ソーテルヌが「霧の川」の産地なら、トカイは「霧と乾き」の産地です。
第61講の末尾に、こう書きました——貴腐は、霧と乾きの絶妙なバランスの上にしか成立しない。その均衡を、およそ千年にわたって制度と技術で支えてきた土地が、ハンガリーの北東にあります。
霧と乾き — 貴腐が「良い形」になる条件
産地はゼンプレーン山地の南から南東の縁にあり、南端のトカイ町のふもとでボドログ川がティサ川に合流します。二つの川と周囲の湿地が、秋の朝に霧を立てる。製品仕様書は、土壌を「著しく火山性」と記し、畑の標高100〜300メートル、年平均気温10.8度、年降水量525ミリ、年間日照2,009時間、最多風向は北東、と数字を並べています。
貴腐菌(ボトリティス・シネレア)が「貴腐」になるには、三つの条件が要ります。果実が完熟して維管束が途絶えていること、適した品種であること、そして微気候。トカイの機構を仕様書はこう説明します——8月から9月初めが乾燥して果皮がしわになり、そこへ湿潤な天候が来て感染が始まる。学術的には「湿った夜、霧の朝、乾いた晴天の日」の交替です(マード村ベチェク畑のフルミントで研究されています)。
同じ菌でも、湿潤が続けば灰色かび病になって果実を崩します。分かれ目は乾く時間があるかどうか。貴腐果は「柔らかいが構造が安定」し、灰色かびの果実は「分解して崩壊」する。分子レベルでは、貴腐フェーズの植物は能動的な防御をしておらず、灰色かびでは過敏感反応が作動している、という研究があります。
そして収穫。アスー果を1粒ずつ手で選り分けることは法定の義務で、アスー果の収量は最大2トン/ヘクタール。ロイヤル・トカイの公式によれば、1キロのアスー果には健全なぶどう5キロ分が凝縮されており、1人が1日に集められるのは8〜10キロです。

27の村と、二つの国
現行の製品仕様書が定める産地は27の集落(5市と22村)です。「28村」と書く資料もありますが、法文とWIPOのリスボン協定登録(1970年)はどちらも27。「歴史的に27村」というのも正しくなく、1706年の指定は13集落、1737年の規約は22集落でした。
面積は二つを区別する必要があります。法定区域は「27集落の、栽培適地台帳I級・II級の区画」と定義されるだけで、ヘクタールの公的数値は存在しません(「約1.1万ヘクタール」という言い方は業界サイト由来です)。植栽面積は、年次のはっきりした最新の公的統計で5,800ヘクタール(2013年10月)。2006年以降は減少が続き、2024年も96ヘクタール減りました。近年は5,000ヘクタール台前半から半ばと見られます。
もう一つ、この産地は国境をまたいでいます。1920年のトリアノン条約でスロヴィシュケ(現ヴィニチュキ)、キシュトロニャ(現マラー・トゥルニャ)、シャートラルヤウーイヘイの一部が切り離され、現在のスロバキア側「トカイ(Tokajská)」は法定7自治体、約900ヘクタール規模。名称をめぐるEUでの争いは、2014年2月13日にEU司法裁判所がハンガリーの上告を棄却して決着し、スロバキアの保護は有効です。スロバキア側の法定品種はフルミント、リポヴィナ(=ハールシュレヴェリュ)、ムシュカート・ジュルティ(=シャールガ・ムシュコターイ)の3つ。この経緯は第60講で詳しく書きました。
六つの品種、六割のフルミント
法定品種は6つです。フルミント、ハールシュレヴェリュ、シャールガ・ムシュコターイ(=ミュスカ・ブラン・ア・プティ・グラン)、ゼータ、カバル、コヴェールスルー。スパークリングも同じ6品種から造られます。
| 品種 | 作付比率(2013年、KSH) | 性格(公式団体の説明) |
|---|---|---|
| フルミント | 66% | 貴腐化能力がきわめて高く、酸が顕著。辛口にも向く |
| ハールシュレヴェリュ | 19% | 菩提樹の蜂蜜の香り。酸はより柔らか |
| シャールガ・ムシュコターイ | 9% | 貴腐は中程度。芳香のある辛口向き |
| ゼータ/カバル/コヴェールスルー | 6%(合計) | ゼータはブーヴィエ×フルミント(1951年作出)、カバルはブーヴィエ×ハールシュレヴェリュ(1967年)。いずれも酸が高い |
比率は年次が明記された2013年の公的統計。公式団体はフルミント60%(年次不明)、2023年の英国MWの推計は64%としており、いずれにせよフルミントが6割強という構図は変わりません。「フルミントは皮が厚いから貴腐しやすい」という説明は裏づけがなく、むしろ熟すと薄くなるという記述があります。
