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ワインガイド Vinotier
銘醸ワイン図鑑

ムルソー

Meursault / フランス・ブルゴーニュ
産地
フランス・ブルゴーニュ
スタイル
特級を持たない村が生む、厚みと香ばしさのある辛口白
主な品種
シャルドネ・ピノ・ブラン
手前に広がるぶどう畑の向こうに、赤い屋根の家並みと高い尖塔の教会、色瓦の屋根の建物が並ぶムルソーの村
手前に広がるぶどう畑の向こうに、赤い屋根の家並みと高い尖塔の教会、色瓦の屋根の建物が並ぶムルソーの村 / Photo: “Meursault et ses vignobles en automne (2018)” by Florian Pépellin, CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)
このページの要点

ムルソー(Meursault)は、ブルゴーニュ・コート・ド・ボーヌの村で、1937年にAOCに認められました。赤も造られますが、生産量のおよそ98%は白で、品種はほぼシャルドネです。隣のピュリニー・モンラッシェと違って特級畑(グラン・クリュ)を持たず、19の1級畑が頂点に立ちます。ブルゴーニュワイン委員会(BIVB)は香りをトーストしたアーモンドやヘーゼルナッツと表し、厚みと香ばしさのある白の代名詞として語られてきました。

この記事の目次

第77講「魚介とワイン完全編」で、オマールのグリルやテルミドールの相手として名前が挙がったのが、熟成したムルソーでした。今回は、その故郷の村をたどります。

ブルゴーニュの白の銘醸村といえば、まず思い浮かぶのがピュリニー・モンラッシェとムルソーでしょう。ふたつの村は隣り合い、どちらもほぼシャルドネだけを植えています。ところが、ムルソーには特級畑がひとつもありません。それでも世界の愛好家が「ムルソー」の名に特別な期待を寄せるのは、なぜなのか。畑の仕組みと、村の歴史、造り手の顔ぶれから見ていきます。

特級を持たない、白の村

INAO(フランス国立原産地名称研究所)の仕様書によれば、AOCムルソーは1937年7月31日の政令で認められました。認められているのは白と赤のスティルワインですが、BIVBの2017〜2021年の平均では、白が年に約17,300hl、赤は約380hl。赤は生産量の2%ほどにすぎません。

  • 白の品種──シャルドネとピノ・ブラン
  • 赤の品種──ピノ・ノワール
  • 面積(BIVB)──白が約383ha、赤が約9ha。合わせて約390ha
  • 格付け──村名と1級(プルミエ・クリュ)の2段階。特級はない

1級の面積は、BIVBの生産面積で約105ha、仕様書の区画として認められた面積で約130haと、基準によって数字が違います。いずれにしても、村の畑のおよそ3分の1から4分の1が1級という計算です。仕様書によれば、1級のリストは1943年に国が認めたもので、1860年にボーヌ郡がまとめた畑の等級で上位とされた畑がもとになっています。

なぜ特級がないのかについては、はっきりした理由が公式に示されているわけではありません。ただ、19世紀の記録には、ムルソーの白がしばしば「モンラッシェ」の名で売られていたことが書き留められています(仕様書が1816年のジュリアンの記述を引用)。隣村の名畑と肩を並べる白を、昔から生んできた村だったことがうかがえます。

19の1級畑——ペリエール、シャルム、ジュヌヴリエール

仕様書には、19の1級畑が載っています。18世紀の文献(1778年のクールテペ神父)がすでに「最良」と挙げていたのが、シャルム、ペリエール、ジュヌヴリエール、グット・ドールの4つでした。今も、この顔ぶれがムルソーの1級の中心です。

  • ペリエール(Perrières)──村の南寄り、斜面の中ほど。名は「石切り場」を意味し、表土が薄く石が多い畑として知られます。村で最良の畑と評され、特級に格上げすべきだという声もたびたび上がります。中にあるクロ・デ・ペリエールは、別の1級として仕様書に載っています
  • シャルム(Charmes)──ペリエールの下、傾斜のゆるい斜面の下部に広がる、1級の中でも大きな畑。畑の中は上側(デシュ)と下側(デスー)の小区画に分かれ、上側の評価が高いとされます
  • ジュヌヴリエール(Genevrières)──シャルムの北隣。名はネズの木(ジュニパー)に由来するといわれます
  • グット・ドール(Les Gouttes d'Or)──「金のしずく」の名をもつ畑。仕様書で白・赤ともに認められた1級のひとつ
  • そのほか──ポリュゾ、ブシェール、カイユレ、クラ、プリュール、ラヴェル など

