
世界5位のぶどう畑と、0.25%のワインThe fifth-largest vineyard, a quarter-percent of the wine
第44講東地中海完全編で、トルコには数ページしか割けませんでした。第64講はその続きです。ただし今回は、日本語の資料にありがちな「古代からのワインの国」という入口ではなく、数字から入ります。この国のワインを理解する鍵は、たったひとつの対比にあるからです。
ぶどう栽培面積は世界第5位。スペイン、フランス、中国、イタリアに次ぎ、アメリカ(38.5万ha)より広い。世界のぶどう畑の6%がトルコにある。
干しぶどうは生産・輸出量・輸出額のすべてで世界第1位(2024年、31.5万トン)。生食用ぶどうも世界4位。畑の主役はワインではない。
ワイン生産は2017〜2021年の平均で年67万hL。OIVの生産国上位10か国には入らず「その他」に合算される。面積5位の国のワインは、世界の400分の1。
出典:OIV「Annual Assessment of the World Vine and Wine Sector in 2024」(2025年9月)、トルコ農業森林省TAGEM「ぶどう栽培セクター政策文書 2022-2026」。
どうしてそうなるのか。答えはぶどうの使い道にあります。トルコ農業森林省の政策文書は、2021年のぶどう用途の内訳をこう示しています。
同じ文書は世界平均を「ワイン・果汁用57%、生食用36%、干しぶどう用7%」と示し、トルコの構成がほぼ逆であることを指摘しています。
つまり、トルコの畑の9割は食べるぶどうのためにあります。ワインになるのは1割で、しかもその「ワイン・果汁用」には果汁も含まれます。面積は巨大、ワインは少量——第44講で触れたこの構図を、政府の一次資料で確かめたことになります。
ワイン産業の規模も押さえておきましょう。同文書によれば、2019年時点でワイン製造施設は214か所、年間製造能力は約180万hLですが、実際の生産はその3分の1程度にとどまります。2021年の生産は62.2万hLに対し、国内消費は77.5万hL——つまり自国の消費すら賄えていないのが現状で、ワインの貿易は同年、約1,600万ドルの輸入超過でした。輸出先の上位はベルギー、イギリス、キプロス、ドイツです。
アナトリアの土着品種——牛の目、司祭の黒、繊細な白Öküzgözü, Boğazkere, Kalecik Karası, Narince, Emir
トルコワインの魅力は、ここにしかない品種に尽きます。第44講で4つを紹介しましたが、今回は名前の由来まで踏み込み、あわせて語源の俗説も正しておきます。トルコ語の綴りは読みにくいので、カタカナと意味をセットで覚えてください。
東アナトリアのエラズー、マラティヤが故郷。大粒で、酸が高くタンニンは穏やか。ラズベリーやチェリー、プラムの赤い果実。トルコでもっとも重要な黒ぶどうで、名前は öküz(牛、正確には去勢牛)+göz(目)。粒の大きさ由来説と、色の濃さ由来説の両方があり、どちらとも断定できません。赤
南東アナトリア、チグリス川流域のディヤルバクル原産。高タンニン・濃色・長期熟成型で、黒い果実と黒胡椒。日本語では「喉を焼く」と訳されがちですが、語幹の kermek は「渋みで収斂する」の意で、原義は「喉が渋みで締めつけられる」。オキュズギョズとのブレンドが伝統の型です。赤
アンカラ県カレジック(標高約1,000m、クズルウルマク川流域)の黒ぶどう。淡い色、高い香り、絹のような口当たりで、いちごや桑の実。ピノ・ノワールに例えられます。1960〜70年代に絶滅寸前まで減り、アンカラ大学農学部とTÜBİTAK(科学技術研究会議)のクローン選抜で復活。選ばれたクローンは9号・12号・15号として知られます。赤
黒海地方のトカット、イェシルウルマク川流域が本拠。柑橘やピンクグレープフルーツの香りとしっかりした酸があり、樽熟成に耐える数少ない土着白。名前は narin(華奢な・繊細な)から。葉はドルマ(葉包み)にも使われます。白
