第81講「スイーツとワイン完全編」では、甘いものと甘口ワインの合わせ方を見てきました。今回は、その甘口ワインの代表格のひとつ、ポルトガル北部のポートを、産地のドウロ渓谷からたどります。
ポートは、ぶどうの発酵の途中で蒸留酒を加えて造る酒精強化ワインです。仕組みそのものは第15講「酒精強化ワイン完全編」で、ポート以外のポルトガルの姿は第21講「ポルトガル完全編」で扱いました。ここでは、畑と歴史、規則、そして造り手の顔ぶれに焦点を当てます。
片岩の谷と、西から東への乾き
ポートの産地は、スペインから流れてくるドウロ川の中流域、河口の町ポルトから東の内陸に入った山あいに広がります。IVDP(ドウロ・ポートワイン協会)によれば、地域全体は約25万ha。西からバイショ・コルゴ、シマ・コルゴ、ドウロ・スペリオールの三つの地区に分かれ、ぶどう畑はそれぞれ約1万3,200ha、約2万400ha、約1万200ha。合わせて4万3,000ha台の畑があります。
- 土──大半が片岩(シスト)で、周縁に花崗岩。土は酸性です
- 雨──西のバイショ・コルゴで年に約1,200mm、東端のバルカ・ダルヴァでは約380mm。西からの湿った風を、マラン山地とモンテムーロ山地がさえぎります
- 畑──急斜面を切り開いた段々畑。規約は植栽密度を1haあたり4,000本以上(段々畑では3,000本以上)と定めています
西ほど雨が多く、東へ行くほど暑く乾いていく。この差が、三つの地区の性格を分けます。三つの地区が正式に分けられたのは1936年。東のドウロ・スペリオールは、かつて川の難所だったカシャン・ダ・ヴァレイラの急流が19世紀に切り開かれて、ようやく畑が広がった土地です。片岩の土と味わいの関係は第67講「土壌とテロワール完全編」でも取り上げています。
1756年、境界の石を立てた産地
「ポート」の名で積み出された最も古い記録は1678年とされます。修道院長がワインにブランデーを加えていたのを英国の商人の息子たちが見つけた、という発祥の話も広く語られますが、細部は資料によって違い、伝説として扱うのがよさそうです。1703年のメシュエン条約で、ポルトガルのワインはフランスのワインより安い関税で英国に入るようになり、ポートの交易は英国の商人とともに大きくなっていきました。ウォーやテイラー、クロフトといった英国系の家の古い創業年は、この歴史を映しています。
転機は1756年9月10日です。宰相ポンバル侯のもとで、ドウロのぶどう栽培とワインを管理する会社が設立され、産地の境界が定められました。ドウロ博物館によれば、境界には「Feitoria」と刻んだ花崗岩の境界石が335本立てられ(1758年に201本、1761年に134本)、そのうち約105本の所在がいまも確認されています。ポルトガルの法令は、ドウロを「世界で最初に境界が定められ、規制されたワイン産地」と位置づけています(ハンガリーのトカイも古い線引きの歴史を持ち、「最初」をめぐってはそれぞれの主張があります)。
2001年には「アルト・ドウロ・ワイン生産地域」としてユネスコの世界遺産に登録されました。登録範囲は約2万4,600ha。管理の面では、1933年にポートワイン協会(IVP)が生まれ、2003年にドウロの組織と統合されて、いまのIVDPになりました。IVDPはポートと、同じ地域の非酒精強化ワイン「DOCドウロ」の両方を管轄しています。

77度の蒸留酒で、発酵を止める
ポートの規約(EUに登録された原産地呼称の技術資料)が定める、造りの要点は次のとおりです。
- 酒精強化──アルコール度数77%(±0.5%)のぶどう由来の蒸留酒(アグアルデンテ)を加えて発酵を止める。加える量は毎年の収穫時の通達で決まる
- 残る糖──発酵を止める時点で、1Lあたり17.5g以上の糖が残っていること
- アルコール──仕上がりは19〜22%。ただし軽い辛口の白ポートは16.5%まで認められる
- 収量──1haあたり赤・ロゼ55hL、白65hLまで
- 品種──認められた品種は100を超える。赤ではトゥリガ・ナシオナル、トゥリガ・フランカ、ティンタ・ロリス(テンプラニーリョ)などがよく知られる
もう一つの独特な仕組みが「ベネフィシオ」です。毎年、どの畑がどれだけの量をポートにしてよいかが、畑の格付けに応じて割り当てられます。条件の良い畑ほど多くをポートにでき、残りはDOCドウロなどの非酒精強化ワインになります。
昔は石の槽「ラガール」に人が入ってぶどうを足で踏み、短い時間で色とタンニンを引き出しました。いまはポートの多くが機械化された醸造所で造られ、シミントン家は1998年に足踏みを再現するロボット式のラガールを導入しています。
ルビーとトウニー、二つの熟成
ポートの種類は、熟成のさせ方で大きく二つに分かれます。IVDPが定める主なカテゴリーを整理すると、次のようになります。