畑の面積は、公式の一覧では確かめられなかったため、ここでは挙げません。また、ラベルでよく見る「シャルム・デシュ」「ジュヌヴリエール・デスー」といった名前は、1級の正式名ではなく、その中の小区画(リュー・ディ)の名です。

村名クラスにも、テッソン、ナルヴォー、ティエ、シュヴァリエール、リュシェ、リモザンなど、造り手が区画の名をラベルに記して出す畑がたくさんあります。仕様書では、こうした区画名は1級と紛らわしくならないよう、村名より小さな文字で書くことになっています。村名でも区画名の付いたムルソーは、造り手が畑ごとの違いを見せようとしているしるしです。

白っぽい小石がびっしりと地面をおおうぶどう畑の畝のあいだを、まっすぐな道が奥へ続き、両側に緑の葉を茂らせたぶどうの株が並ぶ
村の南西に広がるムルソーの畑。白っぽい石灰の小石が土をおおう / Photo: “Meursault - Vineyards - 1” by Benjamin Smith, CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

石灰岩と泥灰土の斜面

仕様書によれば、ムルソーの斜面は高低差が約150m。東の標高約250mのソーヌ平野から、西の標高400〜500mのオート・コートの台地へと上っていきます。地層は、ジュラ紀の石灰岩と泥灰土(マール)が交互に重なるつくりで、村の石灰岩はかつて建材としても切り出されていました。1級の多くは斜面の下のほうにあり、BIVBは最良の土壌を標高約260mのあたりとしています。年間の降水量は約750mm、年平均気温は10.5℃です。

泥灰土は水を含みやすく、石灰岩はミネラル感のある引き締まった酸を与える、と一般に語られます。同じ1級でも、表土の薄い石がちのペリエールは引き締まった印象、斜面の下のシャルムはより丸く豊か、と対比されることが多いのは、この地形と土の違いによるものでしょう。土と味の関係は第67講 土壌とテロワール完全編で詳しく扱っています。

ブラニーとサントノ——ムルソーの不思議な境界

ムルソーのラベルを読むとき、少しややこしいのが、隣の村との境にある畑です。

  • ブラニー(Blagny)──ムルソーとピュリニー・モンラッシェにまたがる、斜面の上の小さな集落。仕様書によれば、ここの赤はAOC「ブラニー」、白は「ムルソー」(1級ブラニーなど)として出されます。同じ畑の名が、色によって別のAOCに属するわけです
  • サントノ(Santenots)──ムルソー村の北の畑ですが、AOCヴォルネイの区域はムルソー村の一部にも広がっていて、ここの赤は「ヴォルネイ1級サントノ」として出されます。一方、ムルソーの1級としてのサントノ(サントノ・ブラン、サントノ・デュ・ミリュー)は白だけが認められています

白の村ムルソーで赤を探すなら、まず「ヴォルネイ・サントノ」と「ブラニー」の名を覚えておくとよいでしょう。ブルゴーニュのAOCと村の関係は、第4講 ブルゴーニュ完全編でまとめています。

シトー会の畑と「ポーレ」

仕様書によれば、ムルソーのワインの歴史は1098年にさかのぼります。この年、ブルゴーニュ公ウード1世が、できたばかりのシトー修道院に村の城の近くのぶどう畑を寄進しました。修道士たちが醸造所として建てた建物は今も村の中心に残り、12世紀の丸天井の地下カーヴが伝わっています。「ムルソー」という名の由来には「ネズミの跳躍」を意味するラテン語とする説などがありますが、俗説とされるものも多く、はっきりしていません。

青空の下、背の高い並木の続く道の右手に「CHÂTEAU DE MEURSAULT」と書かれた看板が立ち、石垣の向こうにぶどう畑が見える
シャトー・ド・ムルソーの入口。看板には12〜16世紀のカーヴと記される / Photo: “Meursault - Château de Meursault - 1” by Benjamin Smith, CC BY-SA 4.0(Wikimedia Commons)

