明治から続く農家が始めたワイン造り
TADA WINERY(多田ワイナリー)は、北海道空知郡上富良野町東9線北18号にあるワイナリーです。運営は有限会社多田農園(1999年設立、代表取締役 多田繁夫氏)。公式サイトの「農園案内」によれば、多田農園は1901年(明治34年)に兵庫県福崎町からこの地に入植した農家で、小麦や小豆、ジャガイモなどを経て、昭和40年代からは玉ねぎ、のちに人参を専門に育ててきました。北海道のほぼ真ん中、十勝岳連峰のふもとに広がる富良野盆地の一角にあたります。
ワイン造りの始まりは2007年です。公式サイトでは、あるワイナリーの社長との出会いが縁で、ほぼ突然にピノ・ノワールを育てることになったと振り返っています。果樹の経験もないなかで植えた700本のピノ・ノワールは、3年目に初めて質のよい実をつけ、2010年に委託醸造で初めて仕込まれて、翌年に最初のワインとして発売されました。委託醸造は6年間続き、その間の造り手として、のちに岩見沢市で10R Wineryを営むブルース・ガットラヴ氏の名前が挙がっています。
2016年、玉ねぎ貯蔵庫を醸造所に
ぶどうを植えて10年目の2016年、多田農園は自前のワイナリーを開きました。公式サイトの「多田ワイン物語2016」によれば、準備に約1年半をかけ、同年9月27日に国税庁の許可が下りたとされています。北海道庁の「北海道内のワイナリー紹介」(2026年2月現在)でも、醸造免許の取得は2016年です。公式サイトには、北海道で33番目のワイナリーだったと記されています。
醸造所に使われたのは、玉ねぎの貯蔵庫として30年余り、人参の選果場として20年余り使われてきた、築50年ほどのブロック造りの建物です。扇状地の安定した地盤の上にあり、基礎も狂っていなかったため、改装して醸造所に生まれ変わりました。樽はブルゴーニュなどで使われていた古樽を使い、夏は畑の下を流れる豊富な天然水で室温を下げる工夫も始めているとされます。開設のときには、地元のふらのワインから全面的な支援の申し出があったと公式サイトは書いています。
雪をかけて守る、約4haの畑
北海道庁の資料によれば、現在の畑は4ha。公式サイトでは、ピノ・ノワールに続いてメルロ、シャルドネ、バッカス、ミュラー・トゥルガウを植え、カベルネ・ソーヴィニヨンとシラーを試験的に育てているとしています。真冬にはマイナス30℃近くまで下がる土地で、12月になると一万本近い樹の一本一本に手作業で雪をかけ、凍害から守ります。暖気や雨で雪が融ければ、そのたびにかけ直すそうです。2011年12月にはマイナス25℃の寒波でメルロが全滅し、わずかな雪に守られた部分から幹を作り直して復活させたという経緯も紹介されています。
畑では除草剤を使わず、草取りや草刈りはすべて手作業です。化学肥料も使わず、有機質の肥料などを少量使うとされます。2021年からはピノ・ノワールで無農薬栽培の試験も始めました。畑の土は扇状地で石が多く、水はけがよいといいます。ピノ・ノワールを植えたころから障がいのある人たちの働く場も設けており、近年は通年で6〜7名が畑の仕事に就いていると公式サイトは書いています。
野生酵母・無濾過のワイン
多田ワイナリーのワインは、野生酵母による自然発酵が基本です。公式サイトによれば、亜硫酸塩は瓶詰めのときにだけ、基準の20%ほどを使い、濾過はせずに瓶に詰めています。北海道庁の資料も、野生酵母での発酵にこだわり、無濾過で送り出していると紹介しています。アイテムは十数種類ある多品種少量生産で、醸造責任者は菅井伸一氏です。
公式サイト(2026年10月時点)には、次のようなワインが並んでいます。
- ピノ・ノワール── 最初に植えた品種。2024年産は完売で、白ワインの造り方で仕込むブラン・ド・ノワールもあります。
- シャルドネ/シャルドネ ペティアン── 2024年産のスティルと、微発泡のペティアン。
- メルロ── 2024年産。酸とタンニンのあるミディアムボディとされます。
- バッカス/ミュラー・トゥルガウ── 2025年産が2026年4月に発売されました(ミュラー・トゥルガウは微発泡)。
- 田園ブラン/田園ルージュ── 複数の品種を合わせたワイン。2020年の公式サイトでは、田園ルージュはキャンベルを主体に自社のメルロやカベルネ・ソーヴィニヨンを合わせた赤と説明されていました。
- かみふらのシードル 紅玉&ふじ── 農園で育てたりんごだけで造る辛口のシードル。
このほかオレンジワインの「オレンジ サンスフル」、農園の人参や紅玉、樹齢110年とされる千両梨のジュースも造っています。ワインは「ワイン王国」2026年1月号でも取り上げられました。
ワインショップと農家民宿
ワイナリーに併設した小さなワインショップは、2026年6月7日に改装オープンしました。公式サイトによれば、ワインサーバーで6種類を1グラス300円で試飲できます。営業は4〜11月の土・日・祝日、9:00〜17:00で、平日も電話で連絡すれば対応できるとされます。12〜3月は不定休なので、電話で確かめてから訪ねるよう案内されています。窓からは醸造所の中が見え、9月下旬〜10月下旬の仕込みの時期には、ぶどうの選別作業を間近に見られるそうです。
同じ農園には、ぶどうを植えた2007年に始めた農家民宿「ワイナリーの宿 田舎倶楽部」があります。一戸建て、畑の見える部屋、2階の洋室の全4室で、夏季のみの営業。2026年は9月23日までで、朝食のみのプラン、予約は2名からとされています。年に数回の「ワインとランチ会」では畑を案内しており、2026年9月13日の回には21名が参加したと「多田農園通信」に記されています。
行き方と富良野盆地のワイナリー
公式サイトの「アクセス」によれば、旭川空港から約35km(車で約45分)、旭川市から国道237号で約1時間、札幌市から道央自動車道経由で約2時間15分です。北海道観光機構の観光サイトでは、JR上富良野駅から車で約10分、駐車場は5台(無料)とされています。公共交通での行き方は公式サイトに案内がありません。試飲をするなら、運転しない人と一緒に出かけましょう。
富良野盆地には、市営のふらのワインや、中富良野町のドメーヌレゾンもあります。多田農園通信によれば、2026年9月6日のふらのワインぶどう祭りには、カムイ・メトッ・ヌプリワイナリーを含む富良野地区の4ワイナリーが出店し、30種類以上のワインが並んだそうです。北海道の産地の全体像は第68講 北海道完全編で整理しています。
