ロゼは、赤と白を混ぜて造るのではありません。 ピンク色の正体は果皮と過ごした「時間」。3つの製法から、プロヴァンスの淡さの理由、甘口と辛口の見分け方まで——「夏だけのワイン」と思われがちなロゼの本当の実力を歩きます。

まず、いちばん多い誤解から片づけましょう。ロゼは、赤ワインと白ワインを混ぜて造るのではありません。 それどころかEUの規則(EC規則606/2009)では、白と赤を混ぜてロゼとして売ることは原則として禁止されています。2009年に欧州委員会がこの混醸を解禁しようとしたときは、プロヴァンスをはじめとする生産者の猛反発で提案そのものが撤回されたほど——ロゼの造り方は、産地の誇りに関わる問題なのです。
では、あのピンク色はどこから来るのか。答えは第2講で歩いた赤ワインの原理と同じ、黒ぶどうの果皮です。色素は果皮にあり、果汁はほぼ無色。だから果皮と果汁を一緒に置く「時間」の長さが、そのまま色の濃さになります。数日〜数週間漬け込めば赤に、ほんの数時間ならピンクに——ロゼとは、いわば途中で止めた赤ワイン。造り方は大きく三つに分かれます。
唯一の大きな例外が、第6講で歩いたシャンパーニュです。ロゼ・シャンパーニュだけは白のベースワインに赤ワインを少量ブレンドする「ロゼ・ダッサンブラージュ」が認められており、EUでも合法的に「混ぜて」造れる数少ない存在。スティルのロゼとスパークリングのロゼでは、ルールがまるで違うのです。
世界のロゼの「顔」は、間違いなくプロヴァンスです。CIVP(プロヴァンスワイン委員会)によれば、この産地は畑の91%をロゼに充てるロゼ専業地帯。フランスのAOPロゼの4割超がここから生まれ、あの淡いオニオンスキン色が、いまや世界中のロゼの手本になっています。

主役のAOCはコート・ド・プロヴァンスを筆頭に、コトー・デクス・アン・プロヴァンス、コトー・ヴァロワ・アン・プロヴァンスの三つ(この3つで地域のAOP生産の96%)。品種はグルナッシュ、サンソー、シラー、ムールヴェードルに、土着のティブランが加わります。淡さの理由は製法にあります——主流は直接圧搾や低温での短いマセラシオン。「いかに色を出すか」ではなく「いかに色を出しすぎないか」に技術を注ぐ、世界でも珍しい産地なのです。
プロヴァンスには、ロゼ研究センターとCIVPが定めた公式の色見本まであります。果物になぞらえた6段階——淡い順に並べると、そのまま「ロゼの色の物差し」として使えます。
淡いプロヴァンスの対極に立つのが、第8講で触れた南ローヌのタヴェルです。ここはロゼしか名乗れない、フランスでも特別なAOC——赤も白も「タヴェル」を名乗ることはできません。認定は1936年5月15日、フランス最初期のAOCのひとつで、ロゼ専門としては仏初。つまり「ロゼは軽い流行り物」どころか、フランスのAOC制度の出発点からいた古参なのです。