ゼータは1999年まで「オレムス」という名でした。ワイナリーのオレムスと同じ名前ですが、改名の理由は一次資料で確かめられていません。
プトニョシュ — 籠の数から、糖の量へ
「5プトニョシュ」「6プトニョシュ」という言葉を、まず語源から。
プトニュ(puttony)は容量27リットルの籠で、アスー果を23〜25キロ入れます。ゲンツ樽(gönci)は136リットル。この樽1本の基酒(あるいは果汁)に、籠を何杯分のアスー果を加えて漬け込んだか——それが「プトニョシュ数」でした。5プトニョシュなら樽1本にアスー果110〜120キロ。数が増えるほど甘く、濃くなります。
2012年収穫までは、この数が残糖の下限と結びついていました。
| 表記 | 旧規定(〜2012年収穫)残糖 | 現行(2013年収穫〜) |
|---|---|---|
| 3 puttonyos | 60 g/L以上 | カテゴリ廃止(表記は可、120 g/L以上) |
| 4 puttonyos | 90 g/L以上 | カテゴリ廃止(同上) |
| 5 puttonyos | 120 g/L以上 | アスーの最低値として統一=120 g/L以上 |
| 6 puttonyos | 150 g/L以上 | 表記可、150 g/L以上が条件 |
| Aszúeszencia | 180 g/L以上 | 廃止(アスーに統合) |
| Eszencia | 450 g/L以上 | 450 g/L以上(据え置き) |
2013年収穫から適用された改正(新仕様書の公示は2014年6月)の要点は、こうです。すべてのアスーの最低残糖を120g/Lに統一。3・4プトニョシュとアスーエッセンシアのカテゴリを廃止。最低総アルコールを19%に引き上げ。熟成は旧「樽2年+瓶1年」から「樽最低18か月」へ——ただしリリースは収穫後3年目の1月1日以降で、合計3年は維持。120g/L未満は「レイト・ハーヴェスト」(最低45g/L)になります。
アスーだけではない — 八つのタイプ
現行の仕様書は8つのタイプを定めます。貴腐に関わるものを中心に。
| タイプ | 造り方 | 主な法定要件 |
|---|---|---|
| アスー(Aszú) | 1粒ずつ選んだ貴腐果を、基酒または果汁に漬け込んで発酵 | 残糖120 g/L以上、総アルコール19%以上、樽18か月以上、収穫後3年目にリリース |
| エッセンシア(Eszencia) | アスー果を圧搾せず、自重で滲み出た果汁のみを最小限発酵 | 残糖450 g/L以上、実アルコール1.2〜8%、アスー果100kgから最大6L |
| 辛口サモロドニ(Száraz) | 貴腐果と健全果を含む房をそのまま仕込む | 残糖9 g/L以下、実アルコール12%以上、産膜酵母の下で樽24か月以上 |
| 甘口サモロドニ(Édes) | 同上 | 残糖60 g/L以上、総アルコール16%以上、樽6か月 |
| フォルディターシュ(Fordítás) | 圧搾済みのアスー果のパルプに、同じ年の果汁やワインを注ぐ | 残糖60 g/L以上、樽6か月。タンニンが強い |
| マーシュラーシュ(Máslás) | アスーやサモロドニの澱に注ぐ | 残糖60 g/L以上、樽6か月。酵母的なニュアンス |
| レイト・ハーヴェスト | 遅摘み | 残糖45 g/L以上 |
| 白(辛口フルミント等) | 通常の白ワイン | トカイ型ボトルは使用不可 |
エッセンシアは、糖が濃すぎて発酵が数年かかるワインです。アルコールが法定で1.2%から8%——ワインというより、ぶどうの「精」に近い。アスー果100キロから最大6リットル(ロイヤル・トカイの実測は2〜3リットル)しか取れず、375mlか250mlで売られるのが普通です。
サモロドニはポーランド語のsamorodny「自然に生まれたまま」が語源で、トカイのワインを北へ運んだポーランド系の商人の言葉と伝えられます。辛口サモロドニは、ジュラのヴァン・ジョーヌやシェリーのフィノと同じく産膜酵母(フロール)の下で熟成しますが、アンドリュー・ジェフォードの比較によれば、ヘレスの厚い毛布のような膜に対してトカイとジュラの膜は薄く、辛口サモロドニはヴァン・ジョーヌよりさらに酸化的——そこにボトリティスとセラーの黒カビという、トカイ固有の要素が加わります。
