第93講「ワインと年末年始の食卓完全編」の最後に予告したとおり、今回はブルゴーニュの丘をひとつ歩きます。ボーヌの街から北へ向かうと、斜面の上に森をかぶった、丸い丘が見えてきます。それがコルトンの丘です。斜面の下半分にはピノ・ノワールの赤の特級、上のほうと西の斜面にはシャルドネの白の特級。赤と白のグラン・クリュが、ひとつの丘を分け合っています。
ひとつの丘に、赤と白の特級
INAOとブルゴーニュワイン委員会(BIVB)の資料によれば、コルトンとコルトン・シャルルマーニュは、どちらも1937年7月31日にAOCに認められた特級です。畑は丘を囲むアロース=コルトン、ラドワ=セリニー、ペルナン=ヴェルジュレスの3つの村にまたがっています。
- コルトン(赤・白)──2022年の生産面積は赤が87.04ha、白が3.95ha。2017〜2021年の平均で、赤が年に約2,671hl(約35万本)、白は約138hl
- コルトン・シャルルマーニュ(白)──生産面積59.77ha。年に約2,203hl、ボトルにして約29万本
- 標高と向き──コルトンは標高250〜330mで南東から南西向き。コルトン・シャルルマーニュは280〜330mで、多くが南西を向く
赤の87haという広さは、クロ・ド・ヴージョ(約50ha)をはるかに上回り、ブルゴーニュの赤の特級で最も大きな数字です。そしてコート・ド・ボーヌの特級は、モンラッシェをはじめほとんどが白。赤の特級はコルトンただひとつで、フェヴレやシャンドン・ド・ブリアイユ、ブシャールの公式資料も、この点をまず挙げています。
丘の名は村の名にも入り込みました。INAOの資料によれば、アロース村は1862年に、もっとも名高い畑の名「コルトン」を村名に加えて「アロース=コルトン」になりました。ブルゴーニュで畑の名を村名に付けた例は多く、その仕組みは第4講 ブルゴーニュ完全編でまとめています。
畑の名前の読み方——「コルトン」の後ろに付く名
コルトンは、ひとつのAOCの中に多くの区画(クリマ)を抱えています。ブシャール・ペール・エ・フィスは、コルトンを「コート・ドールで唯一、下位のクリマに分かれた特級」と説明しています。BIVBの一覧には25の名が並び、赤のコルトンはラベルで「コルトン」の後ろに区画の名を添えて出されることが多いのです。
- ル・コルトン(Le Corton)──アペラシオンの名の由来になった歴史的な区画。ブシャールが6割を持つ
- レ・ブレッサンド(Les Bressandes)──オスピス・ド・ボーヌが「丘で最も名高いクリマのひとつ」と紹介する区画。施療院の赤のキュヴェにも使われる
- ル・クロ・デュ・ロワ(Le Clos du Roi)──「王の畑」の名をもつ区画
- レ・ルナルド(Les Renardes)──「狐」に由来するといわれる名の区画
- そのほか──レ・マレショード、レ・グレーヴ、レ・プジェ、レ・ランゲット、ル・ロニェ・エ・コルトン、レ・ペリエール、レ・ヴェルジェンヌ など
同じ「コルトン」でも、どの区画から来たかで性格が変わる、というのがこの丘を飲む面白さです。BIVBによれば、斜面の中腹は茶色の石灰岩とカリウムの多い泥灰土からできた赤みがかった小石まじりの土で、ここにピノ・ノワールが植わり、シャルドネは斜面の上部を占めます。ブシャールは、東向きで標高の高い「ル・コルトン」を、浅い鉄分の多い粘土が石灰岩の板の上に乗った土で、多くのコルトンより優美で花の香りがあると説明しています。
森をいただく丘の、東と西
コルトンの丘は、頂を森におおわれ、その下をぶどう畑が帯のように取り巻いています。BIVBによれば、丘の地層はジュラ紀オックスフォード階の石灰岩で、およそ1億4,500万年前のもの。斜面の下と中腹には赤のための粘土や泥灰土が、上部には白のための石灰の多い土が出ています。
丘は東から南、西へと向きを変えながら回り込むため、同じ特級でも、畑ごとに日の当たり方がずいぶん違います。造り手たちの公式資料を並べると、その違いがよくわかります。
- 東向きの高い区画──ブシャールの「ル・コルトン」。北風が果実を新鮮に保ち、病気の心配が少ないと説明する
- 森の縁の上部──ブシャールのシャルルマーニュの区画は標高350mほど。夕方は森の陰に入り、一日の終わりの強い日差しを避けられるとする
- 西向きの一続きの畑──ボノー・デュ・マルトレイは、斜面の上・中・下で3つの微気候と9種類の土を確かめ、区画ごとに仕込んで1本にまとめる
- ペルナン側の西向きの斜面──ルーミエの区画は傾斜15%、粘土の多い土の下にカロヴィアン期の石灰岩がある
同じ名の一本でも、丘のどの面から来たかで表情が変わる。コルトンを飲むときは、ラベルの区画名とともに、造り手がどの斜面に畑を持っているかも気にしてみてください。
シャルルマーニュの白
コルトン・シャルルマーニュの名は、フランク王国のシャルルマーニュ(カール大帝)に由来します。BIVBによれば、帝は775年に丘のぶどう畑をソーリューのサン・タンドッシュの修道会に寄進し、畑はおよそ千年のあいだ修道会のものでした。INAOの資料はこれを「寄進したとされる」と伝承の形で書き、ペルナンの「アン・シャルルマーニュ」という畑の名がその名残だとしています。白いひげが赤ワインで汚れるのを嫌った帝が白を植えさせた、という話もよく語られますが、ブシャールも「伝説」として紹介している逸話です。
