべて日本ワインとして集計され、全国6位です。原料ぶどうの受入量では静岡の319tが最多です。
ありません(国税庁の一覧)。ワインのGIは山梨・北海道・山形・大阪・長野の5つです。4県のお酒のGIは、清酒の「三重」と「静岡」です。果実酒の特区は愛知・三重・静岡の8市にあります。
海と山のあいだの、小さな醸造所Small Cellars between Sea and Mountains
東海4県のワイナリーは29場。愛知は日本ワインの製成数量で全国6位、静岡は北海道や長野のぶどうも仕込みます。平野と海沿いは甲府より暖かく、雨は1.4〜2倍。北の高山は東北に近い涼しさです。
1930年の多治見の修道院、2000年の伊豆の丘、2015年の小牧の福祉のワイナリー、2022年の伊勢の門前町の醸造所。ワインのGIはまだありませんが、特区は8つの市に広がり、2026年には伊豆のソーヴィニヨン・ブランが金賞に。海と山のあいだの、小さな醸造所から、東海のワインは少しずつ名前を持ち始めています。
次の一本。 今回は東海の2本を並べてください。1本目は、伊豆のソーヴィニヨン・ブランか飛騨高山のゲヴュルツトラミネールのような、欧州系品種の白。2本目は、マスカット・ベーリーAなど、日本で長く育てられてきた品種の赤。ぶどうの産地も見比べてみてください。料理は手羽先と、味噌の効いたひと皿を。
次回はテーマ講座へ。第93講「ワインと年末年始の食卓完全編」。おせちの重箱、すき焼き、年越しそば、鍋、カニ、そして年始の乾杯の泡。日本の年末年始の食卓に、どんなワインをどう合わせるかをたどります(第71講和食とワインと第13講スパークリングワインもあわせてどうぞ)。
