ワインガイド Vinotier
LIII
Theme — Rosé

ロゼワイン完全編

ロゼは、赤と白を混ぜて造るのではありません。 ピンク色の正体は果皮と過ごした「時間」。3つの製法から、プロヴァンスの淡さの理由、甘口と辛口の見分け方まで——「夏だけのワイン」と思われがちなロゼの本当の実力を歩きます。

テーマ編・第53講。ロゼの色の正体=果皮と過ごした時間を軸に、3つの製法・プロヴァンスとタヴェル・甘口と辛口の見分け方・選び方と料理合わせを歩く回。
グラスに注がれたサンセールのロゼワインとボトル。輝くサーモンピンクの色調
ピンク色の正体は「時間」 — ロワールのサンセール・ロゼ。この色は着色でも混合でもなく、黒ぶどうの果皮と果汁が一緒に過ごした数時間の記録だ
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ロゼは「混ぜて」造らないHow rosé is made

まず、いちばん多い誤解から片づけましょう。ロゼは、赤ワインと白ワインを混ぜて造るのではありません。 それどころかEUの規則(EC規則606/2009)では、白と赤を混ぜてロゼとして売ることは原則として禁止されています。2009年に欧州委員会がこの混醸を解禁しようとしたときは、プロヴァンスをはじめとする生産者の猛反発で提案そのものが撤回されたほど——ロゼの造り方は、産地の誇りに関わる問題なのです。

では、あのピンク色はどこから来るのか。答えは第2講で歩いた赤ワインの原理と同じ、黒ぶどうの果皮です。色素は果皮にあり、果汁はほぼ無色。だから果皮と果汁を一緒に置く「時間」の長さが、そのまま色の濃さになります。数日〜数週間漬け込めば赤に、ほんの数時間ならピンクに——ロゼとは、いわば途中で止めた赤ワイン。造り方は大きく三つに分かれます。

Pressurage direct直接圧搾——黒ぶどうを収穫後すぐ、白ワインと同じように圧搾する方法。果皮との接触はごくわずかで、もっとも淡く、繊細な色合いに。プロヴァンスの淡いロゼの主流です
Macération短期マセラシオン(浸漬)——果皮を果汁に数時間〜24時間ほど漬けてから引き上げる方法。時間の長さで色と風味の濃さを設計できる、いわば「狙った色に止める」造り方
Saignéeセニエ(瀉血)——赤ワインの仕込みの初期に、タンクから淡いピンクの果汁を「血抜き」のように抜き取る方法。残った赤はより濃くなり、抜いた果汁はロゼになる一石二鳥の伝統技法

唯一の大きな例外が、第6講で歩いたシャンパーニュです。ロゼ・シャンパーニュだけは白のベースワインに赤ワインを少量ブレンドする「ロゼ・ダッサンブラージュ」が認められており、EUでも合法的に「混ぜて」造れる数少ない存在。スティルのロゼとスパークリングのロゼでは、ルールがまるで違うのです。

— II

プロヴァンス——なぜ淡いのかProvence, the pale standard

世界のロゼの「顔」は、間違いなくプロヴァンスです。CIVP(プロヴァンスワイン委員会)によれば、この産地は畑の91%をロゼに充てるロゼ専業地帯。フランスのAOPロゼの4割超がここから生まれ、あの淡いオニオンスキン色が、いまや世界中のロゼの手本になっています。

プロヴァンスの村プーリエールと、手前に広がるぶどう畑
ロゼ専業地帯の日常 — サント・ヴィクトワール山麓の村プーリエール。第42講で歩いた南仏の陽光と乾いた風が、畑の91%をロゼに変えた

主役のAOCはコート・ド・プロヴァンスを筆頭に、コトー・デクス・アン・プロヴァンスコトー・ヴァロワ・アン・プロヴァンスの三つ(この3つで地域のAOP生産の96%)。品種はグルナッシュ、サンソー、シラー、ムールヴェードルに、土着のティブランが加わります。淡さの理由は製法にあります——主流は直接圧搾や低温での短いマセラシオン。「いかに色を出すか」ではなく「いかに色を出しすぎないか」に技術を注ぐ、世界でも珍しい産地なのです。

プロヴァンスには、ロゼ研究センターとCIVPが定めた公式の色見本まであります。果物になぞらえた6段階——淡い順に並べると、そのまま「ロゼの色の物差し」として使えます。

