雪と水に囲まれた栃尾で
ワインファームとちおがあるのは、新潟県長岡市の栃尾地域。所在地は栃尾本町3-11です。公式サイトは栃尾を、雪や水といった豊富な水資源に囲まれた地域と紹介しています。冬は新潟特有の水分の多い重い雪が降り、葡萄の樹は高く積もった雪の下で春を待つ。夏は山あいの盆地らしい湿気との戦い。稲作には好条件でも、ワイン用葡萄にとっては厳しい条件だと、造り手自身が書いています。
それでも、ずっと葡萄と向き合ってきた経験から、今では「雪国新潟の栃尾でしかつくれない味わいの葡萄が育つ」と考えている――。公式サイトのこの一文が、この造り手の出発点をよく表しています。新潟県ワイナリー協会のサイトでも、長岡市の会員ワイナリーとして紹介されています。
2001年、ゼロからの挑戦
公式サイトによれば、栃尾でのワインづくりは2001年、有志の手によって始まりました。人口減少や産業の衰退といった地域課題を抱える栃尾で、耕作放棄地の再生や関係人口の創出を目指し、新たな地域産業をつくろうという試みです。「知識も経験もゼロからの挑戦」で、耕作放棄地を畑に戻すところから、手探りで試行錯誤を重ねてきたといいます。
2018年には主要メンバーの世代交代を行い、地域の内外から世代や地域の垣根を越えた協力を得ながら造りを続けています。運営会社はとちお農園株式会社。公式オンラインショップの特定商取引法表記では、事業者の名称に醸造家の奈良場晃大さんの名前が記されています。掲げる言葉は「葡萄に忠実に、葡萄を愉しむ」。ワインづくりを一緒に応援する会員制度(メンバーシップ)もあり、令和7・8年度の会員を募集しています。
「未病」を考える畑 ── ケルナー、メルロー、タナ
公式サイトは、ワインを「果汁だけでつくる単発酵のお酒」と説明し、醸造で手を加えられる部分が少ないからこそ、原料の葡萄づくりが大切だとしています。同じ品種でも栽培地の特徴が、同じ畑でも年ごとの気候の特徴が、ワインになっても色濃く残る――それがワインの面白さだ、と(用語:テロワール、用語:ヴィンテージ)。
栽培で大切にしているのは、雪の重さにも梅雨時の病気にも負けない「粘り強さのある樹」を育てることです。幼木期の成長の速さを見極め、栄養を絞りすぎずにしっかり根を張らせる。春に新芽が出始めたらすぐに管理体制を整え、病気にかからせない「未病」を第一に考える。この方法を徹底して、栃尾でも質の高い葡萄が育つようになったと公式サイトは書いています。春先に雪どけ水をたくさん吸い上げるためか、どの品種もやわらかな瑞々しさの中にしっかりした旨みをもつワインになる、というのが造り手自身の見立てです。
自社畑で育てるのは、白ワイン用のケルナーと、赤ワイン用のメルロー、タナの3品種。公式オンラインショップは、メルローは十分な水分を必要とする品種で、粘性の高い地質や雪と水に恵まれた畑との相性のよさを感じると書いています。フランス南西地方原産のタナは、ブレンドに使われることの多い品種ですが、ここでは単一品種で醸造し、栃尾の気候で育ったタナはタンニンがおだやかだと紹介されています。畑の面積や標高は、公式サイトでは確認できませんでした。
主なワイン ── T100とNARAVIN
フラッグシップは「T100」。栃尾の自社畑の葡萄だけで醸造する、単一農場・単一品種の「栃尾産100%」のワインです。2025年産は2025年12月6日に新酒としてリリースされました。公式オンラインショップ(2026年11月1日確認、税込)の掲載価格は次のとおりで、いずれも参考です。
- T100 Kerner〈白〉2025 ── 3,400円
- T100 Merlot〈赤〉2025 ── 3,900円(売り切れ)
- T100 Tannat〈赤〉2025 ── 4,400円
- T100 Kerner〈白〉2025 Sparkling ── 3,900円
- T100 Merlot〈ブラン・ド・ノワール〉2025 Sparkling ── 3,400円
- T100-2025 Kerner Sparkling 長岡花火 Edition ── 4,000円。自社農園産ケルナー100%、酸化防止剤を使わず、葡萄に共生する天然酵母だけで発酵させた瓶内発酵のスパークリング
2024年産のケルナーのスパークリングは、タンクで半年寝かせたのち瓶内二次発酵で仕上げ、澱を残して瓶詰めしたと説明されています。
もうひとつが、醸造家・奈良場晃大さんのオリジナルブランド「NARAVIN(ナラヴァン)」です。第1号の『NARAVIN 2024』(3,900円)は山形県産のデラウェア100%。酸化防止剤や凝固剤を使わないナチュールの、瓶内発酵のスパークリングで、澱を残しています。栃尾の自社畑とは別の線として位置づけられたワインです。
訪ねる ── 営業日はInstagramで
公式サイトのトップページには「営業日や最新情報はInstagramをご覧ください」とあります。公式オンラインショップの特定商取引法表記では、販売場は長岡市栃尾本町3番11号、OPEN 11:00〜15:00、定休日は月・火曜(祝日は営業)です。Instagram(@tochiowine)には、2026年8月から9月にかけて収穫準備のため「飲食はお休み」と知らせる投稿や、ケルナーとメルローの収穫日の案内が並び、時期によって飲食の提供や営業の内容が変わることがわかります。ただ、グラスワインの有無と料金、試飲や畑の見学の条件は、公式サイト・オンラインショップでは確認できませんでした。最寄り駅や駐車場の案内も公式サイトには見当たりません。訪ねる前にInstagramで営業日を確かめ、わからない点は電話(0258-89-8960)かメール(winefarmtochio@gmail.com)で問い合わせてください(2026年11月1日に確認)。
ワインは公式オンラインショップでも買えます。発送は基本的に週1回で、土曜正午までの注文が翌日曜の発送です。
新潟のワイン地図の中で
新潟のワイナリーは、上越の岩の原葡萄園、新潟市の海辺の「新潟ワインコースト」、県北の胎内高原ワイナリー、魚沼の豪雪地帯で雪室にワインを寝かせる南魚沼市の越後ワイナリーと、土地ごとに顔が違います。ワインファームとちおは、中越の山あいの盆地で、耕作放棄地の再生から始まった小さな造り手です。雪と水という、ワイン用葡萄には不利とされる条件をそのまま栃尾らしさとして引き受けようとしているところに、この一軒の個性があります。新潟の産地全体は第76講 新潟完全編で、日本の産地の見取り図は第9講 日本ワイン産地巡りでまとめています。