そして忘れてはいけないのが辛口フルミントです。生産量で見ればいまや辛口が過半で、7〜8割とする推計もあります(推計は50%台から80%まで幅があります)。1990年代初頭にディスノークーやヘートスルーが先駆け、2000年のキラーイウドヴァル「ウーラージャ」が近代的な辛口の起点のひとつと語られ、ロイヤル・トカイ初の辛口は2003年。第30講で触れたキレのある辛口は、この産地の「もう一つの顔」です。

伝説を、そのまま信じない
トカイには語り継がれる話が多い。三つを確かめておきます。
「貴腐の発見」。 トルコの襲来で収穫が遅れ、ラーコーツィ家に仕えた牧師セプシ・ラツコー・マーテーが1631年(1650年とする本もあります)に偶然アスーを生んだ——という定番の逸話は、UNESCOの推薦書自身が「伝説によれば(Legend has it)」と書き、ハンガリー当局は2024年の製品仕様書改正で「最初のアスー」という表現を削除しました。文献上の最古の言及は1571年5月15日、ガライ家の遺産目録(2002年にゼレナーク・イシュトヴァーンが発見)で、伝説より60年古い。1590年の辞書には「aszu szeőleő bor」の語が載っています。ソーテルヌやラインガウと同じく、「ある年の偶然」ではなく、記録より古い実践があった産地です。
「王のワインにして、ワインの王」。 ルイ14世の言葉として有名ですが、同時代の一次史料は見つかっていません。仕様書は「18世紀」とだけ記し、公式団体は「〜と伝えられる(reportedly)」と書きます。ラテン語形の「Vinum regum, rex vinorum」は、公式団体自身が今日のマーケティング用語だと述べています。「ポンパドゥール夫人に注いで言った」という版は、夫人がルイ15世の寵姫なので年代的に成立しません。
「1700年、ラーコーツィによる世界初の畑格付け」。 公式年表にも、UNESCO推薦書にも、学術論文にも「1700年」は存在しません。実際の年表は——
- 1706年5月17日 ラーコーツィ・フェレンツ2世の布告で13集落を指定(畑の格付けではない)
- 1707年 独立戦争の国家機構が全国のワイン産地を5群に格付け。第一級はトカイのみ
- 1720年 マトライ・ヤーノシュが畑を3階級に分ける(年は1723年、1732年とする資料もある)
- 1737年10月 カール6世(ハンガリー王カーロイ3世)のもとで22集落からなる閉鎖産地を規定。「マリア・テレジアの勅令」と書かれることがありますが、彼女の治世は1740年から
- 1798年 シルマイ・アンタルが格付けを再構築
「世界初の閉鎖ワイン産地」についても、世界遺産の審査を担ったICOMOSは「キアンティ1716年、アルト・ドウロ1756年」を挙げて留保をつけています。「世界最初級」までが誠実な言い方です。1772年のマリア・テレジアの格付けについては仕様書の年表に項目がなく、学術研究はこの年を土地・賦役台帳(ウルバーリウム)と位置づけているため、畑の数はここでは書きません。
現行法には、品質の階層がいっさいありません。ラベルに書ける小さな地理単位は集落名と畑(dűlő)名だけで、畑名を書くには100%その畑、100%その年、手収穫、収量6トン/ヘクタール以下などの条件がつきます。ロイヤル・トカイの「ファースト・グロース」は自社表記で、法的な格付けではない。そしてメーゼシュ・マーイはマード村ではなくタルツァル村の畑、「エレグ・キラーイ」は公式リストにない慣用名です。
国有化と、1990年
産地の近代は、二度の断絶を越えています。
一度目はフィロキセラ。1885年にタルツァル村で初めて確認され、1886年から1895年にかけて畑の8〜9割が壊滅したとされます。二度目が1940年代末の国有化。1950年から1990年まで、国営のボルコンビナート(トカイ・ヘギアルヤ国営農場ワイン・コンビナート、現トカイ・ケレシュケデーハーズの前身)が生産を担い、量が優先されて品質は沈んだと語られます。