1ピーチ(pêche)もっとも淡い、白桃の果肉のような色。直接圧搾の繊細なロゼに多い
2メロン(melon)ほんのり橙がかった淡いピンク。プロヴァンスの「標準色」ゾーン
3マンゴー(mangue)黄金がかったピンク。熟した果実感を思わせる
4ポメロ(pomelo)文旦の果肉のようなピンク。ここから先は色の存在感がはっきり
5マンダリン(mandarine)オレンジを帯びたやや濃い色。マセラシオン長めのサイン
6グロゼイユ(groseille)赤スグリの鮮やかな色。タヴェルなど「飲みごたえ系ロゼ」の領域へ
覚えておきたいのはひとつだけ。 色の濃さと甘さは無関係です。色はあくまで果皮と過ごした時間の長さ。濃いロゼほどボディとタンニンのある骨格になる傾向はありますが、「濃いピンク=甘い」ではありません。甘辛の見分け方は第IV章で。
— III

濃いロゼの系譜——タヴェルと世界Tavel & the deeper rosés

淡いプロヴァンスの対極に立つのが、第8講で触れた南ローヌのタヴェルです。ここはロゼしか名乗れない、フランスでも特別なAOC——赤も白も「タヴェル」を名乗ることはできません。認定は1936年5月15日、フランス最初期のAOCのひとつで、ロゼ専門としては仏初。つまり「ロゼは軽い流行り物」どころか、フランスのAOC制度の出発点からいた古参なのです。

タヴェルのぶどう畑と展望台。遠くにヴァントゥー山を望む冬の風景
ロゼしか名乗れない村 — タヴェルの畑と、遠くに白い頂を見せるヴァントゥー山。ローヌ川を挟んだ対岸はシャトーヌフ・デュ・パプという銘醸の立地だ

タヴェルの色は、6色見本の最終段「グロゼイユ」のさらに先を行く濃い薔薇色。12〜48時間という長めのマセラシオンで、しっかりした果実味とほのかなタンニンを備えた「食事の主役を張れるロゼ」に仕上げます。フィリップ4世美王やルイ14世、文豪バルザックが愛飲したと伝えられる「王のロゼ」——伝承の域を出ない逸話ではありますが、この村のロゼが昔から特別扱いされてきたことの証しではあるでしょう。

視野を世界に広げると、濃淡のグラデーションはさらに豊かです。

産地名前特徴
ナバーラ(スペインロサード(Rosado)ガルナッチャ主体・伝統的にセニエ法。イチゴを頬張るような果実味の「スペインのロゼの本場」
アブルッツォ(イタリアチェラスオーロ・ダブルッツォモンテプルチアーノ種。名は「サクランボ」から。イタリアでもっとも構造のあるロザートと評される
ガルダ湖畔(イタリア)キアレット(Chiaretto)コルヴィーナ主体。名は「淡い色」の意。湖のリゾートで飲まれる軽やかな桜色
日本マスカット・ベーリーAのロゼ日本生まれの黒ぶどうから。イチゴやキャンディの華やかな香りはロゼにしても健在。国産スパークリング・ロゼも増加中
— IV

甘口と辛口——ホワイト・ジンの物語Sweet or dry?

「ロゼ=甘い」というイメージにも、ちゃんとした出どころがあります。主犯は、第12講のカリフォルニアで生まれたホワイト・ジンファンデルです。

物語は二段構えです。1972年、サッター・ホームのボブ・トリンチェロは、赤のジンファンデルを濃くするためにセニエで抜いた果汁を辛口の「白いジンファンデル」として売り出しました。転機は1975年——発酵が途中で止まる事故(スタック・ファーメンテーション)が起き、糖分がほんのり残った淡いピンクのワインが偶然生まれます。これが飲みやすいと大評判になり、1987年には全米でもっとも売れるワインに。皮肉なことにこの「事故のワイン」の需要が、引き抜かれかけていたジンファンデルの古木の畑を救ったと語り継がれています。

この大ヒットが「ロゼ=甘くて気軽」というイメージを世界に刷り込みました。しかし現在の潮流は明確に辛口です。売り場で見分けるコツは三つ。

  1. 産地で読むプロヴァンス、タヴェル、ナバーラ、イタリアのロザートなど欧州の伝統産地はほぼ辛口。「ホワイト・ジンファンデル」表記と、ドイツ・米国の一部の廉価ロゼが甘口の代表格です。
  2. ラベルの言葉で読むSec/Dry=辛口、Demi-sec/Medium=やや甘口。裏ラベルの「甘辛表記」は日本の輸入元が付けてくれる最良のヒント(第41講の要領で)。
  3. アルコール度数で読む迷ったら度数を。12.5〜13.5%なら辛口の可能性大、10%前後なら糖が残った甘口タイプのことが多い——ぶどうの糖を発酵させ切ったかどうかが度数に表れるからです。
— V