村の名を世界に知らせているもうひとつの行事が、「ポーレ・ド・ムルソー(La Paulée de Meursault)」です。仕様書によれば、1923年に始まった収穫明けの宴で、参加者が自分のカーヴの良いワインを持ち寄るのが習わし。今では数百人が集まり、クロ・ド・ヴージョの騎士団の晩餐会、ボーヌのオスピスの競売とあわせて「栄光の3日間(トロワ・グロリユーズ)」と呼ばれます。始めたのは当時の村長ジュール・ラフォン伯爵と伝えられ、毎年、ワインについて書いた作家に「ポーレ・ド・ムルソー賞」が贈られています。

樽の香りから、張りのある酸へ

仕様書は、ムルソーの白を「グリル香とアーモンドのニュアンスが混じる、力強い香り」と表し、BIVBはトーストしたアーモンド、ヘーゼルナッツ、花、ミネラルを挙げています。こうした香ばしさは、樽での発酵と熟成、澱をかき混ぜるバトナージュ、マロラクティック発酵によるまろやかさが重なって生まれる、と一般に説明されます。仕様書によれば、樽などでの熟成は少なくとも6か月が慣行です。樽の効き方の違いは第63講 樽とオーク完全編で解説しています。

一方で、ムルソーの作風は一様ではありません。ルーロのように張りのある酸とミネラル感を前に出す造り手が高く評価され、コシュ=デュリでも新樽やバトナージュを控える方向への変化が伝えられています。「ムルソー=バターと樽」という昔ながらのイメージは、いまでは造り手ごとに確かめるべきものになっています。

熟成させる前に知っておきたい「早熟酸化」。 1990年代半ば以降、ブルゴーニュの白で、本来なら長く持つはずのワインが早く酸化して色や香りが損なわれる現象が問題になりました。英国のジャンシス・ロビンソンは、1995・1996年産が広くその兆候を示した最初の年だったと書いています。原因ははっきりしていません。古いムルソーを買うときは、保管状態の確かな店を選ぶのが安心です。ワインの劣化については第57講 ワインの欠陥と劣化完全編でまとめています。

選び方と楽しみ方

ムルソーは、造り手の差が値段にも味にも大きく出る村です。最初の一本なら、信頼できる造り手の村名クラスから。慣れてきたら、同じ造り手のシャルムとペリエールを飲み比べると、斜面の下の豊かさと、石の多い畑の引き締まった印象の違いがわかりやすいでしょう。価格は、海外の価格比較サイトの平均で、一般的な生産者の1級が2〜3.5万円前後、ラフォンやルーロの村名が4〜6万円前後。コシュ=デュリやアルノー・アントは別格の値がつきます(為替や年によって大きく変わります)。

温度は冷やしすぎないのがこつで、BIVBは12〜14℃を勧めています。鶏のクリーム煮やグラタン、バターで焼いた魚、海老やオマールなど、乳脂肪と香ばしさのある料理がよく合います。より引き締まった白と比べたいときは、シャブリ・グラン・クリュと並べてみると、同じシャルドネの幅の広さがよくわかります。

次回は、日本の産地講座に戻り、第78講「大阪完全編」をお届けします。河内のぶどう畑とワイン造りの歴史、デラウェアの産地としての大阪、そして柏原や羽曳野のワイナリーをたどります。

主要生産者と作風

※各ドメーヌの作風は一般的な評価に基づく傾向です。キュヴェやヴィンテージにより表情は変わります。

クロ・ド・ラ・バールの館

ドメーヌ・デ・コント・ラフォン

Domaine des Comtes Lafon

専門家ジャスパー・モリスの生産者紹介によれば、1869年にボシュ家が館とカーヴを建て、1894年にその娘と結婚したジュール・ラフォンが実質的な創始者です。1923年に「ポーレ」を始めた人物としても伝えられます。1980年代半ばからはドミニク・ラフォンが率い、1990年代にビオディナミへ転換。2021年の引退後は娘と甥が受け継いでいます。単独所有のクロ・ド・ラ・バール(2.12ha)のほか、ペリエールやシャルムを持ちます。