カッパドキア(ネヴシェヒル周辺、標高1,000〜1,200m)の火山性土壌で育つ白。高い酸とミネラル感、青りんごと柑橘。熟成する力があり、スパークリングにも使われます。名前は emir(君主・首長)。白
トラキア(テキルダー、エディルネ、クルクラーレリ)の黒ぶどう。プラムやチェリー、スパイスで、タンニンは中〜低め。papaz はギリシャ語で「司祭」。ビザンツの総主教が好んだといった逸話は、資料の裏づけがないため伝承として扱います。赤
島と海の品種——ボズジャアダの4つ、エーゲの2つ
ダーダネルス海峡の入口に浮かぶボズジャアダ島(古名テネドス)には、文化観光省が「島固有」と紹介する4品種があります。赤のクントラ(Kuntra、本土ではカラサクズ Karasakız)とカララフナ(Karalahna)、白のチャヴシュ(Çavuş)とヴァシラキ(Vasilaki)。クントラは黒胡椒とチェリーの軽やかな赤で、晩熟・耐暑性が高く、暑い島の風土に合っています。ヴァシラキは柑橘とクローブ、オレンジピールの酸の高い白です。
そしてエーゲ海側の主役は、実はワイン用ではないスルタニエ(Sultaniye)——世界で「サルタナ」「トンプソン・シードレス」と呼ばれる種なし品種で、干しぶどうの王様。マニサやイズミル、デニズリの畑を埋めるのはこの品種で、軽い白ワインにも使われます。第I章の「干しぶどう世界1位」の正体がこれです。
四つの産地——トラキア、エーゲ、中央、東Thrace, Aegean, Central and Eastern Anatolia
トルコは日本の2倍の国土に、海洋性から厳しい大陸性まで気候帯が4つも5つもあります。産地を覚えるときは、西から東へ、海から高原へと進むと頭に入ります。
| 産地 | 気候・標高 | 主な品種 | 覚え方 |
|---|---|---|---|
| トラキア/マルマラ クルクラーレリ、テキルダー、シャルキョイ、ゲリボル | 黒海・マルマラ海・エーゲ海に囲まれ、大陸性と海洋性が混ざる。テキルダー南部のガノス山地の斜面は地中海性寄り。海抜〜400m | パパズカラス、カベルネ・フラン、メルロー、シラー、シャルドネ | ヨーロッパ側。国際品種の産地。ストランジャ山塊の花崗岩土壌 |
| エーゲ海 イズミル(ウルラ、チェシメ)、マニサ、デニズリ、ボズジャアダ | 沿岸は地中海性、内陸のデニズリ〜高原側は大陸性。沿岸〜150m、内陸は900m前後 | スルタニエ、ボルノヴァ・ミスケティ、チャルカラス、クントラ、国際品種 | 干しぶどうの国と、ウルラのブティックワイナリー街道が同居 |
| 中央アナトリア アンカラ(カレジック)、カッパドキア(ネヴシェヒル) | 厳しい大陸性。昼夜の寒暖差が大きい。標高1,000〜1,200m | エミール、カレジック・カラス、ナリンジェ、オキュズギョズ | 高原の白と、凝灰岩のセラー |
| 東・南東アナトリア エラズー、マラティヤ、ディヤルバクル | 大陸性。夏は30℃を超えて乾燥し、冬は氷点下。高標高 | オキュズギョズ(エラズー)、ボアズケレ(ディヤルバクル) | 二大黒ぶどうの故郷。ユーフラテスとチグリスの流域 |
補足:地中海地方ではアンタルヤ県エルマル(標高1,100m)、黒海地方ではナリンジェの故郷トカットにも産地があります。「トラキアが生産の3〜4割を占める」という数字をよく見かけますが、一次資料で確認できないためここでは採りません。

カッパドキア——岩を掘ったセラー
奇岩と洞窟住居で知られるカッパドキアは、ワインの産地でもあります。文化観光省の公式ガイドは、この土地の火山性の凝灰岩は硬すぎず、掘ってワインセラーとして使えると説明しています。夏は暑く冬は厳しい高原で、岩の中は一年を通して温度が安定する——電気に頼らない天然のセラーです。カッパドキアのある生産者は、凝灰岩をくり抜いたタンクで発酵と熟成を行っていると伝えられます。奇岩の形をしたボトルの土産ワインもこの土地の名物で、日本の輸入ショップでも見かけます。

ウルラとボズジャアダ——新しい顔と、古い島