- ルビー/ルビー・レセルヴァ──果実味を保って比較的若く瓶詰めする、いちばん基本の赤
- LBV(レイト・ボトルド・ヴィンテージ)──単一年のルビーを、樽で4〜6年熟成させてから瓶詰め
- ヴィンテージ──作柄の良い単一年のポート。IVDPの承認を受け、収穫の2〜3年後に瓶詰めされ、瓶の中で熟成する唯一のポートとされる。一つの畑だけで造るものは「単一キンタのヴィンテージ」
- クラステッド──複数年のブレンドを瓶詰めし、3年以上瓶で寝かせてから出荷。瓶に澱(クラスト)ができる
- トウニー(熟成年数表示)──樽で熟成させた複数年のブレンドで、10年・20年・30年・40年などと表示。2022年の規則で50年の表示も加わった
- コリェイタ──単一年のトウニー(または白)で、木樽で7年以上熟成
- 白/ロゼ──白ぶどうの白ポートは、辛口寄りから極甘口まで幅がある。ロゼは2009年に正式なカテゴリーになった
甘さの表示も規約で決まっていて、1Lあたりの糖分が17.5〜40gなら「エクストラ・セコ」、40〜65gは「セコ」、65〜85gは「メイオ・セコ」、85〜130gは「ドーセ」、130gを超えると「ムイト・ドーセ」(「ラグリマ」とも)。

「宣言」される年
ヴィンテージ・ポートは毎年造られるわけではありません。生産者は、収穫からおよそ2年後の春に樽のワインを見極め、特に出来の良い年だけをIVDPの承認を受けて「宣言(デクラレーション)」します。フラッドゲート・パートナーシップは、英国の守護聖人の日である4月23日(聖ジョージの日)に発表するのを習わしとしています。
近年の動きを、報道や公式資料から拾うと次のようになります。
- 2011年──主要な生産者がそろって宣言した年として広く知られる
- 2016年・2017年──2年続けての宣言。グラハムは19世紀以来の連続宣言と説明し、テイラーも2017年を宣言した
- 2020年──テイラーはキンタ・デ・ヴァルジェラスのみ。グラハムは創業200周年の特別なヴィンテージを出した
- 2022年──フラッドゲートは全面的な宣言をせず、ヴァルジェラスとフォンセカ・ギマラエンスなどを出した
- 2023年──主要生産者のなかで全面的に宣言したのはキンタ・ド・ノヴァルだけと報じられた
宣言しない年にも、良いぶどうは単一キンタのヴィンテージやセカンド的な銘柄として世に出ます。「宣言の年」の一本と、その間の年の単一キンタを比べると、生産者の判断の重みが見えてきます。ヴィンテージの読み方そのものは第29講「ヴィンテージと熟成完全編」で解説しています。
ガイアの熟成庫と、もう一つのドウロ
ドウロの畑で造られたワインは、かつて川を下り、河口の対岸にあるヴィラ・ノヴァ・デ・ガイアの熟成庫(ロッジ)に運ばれて、そこで熟成・出荷されてきました。1926年にはガイアが唯一の保税地区と定められます。1986年の法令でドウロからの直接の輸出にも道が開かれ、いまはポートはドウロ地域内かガイアの保税地区で瓶詰めすることが求められています。川沿いには各社の熟成庫が並び、見学を受け付けているところも多くあります。
同じ畑からは、酒精強化しない赤や白も造られます。それがDOCドウロです。その名を知らしめたのは、フェレイラ社のフェルナンド・ニコラウ・デ・アルメイダが1952年産で初めて造った「バルカ・ヴェーリャ」で、出来の良い年にしか造られない伝説的な赤として知られます。ポートの名門の多くも、いまでは非酒精強化の赤に力を入れています。
選び方と楽しみ方
最初の一本なら、10年トウニーかLBVがおすすめです。10年トウニーは国内でも3,000円台から見つかり、ナッツやキャラメルの香りでトウニーの性格がよくわかります。LBVは米国の小売で20〜30ドル前後で、ヴィンテージ・ポートの雰囲気を手頃に知るのに向いています。ヴィンテージ・ポートは、テイラーのヴァルジェラスの古木の単一キンタ(2017年産)で国内の取扱例が5〜6万円前後、ノヴァルのナシオナルは現地の小売で1本1,000ユーロを超えるものが多く、別格です(価格は為替やヴィンテージで大きく変わります)。
ヴィンテージ・ポートには澱があるので、デキャンタして注ぎます(用語「澱」も参照)。合わせる料理では、青カビのスティルトンとの組み合わせが定番として知られ、第73講「チーズとワイン完全編」でその理由を扱っています。ダークチョコレートやナッツ、ドライフルーツを使った焼き菓子もよく挙がる相手です(ペアリング「チョコレート」)。アルコール度数が高いので、少量をゆっくり楽しんでください。
次回は産地講座に戻り、第82講「九州完全編」をお届けします。雨の多い南の島で、宮崎・熊本・大分などのワイナリーがどんなぶどうとワイン造りに挑んでいるのかをたどります。