伝説の造り手

コシュ=デュリ

Domaine Coche-Dury

1920年代にレオン・コシュが始め、ジャン・フランソワ・コシュの代に世界的な名声を得たドメーヌです。2010年からは息子のラファエルが率いています。畑は約9haと大きくありませんが、村名クラスでさえ入手が難しいことで知られます。専門誌の評では、ラファエルの代に新樽やバトナージュを控えめにし、より畑の個性を映す方向へ進んだと評されます。

研ぎ澄まされた現代のムルソー

ドメーヌ・ルーロ

Domaine Roulot

1989年からジャン・マルク・ルーロ(俳優としても知られる)が率いるドメーヌで、有機栽培に取り組んでいます。張りのある酸とミネラル感を前に出した作風は、「引き締まった現代的なムルソー」の基準と評されます。村名格の区画の名を付けた銘柄が多く、単独所有のクロ・デ・ブシェールも持ちます。

ルフレーヴを率いた醸造家

ドメーヌ・ピエール・モレ

Domaine Pierre Morey

ピエール・モレは、1988年から2008年までピュリニーの名門ドメーヌ・ルフレーヴの責任者を務めた人物です。自身のドメーヌでは1993年に有機、1998年にビオディナミへ転換しました。現在は娘のアンヌが運営し、1級ペリエールと村名テッソンが代表的な銘柄です。

小さく、得がたい

ドメーヌ・アルノー・アント

Domaine Arnaud Ente

1990年代はじめにムルソーで始まった小さなドメーヌで、2014年に有機の認証を受けました。生産量が少なく、村名クラスでも海外の平均価格が10万円を超える、きわめて入手の難しい造り手として知られます。

早くからの自社瓶詰め

ドメーヌ・マトロ

Domaine Matrot

第一次世界大戦の直後に、ジョゼフ・マトロがいち早く自社での瓶詰めを始めた家です。2016年からは姉妹のエルザとアデルが醸造を担い、ムルソーの1級やブラニーのワインを手ごろな価格帯で出しています。

1級を揃える家族経営

ドメーヌ・ミシェル・ブーズロー

Domaine Michel Bouzereau et Fils

1級のペリエール、ジュヌヴリエール、シャルム、ブラニーを持つ家族経営のドメーヌで、2009年にジャン・バティスト・ブーズローが新しい醸造所へ移りました。主要な1級を同じ造り手で飲み比べられるのが魅力です。

手の届く1級

ドメーヌ・アンリ・ジェルマン

Domaine Henri Germain et Fils

1973年創業。ジャン・フランソワ・ジェルマンが受け継ぎ、2018年からは娘のリュシーも加わっています。シャルムやペリエールなどの1級が、海外の平均価格で3〜6万円前後と、名門の中では比較的手に取りやすい価格帯にあります。

よくある質問

ムルソーにグラン・クリュはありますか?
ありません。AOCムルソーの格付けは村名と1級(プルミエ・クリュ)の2段階で、19の1級畑が頂点です。なかでもペリエールは村で最良の畑と評され、特級に格上げすべきだという声がたびたび上がることでも知られます。
ムルソーとピュリニー・モンラッシェの違いは?
どちらもシャルドネの白の銘醸村ですが、ムルソーは厚みと香ばしさ(トーストしたアーモンドやヘーゼルナッツ)、ピュリニーは張りつめた酸と白い花の香りと対比されるのが定番です。またピュリニーには特級が4つあるのに対し、ムルソーには特級がありません。ただし近年は、ムルソーでも樽を控えめにした引き締まった作風の造り手が評価を集めていて、村だけで味を決めつけることはできません。
どんな料理に合わせればいいですか?
ブルゴーニュワイン委員会は、繊細な魚料理や肉料理、白いソースの仔牛や鶏、グリルしたオマールやザリガニ、大海老、さらに青カビのチーズやフォアグラを挙げ、12〜14℃での提供を勧めています。日本の食卓なら、鶏のクリーム煮やグラタン、バターで焼いた魚、海老フライなど、乳脂肪や香ばしさのある料理が合わせやすいでしょう。

最終更新: 2026-10-08 / 編集: Vinotier編集部