よろず屋の屋号を継いだワイナリー
室伏ワイナリーは、山梨市牧丘町室伏にある共栄堂のワイナリーです。山梨県ワイン酒造組合のワイナリー一覧では「室伏ワイナリー」として載り、公式サイトのタイトルは「共栄堂(室伏ワイナリー)」。山梨市公式サイトの一覧では「合同会社共栄堂」と表記されています。
共栄堂という名前は、栽培醸造家小林剛士さんの実家が営む「よろず屋」の屋号です。公式サイトは、「共に栄える」という文字に込められた理念が、ぶどう栽培とワイン醸造を通して山梨の農業全体を下支えしたいという小林さんの思いと通じ合っている、と説明しています。テーマに掲げるのは「あなたのテーブルワインはここに…」。食卓で開ける日常のワインを、という姿勢がそのまま言葉になっています。
小林さんの歩みは、公式サイトの対談記事から少し見えてきます。小学校は増富の小さな学校で、学年は4人ほど。2012年の閉校記念の集まりでは、幼なじみに自分のワインを持っていったと語っています。2016年のエチケットの解説には、小林さんの前職のワイナリーではラベルに油絵の花が描かれていた、という一文もあります。
自社畑と6軒の生産者、記号と数字の銘柄
公式サイトによれば、共栄堂のワインは山梨市・甲州市の自社畑と、山梨にある6軒のぶどう生産者のぶどうから造られています。生産者として、武藤辰也さん、秋山晴英さん、廣瀬賢三・ゆき子さんの名前が写真とともに紹介されています。どの品種をどの畑で育てているかは、公式サイトには書かれていません。
銘柄名は、記号や数字の並びです。公式サイトは、文字から得られる固定観念をいったん外し、自由にワインを楽しんでほしいという思いを込めたと説明しています。エチケットの紹介ページには、『K16AK』『K18FY』『K22HR』『K23NT』『K24AK』『K25FY』といった名前が並び、先頭の「K」と2桁の数字にヴィンテージが読み取れます。2024年ヴィンテージでは『K24AK』『K24NT』、2025年ヴィンテージでは『K25NT』『K25HR』『K25FY』の名前が見えます。味わいや品種の構成、価格は公式サイトに載っていないため、ここでは書いていません。
ヴィンテージごとに変わるエチケット
共栄堂を特徴づけるのが、ヴィンテージごとにアーティストと協働して変えるエチケットです。公式サイトは、ワインとアートはどちらも生活に必ずしも必要ではないかもしれないが、感性を刺激し人生を豊かにしてくれるもの、と書いています。
- 2016年——陶芸家・岡見周二さんの器の写真。小林さんが学生時代から敬愛してきた人で、対談では、ファーストヴィンテージのエチケットで共作が実現したと紹介されています。
- 2018年——版画家・おさのなおこさんの木版画。エミリ・ディキンスンの詩から着想を得た作品です。
- 2019年——横浜デジタルアーツ専門学校の協力で、イラストと音楽を組み込んだエチケット。
- 2020年——書作家・松尾治さんが甲骨文字で書いた「風」。
- 2021年——テーマは「印章」。印章の産地・六郷の「対岳堂印房」が彫った手彫りの印影。
- 2022年——テーマは「建築」。共栄堂ワイナリーの建築を手がけた建築家・干田正浩さんの図面やドローイング。
- 2023年——テーマは「Bespoke」。山梨のオーダーメイド専門店「JOKERS TAILOR」との協働。
- 2024年——テーマは「甲州印伝」。「印傳の山本」が所蔵する型紙の柄。
- 2025年——テーマは「甲斐絹(かいき)」。山梨県産業技術センターが所蔵する明治〜昭和初期の生地見本から。
印章、印伝、甲斐絹と、近年は山梨の工芸を一本ずつラベルに写し取っているのがわかります。
訪ねる前に、買える場所
公式サイトには、ワイナリーでの見学・試飲・直売の案内はありません。代わりに載っているのが、取り扱いの酒販店リストです。山梨県内では大月市、甲州市勝沼町、富士吉田市、甲府市、山梨市、南アルプス市、北杜市、笛吹市の店が挙がり、北海道から沖縄まで全国の酒販店が並んでいます。
所在地は山梨県ワイン酒造組合と山梨市公式サイトの一覧で山梨市牧丘町室伏725、電話は0553-88-9196とされています。訪ねたい場合は、事前に電話で確かめてください。条件は変わることがあります。
牧丘の造り手の中で
牧丘町には、倉科にカンティーナ・ヒロ、千野々宮に四恩醸造、窪平に1933年創業の三養醸造があり、山を下りた万力には金井醸造場(キャネーワイン)。名前を記号にし、ラベルを毎年アートに託す共栄堂は、山梨の小さな造り手の中でも独特の届け方をしています。山梨全体の見取り図は産地:山梨と第70講 山梨完全編に、日本ワインの産地全体は第9講にまとめています。


