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ワインガイド Vinotier マイリスト

VINOTIER WINE COURSELEÇON XCII

第92講 深掘り

東海のワイン完全編

海と山のあいだにも、醸造所がある。 愛知・岐阜・三重・静岡の4県に29のワイナリー。多治見の修道院の畑から、伊豆の丘のワインリゾート、小牧の福祉のワイナリー、伊勢の門前町の醸造所、飛騨の高原の白まで。第90講「東北完全編」に続く、日本の産地編です。

4県29のワイナリー伊豆の丘と伊勢の門前町飛騨の高原の白
東海完全編のイメージ
富士山と静岡の茶畑
富士山のふもとに広がる静岡の茶畑。温暖で雨の多い東海の海側の景色です
— I

東海4県のワインを、数字で見るTōkai in Numbers

第90講東北で雪の土地を歩いた日本の産地編は、太平洋側の東海へ。愛知・岐阜・三重・静岡の4県です。名古屋の街なか、伊勢の門前町、伊豆の丘、そして飛騨の山あい。大産地の山梨と長野にはさまれた土地にも、醸造所は点々とあります。

県ワイナリー数果実酒の製造免許場製成数量(うち日本ワイン)
愛知10場20場(うち試験免許3)408kl(408kl)
静岡10場14場(うち試験免許3)93kl(81kl)
岐阜5場15場(うち試験免許6)5kl(3kl)
三重4場10場(うち試験免許3)7kl(7kl)
4県の合計29場59場—
(比較)山梨85場119場(うち試験免許3)8,918kl(3,762kl)

出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート、2024年の実績)の都道府県別のワイナリー数・果実酒の製造免許場数・製成数量。ワイナリー数は、果実酒の免許を持ち2024年に生産か出荷の実績があった製造場の数(2025年1月1日現在、全国は519場)。製成数量は回答した製造場の合計です。4県の合計は編集部が表の数字を足したものです。

4県のワイナリーは合わせて29場で、第88講関東(56場)のおよそ半分。愛知と静岡が10場ずつで並び、岐阜は免許場15のうち6つが試験免許です。

目を引くのは愛知です。製成数量408klのすべてが日本ワインで、日本ワインの製成数量で全国6位に入ります(同じ調査の上位10都道府県の表)。ただし県内のワイナリーが受け入れた生ぶどうは47tで、製成数量との関係はこの調査からは読み取れません。ワインの販売(消費)数量でも愛知は全国6位。名古屋という大きな飲み手の街を抱えた県です。

ワイナリーが受け入れた原料ぶどうの量を、県別に並べてみましょう。

静岡
319t
愛知
47t
三重
10t
岐阜
6t

出典:国税庁「酒類製造業及び酒類卸売業の概況」(令和7年アンケート)の原料用国産生ぶどうの品種別受入数量(2024年4月〜2025年3月)と、受入数量上位5地域産のぶどうの出荷状況。回答したワイナリーが所在する県ごとの合計です。

静岡が群を抜きます。品種の列では甲州28t・シャルドネ18t・メルロー11tで、残る256tは「その他」。ぶどうの産地別の表を見ると、北海道産のぶどうが県外へ出荷された先の1位が静岡(184t)、長野産の出荷先の3位も静岡(33t)です。静岡の受入319tのうち、少なくとも7割近くが北海道と長野から届いている計算になります(編集部の計算)。一方で、垣根仕立てのヤマソービニオン(山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニヨンの交配種)では、静岡県産が10tで全国3位。県内の畑の個性も、数字に表れています。

— II

温暖な海辺と、飛騨の高原Sea Coast and Highlands

太平洋に面した温暖な平野と、北の飛騨の山国。東海はまるで違う二つの顔を持ちます。気象庁の平年値で比べてみましょう。

観測点年平均気温年降水量年間日照時間
浜松(静岡)16.8℃1,843.2mm2,237.9時間
静岡16.9℃2,327.3mm2,151.5時間
名古屋(愛知)16.2℃1,578.9mm2,141.0時間
岐阜16.2℃1,860.7mm2,108.6時間
津(三重)16.3℃1,612.9mm2,108.6時間
高山(岐阜・飛騨)11.4℃1,776.5mm1,638.3時間
(比較)甲府15.1℃1,160.7mm2,225.8時間