エーゲ海側のイズミル県ウルラは、2000年代以降にブティックワイナリーが集まった土地で、「ウルラ・ワインルート」として観光の目玉になっています。一方のボズジャアダは、島の固有品種と収穫祭(1999年〜)を守る古い産地。新しさと古さがエーゲ海の両端で向き合っているのが、この国の西側の風景です。第25講ギリシャ完全編で見たエーゲ海の島々と、海を挟んで地続きの文化圏でもあります。
歴史——「ワイン」という言葉の故郷から、専売の時代へFrom wiyana to the state monopoly
トルコのワイン史は、「世界最古」を競う話になりがちです。ここでは農業森林省の公式文書と法律の条文で確かめられることだけを並べ、確かめられない話は、確かめられないと書きます。
- 約1万年前——栽培の始まり農業森林省の政策文書は、考古学研究を引いて「約1万年前、アナトリアとコーカサスの盆地でぶどうが栽培されていた証拠がある」と記します。第43講歴史編で見た南コーカサスと、アナトリアは地続きの「ぶどうの原産地帯」です。
- 紀元前2千年紀——ヒッタイトの「wiyana」中央アナトリアのヒッタイトの法典には、ぶどう畑やワインに関する条文が残ります。ヒッタイト語でワインは「wiyana」。この語が印欧語の wine、Wein、vin、vino の語源とされる——と、同じ政府文書が記しています。「ワイン」という言葉の故郷が、この高原だという説です。
- オスマン帝国期——非ムスリムの手で商業的なワイン造りは、主にギリシャ正教徒やアルメニア人、ユダヤ人などの非ムスリムが担いました。19世紀後半、ヨーロッパの畑がフィロキセラで壊滅するなかで、オスマン領からのワイン輸出が伸びた時期があります。
- 1926年——専売の始まり(ただしワインは除く)共和国は1926年の法律第790号でアルコール類を国家専売としましたが、条文には「ワインを除く」とありました。1932年に専売業務が専売総局に集約され、これが後のテケル(Tekel)になります。現行の専売法は1942年の法律第4250号です。「1925年にテケルが設立された」という記述をよく見ますが、年も中身も正確ではありません。
- 1926年・1929年——民間の老舗が生まれるドルジャ(Doluca)は1926年、ニハト・クトマンが創業。カヴァクルデレ(Kavaklıdere)は1929年、アンカラのカヴァクルデレ地区でトゥナル・アンド夫妻が創業し、「トルコ初の民間ワイン生産者」を名乗ります。1942年にはセヴィレン(Sevilen)も加わりました。専売の時代を、民間の蔵がすり抜けるように続いていたわけです。
- 2004年2月27日——テケルの酒類部門を民営化国営テケルのアルコール部門は、入札を経て2004年2月27日、民間の企業連合に2億9,200万ドルで売却されました。受け皿となったメイ・イチキ(Mey İçki)は2011年にディアジオの傘下へ。この民営化以降、小規模なワイナリーが各地に生まれる流れが本格化します。
規制と税——広告禁止、22時の壁、ラクとの31倍Advertising ban, night-time curfew, and the excise gap
トルコワインの現在を語るとき、避けて通れないのが2013年の法改正です。ここでは大国民議会が公開している条文に書かれていることだけを、評価を加えずに並べます。
法律第6487号は2013年5月24日に可決され、同年6月11日の官報で公布されました。この法律が専売法(第4250号)の第6条を改めた結果、酒類について次の規定が置かれています。
実務上は、テレビや映像で酒瓶にぼかしがかかる、ワイナリーが自社のワインを宣伝できない、といった現象として現れます。第44講で触れた内容の、条文上の根拠がこれです。所管はかつてTAPDK(タバコ・アルコール市場規制庁)でしたが、2017年12月に同庁は廃止され、農業森林省のタバコ・アルコール局が引き継ぎました。
ÖTV——同じぶどうの酒に、31倍の差
