
ドイツの隣の、フランス品種で名乗る白の国
アルザスは、ライン川を挟んでドイツと接するフランス北東部。歴史の中で独仏のあいだを行き来した地ゆえ、フランスでありながらドイツ的な魅力を併せ持ちます。ヴォージュ山脈が雨雲をさえぎり、フランス有数の乾いた陽だまりに。生産の9割が白で、香り高くアロマティックなワインの宝庫です。
最大の特徴は、フランスで唯一ラベルに「品種名」を堂々と書くこと。第5講ボルドーや第4講ブルゴーニュが「土地」で語るのに対し、アルザスは「品種」で名乗ります。だから初心者にも分かりやすい。まずは主役の四品種から。
四つの高貴品種アルザスの主役たち
アルザスには「四大高貴品種(セパージュ・ノーブル)」と呼ばれる白があります。グラン・クリュにも使える、格の高い四つです。

ゲヴュルツは華やかさの代名詞。ライチ・バラ・スパイスの濃厚なアロマ。エスニックや中華に驚くほど合う。白
ピノ・グリはふくよかでコク深い。洋梨や燻製のニュアンス。白身肉やきのこ料理に寄り添う。白
ぶどうそのものの香りがするのに、味わいは辛口という意外性。食前酒にぴったりの軽やかさ。白・辛口
ゲヴュルツ×アジア料理の妙 華やかで少しスパイシーなゲヴュルツトラミネールは、麻婆豆腐やタイカレー、中華に驚くほど寄り添います。「ワインと和食・アジア料理」を考えるとき、アルザスは最強の引き出し。香りの強い料理には、香りの強いワインを——覚えておくと便利です。
品種で名乗り、畑で究めるアルザス・グラン・クリュ
品種名表示が基本のアルザスですが、頂点には「グラン・クリュ」があります。とくに優れた51の特級畑が認定され、そこでは四大高貴品種が土地の個性をまとって深みを増します。ヴォージュ山麓は土壌が驚くほど多様で、花崗岩・石灰・砂岩・火山岩などのモザイク。同じリースリングでも、畑が変われば表情が変わります。
ラベルの主役は品種名。「リースリング」「ゲヴュルツ」と書かれ、味の想像がつきやすい。
51の特級畑。畑名+品種名で、土地が育てた格別の一本を示す。長期熟成も狙える。
多くは辛口だが、近年は甘めの造りも。心配なら裏ラベルの甘辛表示を確認すると安心。
「土地」と「品種」、二つの語り方 第4講ブルゴーニュが畑(クリマ)で、アルザスが品種で名乗る——フランスの中でも対照的。両方を知ると、ラベルの読み方の引き出しが一気に増えます。
甘口と泡もVT・SGN・クレマン
「遅摘み」の意。完熟ぶどうから造る、ふくよかで甘やかな白。芳香品種の魅力が凝縮する。甘口
貴腐ぶどうを選り抜いた極甘口。第19講甘口ワインで学んだ貴腐の、アルザス版の至宝。貴腐
瓶内二次発酵の泡。フランスのクレマン生産量No.1で、コスパ抜群。第13講スパークリングの本格派。泡
一つの村で、すべてが揃う 辛口の白、華やかなアロマ、極甘口の貴腐、本格的な泡——アルザスは、一つの産地でこれだけのスタイルを高水準で楽しめる稀有な地。「白ワインの宝石箱」と呼ばれる所以です。
華やかな白で食卓を品種で味わう喜び
アルザスは四大高貴品種・品種表示というわかりやすさ・グラン・クリュの奥行き、この三点で気持ちよく選べます。最初の一本は、凛とした辛口のアルザス・リースリングか、ライチ香るゲヴュルツトラミネール。とくにゲヴュルツは、エスニックや中華とあわせると新発見があります。香りの料理に、香りのワインを。
フランスの主要産地を一通り巡ってきました。次は、海を望むもうひとつの古豪へ。ポートだけじゃない、ヴィーニョ・ヴェルデや土着品種の宝庫——ポルトガル完全編。個性的なぶどうが息づく、大西洋の食卓ワインの国へご案内します。