転機は1990年。民営化が始まった年に、ロイヤル・トカイがマード村で生まれました。英国のヒュー・ジョンソンらと62名の地元栽培家の合弁です。続いて1991年にヘートスルー(フランス企業グラン・ミレジム・ド・フランス——「日本資本」と書かれることがありますが誤りです)とパイジョシュ(助言はジャン=ミシェル・アルコート)、1992年にディスノークー(AXAミレジム)、1993年にオレムス(ヴェガ・シシリアのアルバレス家)。西側の資本と技術が数年のうちに揃い、産地は再生に向かいました。アルバロ・パラシオスの関与はなく、アルバレス家との混同です。
2002年、「アスー」の名称は2004年からトカイに排他的に認められることになり、同じ年に世界遺産の登録が決まります。
世界遺産と、黒いカビ
「トカイ・ワイン産地の歴史的文化的景観」は2002年、基準(iii)と(v)で世界遺産に登録されました。(iii)は少なくとも千年続く独自のぶどう栽培の伝統、(v)は伝統的な土地利用の鮮明な実例。コアは13,255ヘクタールで、9集落の一部(トカイ、ボドログケレストゥール、ボドログキシュファルド、マード、メゾゾンボル、ラートカ、セギ、タルツァル、ターヤ)に、シャートラルヤウーイヘイのウングヴァーリ・セラーとシャーロシュパタクのラーコーツィ・セラーを加えた構成です。バッファゾーンは27自治体、74,879ヘクタール。
セラーがコアに入っているのは、この産地の価値が畑だけではないからです。ラーコーツィ・セラーは二つあります。シャーロシュパタクの城下、地下14メートルのものは、全長約1,000メートル(ICOMOSは約2,000メートルとし、資料で食い違います)、湿度96%、樽900本。トカイ町のものはヘートスルーが所有し、「騎士の間」と呼ばれる約30×10×5メートルの空間を持ちます。数値を混ぜないように。ウングヴァーリ・セラーは9〜11度、湿度85〜95%で、27のセラーが連結されています。
造らない、という判断
貴腐は毎年出るものではない、ということを、生産者自身の言葉で。
ロイヤル・トカイは公式サイトで「アスーに適した年は10年に3〜4回」と述べ、エッセンシアは公式掲載で30年強のうち8ヴィンテージのみ(2009年から2016年まで7年の空白があります)。オレムスの技術資料は毎ヴィンテージ「アスーの生産は良年・例外的な年にのみ可能」と明記し、5プトニョシュの掲載ヴィンテージには2001〜06年、2009年、2011〜12年、2015年がありません。セプシは2010年について「寒く雨だったのでアスーを造らなかった」と語ったと伝えられ、2011年は極度の乾燥でぶどうをネゴシアンに売ったとも(ただし2011年のセプシのアスーがごく少量存在するという記録もあり、「まったく造らなかった」かは未解決です)。
一方でディスノークーは2009年から2020年まで毎年5プトニョシュをリリースしています。難しかった2014年についても公式は「高湿度でほぼすべての果粒に貴腐が早く始まった。全体の量は少ないが、そのうちアスーになる比率は高い」と説明しました。同じ年を「良質なワインはほぼなし」と評する現地の声もあり、判断は生産者ごと、畑ごとに大きく分かれます。2013年は評価の高い年ですが、ロイヤル・トカイはビルシャルマーシュとメーゼシュ・マーイの2畑では熱ストレスでアスーの選果をしませんでした。2020年はユリエット・ヴィクトルが「今年はアスーなし」と述べ、バルタも選果の機会が極端に少なかったと語っています。2018年はオレムスが「記録上もっとも乾燥し暑い年で、貴腐はボドログ川の近くでしか発達しなかった」と記しました。
第61講で見たとおり、「乾き」が勝ちすぎる年が増えれば、霧と乾きの均衡は崩れやすくなります。2021年は1999年に比肩する年と評され、悪い年ではありません。ヴィンテージの一般論は第29講を。
500mlの理由
トカイの瓶はなぜ小さいのか。答えは三層です。
第一に法律。製品仕様書は、アスー、エッセンシア、フォルディターシュ、マーシュラーシュ、サモロドニに「トカイ型ボトル」——無色のガラス、真っ直ぐな円筒、長い首、円筒部と全高の比1対2.7——の使用を義務づけています。容量については「第一義的に0.5リットル」と定めつつ、375ml・250ml・187.5ml・100mlも認め、2024年12月の改正で1リットルから15リットルまで解禁されました。つまり「法律で500mlと決まっている」は、いまでは不正確です。首に刻まれる「Tokaj」の文字も義務ではなく慣行です。
第二に物理。規格のトカイ型ボトルは、現実には0.5リットルと0.375リットルしか製造されていません。ほかのサイズで出すには評議会の免除許可が要る。だから改正後も、事実上の標準は変わっていません。
