登の丘に移り住んだ夫婦の醸造所
登醸造は、北海道余市町の登(のぼり)地区にある、夫婦ふたりの造り手です。名前はそのまま、畑のある地区の名から。所在地は余市町登町718番地で、余市町のワインツーリズムのサイト(英語版)によれば、自宅の敷地に醸造所を開いています。
オーナーの小西史明さんは秋田県出身。東京での会社勤めを経て、「いつか自分でもワインを造りたい」と2009年に妻の淳子さんと余市町へ移り住みました(北海道庁の資料)。余市町のサイトによれば、2年間の農家研修を経て2011年から自分の畑でぶどうを育て始め、2014年に醸造免許を取得。同じサイトの英語版は、栽培を余市のぶどう農家に、醸造を岩見沢の10R Wineryを開いたブルース・ガットラヴ氏に学んだと紹介しています。
公式サイトは、2013年から畑の日誌「きょうの畑」を書き継いできました。萌芽、開花、カメムシやコガネムシ、灰色かび病、剪定と、ひと房ごとの手間が日付つきで残っています。ワイン畑の下草を食べさせるために羊を2頭飼っていることも、公式サイトの「羊のチーズ」のページに書かれています。
1.9haのほとんどが、ツヴァイゲルト
公式サイトによれば、畑の面積は1.9ha(余市町と北海道庁の資料では1.8ha)。植わっているのはほとんどがツヴァイゲルト(ツヴァイゲルトレーベ)で、2014年の日誌には「畑の8割を占めるツヴァイ」とあります。初期にはケルナーも育て、ソーヴィニヨン・ブランやヴィオニエの苗木を試したことも日誌に残っています。
畑の使い分けがこの造り手の特徴です。公式サイトの「場所」のページでは、
- ツヴァイゲルト 1.3ha ── 10R Wineryに原料として出荷し、「こことあるツヴァイ」「クエブリ」になる
- ツヴァイゲルト 0.6ha ── 自家醸造の『セツナウタ』に
と分けられています。北海道庁の資料によれば、出荷先では赤ワインとして造られるため、自家醸造ではロゼに挑んでいるのだそうです。
栽培の手間について、小西さんは余市町のサイトで、ツヴァイゲルトは放っておくと粒の詰まった大きな房になりやすく、病気や熟度に響くため、剪定、摘果、房づくりに手をかけていると話しています。日誌には、灰色かび病を防ぐために開花前から房のまわりの葉を落とした年や、仕上がりで1房250gほどを目指して大きな房を小さくしていく作業、カルシウム補給のためにホタテの貝殻の粉をまいた日のことが記されています。
『セツナウタ』── 搾った果汁と、醸した果汁を合わせて
自家醸造の銘柄は『セツナウタ』だけです。収穫したぶどうをそのまま搾った果汁と、皮ごと漬け込んだ醸しの果汁を合わせ、野生酵母で発酵させます(余市町のサイト)。最初のヴィンテージは2015年産です(Premium Japan、2022年)。年間の生産本数は約3,000本です(余市町のサイト)。
毎年少しずつ造りを変えているのが、このロゼのおもしろいところです。公式サイトのお知らせでは、
- 2021年産 ── 醸し比率51%。旨みと渋みが増した
- 2022年産 ── 醸し比率48%。「ちょい色薄め、ちょい厳しめの年」
- 2023年産 ── 8か月醸したものを7%加えた
と、比率や手法が書かれています。2018年1月の日誌には、2017年産で醸しを強めたタンクを造ったことも出てきます。新しいヴィンテージは、3月はじめに発売を告知することが多く、2018年は3月3日、2021〜2023年産はいずれも3月1日でした。名前については、つらいときにそばに置いてほしいという思いを込めたと、ソムリエの松木リエさんによる紹介記事(Premium Japan、2022年)が伝えています。
醸しの比率で色と旨み、渋みが年ごとに動くロゼです。ロゼという色の幅については第53講 ロゼワイン完全編でまとめています。
2024年の「日本ワイナリーアワード」では、余市町内で入賞した10か所のワイナリーのひとつに名前が挙がりました(広報よいち 2024年7月号)。
見学はなし。ボトルは酒販店で
北海道庁の資料(2026年2月現在)は直売所なし・訪問見学不可。余市町のワインツーリズムのサイトも見学は不可とし、無断で訪問したり農園に立ち入ったりしないよう求めています。公式サイトに電話番号の掲載はなく、連絡は問い合わせフォームからです。
『セツナウタ』は全国の酒販店と飲食店で扱われています。公式サイトの取扱店リストでは、余市町内の中根酒店、馬場商店、エルラプラザ、余市エコビレッジのほか、札幌、小樽、函館、ニセコ、帯広など道内の酒販店、東京、山梨、長野など道外の酒販店が並びます。本数が少ないので、入荷を店に確かめてから出かけるのが確実です。
同じ登地区には、ピノ・ノワールのドメーヌ・タカヒコ、野生酵母で仕込むリタファーム&ワイナリー、モンガク谷ワイナリーなどが集まります。北海道の産地の全体像は産地:北海道と第68講 北海道完全編で。
