伯父の山ぶどう園から始まった物語
大池ワイナリーは、長野県東筑摩郡山形村2551-1にあるワイナリーです。山形村は松本盆地の南西、日本アルプスの支脈・鉢盛山の麓に広がる村で、野菜や果物の産地を結ぶ「日本アルプスサラダ街道」が通る農業地帯。公式サイトは、日本ワインの先進地として知られる塩尻市の桔梗ヶ原から車で15分の場所だと紹介しています。
公式サイトの「ワインづくり物語」によれば、始まりは2011年。体を悪くした伯父の高山洸保さんから「山葡萄園を引き受けてくれないか」と頼まれたことでした。伯父が宮田村から譲り受けたヤマ・ソーヴィニヨンを挿し木で増やし、2.5アールまで広げた畑です。「教わりながらやるのならいいですよ」と引き受けたものの、草刈りや剪定などの作業に追われ、少しずつ機械化し、消毒も化学農薬に頼らない方法に切り替えていったと振り返っています。
やがて「このぶどうでワインを造りたい」と考え、安曇野のワイナリーに委託醸造を頼み込みます(公式サイトにワイナリー名は書かれていません)。運営する有限会社むかいやは代々酒屋を営み、村内のセブン-イレブン信州山形店を経営しています。その店頭で1年目に100本を売り出すと、すぐに完売。2年目200本、3年目400本、4年目500本と、すべて売り切れたそうです。
ワイン特区で開いた、小さな醸造所
自前の醸造所を考えはじめたころ、友人から村内の使われていない工場を安く貸すという話が来ました。ただ、酒類の製造免許には年間6キロリットル(公式の表記では「6トン」)以上の製造量が求められます。そこで村に「ワイン特区」の申請を持ちかけ、特区になれば2キロリットル(同「2トン」)で免許が取れる道を選びました。村長も全面協力を約束したといいます。
公式サイトの年表では、2014年3月に特区認定、2015年7月に酒類製造免許を取得、同年8月からりんごを集め、11月にシードルの出荷を始めています。最初の自社ブランドは、ヤマ・ソーヴィニヨンの赤とロゼのスパークリング、村産の「つがる」「ふじ」を使ったシードルでした。立ち上げの技術面では、全国の新しいワイナリーを指導してきた醸造家の横町崇さんの支えがあったと紹介されています。2018年には「ジャパンシードルアワード」と「フジ・シードル・チャレンジ2018」で、シードル2銘柄が入賞しました。
会社概要では代表取締役は小林和俊氏です。12年間ワイン醸造とぶどう栽培に携わり、シードル造りも学びたいと考えていたところ大池ワインに加わり、2023年2月に先代から引き継ぎました(2018年の「物語」ページでは、代表取締役は藤沢啓太氏と記されています)。会社概要の「会社設立」は2014年4月1日、従業員は4人です。
標高700mの里山の畑
公式サイトの圃場紹介によれば、山形村は海抜約700mの高原地帯で、西部は山地と集落、東部は扇状地が広がります。年間降水量は約1,600mm、平均気温は約11℃。冬は零下15℃、夏は35℃まで振れ、朝と昼の寒暖差が大きいとされます。日照時間は年2,000時間前後。土は基本的に火山灰土で水はけがよく、横町さんは「長芋の産地というだけあって、黒ボク土で水はけが良い」と評したそうです。
自社畑は会社概要で計6,582㎡。圃場紹介に載る主な区画は次のとおりです。
- 中大池地区(標高706m・2,300㎡)── シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン
- 東原地区(標高700m・2,300㎡)── ヤマ・ソーヴィニヨン
- 小坂地区(標高709m・991㎡)── メルロー
- 上竹田地区(標高715m)、りんごのアップル・ヤード(標高686m)
このほか、松本平を見渡す西山の斜面にピノ・ノワールの区画があり、2024年は10kgほどだった収穫が、2025年は100kgほどになりそうだと公式のお知らせに書かれています。畑では化学合成農薬をできるだけ使わず、除草剤も最小限にして草刈りで管理し、ぶどうは一房ずつ確かめながら手摘みしているとのことです。
ヤマ・ソーヴィニヨンを軸にしたワイン
看板の品種ヤマ・ソーヴィニヨンは、公式ショップの説明によれば山梨大学で開発された赤ワイン用の品種で、日本の山ぶどうとカベルネ・ソーヴィニヨンを交配したものです。山ぶどうの野性味のある風味と、カベルネ・ソーヴィニヨンの上品さを合わせ持つとされます。
公式ショップに並ぶ主なワインを整理します(2026年10月時点、375mlは各2,200円)。
- ヤマ・ソービニオン スパークリング── 赤ワインを瓶内二次発酵させた、ランブルスコのようなやさしい泡の辛口。色は濃いガーネットで、渋みも泡も穏やかだと説明されています。
- シャルドネ・スパークリング── 村産シャルドネ100%の瓶内二次発酵。酵母由来の香りとほどよい苦みがあり、天ぷらに合うとのこと。
- ソーヴィニヨン・ブラン── 草のような香りが、時間とともにトロピカルな香りに変わる白。750ml(2025年産)は3,630円。
- ヤマ・ソーヴィニヨン 樽熟成、メルロー 樽熟成── 樽で熟成させた赤。
- 村民ワイン(赤)、シードル── 2026年1月には、2年ぶりに「ふじ極甘口シードル」を造ったと告知されています。
375mlの小瓶が多く、グラス3杯ほどで飲み切れるサイズとして案内されています。瓶内二次発酵の仕組みは用語:スパークリングワインで解説しています。
訪ねる前に
公式サイトには、決まった見学ツアーや試飲、常設の営業時間の案内がありません。会社概要に定休日は日曜日とあり、電話の受付は平日10:00〜17:00です。2026年のお盆(8月13〜16日)には10:00〜15:00の営業が告知され、営業時間外はセブン-イレブン信州山形店(山形村1721-1)で商品を買えると案内されていました。出かけるなら、事前に電話(0263-55-6100)で確かめるのが確実です。
見学ツアーの代わりにあるのが、「Camarade(カマラード=仲間)」の募集です。小さなワイナリーならではの、剪定や収穫、醸造の手伝いを体験でき、募集日は専用の公式LINEで知らせています。2025年には醸造施設の見学と収穫体験を含む3回の「ワイナリーで学ぶワイン講座」も開かれ、村の小学生の収穫体験も受け入れています。
アクセスは、公式サイトによれば車で松本ICから約15分、塩尻北ICから約20分(公式は「中央自動車道」と表記していますが、両ICとも長野自動車道です)。電車ならアルピコ交通上高地線の波田駅からタクシーで約10分、JR広丘駅からタクシーで20分前後、松本駅からバスかタクシーで約30分です。路線バスは、アルピコ交通の山形線(松本バスターミナル〜山形診療所前)と、地域連携バスの村井・山形線(JR村井駅〜山形診療所)が案内されています。駐車場の案内は公式で確認できませんでした。訪問の心得は第51講 ワイナリー訪問へ。
桔梗ヶ原・安曇野と合わせて
車で15分ほどの桔梗ヶ原には、五一わいん、井筒ワイン、シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原ワイナリーが集まっています。北へ向かえば、自社畑のカベルネ・ソーヴィニヨンで知られる安曇野ワイナリーもあります。長野の産地の全体像は産地:長野と第72講 長野完全編で整理しています。