第三に歴史。1891年に統一された500ml円筒瓶の使用が義務化されたと伝えられます(法令の番号までは確認できていません)。理由として挙げられるのは二つ——トカイは当時すでに高価で少量売りが受け入れられたこと、そして保存技術が未熟で「開けたら飲み切る」量が望まれたこと。産地内での瓶詰めも義務で、仕様書の理由書は「貴腐カビに覆われた10〜12度の安定した環境での熟成が必要で、輸送は品質を損なう」と説明しています。
飲み方 — 温度、開栓後、料理
供出温度は、生産者によって推奨に幅があります。ディスノークーは11〜13度、オレムスは8〜12度。あわせて8〜14度の範囲で、若く濃いものは低め、古酒は高めと考えておけば大きく外れません。辛口フルミントは10度前後。
開栓後の持ちは、スタイルで違います。ディスノークーの公式は、現代的な造りのアスー5・6プトニョシュで「開けてから1週間ほど」(冷蔵庫保存)、エッセンシアは「非常に長期間」。伝統的な酸化熟成タイプなら、栓をしっかり閉めて冷蔵庫で数週間は劣化しないとされます。理由は、高い残糖と高い酸が天然の保存剤として働くから。未開栓の熟成ポテンシャルについては、オレムスが6プトニョシュ2005年を「最適条件で約60年」、5プトニョシュとエッセンシアを「約40年」としています。
料理の古典はフォアグラ(4〜5プトニョシュ)と青カビチーズ(ロックフォールやスティルトンには5〜6プトニョシュ)。チーズが強く濃いほど、アスーは甘いものを。ブリーやコンテなら3プトニョシュ相当、シェーヴルなら4相当という対応表が複数の団体で一致しています。デザートと合わせるときの鉄則は「ワインのほうがデザートより甘くなければならない」——そうでないとワインが苦く感じられます。アップルタルトには3〜4プトニョシュ、非常に甘い菓子には最も濃いアスーを。公式団体は「果実と合わせたスローローストの肉」「適度にスパイシーなアジア系の料理」も挙げています。辛口フルミントはタイ料理や中華など辛い料理に強い——酸の切れが辛さを受け止めるからです。辛口・甘口の基礎は用語集を。
グラスについては、産地団体が2017年にリーデルと設計した専用グラスを挙げる一方、リーデル自身のガイドは甘口トカイにソーテルヌ用のグラスを割り当てています。手元に貴腐用のグラスがあれば、それで十分です。
買い方 — 日本で、どこから入るか
最初の一本は、アスー5プトニョシュ。この産地の骨格が最も分かりやすく、価格も現実的だからです。
2026年9月時点の実勢(税込・500ml)で、入口はシャトー・エラ(2017年)4,700円前後、パトリツィウス(2018年)5,600〜6,600円、ディスノークー5,800円前後。この三つが日本で最も探しやすい5プトニョシュです。中段はシャトー・パイジョシュ(2017年)9,800円、上段がオレムス1万2,000〜1万6,000円。6プトニョシュは1万1,000円から2万7,000円(ディスノークー「カピ」2017年は輸入元希望小売3万1,900円)。エッセンシアはパイジョシュ2017年の250mlが2万7,000円、375mlが3万9,000円ほどで、ディスノークー1993年の500mlは12万円を超えます。
辛口フルミントは750mlで1,800〜3,000円が中心。デレスラ2024年が1,600〜2,100円、ディスノークー2022年が3,000円前後、オレムス「マンドラーシュ」2022年が5,000〜5,700円。貴腐の前に、まずこの品種の酸を知っておくと、アスーの甘さの中に同じ酸を見つけられます。
価格は2026年9月時点の各通販表示で、為替と入荷で動きます。ロイヤル・トカイは日本の主要ECにほとんど流通していません(楽天の「ロイヤル トカイ」検索160件中、該当0件)。海外の解説で名前を見て探すと徒労に終わるので、日本ではディスノークー、オレムス、パイジョシュ、パトリツィウス、エラを軸に考えるのが実務的です。なお「アスーエッセンシア」と書かれた瓶は2012年収穫までの廃止カテゴリで、いまも古酒として流通しています。
ソーテルヌがセミヨンの貴腐を「霧の川」の上に築いたのに対し、トカイはフルミントの酸を「霧と乾き」の交替に賭けました。毎年は出ない。だから、造られた年の一本には、その年の霧と乾きの記録がそのまま入っています。