ロゼ実践——温度・料理・熟成Serving & pairing

ロゼ最大の実力は、食卓での守備範囲の広さです。白の酸と冷涼感、赤の果実味とかすかなタンニンを併せ持つから、「赤か白か決めにくい食卓」の答えになります。

淡いロゼ(ピーチ〜マンゴー)

温度は8〜10℃としっかり冷やして。前菜、サラダ、カルパッチョ、寿司・刺身など繊細な料理と。食前酒としても最強です。

濃いロゼ(マンダリン〜タヴェル)

温度は10〜12℃とやや高めに。パエリア焼き鳥(タレ)、生ハム、スパイスの効いた料理まで受け止める「食事の主役」型。

和食との相性の良さも特筆ものです。出汁の旨味、醤油の香ばしさ、素材の淡い味わい——赤では強すぎ、白では物足りない場面を、ロゼはきれいに埋めてくれます。詳しくは第27講ロゼワインの選び方もどうぞ。

「ロゼは若いうちに飲むもの」という通説は基本的に正しく、買ったら1〜2年のうちにフレッシュさを楽しむのが王道です。ただし近年は例外の存在感が増しています——バンドールのドメーヌ・タンピエや、パレットのシャトー・シモーヌのような「ガストロノミック・ロゼ」は数年の熟成でむしろ深まると評され、タヴェルもその系譜。ロゼは「夏のプールサイドの飲み物」から、一年中テーブルに置ける本格ワインへと、いま評価を書き換えられている最中なのです。温度管理の基本は第26講で。

— Q&A

よくある質問Questions

Qロゼは赤と白を混ぜて造るのですか?

いいえ。EUの規則では白と赤を混ぜてロゼを名乗ることは原則禁止です。ロゼは黒ぶどうから、果皮と果汁を短時間だけ接触させて造ります(直接圧搾・マセラシオン・セニエの3製法)。例外はスパークリングで、ロゼ・シャンパーニュだけは赤ワインのブレンドが認められています

Q色が濃いロゼのほうが甘いのですか?

無関係です。色の濃さは果皮と過ごした時間の長さを映すだけで、甘辛は発酵で糖を残すかどうかで決まります。濃いロゼ(タヴェルなど)はむしろ辛口の本格派が多数。甘口を見分けるなら色ではなく、産地・ラベルのSec/Dry表記・アルコール度数(10%前後は甘口が多い)を見てください。

Qロゼに「当たり年」や熟成は関係ありますか?

大半のロゼはフレッシュさが命で、最新ヴィンテージを1〜2年内に飲むのが基本です。ただしバンドールのドメーヌ・タンピエやシャトー・シモーヌ、タヴェルのようなガストロノミック・ロゼは数年の熟成に耐えると評されます。売り場では「古いロゼ=お得」ではなく「新しいロゼ=安心」と覚えるのが実用的です。

— Recap

ロゼの色は、造り手が決めた「時間」の色The colour of time

第53講を一言にまとめるなら、ロゼは「混ぜ物」ではなく「途中で止めた赤ワイン」だ、ということです。ピンク色の正体は果皮と過ごした時間。淡いプロヴァンスは「色を出しすぎない」技術の結晶で、濃いタヴェルは1936年からの筋金入り。甘いイメージは1975年の発酵事故が生んだ歴史の偶然で、現在の主流は辛口——そして色の濃淡と甘辛は無関係。これだけ知っていれば、売り場のピンクのボトルはもう「なんとなくの一本」ではありません。

次の一本。 まずはプロヴァンスの淡い辛口ロゼ(コート・ド・プロヴァンス、2,000円前後から)を8〜10℃に冷やして。気に入ったら次の週末にタヴェルを並べて、6色見本の両端を飲み比べてみてください。同じ「ロゼ」の名の下に、これほど設計の違うワインがあること——それが今回いちばんの持ち帰りです。

次回は銘醸図鑑へ。タヴェルからローヌ川の対岸へ渡った先、「シャトーヌフ・デュ・パプ」。法王の城の名を戴き、13品種のブレンドと丸石の畑でAOC制度の原点となった、南ローヌの王を歩きます。