
アルプスの麓の、個性派たち小さな産地の大きな個性
第4講ブルゴーニュの東、山を越えたところに、知る人ぞ知る小さな産地があります。ジュラ——世界でも類を見ない「黄色いワイン」を生む秘境。そしてその南、アルプスの只中のサヴォワ——スキーリゾートと山のチーズの国。どちらも規模は小さいながら、ここでしか出会えない味を守り続けてきました。
近年は自然派(ナチュラル)ワインの聖地としても人気が沸騰し、パリや東京のワインバーでジュラの名を見ない日はないほど。把握のコツは三つ。「黄色いワイン=ヴァン・ジョーヌ」「土着品種サヴァニャン」「山の食卓との同郷合わせ」です。
黄色いワインヴァン・ジョーヌ
ジュラの象徴がヴァン・ジョーヌ(黄色いワイン)。土着の白ぶどうサヴァニャンを発酵させたあと、樽をあえて満杯にせず熟成させます。すると液面に産膜酵母の膜(ヴォワル)が張り、その下で6年以上——目減りを補充せず、ゆっくりと熟成。こうして生まれるのが、クルミやカレースパイスを思わせる独特の香りを持つ、黄金色の辛口白です。

ジュラの魂というべき土着白品種。鋭い酸と力強さで、長い樽熟成に耐える。白
液面に張る酵母の膜が、酸化をゆるやかに制御しながら独特の風味を育てる。シェリー(第15講)と似るが、酒精強化はしない。
ヴァン・ジョーヌ専用の620mlボトル。「熟成中に目減りした分」を象徴する容量と語られる、遊び心ある伝統。
崖上の村の名を冠する、ヴァン・ジョーヌ専用のAOC。この様式の頂点とされる聖地。白
コンテチーズという運命の相手 ヴァン・ジョーヌ×熟成コンテは、第27講ペアリングで学んだ「同郷合わせ」の最高傑作と名高い組合せ。どちらもジュラの山で生まれ、クルミのような香りが響き合います。鶏のクリーム煮(ヴァン・ジョーヌ煮込み)も郷土の定番。
ジュラの引き出し泡から藁の甘口まで
ジュラの魅力はヴァン・ジョーヌだけではありません。アルボワを中心に、軽やかな赤から泡、珍しい甘口まで、小さな産地とは思えない引き出しの多さを誇ります。細菌学の父ルイ・パスツールが育ち、ワインの発酵を研究した土地としても知られています。
土着のプールサールやトゥルソー、ピノ・ノワール。淡い色の、みずみずしい赤。自然派人気の中心。赤
瓶内二次発酵(第6講)の上質な泡。手頃な価格で、山の食前酒にぴったり。泡
ぶどうを藁の上などで陰干しして糖を凝縮させる甘口「藁ワイン」。第19講の陰干しの仲間。甘口
「シェリーに似て非なる」を楽しむ 産膜酵母由来の風味は第15講酒精強化のフィノ・シェリーと通じますが、ヴァン・ジョーヌはアルコールを添加しない「素の白ワイン」。飲み比べると、製法の違いが香りにどう出るかを体感できます。
山のワインサヴォワ
ジュラの南、モンブランを望むサヴォワは、スキーと山のチーズの国。畑は山あいの斜面や湖のほとりに点在します。主役はジャケールをはじめとする土着の白。軽やかでキレがよく、アルプスの空気のようにみずみずしい味わいです。

サヴォワの代表白品種。軽く、辛口で、ほのかに山の草花。フォンデュの大定番。白
「ルーセット」とも呼ばれる上級白。蜂蜜やアーモンドのコクを備え、熟成も楽しめる。白
土着の赤。スミレとこしょうの、山らしいスパイシーで引き締まった味わい。赤
フォンデュとラクレットの相棒 とろけるチーズ料理に、サヴォワの白——これも「同郷合わせ」の教科書です。脂を切る鋭い酸と軽やかさは、チーズフォンデュ、ラクレット、タルティフレットの最高の相棒。スキー旅行の食卓そのままの組合せです。
山が守った味秘境の二産地
この二産地は「黄色いワイン=ヴァン・ジョーヌ」「土着品種(サヴァニャン・ジャケール)」「山の食卓との同郷合わせ」で見通せます。入口には、手頃なクレマン・デュ・ジュラか、フォンデュに合わせるサヴォワのジャケールを。そして機会があれば、コンテチーズを添えてヴァン・ジョーヌを——世界のどこにもない香りに、きっと驚くはずです。
次回は憧れの図鑑へ。ブルゴーニュの心臓、神々の名を冠する村——銘醸図鑑「ヴォーヌ・ロマネ」。ロマネ・コンティを頂く特級畑の丘と、伝説の造り手たちをご案内します。
