フランスで学んだソムリエが、余市の沢町へ
平川ワイナリーをつくったのは、平川敦雄さんです。公式サイトのメッセージによれば、19歳で初めてソムリエの仕事に就き、ウラジオストクから鉄道を乗り継いでユーラシア大陸を横断し、1995年夏、22歳でフランス東部のロレーヌ地方に暮らし始めました。各地のぶどう畑と醸造所で働いたのち、フランス農水省管轄の国立技術士養成機関ENSAアグロモンペリエ(現SupAgroモンペリエ)で学び、2003年にエノローグ国家免状(DNO)を授与されています。北海道庁の資料も、フランスの国家技術士養成機関を卒業し、各地で栽培と醸造を学び、ソムリエの経験も積んだ人物として紹介しています。
帰国後は北海道・洞爺の「ミシェル・ブラス トーヤ ジャポン」でシェフ・ソムリエを務めました。そこで出会ったのが余市産のケルナーで、公式サイトは、その質の高さが「センセーショナルな驚き」だったと振り返っています。
2014年3月、余市町の先進的農業者として65年間農業に励んできた藤城議さんの畑を引き継いで株式会社平川ファームを設立。翌2015年2月、平川ファームを経営主体とする株式会社平川ワイナリーが生まれました。2022年5月に第2醸造所、2025年6月に搾汁棟が完成し、年間の生産は5万本と公式サイトに書かれています。
沢地区の三つの畑と、区画ごとの仕込み
畑はすべて余市町の沢地区にあります。公式サイトの畑のページによれば、農地21ha、植栽面積13.5ha。ヌッチ川がつくった南向きの斜面に、三つの圃場が並びます。
- 沢圃場:2014年取得、南西向き、標高25〜43m
- 豊丘中央圃場:2017年取得、南東向き、標高34〜65m
- 豊丘ヌッチ圃場:2023年取得、南西向き、標高18〜41m
土はいずれも非アロフェン質の黒ボク土で、凝灰質砂岩が風化した母材の上にあり、ヌッチ圃場には川の石を含む沖積土が混じると説明されています。化学肥料と除草剤は使わず、畝の間は草生栽培。2024年は自社畑のぶどう70トンを仕込み、すべて平川ファームのぶどうだとしています。
醸造は単一品種・区画ごとが基本です。主力はケルナーで、四つの区画に植えられ、区画ごとに個性が違うと公式サイトは書いています。ほかにドイツ系とフランス系の品種を育てていますが、ラベルには品種名を出さず、北海道庁の資料でも主な醸造品種は「非公開」とされています。品種より畑を語る、という姿勢が銘柄の名前にも表れています。
主な銘柄
公式サイトのワイン一覧は、五つのシリーズに分かれています。
- Grande Cuvée:『Solitude』『Eloge』『Intuition』『Prestance』『Sélène』『Notre Siècle』『Dualité』など
- Cuvée Sélection:『Solitude』『Jasmin』『L’Espérance』『Contour』
- Terre de Yoichi:『Rose des Vents』『Sylvie』『l’Esprit』『Hespéride』『Ostrea』『Second Vin』など
- Cuvée Gastronomique:『Blanc de Yoichi』『Rosé de Yoichi』『Pureté』など、飲食店向けとして位置づけられたシリーズ
- スパークリング:瓶内二次発酵の『Présage』『Clémence』『Sirima』『Les Amitiés』と、『Intimité La Pétillante』
北海道庁の資料が主なラインナップとして挙げるのは『Notre Siècle』『Solitude』『Eloge』『L’Esprit』『Second Vin』。公式サイトには、畑に生き残っていた古樹のツヴァイゲルトから『藤城議ツヴァイゲルト2014年』が1,326本限定で生まれた、という最初の一本の記録も残っています。価格は公式オンラインショップで確かめてください。
訪ねる前に:見学はなく、買う場所は広尾と酒販店
平川ワイナリーは、ワイナリーでの見学・試飲・販売を行っていません。公式サイトの会社概要に見学不可と明記され、北海道庁「北海道内のワイナリー紹介」(後志エリア、R8.2現在)も直売所なし・訪問見学不可としています(2026年11月1日確認)。
一本を手に入れる場所は、公式オンラインショップと全国の酒販店、そして東京の直営店です。直営店「HIRAKAWA WINERY FLAGSHIP STORE HIROO」は渋谷区広尾5-3-16、日比谷線広尾駅2番出口から徒歩約5分。営業は12:00〜18:00で、月曜と水曜が定休日です。公式サイトの「RESTAURANT」には、東京・名古屋・大阪・福岡・小樽などでこのワインを出す店が並んでいます。「畑の先に、醸造があり、醸造の先に、レストランがある」という公式サイトの一文どおり、グラスで出会うなら、こうした店のカウンターが入口になります。
余市の中での位置づけ
余市町には、町で最初にワインを造った余市ワイナリーから、ピノ・ノワールで知られるドメーヌ・タカヒコ、ガーデンの中のワイナリーOcciGabi Wineryまで、性格の違う造り手が集まっています。平川ワイナリーはその中で、ソムリエの経験とフランスでの醸造教育を背景に、区画ごとの個性と食卓での役割を前面に出す造り手です。隣の仁木町のNIKI Hills Wineryとあわせ、北海道・後志のワインを読むときの手がかりにしてください。産地全体は第68講 北海道完全編にまとめています。
