ワイナリーを開く前の人のための醸造所
マザーバインズ長野醸造所は、長野県上高井郡高山村久保にある委託醸造専門のワイナリーです。自社ブランドのワインを売るための蔵ではなく、これからワイナリーを開こうとするぶどう園のオーナーから原料を預かってワインにし、同時に醸造の技術を学んでもらう場として運営されています。
運営するのは、東京都江東区青海に本社を置く有限会社マザーバインズ。公式サイトの会社概要によれば、設立は2000年2月21日、代表者は陳裕達さん、資本金は1,000万円。事業内容は「ワイナリー運営に関わるトータルコンサルティング」で、果実酒製造免許の取得支援(事業計画・免許申請・醸造技術者の派遣と指導)、醸造施設と設備の設計、ぶどう園の設計や土壌判断を含む栽培指導、商品企画やブランディング、醸造設備やワイナリー向け消耗品の輸入販売、優良クローン苗の生産供給までを挙げています。
公式サイトの長野醸造所のページは、開設の理由をこう説明しています。ワインの新規参入者は次々に増えているのに、醸造の現場で研修できる場所は限られていた。産地として育つためには、新しく始める人が開業までに栽培・醸造の技術、経営、ブランディングを身につけ、リスクを減らしてスタートできる環境が要る。そのために、小規模ワイナリーの集積地づくりを支える醸造所を高山村に開いた——という説明です。NAGANO WINE(長野県の公式サイト)は、ワイナリー設立を志す人やプライベートワインを提供したい人の要望に応え、日本ワインの市場拡大と文化の発展への貢献を目指すと紹介しています。
委託醸造と、1年がかりの講習
公式サイトの資料(2021年版)によれば、長野醸造所は2018年8月に長野税務署から果実酒製造免許を取得しました。行っていることは三つです。
- 委託醸造——新規就農したぶどう園のオーナーが栽培したぶどうを使う。費用は搬入重量に応じて変わり、200〜500kg、500kg〜1,000kg、1,000kgの区分がある。もとは1トン以上を基本にしていたが、収穫を始めたばかりのオーナーが多かったため区分を細かくしたと書かれている
- 委託者への醸造技術の提供——年間カリキュラムに沿った講習と、現場での醸造研修
- 醸造トライアル——新しく認可された醸造資材を日本のワインに使ったときの比較検証など
委託期間の例として、6月にセミナーが始まり、翌年3月末に瓶詰めとセミナー・研修を終え、7月末までに瓶詰めしたワインを引き取る流れが示されています。講習は、6〜7月に最終的な味わいのイメージから発酵までの醸造工程の基礎、7月にオーナー自身が醸造工程を組み立てて指導を受けながら修正、8月に果汁の分析実習、9〜11月に参加型の醸造作業、12〜3月にワインの分析実習、澱引き、清澄・安定化、ろ過と進みます。2020年からはオンラインの講習が主体になったとも書かれています。
メルローで試したオークチップの比較
資料には、醸造トライアルの一例として2019年の試験が載っています。メルロー200kgを6つに分けて除梗・破砕し、酵母と同時に種類の異なるオークチップを加え、アルコール発酵のあと圧搾、乳酸菌を加えてマロラクティック発酵を終えたところでチップを取り出す。チップを加えない対照と、加熱のみ、ライト・ミディアム・ヘビーのトーストのチップを比べる、という内容です。日本のメルローで、樽に由来する香りの付け方がどう変わるかを確かめる試みといえます。
訪ねる前に
公式サイトとNAGANO WINEの紹介ページには、一般の見学・試飲・販売についての案内がありません。ここで仕込まれるのは委託した各ぶどう園オーナーのワインで、NAGANO WINEも品種欄を「委託醸造専門」としています。委託醸造の相談は、公式サイトの受付フォームか、電話(026-213-7767)、メール(info@mothervines.com)で。公式サイトの資料は2021年版のため、条件は変わることがあります。
高山村のワイナリーとのつながり
NAGANO WINEでは、マザーバインズ長野醸造所は千曲川ワインバレーの造り手に数えられています。同じ高山村には、ぶどう農家や地元の人たちが出資して生まれた信州たかやまワイナリー、カンティーナ・リエゾー、ドメーヌ長谷 & ヒカルファームがあり、隣の須坂市には楠わいなりーがあります。表に名前の出るワインの裏で、こうした醸造所が新しい造り手の最初の数年を支えています。長野の産地全体は産地:長野と第72講 長野完全編にまとめています。