出典:気象庁「過去の気象データ」平年値(1991〜2020年)。年間日照時間の長い順に並べています。

平野と海沿いの5地点は16〜17℃で、第70講山梨の甲府より1〜2℃高く、日照も甲府に近い2,100時間超。違いは雨。いちばん少ない名古屋でも甲府の1.4倍ほど、静岡は2,300mmを超え、甲府のおよそ2倍です。暖かく、日が照り、雨が多い——病気を防ぐ畑の仕事が、ぶどうの質を分けます。

北の高山は11.4℃。東北で見た青森(10.7℃)に近い、涼しい高原の数字です。日照は1,600時間台と短く、同じ岐阜県の岐阜市とは5℃近い差があります。高い標高で酸を残す栽培の考え方は、第72講長野と第61講気候とワイン、雨の多い土地での仕立ては第59講ぶどう畑の一年・栽培完全編へ。

夜の飛騨高山の古い町並み
夜の飛騨高山の古い町並み。年平均気温11.4℃の高原の町にも、ワインの醸造所があります
— III

東海4県のワインの歩みFrom Tajimi to Ise

修道院の畑から、伊豆の丘、福祉の醸造所、門前町の蔵まで。公式資料・国や自治体の資料・報道で確かめた出来事を並べます。

  1. 1930年——多治見の修道院岐阜県多治見市に、カトリック神言修道会の神父らが修道院を建てました。周りにはぶどう畑が広がり、地下でワインが醸造されていた時期もあります(共同通信、2026年3月)。
  2. 1987年〜2000年——伊豆の丘へ三島市の2アールの畑でワイン用ぶどうの試験栽培が始まり、1989年には旧修善寺町に試験農場、1999年に果実酒の製造免許を取得。2000年1月、伊豆市下白岩に中伊豆ワイナリー シャトーT.Sが開業しました(公式の年表)。
  3. 2003年〜2015年——福祉のワイナリー社会福祉法人AJU自立の家が2003年にワイン事業を始め、多治見修道院の畑でワイン用ぶどうの栽培を開始。2015年4月、障害のある人の就労支援の場として、愛知県小牧市に小牧ワイナリーを開きました(公式)。
  4. 2009年〜2019年——果実酒の特区が広がる三重県熊野市(2009年)、愛知県豊田市(2013年)、三重県名張市(2015年)、愛知県日進市(2016年)、静岡県富士宮市と愛知県大府市(2019年)が、果実酒を対象に含む特区の認定を受けました(国税庁の一覧)。
  5. 2019年ごろ——富士山の麓で富士宮市北山の生まれの石川弘幸さんが、およそ50アールの畑に約1,500本のぶどうを育て、特区の認定を受けて醸造所を本格的に動かし始めました。自社畑の日本固有の品種だけでワインを造ると語っています(富士市の広報紙、2020年7月)。
  6. 2022年〜2023年——門前町の醸造所と新しい特区2022年11月、伊勢市の商店街の裏通りに伊勢美し国醸造所(伊勢志摩ワイナリー)が開業しました(三重県観光連盟の資料)。2023年には岡崎市と伊勢市が、ワインの名を冠した特区の認定を受けています。
  7. 2026年——コンクールで日本ワインコンクール2026で、静岡・中伊豆の『伊豆ソーヴィニヨン・ブラン2025』が金賞。岐阜・飛騨高山の白2本と、三重・伊勢のオレンジワインも銅賞を受けました(主催者の受賞リスト)。
4県の「ワイン特区」と、GI。 国税庁の一覧(2026年3月認定分まで)で果実酒に関わる特区は、愛知が豊田市・日進市・大府市・岡崎市、三重が熊野市・名張市・伊勢市、静岡が富士宮市。岐阜の特区はどぶろくなどで、果実酒の特区はありません。地理的表示(GI)では、ワインのGIは山梨・北海道・山形・大阪・長野の5つで、東海にワインのGIはありません。お酒のGIは清酒の「三重」(2020年)と「静岡」(2023年)です。GIの読み方は第41講ラベルの読み方へ。
— IV