BIVBによれば、コルトン・シャルルマーニュは主に「ル・シャルルマーニュ」と「アン・シャルルマーニュ」の2つの畑と、その周りの区画からなります。斜面上部は傾斜が20〜23%に達し、土は黄色から茶色の粘土質の泥灰土に石灰岩の層がはさまります。若いうちは緑がかった淡い金色で、焼きりんごや柑橘、パイナップル、シダ、シナモン、火打ち石、はちみつの香り。25〜30年を経ると革やトリュフの香りが出てくるとBIVBは表しています。
ややこしいのが、「シャルルマーニュ」という特級が別にあることです。BIVBの説明では、シャルルマーニュはアロース=コルトンとペルナン=ヴェルジュレスの2村だけで、その区域はコルトン・シャルルマーニュの区域に含まれ、「現在は使われていない」とされています。ところが、ボノー・デュ・マルトレイは公式サイトで自社の2つの特級を「シャルルマーニュとコルトン」と紹介しています。英国の輸入元の資料などによれば、2021年産から白のラベルを「シャルルマーニュ」に改めたとされます。BIVBの説明より新しい動きとして、ラベルを読むときに覚えておきたい点です。
3つの村と造り手

丘の特級は多くの造り手が分け合っています。所有の大きな家から見ると、ルイ・ラトゥールはコルトン・シャルルマーニュを10.5ha持つ最大の所有者で、1891年にアロース=コルトンのコルトン・グランセを手に入れました。ブシャールは1909年にシャルルマーニュの区画を取得し、ル・コルトンの6割も持っています。ボノー・デュ・マルトレイは、丘の西面に一続きの畑を持ち、特級の白と赤だけを造ってきた家です。
赤では、フェヴレが1874年から持つモノポール「クロ・デ・コルトン・フェヴレ」、サヴィニーのシャンドン・ド・ブリアイユが手がけるブレッサンドやクロ・デュ・ロワがよく知られます。シャンドン・ド・ブリアイユは1834年から同じ一族が持つドメーヌで、2005年にビオディナミへ移り、2011年からは少しずつ馬で畑を耕しています。マレショード、ブレッサンド、クロ・デュ・ロワの赤に白のコルトンとコルトン・シャルルマーニュも揃え、丘の中の違いを同じ手で見せてくれる造り手です。フェヴレの畑はもと「クロ・デ・コルトン」と呼ばれ、1930年代の名前をめぐる争いを機に、家の名を加えたと公式は説明しています。シャンボール・ミュジニーのルーミエも、ペルナン側に0.2haあまりのシャルルマーニュの区画を持っています。丘の外の村の造り手が、こぞって小さな区画を持っていることにも、この丘の重みが表れています。
施療院オスピス・ド・ボーヌも、寄進で受け継いだ畑を丘に持っています。公式によれば、キュヴェ「シャルロット・デュメ」の名は、1534年にアロースのぶどう畑を寄進した女性にちなみます。もうひとつの赤「ドクトゥール・ペスト」は、19世紀半ばに30年以上ここで働いた医師ジャン=ルイ・ペストの名で、1924年に娘のバロンヌ・デュ・バイが父をしのんで大きな地所を遺したと伝えられます。毎年11月の競売では、コルトンとコルトン・シャルルマーニュのキュヴェも樽で競り落とされます。
コルトンについては、「人生を楽しむ人たちの王(ロワ・デ・ボン・ヴィヴァン)」という呼び名もよく引かれます。ただ、BIVBはこれを作家カミーユ・ロディエの言葉として、ブシャールはモーパッサンの言葉として紹介していて、出どころははっきりしません。
選び方と、注ぐ場面
赤のコルトンは、まず区画名の付いた一本から。BIVBは赤の香りをブルーベリーやキルシュ、すみれと表し、熟成すると下草や革、胡椒、甘草へ移るとしています。若いうちは骨格がしっかりしているので、BIVBの示す熟成の目安(4〜12年)を考えると、数年寝かせた年が開けやすいでしょう。同じ造り手のブレッサンドとクロ・デュ・ロワを並べれば、丘の中の違いが見えてきます。ピノ・ノワールの特級の中では、国内の通販で1.5〜3万円前後から見つかるものもあり、特級の入口に選ばれることもあります。
白のコルトン・シャルルマーニュは、ルイ・ラトゥールのように国内で4万円台から手に入る一本から、ボノー・デュ・マルトレイのように10万円を超える一本まで幅があります。同じコート・ド・ボーヌのシャルドネとして、ムルソーの1級と並べてみると、丘の上の特級と村の斜面の1級の違いを確かめられます。ボノー・デュ・マルトレイの技術資料は、自社の白を、石灰岩を思わせる正確な味わいに塩味の気配がある、と表しています。
温度は、BIVBの目安で赤が14〜16℃、白が12〜14℃。赤は牛のローストやグリル、ジビエ、風味の強いチーズに、白はフォアグラやオマール、蟹、白いソースの鶏や仔牛に合わせるのがBIVBの提案です。年末年始の食卓なら、元日のローストビーフに赤のコルトンを、第93講で取り上げた冬の蟹にはコルトン・シャルルマーニュを。ひとつの丘の赤と白を、同じ夜に開けるのもよいでしょう。記念日に一本だけ選ぶなら、生まれ年や結婚した年のコルトン・シャルルマーニュを探してみるのも、この丘らしい楽しみ方です。BIVBが書くように、白は長い時間をかけて香りを変えていくワインだからです。
次回は産地講座に戻り、第94講『北陸完全編』をお届けします。富山・石川・福井、そして新潟まで、日本海側の雪国で続くワイン造りと、海の幸に寄り添うワイナリーの一本をたどります。