税の話も、数字で見ると輪郭がはっきりします。トルコの酒類には特別消費税(ÖTV)がかかり、税率は毎年1月と7月に生産者物価指数に連動して自動的に改定されます。2026年7月3日施行の税率表から、3つを抜き出します。
| 品目 | 従価税率 | 最低定額税(1リットルあたり) |
|---|---|---|
| ワイン | 0% | 61.39トルコリラ |
| ラク(ぶどうの蒸留酒) | 0% | 1,919.14トルコリラ |
| ビール | 63% | 12.48トルコリラ |
出典:特別消費税法(第4760号)第III号リスト(A)表、2026年7月3日施行版。これに加えて付加価値税(KDV)がかかります。為替とインフレで円換算は大きく動くため、ここでは示しません。
ワインとラクは、どちらも同じぶどうから生まれる酒です。それが税制上は、リットルあたりの定額税で約31倍の差をつけて扱われている。ラクはアルコール度数が高いので単純比較はできませんが、この差は、トルコで「ぶどうの酒」といえば長くワインではなくラクだった、という文化の重みも映しています。
逆風
広告禁止、販売時間の制限、通信販売の禁止、物価連動で上がり続ける酒税。輸出は年850万ドルほど(2021年)で、輸入ワインの方が金額で上回る。
それでも
2004年の民営化後、ウルラ、カレジック、ボズジャアダ、トラキアに小規模ワイナリーが次々と生まれた。失われかけた土着品種の復活も、この時期に進んだ。
第44講の言葉を繰り返します。規制は厳しく、それでも造り手は増えている。この二つは矛盾ではなく、どちらもトルコの現在です。宗教や政治の評価は、この講座の役目ではありません。
造り手のタイプと、日本での買い方Producers, prices in Japan, and the table
最後に実践です。トルコの造り手は、大きく三つのタイプに分けると選びやすくなります。
ドルジャ(1926年)、カヴァクルデレ(1929年)、セヴィレン(1942年)。全国に畑を持ち、土着品種も国際品種も幅広く造る。日本で見かけるトルコワインの大半はここから。カヴァクルデレの「ヤクート」「チャンカヤ」、ドルジャの「ヴィラ・ドルジャ」が入口。
テケルの酒類部門を継いだカイラ(Kayra)。エラズーとテキルダー県シャルキョイの2か所に醸造所を持ち、旧国営時代の銘柄「ブズバー(Buzbağ)」——オキュズギョズとボアズケレのブレンド——を受け継ぐ。「トルコの古典」を知るならこれ。
ウルラ(イズミル)、ヴィンカラ(カレジック、畑の6割がカレジック・カラス)、パシャエリ(失われた品種の復活で知られる)、コルヴス(ボズジャアダの旧国営醸造所を改修)、スヴラ(ゲリボル半島、有機認証)、チャムルジャ(クルクラーレリ)、リキヤ(アンタルヤ、標高1,100m)など。創業年は資料で割れるものが多く、ここでは「2000年代の新世代」とまとめます。
タイプIIIのなかでも、リキヤは地元の羊飼いの助けを借りて樹齢200年と推定されるアジュカラ(Acıkara)という品種を見つけ出し、ワインにしたと公式に記しています。パシャエリはスダラン、ヤプンジャク、チャルカラスといった、名前を聞いたこともない品種を次々に復活させました。「約1,500品種」という農業省の数字は、こうした造り手の手で少しずつワインの世界に戻ってきています。第45講自然派ワインで見た「土着品種への回帰」が、トルコでは国の産業構造そのものと結びついているのです。
日本で買う——価格の目安(2026年9月)
輸入食材店・ワイン専門通販の実勢価格(税込)から。検索結果には6本・12本のケース売りが混じるため、価格を比べるときは本数を確認してください。輸入元は複数あり、並行輸入も多いため、ここでは特定しません。
第33講ワインの買い方で述べた「2〜3千円がコスパの黄金地帯」は、トルコにもそのまま当てはまります。日本で流通しているのはほぼ老舗3社とカイラ、トゥラサンで、ブティック勢はまだほとんど入ってきていません。トルコ旅行の予定があるなら、ウルラやボズジャアダの小さな蔵のワインは現地で探す価値があります。