4県の造り手Wineries of Four Prefectures

伊豆の丘から、街なかの小さな蔵、飛騨の高原まで。公式サイト、名古屋国税局の酒蔵マップ(2026年1月現在)、コンクールの受賞リストで確かめた範囲で紹介します。

中伊豆ワイナリー シャトーT.S静岡・伊豆市・2000年

畑は2026年に10ha、赤6種・白4種を育てる(公式)。ホテルや温泉を併設し、泊まって飲める。くわしく

富士山北山ワイナリー静岡・富士宮市

果実酒の特区がある富士宮市・北山の造り手。酒蔵マップに載る代表銘柄は『富士の夢』。

小牧ワイナリー愛知・小牧市・2015年

社会福祉法人の福祉型ワイナリー。小牧と多治見修道院の畑のぶどうで造る。代表銘柄は『KOMAKI Rouge』。くわしく

常滑ワイナリー「ネイバーフッド」愛知・常滑市

知多半島のやきものの町の造り手。酒蔵マップの代表銘柄は『常滑シャルドネ』。

伊勢志摩ワイナリー三重・伊勢市・2022年

伊勢美し国醸造所。伊勢市駅に近い街なかの蔵に、レストランとバーが入る。『美し国』の名で白・赤・オレンジを造る。くわしく

國津果實酒醸造所三重・名張市

名張市の特区の町の造り手。酒蔵マップの代表銘柄は『Natural POP Life』。

飛騨高山ワインアポセカリー岐阜・高山市久々野町

飛騨の久々野町で、シャルドネやゲヴュルツトラミネールなど欧州系品種の白を造る。くわしく

Domaine Hisamatsu醸造所岐阜・岐阜市

美濃の平野の造り手。酒蔵マップの代表銘柄は『岩利五丁目 Merlot』。

長良天然ワイン醸造岐阜・岐阜市

同じ岐阜市の醸造所。酒蔵マップの代表銘柄は『天然葡萄酒 Le Bois』。

酒蔵マップにはこのほか、春日井ワイナリー春の風(愛知)、御殿場高原ワイン(静岡)、まほろばファーム(三重・伊賀市)、坂井農園(岐阜・各務原市)なども載っています。見学や直売の条件は変わることがあるので、訪ねる前に各社の案内を確かめてください。

コンクールが選んだ、東海の一本

銘柄造り手・県賞販売価格
伊豆ソーヴィニヨン・ブラン2025中伊豆・静岡金賞4,070円
伊豆メルロー2024中伊豆・静岡銀賞4,070円
伊豆シンフォニー・レッド2023プレミアム中伊豆・静岡銅賞8,580円
アポセカリー ゲヴュルツトラミネール 2025アポセカリー・岐阜銅賞4,700円
アポセカリー ソーヴィニヨンブラン 2025アポセカリー・岐阜銅賞4,700円
美し国オレンジ 2025伊勢志摩・三重銅賞5,280円

出典:日本ワインコンクール2026の受賞ワインリスト(主催者の公表)。価格はリストに載る販売価格(750ml)。中伊豆はほかに銅賞3本があります。

— V

選ぶ、訪ねる、合わせるDrink Tōkai

最後に、4県のワインを手に取り、産地を訪ね、土地の料理と合わせるための手がかりをまとめます。

選ぶときの目安

温暖な土地の、欧州系の一本

伊豆のソーヴィニヨン・ブランやメルロー、伊勢のシャルドネ。暖かく雨の多い土地で欧州系品種に挑む造り手のワインは、コンクールの受賞銘柄から入ると探しやすい。ぶどうの産地も確かめて——静岡の蔵で北海道や長野のぶどう、ということもあります。

高原の白と、街の小さな蔵

飛騨のゲヴュルツトラミネールやシャルドネは、涼しい高原の白。修道院の畑のマスカット・ベーリーAや玉城町のデラウェアなど、日本で長く育てられてきた品種の一本も、この土地らしい選び方です。

味わいは一般的な傾向で、銘柄や年によって異なります。直売や地元の酒販店で探すのが近道です。

訪ねる

泊まって飲む伊豆・伊勢

中伊豆はホテルと温泉を併設。伊勢の醸造所は伊勢市駅から歩いて約10分で、外宮の参拝と組みやすい。

名古屋から、飛騨へ小牧・多治見・高山

小牧の見学はグループ向けの予約制。飛騨高山のアポセカリーは見学を受け付けていないので、高山の酒販店で探すのが確実。

試飲をするなら、運転する人を決めておくこと。訪問の心得は第51講ワイナリー訪問、県ごとの特徴は愛知・岐阜・三重・静岡の産地ページへ。

夕暮れの英虞湾
夕暮れの英虞湾(三重・志摩)。伊勢えびと土地の白を合わせたくなる、伊勢志摩の海です

東海の食卓と

東海の郷土料理とワインの組み合わせを、公的な機関が勧めている例は見つかりませんでした。ここからの合わせ方は、第27講料理ペアリングと第71講和食とワインの考え方をもとにした、編集部からの提案です。

