鹿児島の酒造会社が、石和に開いた工場
マルス山梨ワイナリーは、山梨県笛吹市石和町にある本坊酒造のワイナリーです。本坊酒造は鹿児島市に本社を置く酒造会社で、公式サイトの沿革によれば、1872(明治5)年に製綿業から始まり、1909年に焼酎、1949年にウイスキーの製造を始めました。
その本坊酒造が1960年、山梨県東八代郡石和町(現在の笛吹市)に山梨工場を新設し、ワインの製造を始めました。これがいまのマルス山梨ワイナリーです。同じ年には、ウイスキーの製造免許を鹿児島から山梨工場に移し、蒸留設備を備えてモルト原酒の製造も始めています。山梨工場での蒸留は1972年に休止し、ウイスキーの製造は1985年に長野県宮田村の信州工場(現在のマルス駒ヶ岳蒸溜所)へ移りました。
ブランド名の「マルス」はローマ神話の軍神で、火星を指す言葉です。公式サイトによれば、創業当時からのシンボルだった「星」にちなみ、一般公募で選ばれた名前です。
穂坂で醸し、石和で育てる
マルスのワイン造りで大きな転機になったのが、韮崎市の穂坂です。沿革によれば、2000年に韮崎市穂坂町に自社畑「穂坂日之城農場」を開きました。公式サイトの紹介では、標高約500メートルの南東向きの斜面で、垣根仕立てでぶどうを育て、収穫の数か月前に房の数を絞っています。
2017年には同じ穂坂町にマルス穂坂ワイナリーを新設しました。公式サイトによれば、いまは穂坂が醸造の拠点、石和が瓶詰・貯蔵・熟成の拠点という役割分担になっています。最上位の「シャトーマルス 穂坂日之城」も、穂坂で醸造したワインを石和で瓶詰めし、寝かせています。
「シャトーマルス」のぶどうは、穂坂(韮崎市)、白根(南アルプス市)、石和・御坂(笛吹市)、牧丘(山梨市)の5つの地区から集められています。品種は甲州、シャルドネ、ヴィオニエ、デラウェア、マスカット・ベーリーA、カベルネ・ソーヴィニヨン、メルロー、シラー、甲斐ノワールなど幅広く、地区の名前を冠したワインも多く造られています。山梨のなかでの産地の違いは第70講 山梨完全編でたどれます。
主なシリーズと受賞
公式サイトは、ワインを穂坂日之城、シャトーマルス プレステージ、シャトーマルス、スパークリングワイン、マルスワイン、一升瓶ワインなどのシリーズに分けています。代表的な銘柄には次のようなものがあります。
- 穂坂日之城 シャルドネ、穂坂日之城 カベルネ&メルロー 遅摘み──自社畑のぶどうから造る最上位のシリーズ
- 穂坂三之蔵 ルージュ、穂坂 甲州 樽発酵──穂坂のぶどうを使ったワイン
- 白根 甲州 シュール・リー、甲州 ヴェルディーニョ、甲州 オランジュ・グリ──甲州をさまざまな造りで仕立てたワイン
- 笛吹 マスカット・ベーリーA、牧丘 甲州──地区の名を冠した新酒
公式サイトによれば、2005年の国産ワインコンクール(現在の日本ワインコンクール)で、山梨県産のぶどうを使ったワインとして初めて金賞を受けたのがマルスでした。その後も、2012年に「穂坂日之城 シャルドネ 2010」が日本ワインコンクールの最高金賞・部門最高賞、2019年にはジャパン・ワイン・チャレンジで「甲州 穂坂収穫 2018」がトロフィーを受けるなど、国内外のコンクールで受賞を重ねています。2026年のサクラアワードでは「甲州 ヴェルディーニョ 2024」がダブルゴールドに選ばれました。
予約不要の見学と、樽の蛇口からの無料試飲
石和のワイナリーは、公式サイトによれば入館無料・年中無休(臨時休業あり)で、営業は9:00〜16:30です。
- 見学:個人は予約不要の自由見学(約30分)。地下の樽貯蔵庫、10〜15℃に保たれた約30万本の低温貯蔵庫、製造期間中は瓶詰ラインを見られる。地下の通路には、ぶどうとワインの壁画がある。旅行会社・バス会社の団体は5日前までに予約
- 無料試飲:ワイン5〜6種類とぶどうジュース。壁に据えた大樽の蛇口から注ぐ
- 有料試飲:ソムリエが選んだワインを、樽でできたカウンターで
- ショップ:約30〜40種類のワインのほか、山梨県限定品やワイナリー限定のお酒、地域のお土産。国内への発送にも対応
公式サイトによれば、5名以上の予約制だったゲストルームは現在休止中で、飲食施設はありません。運転する人には試飲を出しておらず、20歳未満だけのグループは入館できません。山梨県の観光サイトには、見学と有料試飲を休止中とする記載が残っていますが、公式の見学ページとは異なるため、最新の情報は公式サイトで確かめてください。予約なしで見学できるワイナリーの探し方は、特集「無料で見学できるワイナリー」でも紹介しています。
アクセスと、石和温泉からの寄り道
公式サイトによれば、JR中央本線の石和温泉駅から徒歩約10分。公式サイトは、新宿から石和温泉駅まで約1時間半と案内していますです。車なら中央自動車道の一宮御坂ICから約10分で、無料駐車場(普通車30台・バス10台)があります。駅から歩いて行けるので、試飲を楽しみたい人には電車での訪問が向いています。
春には「マルスワイン祭り」が開かれることがあり、2026年は5月3〜4日に、笛吹市石和町の「笛吹みんなの広場」でシャトーマルスの試飲やセミナーが行われました。開催の有無や会場は年によって変わるので、公式サイトのお知らせで確かめてください。
石和温泉の周辺には、モンデ酒造など、ほかにも訪ねやすいワイナリーがあります。一宮町まで足をのばせば、農家から始まった家族経営の新巻葡萄酒もあります。産地の全体像は産地:山梨で、訪問の心得は第51講 ワイナリー訪問完全編でどうぞ。