食卓へ——ケバブ、メゼ、そしてラクの隣で
ボアズケレは赤身のケバブ、ラム、煮込みに——強いタンニンが脂を受け止めます。オキュズギョズはグリルした肉全般とトマトベースの料理。カレジック・カラスは薄いピザのようなラフマジュンに。軽い赤の酸が、ひき肉の脂を切ってくれます。
そしてトルコの食卓には、ワインの隣にいつもラク(rakı)がいます。ぶどうの蒸留酒にアニスで香りをつけた酒で、水を注ぐと白く濁ることから「ライオンのミルク(aslan sütü)」と呼ばれます。白チーズ、メロン、ナス、魚——小皿のメゼをずらりと並べ、ラクをゆっくり飲む「ラク・ソフラス(ラクの食卓)」が、この国の宴の基本形です。メゼという言葉自体はペルシア語の「味(maza)」に由来し、オスマン宮廷の厨房から街へ広まったとされます。トルコワインを開けるなら、このラクの食卓の作法をそのまま借りて、小皿をたくさん並べるのが、いちばん楽しい飲み方だと思います。第27講ペアリングの「酸が脂を切る」「タンニンがたんぱく質と結ぶ」という原則は、ケバブとメゼの卓でもそのまま働きます。
よくある質問Frequently asked
トルコは憲法上の世俗国家で、酒類の製造も飲酒も合法です。ぶどう栽培面積は世界5位で、ワインは1926年の専売法でも対象から除かれていました。ただし2013年以降、広告の全面禁止、22〜6時の小売禁止、通信販売の禁止、物価連動の酒税といった規制があります。「禁じられている土地で無理に造っている」わけではありません。
オキュズギョズとボアズケレのブレンドを。前者が果実と酸を、後者が骨格とタンニンを担う、この国の「カベルネとメルロー」にあたる古典の型です。日本では3,000円台で手に入ります。白ならナリンジェか、カッパドキアのエミール。どちらも日本の食卓に合わせやすい酸の高さです。
「ぶどう栽培の痕跡が1万年前にさかのぼる」なら政府文書にもある表現ですが、「ワインが1万年」は言いすぎです。ギョベクリ・テペで見つかった発酵の痕跡は穀物(ビール)の指標で、しかも予備的な結果。確かな史料はヒッタイトの法典(紀元前2千年紀)からで、それでも十分に古い。確かなことを確かなまま語るほうが、この産地の面白さは伝わります。
面積は5位、ワインは400分の1A giant vineyard, a tiny wine country
トルコは、ぶどうの国であってワインの国ではない——まずこれを認めるところから始まります。畑の9割は食べるぶどうと干しぶどうのため。ワインは世界の0.25%で、自国の消費すら賄えません。
けれど残りの1割には、約1,500品種の国の片鱗が詰まっています。牛の目、喉を締める黒、司祭の黒、繊細な白、君主の白。絶滅の縁から大学のクローン選抜で戻ってきた品種があり、羊飼いの助けで見つかった樹齢200年の品種があります。高原の凝灰岩のセラーがあり、エーゲ海の島の収穫祭があります。
そして、この国のワインには条文で確かめられる逆風があります。広告は禁止、22時を過ぎれば買えず、酒税はラクの31分の1とはいえ物価とともに上がり続ける。それでも2004年以降、小さな蔵は増え続けています。数字と条文で確かめられることと、伝承のまま残っていることを分けて語る——古い産地と付き合うときの作法は、フランケンの回と同じです。
次の一本。 今回はオキュズギョズ×ボアズケレのブレンドを1本。できればカイラの「ブズバー」か、ドルジャかカヴァクルデレの同じ組み合わせを。小皿をいくつも並べ、ラクの食卓の作法で開けてみてください。もう一本足せるなら、カッパドキアのエミールかナリンジェの白を。第31講テイスティングの言葉で身につけた語彙が、いちばん試される相手です。
次回はテーマ編へ。「ノンアルコール&低アルコールワイン完全編」。ぶどうジュースとは何が違うのか、アルコールをどうやって抜くのか(減圧蒸留、逆浸透膜、スピニングコーン)、日本の酒税法とEUの表示規則、そして「飲まない日」の一杯としてどう選ぶか。第47講「醸造編」と第61講「気候変動」——度数が上がり続ける時代の、もうひとつの答えを扱います。