タヴェルの色は、6色見本の最終段「グロゼイユ」のさらに先を行く濃い薔薇色。12〜48時間という長めのマセラシオンで、しっかりした果実味とほのかなタンニンを備えた「食事の主役を張れるロゼ」に仕上げます。フィリップ4世美王やルイ14世、文豪バルザックが愛飲したと伝えられる「王のロゼ」——伝承の域を出ない逸話ではありますが、この村のロゼが昔から特別扱いされてきたことの証しではあるでしょう。
視野を世界に広げると、濃淡のグラデーションはさらに豊かです。
| 産地 | 名前 | 特徴 |
|---|---|---|
| ナバーラ(スペイン) | ロサード(Rosado) | ガルナッチャ主体・伝統的にセニエ法。イチゴを頬張るような果実味の「スペインのロゼの本場」 |
| アブルッツォ(イタリア) | チェラスオーロ・ダブルッツォ | モンテプルチアーノ種。名は「サクランボ」から。イタリアでもっとも構造のあるロザートと評される |
| ガルダ湖畔(イタリア) | キアレット(Chiaretto) | コルヴィーナ主体。名は「淡い色」の意。湖のリゾートで飲まれる軽やかな桜色 |
| 日本 | マスカット・ベーリーAのロゼ | 日本生まれの黒ぶどうから。イチゴやキャンディの華やかな香りはロゼにしても健在。国産スパークリング・ロゼも増加中 |
「ロゼ=甘い」というイメージにも、ちゃんとした出どころがあります。主犯は、第12講のカリフォルニアで生まれたホワイト・ジンファンデルです。
物語は二段構えです。1972年、サッター・ホームのボブ・トリンチェロは、赤のジンファンデルを濃くするためにセニエで抜いた果汁を辛口の「白いジンファンデル」として売り出しました。転機は1975年——発酵が途中で止まる事故(スタック・ファーメンテーション)が起き、糖分がほんのり残った淡いピンクのワインが偶然生まれます。これが飲みやすいと大評判になり、1987年には全米でもっとも売れるワインに。皮肉なことにこの「事故のワイン」の需要が、引き抜かれかけていたジンファンデルの古木の畑を救ったと語り継がれています。
この大ヒットが「ロゼ=甘くて気軽」というイメージを世界に刷り込みました。しかし現在の潮流は明確に辛口です。売り場で見分けるコツは三つ。
ロゼ最大の実力は、食卓での守備範囲の広さです。白の酸と冷涼感、赤の果実味とかすかなタンニンを併せ持つから、「赤か白か決めにくい食卓」の答えになります。
温度は8〜10℃としっかり冷やして。前菜、サラダ、カルパッチョ、寿司・刺身など繊細な料理と。食前酒としても最強です。
和食との相性の良さも特筆ものです。出汁の旨味、醤油の香ばしさ、素材の淡い味わい——赤では強すぎ、白では物足りない場面を、ロゼはきれいに埋めてくれます。詳しくは第27講とロゼワインの選び方もどうぞ。
「ロゼは若いうちに飲むもの」という通説は基本的に正しく、買ったら1〜2年のうちにフレッシュさを楽しむのが王道です。ただし近年は例外の存在感が増しています——バンドールのドメーヌ・タンピエや、パレットのシャトー・シモーヌのような「ガストロノミック・ロゼ」は数年の熟成でむしろ深まると評され、タヴェルもその系譜。ロゼは「夏のプールサイドの飲み物」から、一年中テーブルに置ける本格ワインへと、いま評価を書き換えられている最中なのです。温度管理の基本は第26講で。
いいえ。EUの規則では白と赤を混ぜてロゼを名乗ることは原則禁止です。ロゼは黒ぶどうから、果皮と果汁を短時間だけ接触させて造ります(直接圧搾・マセラシオン・セニエの3製法)。例外はスパークリングで、ロゼ・シャンパーニュだけは赤ワインのブレンドが認められています。
無関係です。色の濃さは果皮と過ごした時間の長さを映すだけで、甘辛は発酵で糖を残すかどうかで決まります。濃いロゼ(タヴェルなど)はむしろ辛口の本格派が多数。甘口を見分けるなら色ではなく、産地・ラベルのSec/Dry表記・アルコール度数(10%前後は甘口が多い)を見てください。
大半のロゼはフレッシュさが命で、最新ヴィンテージを1〜2年内に飲むのが基本です。ただしバンドールのドメーヌ・タンピエやシャトー・シモーヌ、タヴェルのようなガストロノミック・ロゼは数年の熟成に耐えると評されます。売り場では「古いロゼ=お得」ではなく「新しいロゼ=安心」と覚えるのが実用的です。
第53講を一言にまとめるなら、ロゼは「混ぜ物」ではなく「途中で止めた赤ワイン」だ、ということです。ピンク色の正体は果皮と過ごした時間。淡いプロヴァンスは「色を出しすぎない」技術の結晶で、濃いタヴェルは1936年からの筋金入り。甘いイメージは1975年の発酵事故が生んだ歴史の偶然で、現在の主流は辛口——そして色の濃淡と甘辛は無関係。これだけ知っていれば、売り場のピンクのボトルはもう「なんとなくの一本」ではありません。
次の一本。 まずはプロヴァンスの淡い辛口ロゼ(コート・ド・プロヴァンス、2,000円前後から)を8〜10℃に冷やして。気に入ったら次の週末にタヴェルを並べて、6色見本の両端を飲み比べてみてください。同じ「ロゼ」の名の下に、これほど設計の違うワインがあること——それが今回いちばんの持ち帰りです。
次回は銘醸図鑑へ。タヴェルからローヌ川の対岸へ渡った先、「シャトーヌフ・デュ・パプ」。法王の城の名を戴き、13品種のブレンドと丸石の畑でAOC制度の原点となった、南ローヌの王を歩きます。