標高800m、福井原のワイナリー
ドメーヌ長谷は、長野県北部、上高井郡高山村の福井原(ふくいはら)地区にある小さなワイナリーです。公式サイトは自らを「信州高山村福井原の標高800メートルに位置する、自然に囲まれた家族経営のワイナリー&ファーム」と紹介しています。運営は合同会社Hikaru Farmで、オンラインショップの特定商取引法表記によれば、所在地は高山村大字高井4411-3、事業者名は長谷光浩氏です。
公式サイトによれば、2017年9月に酒類製造免許の認可を受けました。北信五岳が見渡せる台地に約6haのぶどう畑などとワイナリーを構え、自家栽培・自家醸造を中心にワインを造っています。高山村では2015年のカンティーナ・リエゾーの開業を皮切りに、信州たかやまワイナリー、ドメーヌ長谷などと2019年まで毎年1軒ずつワイナリーが増えたと、長野県の観光情報サイト「Go NAGANO」は紹介しています。
公式サイトには、福井原が高山村に移り住むきっかけになった土地だとあります。山林の中の曲がりくねった道(万座道路)を進み、川を渡った先に突然、開けた空と広い台地が現れる――その景色に圧倒されたといいます。ワイナリーはその福井原の玄関口にある畑の一部に建っています。「美味しいワインは風景から」というのが、このワイナリーの出発点です。
畑の続きに醸造所を置く理由
ドメーヌ長谷は、ぶどう畑のすぐそばにワイナリーを構えています。公式サイトはその理由を、ぶどうが育ったのと同じ環境でワインを造ってこそ、本当の意味で風土を反映したワインになるから、と説明しています。畑やセラーに棲む微生物も含めた環境をテロワールの一部ととらえる考え方です。
栽培は、化学農薬・化学肥料・除草剤を使わないビオロジック栽培を基本としています。ただし公式サイトには、日当たりと風通しの悪い1区画だけは化学農薬を1〜2回散布する減農薬栽培にしている、と正直に書かれています。持続可能な農業としてのワインづくりを目指す、という姿勢です。
醸造では、仕込みの段階で微生物を殺す亜硫酸を使わず、野生酵母による自然な発酵を行います。補糖・補酸などの添加にも頼らず、人の手を極力介さない造りです。そのうえで、流通を考えて瓶詰めのときだけごく少量の亜硫酸を加える場合がある、と明記しています。製品ページでは、銘柄ごとに瓶詰め時の添加量(13〜15ppmなど)や、無添加であることが示されています。考え方の背景は第45講 ナチュラルワイン完全編で解説しています。
20品種の混植と、クローンへのこだわり
公式サイトによれば、始まりはピノ・ノワール系統とシャルドネの素晴らしいワインを目指し、それに向く土地として福井原を訪れたことでした。その後、福井原の気候風土に合うぶどうを探るため品種を増やし、現在は20品種を植えています。数年の栽培を経て、福井原はピノ・ノワール(ピノ・グリやピノ・ブランを含む)とシャルドネに適した土地だと確信したといいます。あわせて、ドイツやアルザスで多く育てられるリースリングやゲヴュルツトラミネール、日本生まれのマスカット・ベーリーAも合うと感じていると書かれています。気候変動を考え、2020年にはさらに4品種の試験栽培も始めました。
特徴的なのは、品種やクローンを同じ畑に植える混植(フィールド・ブレンド)です。完成するワインの姿を考えながら植え分け、複雑な味わいと、多品種栽培による自然との共生の両方をねらっています。クローン(同じ品種のなかの系統)も多く、公式サイトではシャルドネに8種類(95・277・548が主体)、ピノ・ノワールに7種類(MV6・115・777が主体)、ピノ・グリ、ピノ・ブラン、リースリング、ゲヴュルツトラミネールにそれぞれ3種類以上を植えていると紹介しています。マスカット・ベーリーAの穂木は山形・長野・山梨から選んだそうです。台木もリパリア・グロワール・ド・モンペリエを中心に5種類を使い分けています。クローンや台木の基本は第69講 交配品種とクローン完全編へ。
3つのシリーズと、主なワイン
ワインは大きく3つのシリーズに分かれます。
- Pino Fan(ピノ・ファン) ── 自社ぶどう100%で、土地の風景を映す個性を追う上級のシリーズ。名前は、ピノ系の品種の「ファン」であることと、小粒のピノのクローンを指す「Pinot Fin」をかけたものと説明されています。2026年3月発売の「Pino Fan blanc 2024」(シャルドネ、ピノ・グリ、ピノ・ブラン、ピノ・ノワール)は樽で自然な乳酸発酵と熟成を経て、無濾過・無清澄で瓶詰め。「Pino Fan rouge Z」はピノ・ノワール主体の赤で、名前の「Z」はマスカット・ベーリーAを生んだ川上善兵衛に由来します。
- FUKUIHARA(フクイハラ) ── 食事に気軽に合わせる日常のワイン。2026年8月発売の「FUKUIHARA blanc 2025」はシャルドネ、ゲヴュルツトラミネール、リースリング、ピノ・グリなどで造る高山村福井原産ぶどう100%の白。微発泡の「FUKUIHARA petillant」もあります。
- HIKARU FARM(ヒカルファーム) ── 契約栽培の原料などを使うシリーズ。2026年5月発売の「rosé de clair 2」は、須坂市産のカベルネ・フランや福井原産のシャルドネに、自社のマスカット・ベーリーAとピノ・ノワールを合わせた淡いロゼです。
高山村はりんごの名産地でもあり、村のりんごを野生酵母で発酵させた「和シードル」も造っています。生産本数は1銘柄あたり千数百本ほどと少量で、価格は多くがオープン価格です。
訪問はできない。酒販店で探す
注意したいのは、ワイナリーを訪ねても見学・購入はできないことです。公式サイトは、有機栽培かつ家族経営の小さなワイナリーのため現在見学は受け入れていない、ワイナリーでの直接販売もしていない、と明記しています。ワインは公式サイトの「Retailers」に載る全国の酒販店に出荷されており、発売日や取り扱いは店ごとに異なります。シードルなど一部の商品は公式オンラインショップでも販売されています。
高山村で畑や醸造所を見てみたいなら、同じ村の信州たかやまワイナリーやカンティーナ・リエゾーのように見学やテイスティングを受け付けているワイナリーを組み合わせるのが現実的です。千曲川沿いに広がる長野の産地の流れは第72講 長野完全編で紹介しています。