泡・辛口の白 × 手羽先愛知・名古屋

甘辛いたれと胡椒の揚げ鶏には、冷えた泡やすっきりした白を(ペアリング:鶏料理)。

軽めの赤 × 味噌煮込み・ひつまぶし愛知

豆味噌のコクや、焼いたうなぎのたれの香ばしさには、渋みの穏やかなマスカット・ベーリーAが寄り添いやすい。

白・泡 × 伊勢えびと桜えび三重・静岡

伊勢えびの甘み、駿河湾の桜えびのかき揚げには、樽の目立たない白や泡を(ペアリング:天ぷら)。

メルローの赤 × 松阪牛と飛騨牛三重・岐阜

割り下で煮る牛肉には、果実味のある赤を。甘い味付けなら軽めのものから(ペアリング:すき焼き)。

名古屋の濃い味、伊勢と駿河の海の幸、山国の牛肉。4県の食卓は、穏やかな赤と、すっきりした白や泡に出会いやすい土地です。

— FAQ

よくある質問Frequently asked

Q愛知・岐阜・三重・静岡にワイナリーはいくつある?

国税庁の調査では、2024年に生産か出荷の実績があったワイナリーは、愛知10・静岡10・岐阜5・三重4で、4県合わせて29場です(2025年1月1日現在)。果実酒の製造免許場は4県で59あります。

Q東海でいちばん多くワインを造っている県は?

製成数量では愛知の408klで、すべて日本ワインとして集計され、全国6位です。原料ぶどうの受入量では静岡の319tが最多です。

Q東海にワインのGIはある?

ありません(国税庁の一覧)。ワインのGIは山梨・北海道・山形・大阪・長野の5つです。4県のお酒のGIは、清酒の「三重」と「静岡」です。果実酒の特区は愛知・三重・静岡の8市にあります。

— Recap

海と山のあいだの、小さな醸造所Small Cellars between Sea and Mountains

東海4県のワイナリーは29場。愛知は日本ワインの製成数量で全国6位、静岡は北海道や長野のぶどうも仕込みます。平野と海沿いは甲府より暖かく、雨は1.4〜2倍。北の高山は東北に近い涼しさです。

1930年の多治見の修道院、2000年の伊豆の丘、2015年の小牧の福祉のワイナリー、2022年の伊勢の門前町の醸造所。ワインのGIはまだありませんが、特区は8つの市に広がり、2026年には伊豆のソーヴィニヨン・ブランが金賞に。海と山のあいだの、小さな醸造所から、東海のワインは少しずつ名前を持ち始めています。

次の一本。 今回は東海の2本を並べてください。1本目は、伊豆のソーヴィニヨン・ブランか飛騨高山のゲヴュルツトラミネールのような、欧州系品種の白。2本目は、マスカット・ベーリーAなど、日本で長く育てられてきた品種の赤。ぶどうの産地も見比べてみてください。料理は手羽先と、味噌の効いたひと皿を。

次回はテーマ講座へ。第93講「ワインと年末年始の食卓完全編」。おせちの重箱、すき焼き、年越しそば、鍋、カニ、そして年始の乾杯の泡。日本の年末年始の食卓に、どんなワインをどう合わせるかをたどります(第71講和食とワインと第13講スパークリングワインもあわせてどうぞ)。

Santé, depuis Tōkai.

次に東海のワインを開けるとき、伊豆の丘に並ぶ垣根と、伊勢の商店街の裏通りで静かに眠るタンクを思い浮かべてみてください。海と山のあいだの小さな醸造所から、この土地の新しい一本が生まれています。

写真クレジット(すべてWikimedia Commons):
1. 富士山と静岡の茶畑 — “Mount Fuji and Tea plantation” by Alpsdake, CC BY-SA 4.0
2. 夜の飛騨高山 — “Takayama Old Town At Night (135528503)” by Harald Johnsen, CC BY-SA 3.0
3. 夕暮れの英虞湾 — “Ago Bay from Mount Yokoyama” by Alpsdake, CC BY-SA 4.0
※掲載写真はレイアウト上の都合によりリサイズ・トリミングして掲載しています。
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